・第十四話 『女盗賊頭』
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異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈はちゃんと眠れただろうか?
兄貴は寝不足な上、現在変態と交戦中だ。
日本で一番有名なリアクション芸人のセリフが、脳裏を過ぎる。
これが「リアルガチ」の変態か・・・。
おれの口癖が、「どうしてこうなった?」に公認されそうで目頭が熱くなる。
■
少しずつ白み始めた空を背景に、おれはさっきの現象を考えていた。
アンティ・・・それはまだ『リ・アルカナ』が、ただのTCGだった時代にあったルールだ。
対戦者同士で対価に自分のカードを賭け、勝った方がそのカードを奪う。
このルールは色んな軋轢を生んだ。
ゲームに疎い初心者を狙ったカード狩りや、高額、希少なカードの偽造。
果てはカードハンターなんて呼ばれる、盗賊まがいの連中まで現れた。
そして『リ・アルカナ』がPUPAのシステムを導入し、VRとAIによって、盟友たちに意思のような物を感じ始めたプレイヤーたちが、強い要望で公式の運営陣と直談判し、このルールを禁止にする。
かくいうおれも、この件で運営陣に一言物申した口なんだが・・・
それはともかく、いくつか確認しなきゃいけないな。
まず、腕力強化の『藍の掌』。
この世界の等級制で考えるなら、おそらく中級、せいぜい上級の魔法だったと思える。
それであの威力とは・・・『カードの女神』、一体おれに何処へ向かえと言うのか?
『藍の掌』であの力だとすると、おれのフィニッシュブローである『魔王の左腕』召喚なんて使ったら・・・考えただけで頭痛がしてくる。
まぁ『魔王の左腕』召喚は、限定条件として『黒翼の堕天使』イアネメリラみたいな、堕天使もしくは悪魔族の補助が無いと使えないんだけどな。
とりあえず『藍の掌』は、一回控え(サイド)に回そう。
少なくとも今は、うまく扱える気がしない。
「図書館」
おれは、『図書館』の発動で現れた、黒い背表紙のカタログを開く。
(やっぱりあるんだな・・・)
新規で追加されたページに、『暗殺者』四枚と『女盗賊頭』エデュッサのカード。
『暗殺者』は一箇所にスタックされている。
おれは金箱から、『藍の掌』のカードを抜き取ると、『図書館』にしまい、代わりに『女盗賊頭』エデュッサを選択し、金箱へ入れる。
「魔導書」
よし一発だ、引きは回復したか?
おれが『図書館』を消して、『魔導書』を展開すると、五枚のカードの中に当然の如く現れる、さっき投入したばかりの『女盗賊頭』エデュッサのカード。
おれは灰色のカード一枚を、目のような紋章三つに変換し、光出した『女盗賊頭』エデュッサのカードを選択する。
召喚の理ならそらで言える。
なぜならこのカード、PUPAには認識されなかったが、カードゲーム時代のおれの、メイン盟友の一人だったからだ。
『砂漠の瞳の後継者、冷蔑湛えて微笑む者、我と共に!』
理が唱え終わると、そこには先ほどまで戦っていた『女盗賊頭』エデュッサが、おれに対し恭しく頭を垂れて跪いていた。
おれの背後で息を呑むアフィナと、自然に身構えるロカさん。
その二人におれが「大丈夫だ。」と声をかけながら手で制す。
エデュッサは戦っていた時とは、打って変わった艶やかな表情で、
「ご主人様、早速の召喚ありがとうございます。伽ですか?伽ですね。」
と、爆弾を投下した。
一人納得顔で頷くエデュッサに、おれの拳骨が落とされたのは言うまでも無い。
視界の端に「さっきの人だよね・・・?」と、固まっているアフィナとロカさん。
それはそうだろう、拳骨を受けて「ご褒美っ!」とか叫んでいる奴を、おれも直視したくない。
「ご主人様、いきなりのご褒美嬉しいです!ヤりますか?ヤりましょう。」
おい、その下品な手つきをやめろ。
「黙って質問に答えろ。あんまり煩いと箱の中に突っ込むぞ。」
おれの言葉に、「まぁこの短時間に突っ込むだなんて!ご主人様は可愛い顔してすごいのね!」などと言いながら、頬を染めるエデュッサ。
こいつ話聞かねぇ・・・リアルガチの変態って居るんだな。
性格変わりすぎだろ・・・
(んっ?性格・・・?性格だと!?)
おれは、今まで気付かなかったことに愕然とした。
「ロカさん!ロカさんはロカさんだよな!?」
「・・・むぅ、主?どこか打ったのであるか?」
突然かけられた声に、ビックリして首を傾げるロカさん。
いや、そりゃそうだ。
落ち着けおれ。
エデュッサのこともそうだ。
PUPAで認識されなかったエデュッサを、なぜ普通に呼べると思った?
ロカさんやプレズントが、VRの時のままだったから、違和感を覚えなかったんだ。
ここは異世界。
カードが現実の異世界だ。
なんでAIの無い世界で、ロカさんやエデュッサに性格があるんだ?
「ロカさん、もしかして・・・カードになる前の、記憶があるんじゃないのか?」
心配そうに、おれの手を舐めていた子犬サイズのロカさんが、おれをゆっくりと見上げその犬顔で器用に「はっ!」とした表情を作る。
「・・・である。しかし主・・・なにやら靄がかかったように覚えている所と、覚えていない所が・・・」
と、言うことはだ。
PUPAで映し出されたAIによる人格、そう思って接してきたのは・・・いわば彼らの魂のようなものだった?
『地球』の『リ・アルカナ』自体に、大きな疑問を抱かざるおえんな。
元より、製作者も販売元も不明なあのゲームがあんなに人気を博していた、そこからおかしい。
くそう、謎が謎を呼ぶ感じ、寝不足のせいか頭も良く回らん。
しかたない、この件はおいおい考えていこう。
それよりも今は、
「おい、なんでおれに抱きつく?」
背中に、「当ててんのよ」とでも言わんばかりの感触がある。
「・・・さきほど、ご主人様に押し倒された時の快感が忘れられなくて・・・。」
人聞き悪いにも程がある。
押し倒していない、叩き付けただけだ。
「おい、なぜおれの太ももを撫ぜる?」
「はぁはぁ」
会話も放棄とか・・・これは本格的にまずい。
おいアフィナ?ほっぺたをそんなに膨らませて、中に何が入ってるんだ?
「セイ・・・不潔だよ。」とか呟いて睨んでいるが、良く見ろ?被害者はおれだ。
その日二度目の拳骨で、変態は地面にうずくまった。
■
「じゃあ、今のお前が、本来のお前なんだなエデュッサ?」
「はい、ご主人様、間違いありません。ご主人様を襲ったときのあたいは、なんだか視界にもやがかかったような・・・夢の中に居るような感じでした。」
『精霊王国フローリア』に向かい徒歩の旅路、おれの問いかけにそう答えるエデュッサ。
本物の変態とか許してください。
しかしこれで、なんとなく繋がったかもしれない。
本来『レイベース帝国』の盟友ではない、『暗殺者』とエデュッサがおれたちを襲ってきた。
そして倒すと、アンティルールとしか思えない現象が起こった。
これはおそらく、『略奪者』の存在を示唆しているんだろう。
『略奪者』の使役していたであろう盟友を奪えたということは・・・逆もまた然り。
絶対に負けられないって訳だ。
もちろん、はなから負ける気なんて毛頭無いんだが。
「んで、お前はいつまで居るんだ?用は済んだから箱に入って良いぞ。」
おれの言葉に、「んもぅ、ずっとついてくに決まってるじゃないですか~、はっ!これは言葉責め!?ご主人様、テクニシャンだわ・・・」とか、ブツブツ言ってる変態を心からどうにかしたい。
結局変態は、『精霊王国フローリア』に着くまで、同行することになった。
■
約半日後・・・
『精霊王国フローリア』までの道程は、概ね順調だった。
道中、欲情した変態となぜかリスの如くほっぺたが膨らんでいるアフィナのせいで、おれのストレスがマッハだった事を除けば、この異世界に召喚されてから初めて、順調だったと言えるかもしれない。
今おれは、巨大な湖にすっぽりと納まった街を対岸からみつめていた。
『地球』で言う、パルテノン神殿のような高台の建造物を中心に、全長15km前後の町並みが湖面に浮かぶ小島に乗っていた。
「すごいな・・・」
思わず漏れた感嘆に、アフィナがドヤ顔で見てくるのがなんともウザい。
「ロカさん、湖の上って行けるのか?」
「無論。」
どうやって渡ろうか考えたが、素直にロカさんに聞いてみる。
さすがロカさん男前。
エデュッサは余りのウザさに、もうすでに箱へ突っ込んだ。
「また呼んでくださいねご主人様~!きっとですよ~!」なんて叫んでいたが、お前の出番はしばらく無い。
そう、おれのSAN値の為に絶対だ。
今は、水面をてくてく進んではこちらを振り返り待っているロカさんから、はぐれないようにしよう。
この後は、いよいよ王様とご対面か。
どうなることやら・・・トラブルはもうお腹いっぱいだ。
無事謁見を済ませて、さっさと帰還の方法を探したいんだが。
無理だろうなぁ・・・
おれは、街が近づくにつれどんどん重くなる気分をごまかすように、黙々とロカさんの後ろを追いかけた。
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