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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
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・第百四十二話 『砕竜』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


※続ウララサイドです。

 


 敵軍・・・帝国の規模はいかほどか?

 ウララたちは、クリフォードの魔法で作り出された樹上の拠点に集まっていた。

 集まったメンバーは少ない。

 ウララ、クリフォード、マルキスト、そしてカーシュ。

 実に三人と一頭、云わば各種族、各勢力の代表と言えた。


 各々で、前方の荒野に布陣する帝国軍の様子を伺う。

 兵装は変わっているようだが、相変わらず『魔導兵器』を前面に押し出した形。

 数は前回、セイによって蹴散らされたのと同等くらいだろう。

 『魔導兵器』凡そ2000、付随する兵も5000程度に見えた。

 なんだ同じか・・・と、思ってはいけない。

 これは驚異的なことである。

 移動手段の確立していない異世界で、しかもついぞ一月ほど前に圧倒的大敗を喫し、その兵科ほとんどを失った軍が、再建してリベンジしてきたのだ。

 帝国の潤沢な資金、物資の賜物と言えよう。


 それに前回と同じと言っても、フローリアの兵士1400と、シャングリラの応援100を足した連合軍1500に対して、四倍以上の数である。

 普通なら即座に白旗を上げてもおかしくはない。


 連合軍の兵数が非常に心もとなく感じられるが、これには理由があった。

 主戦場は『リラ大平原』、それも『樹海降臨』によってもたらされた天然の要害、ジャングルの中になると見て間違いないだろう。

 それは当然だ。

 守る立場であるフローリアとシャングリラの連合軍は、自軍に有利なフィールドから出て行く必要も理由も無い。

 極論、ただ追っ払うだけでこちらは勝利になるのだ。

 

 クリフォードは兵数をあえて減らし、正に精兵と呼べる者のみ戦場に連れて来た。

 エルフの絶対領域である密林という場所を十全に活用するため、弓兵や魔法使いを主軸に置いている。

 マルキストはもっと極端だ。

 率いる『法政官』、『天使兵』、『獣闘士』、数こそ100名だが、その全てが仕官級以上、もう一歩二歩で称号持ちになれる、将軍級高位の顔もちらほら見える。 

 彼の本気が伺えるという物だ。


 しかし予想が正しいなら、あちらの兵はほぼ全てアンデット。

 当然生身の兵士や指示を出す者も居るのだろうが・・・そこまでは樹上から確認することは出来ない。

 どうもすぐに攻めてくる気配が見えないことから、四人は一度車座になった。

 三人は小さな木製のイスに、カーシュはウララの足元に伏せの形。

 ウララが「・・・うーん?」と悩まし気な声を上げ、首を傾げる。

 彼女に二人と一頭の視線が集中、クリフォードが代表して伺いを立てた。


 「ウララ、どうした?」


 問われたウララ、眉を寄せて腕組み、逆に問い返す。


 「アンタたち、あの『魔導兵器』の兵装わかる?」


 王二人、『獅子王』の称号を持つカーシュも含めれば、実に王三人をアンタ呼ばわり、さすがはウララであった。

 しかしこの場に居る面々は、今更そんなことを気にするような間柄でもない。

 三者三様、「【兵装】?」と首を捻る。

 それを見てウララは、静かに自分の抱いた疑念を吐露していく。


 「あの『魔導兵器』に装備されてるのって・・・対木属性特効の『火炎放射』と、対ドラゴン特効の『砕竜』なのよねぇ・・・。」


 彼女の言っていることは事実なのだろう。

 異世界の魔導師は、たとえ各国の秘匿魔法だろうと帝国の秘密兵器であろうと、それが『地球』のカードゲーム『リ・アルカナ』に存在していた場合、等しくその知識を持っている。

 それは彼らと親しい全員が、正しく認識していた。

 だからこそ、「なぜ今そんなことを?」と思ってしまう。

 ウララの言を聞いた三者は更に、?マークを頭に浮かべることになった。


 「『火炎放射』はわかるわ。ジャングルを焼くつもりなんでしょ?だけど・・・『砕竜』要るのかしら?」


 今この場に竜兵は居ない。

 つまりバイアも居なければ、他のドラゴンも存在していないのだ。

 ならばなぜドラゴン対策を?


 「クリフォード、アンタ聞いてたわよね?竜がリーンドルで相対した『略奪者プランダー』、狐面の女はホナミだって・・・。」


 それは幼馴染からもたらされた情報。

 彼女のバトルスタイルと照らし合わせて、ウララも間違いなく確信を持った人物のこと。


 「ああ・・・確か君たちとも親しかった異世界の魔導師、『節制テンパランス』のホナミと言ったか?」


 ウララは首肯で答え、自分の考えを纏めるように先を続ける。


 「あの人はね・・・他人のスタイルに対策がすごく上手なのよ・・・それなのに、竜の居ないこの国に対してドラゴン対策?」


 深まる謎だった。

 ホナミが『略奪者プランダー』だろうことは間違いない。

 そして竜兵とリーンドルで会敵しているなら、今この国に彼が居ないことも理解しているはず。

 それなのに帝国の『魔導兵器』が、これみよがしに装備してきた対竜装備。

 ウララにはそれが何とも気持ち悪い。


 「もしかして・・・情報が共有されていないのかしら?」


 言葉に出してみて、何だかそれが正しいような気がしてきたウララ。

 だとしたら・・・それによって導かれる答えは何なのか。


 ウララは珍しく悩んだ。

 本来の彼女であれば、「まぁいっか・・・。」で済ましている程度の問題だったのだが・・・。 

 しかしそれも長くは続かない。

 ウララという少女、決して頭が悪い訳ではないのだが、秋広やセイという幼馴染がちょっと偏屈なほど考えを巡らせるタイプなため、「難しいことはアイツらが考えれば良い。」と考えてしまうのだ。

 だからこそ・・・このタイミングで気付けたのかもしれない。


 「ねぇ、クリフォード。一回セイに相談しましょう。なんだかすごく気持ち悪いのよ。」


 「ふむ。」と頷いたクリフォードが、銀板「ドラゴンホットライン」を取り出した。



 ■



 「繋がらない?」


 ウララの問いにクリフォードは、「あ、ああ。」と少し焦って答えた後、何度も首を捻りながら銀板をペタペタ触り、表裏をひっくり返すなどしている。

 マルキストも自身の懐から銀板を取り出しそれに習う。

 慌ててウララも『図書館ライブラリ』を展開、「ドラゴンホットライン」のカードを取り出し、『カード化』を解除する。

 彼女の手の中で具現化する銀板。

 数分銀板を操作する三人を、ただカーシュだけがじっと見詰めていた。


 「だめね・・・。」


 ウララがため息混じり、天を仰ぐ。


 「・・・壊れてしまったんですかね?」


 マルキストの苦々しい呟きに、「違うわ。」と言って銀板を操作するウララ。

 ガォォーン!ガォォーン!ガォォーン!

 直後マルキストの持つ銀板から響き渡るコール音。

 二人の王は揃って驚愕に目を見開いた。 


 「どういうことだウララ?」


 『地球』の携帯電話なんて知らないこの世界の住人にすれば、『謎の道具ミステリアグッズ』が正常に作動しない=故障となることは想像に難くない。

 ウララはその辺りの事を説明する必要性を感じた。 


 「この道具はね、電波・・・は違うか・・・。なんて言ったら良いのかしらね?魔力を波に変えて同じ道具を持つ相手に飛ばす・・・って感じかしら?だからアタシたち同士で繋がって、セイと竜だけ繋がらないって事は・・・。」


 「つまり、その魔力が届かない程遠くに、お二人が行ってしまった?」


 途中で切れたウララの言葉を引き継ぐマルキスト。

 ウララは頷き、「それとあと一つ。」と付け足す。


 「なにかしらの妨害によって、魔力が届かない。ま、十中八九そっちでしょうね。」


 正にそれが答えだった。

 ウララの勘は雰囲気だけで『隠密』状態の盟友ユニットを、撲殺できるレベルである。

 もちろん山勘だけではない。

 帝国の再侵攻と幼馴染たちの音信不通。

 あまりにもタイミングが良すぎたのだ。


 しかしこれで謎、違和感の解明を、セイに丸投げすることができなくなってしまった。

 もちろん二人のことは心配だ。

 決して表立ってその気持ちを表したくは無いが・・・。

 そんじょそこいらのアイドルが裸足で逃げ出す超美少女、そしてその心も優しく情が深いというのに・・・なんとも残念な女だった。


 (それより!)


 ウララはここに来て再度思う。


 (こんな時にあのバカ(あっきー)は何やってんのよ!)


 最後にパモピモから聞いた情報で、秋広と思われる「タウンハンター」はなぜか四人に増員し、脱出してきたはずの『氷の大陸メスティア』に戻ったと言う。

 相変わらずその行動が不可解極まりない。

 『地球』に居た時は笑って済ませられるような問題かもしれないが、この世界に来て未だその悪癖が健在とは恐れ入った。

 ウララは思わず髪をわしゃわしゃとしたくなるが、さすがに思い留まり頭をカリカリと掻くに収める。

 

 そんなウララを何を言うでもなく眺めていたクリフォード、少し落ち着くのを待って声をかける。


 「二人のことは心配だが・・・我々もできることをやるしかあるまい。それに相手が明後日な対策をしているのなら、こちらにとっては好機と言えるだろう?」


 確かにそうなのだ。

 それはウララにも重々わかっている。

 やや釈然としないながら、彼女もその意見に頷いた。


 密林の中、一際大きく張り出した樹の頂上にある拠点、そこへ『天使兵』が飛び込んでくる。

 状況が動く。 


 「帝国が動きました!森外縁部の結界へ向けて侵攻中です!」


 話し合いの時間は終わりだ。

 三人と一頭は同時に立ち上がる。


 「そうそう破られるような柔な結界ではないが・・・森を焼かれるのは頂けない!」


 放っておけば奴らはきっと好き勝手するだろう。

 帝国、引いては『略奪者プランダー』のやり口はとっくに理解している。

 「目の前に障害、森があるなら焼いてしまえ。」短絡の極みを地でやってくる連中だ。

 クリフォードの言葉にウララが答える。


 「アタシが出るわ!マルキスト、『天使兵』の攻撃陣を借りるわよ?」


 「わかりました!私は治癒術師団及び、『法政官』と『獣闘士』を率いて続きます!」


 即座に対応するマルキスト、「伝令を任せた。」と拠点に飛び込んで来た『天使兵』を送り出す。


 「魔導書グリモア


 ウララの眼前にA4のコピー用紙サイズ、六枚のカードが浮かび上がる。

 さっと視線を滑らせ手札を確認。


 (強化・・・は良いけど・・・飛行系の魔法が・・・。)


 ウララは思わず悔しくなってしまう。

 これがセイなら全て効果的なカードを引いているだろう。

 そこで頭に響く渋い声。


 【我の背に乗るが良い。】


 のっそりとウララの前に、その背を晒す純白の『翼獅子グリフォン』の王。

 二枚の強化魔法をかけ、「助かるわ!」と飛び乗るウララ。

 それを確認し、カーシュは両翼を大きく広げる。


 【さぁ往くぞ!英雄の側室よ!】


 カーシュの言葉にウララは絶句、見る間にその顔が真っ赤に染まる。


 「ちょ!?ま!なんでアタシが側室なのよぉ~!?」


 そんな絶叫と共に、一人と一頭は帝国軍に向けて飛び出した。






ここまでお読み頂きありがとうございます。

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