・第百四十一話 『決起』
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※三人称視点、ウララサイドです。
4/22 ほんの少しだけ加筆、句読点の位置修正。
セイがアリアムエイダを救い、マドカの罠『妨害』を受けて、思いを馳せた先。
『精霊王国フローリア』と『天空の聖域シャングリラ』の防衛を任されたウララは、正しく戦場に向かっていた。
その小さな身体に両国と幼馴染の信頼を一心に受け・・・。
ウララは今、廊下を歩いている。
「じゃあ、間違いないのね?」
彼女は鋭い視線で隣を歩く男に問いかけた。
その男はエルフ。
ストレートの長い白髪に緑の瞳、緑色の法衣と若木の冠。
この世界の住人であるならば、彼の名を知らぬ者は居ないであろう。
『神官王』クリフォード・R・フローリア、その人である。
クリフォードは普段の穏やかな表情とは打って変わり、不機嫌さを隠そうともせずに吐き捨てる。
「ああ、ウララ。やはり帝国に『略奪者』が与しているのは間違いないだろう。どう考えてもセイと竜兵が居ない、このタイミングを狙ってきたとしか思えん。」
「・・・そうね。」
『レイベース帝国』の再侵攻・・・その報せが届いたのは、まさについ先ほどだった。
タイミングというのは、ウララにもわかる。
全てが仕組まれたことならば、『深海都市ヴェリオン』襲撃から話は続いているはず。
それは『鈴音の町リーンドル』で幼馴染たちが、『略奪者』と相対したことから見ても間違いないだろう。
そこで少なくとも二人、構成は別として自分達がヴェリオンに向かっているとわかったならば、今フローリアに牙を剥く・・・それは理解できる。
だが彼女は、どこか釈然としない物を抱えていた。
それが思わず返事の遅れに繋がったのだが、はっきりとした違和感の正体には気付けない。
「しかし・・・解せん所もある・・・。」
違和感はクリフォードも同様だったようだ。
ウララは黙って彼の言葉、その続きを待った。
「如何に帝国が強大とは言え、先の被害・・・『魔導兵器』2000以上、兵士5000の損害は軽くは無いはずだ。こちらの防衛の人員が減ったとは言え、この短期間に再出撃を敢行するほどの統制が、執れたと思うか?」
問いかけるようなクリフォードの呟き。
ウララはそれに「どうかしらね・・・。」と答えた。
クリフォードの疑問ももっともだが、彼女の感じる違和感とは微妙に違う。
「アタシはね、クリフォード・・・。」
ウララの呟きに、「ん?」っとクリフォードは視線を向けた。
ふと思いつく素人考え。
それは戦争などとは程遠い世界『地球』、それも日本人だからこそ思い立ったかもしれないこと。
「この世界の人間は、ジャングルの中でドラゴンと戦うことが、怖くないのかしら?って思うんだけど・・・。」
口に出せばはっきりとする違和感の正体。
兵だって生きている。
怖い物は怖いはず、死にたくだって無いはずだ。
だが自分はこの世界の住人ではないから、もしかしたら兵はその恐怖すら乗り越えられるのかもしれない。
だからこそウララには確証が持てなかった。
しかしクリフォードもそれに気付き、ハッとした表情に変わる。
それは二つの布石だった。
一度目の衝突が終わったあと、竜兵が『龍樹』マヤを呼び出し発動させた『樹海降臨』。
現在帝国側からフローリアへ侵入しようとすれば、ジャングルと化した『リラ大平原』に突っ込む必要がある。
そしてその後も竜兵は、バイアと二人で国境線を何度も周回していたのだ。
体長12mの白い長毛をなびかせた荘厳なドラゴン。
おそらくは姿を現すことで威圧、抑制の意味も込めていたであろう行為。
そして帝国の斥候が、それを把握していないはずがない。
自分達の得意としているフィールドとは、明らかに違う密林と言う悪環境。
絶対の強者たるドラゴン族、それも伝説級の存在『古龍』バイアが守護する地。
怖くないはずがない・・・。
ウララの言葉に含まれた意味を、完全に理解するクリフォード。
「いや・・・怖いな・・・。」
少なくとも自分なら御免こうむる。
例え自身の能力が十全に発揮される森の中と言え、『古龍』バイアなどと言う存在は明らかに常軌を逸している。
とてもではないが、兵の統率を取るなど不可能だろう。
クリフォードの表情を読み、自分の感じた違和感が正解であることを確信するウララ。
「だとすると・・・そうか!」
「ええ。」
二人は同じ答えに辿り着き、顔を見合わせ頷いた。
圧倒的脅威にも恐怖しない兵・・・つまりアンデットを使えばいい。
「これは・・・竜の読みが当たってたかもしれないわね・・・。」
ウララはそう一人ごちた。
■
二人はフローリアの王宮、『マルディーノス宮殿』の中庭に辿り着く。
それと時を同じくして庭木がアーチを作り、その間の空間が湾曲。
『ゲート』が産み出される。
中から一人の女性が歩み出てきた。
緑の髪に青い瞳、アフィナを少し成長させ、その表情を柔らかくさせたらこうなる。
そんなイメージを抱く女性だった。
「クリフ様、ウララちゃん。応援を連れて来たわ。本当にこれも竜君のおかげね・・・私本来の力じゃとてもこんな人数は無理だったわよ?」
『森の乙女』カーシャは『ゲート』を作り、その胸元に施されたオニキスのブローチを優しく撫でていた。
彼女の言葉を裏打ちするように、『ゲート』から続々と人影が現れる。
『天空の聖域シャングリラ』の誇る人族の特務機関、『法政官』の面々。
歳若い天使族の衛兵や治癒術師団。
様々な種族、獣人種の屈強な闘士達や、ドワーフの重戦士、エルフ族の弓兵などなど・・・。
否、それは人影だけではない。
燦然と額の角を輝かせた『一角馬』を筆頭に、多種多様の魔物たち。
「何よ・・・アンタまで来たわけ?」
思わずウララの口から、そんな言葉が漏れる。
【当然だ。王女たるシルキーも、人族の英雄セイもおらぬのだ。我が人一倍奮起せずしてどうする?】
それに返ってきたのは、頭に直接響くやたらと渋い声。
他の個体よりも明らかに、一回り以上大きな純白の『翼獅子』。
『獅子王』カーシュも、新たな安住の地『オリビアの森』より馳せ参じた。
そこでカーシュの影から、一人の少年が姿を見せる。
「よぉ姉ちゃん!相変わらず美っ人だな~!ま、俺様が来たからには帝国なんざ、物の数でもねーけどな!大船に・・・違うな!俺様に乗ったつもりでいろよ!」
額に小さな角を生やした少年を見て、ウララも驚きを隠せない。
本来なら森で大人しくしているはずの、歳若い『一角馬』リゲルだ。
「リゲル!あんたまで・・・。」
【大人しくしている。人化はしない。という約束は嘘だったのか?もし嘘なら我は、貴様を里へ・・・。】
一オクターブ低く、ドスが効いた『念話』が響き、リゲルは慌てて「やべぇ!」と叫び人化を解いた。
全員到着したか・・・そう思われたとき、満を持してひょっこりと顔を出す男。
些かいたずらっぽい表情を浮かべた、黒髪黒目の『法政官』。
確かに『法政官』の格好をしてはいるが、誰一人それを納得はしない。
余りにも目立ってしまうその背中。
正確には、背中に背負った一振りの大剣。
むき出しで斜めに括り付けられたその大剣には、刃が無かった。
『法政官』筆頭の代名詞、『裁断刀』ゲイルである。
その剣を背負う人物は、今『天空の聖域シャングリラ』に一人しか居ない。
「いやぁ・・・出てくるタイミングを間違ったようだね?すっかりリゲル君に、オチを持っていかれたようだ。」
タハハ・・・と笑うその男を見止め、ウララは開いた口が塞がらなくなった。
「マルキストまで!何やってんのよ!?」
そう、その男の名はマルキスト。
元『法政官』筆頭、現シャングリラ国王、『裁断王』マルキストだった。
「マルキスト王よ・・・王自ら応援に来てくれたのは嬉しく思うが・・・その、国の方は・・・?」
以前自分がやったことの、全く同じ意趣返し。
さすがのクリフォードも動揺を隠せない。
そんな彼にマルキストはニヤリと笑う。
「なぁに、最友好国のフローリアが攻められるとあって、居ても立っても居られなかっただけですよ。それに元より私は、黙って玉座に座って事務仕事するような柄じゃありませんからな。今頃はアーライザとカーデムが、必死で内政を回しているでしょうよ。」
それでいいのか?そう思わざるえないような事を言い、からからと笑うマルキスト。
正直、事務仕事を丸投げされた、アーライザとカーデム老人の怨嗟の声が聞こえてきそうだ。
そして少しだけ真面目な表情になったマルキストは、ウララとクリフォードを順に見つめた後宣言する。
「『正義の女神』ウララ様、『神官王』クリフォード殿。『天空の聖域シャングリラ』は『裁断王』マルキスト旗下の下、『天使兵団』30名、『法政官団』30名、『獣闘士団』40名・・・友国『精霊王国フローリア』の有事に馳せ参じた!数は少ないかもしれないが、我らが友国を案じる気持ちは強く固い!我らが力、存分に役立てて頂きたい!」
ウララ、クリフォード両名は、マルキストとしっかり握手を交わした。
クリフォードがボソリと呟く。
「ウララ・・・これはとんでもない事だぞ?人、妖精、獣人、魔物。そんな多種族が、例え二国連合とは言え結束するなど・・・。」
その言葉はウララの胸の中へ、ストンと落ちてくる。
ウララはつと考えてしまう。
この状況を作り出したのは・・・誰あろう、幼馴染のアイツであると。
(やっぱ・・・アイツには敵わないわね。)
だが!それでも!と思う。
アイツの横に並び立つためには、常に前を向いていなければいけないと。
なんたって今ここを任させているのは、自分なのだからと。
「そうね・・・でも、こんなのまだ序の口よ!きっとアイツは・・・セイはヴェリオンを救って、人魚たちまで仲間にしてくるわよ?この程度で驚いてたらキリがないわ!」
叫ぶように強く、半ば以上自分に向けた言葉。
一瞬だけ驚いたクリフォードが、柔らかな笑みを浮かべた。
「そうだな。まだ始まったばかりだ。セイが帰ってくるまでに、無粋な帝国を追い出しておかなければ、イヤミの一つも言われてしまう・・・。」
そこで一度言葉を切るクリフォード。
そして深呼吸、中庭に集う面々を見渡し厳かに告げた。
「諸君!力を貸してくれ!我らが英雄、セイと竜兵が安心して戻ってこられるよう、この国を守り抜こう!」
一瞬の静寂、そして怒号。
「「「「うおおおおおおお!!!」」」」
開戦は近い・・・。
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