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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
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・第百三十九話 『勝者(ウィナー)』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


※活動報告にSS載せます。

ぜひ覗いてやってください^^

 

 異世界からこんばんは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、そろそろ幕だ。

 さすがの兄貴も完全な毒状態で長くは持たない。

 ああ、安心してくれ。

 君の下に帰るまで、おれは絶対死んだりしない。

 だけど、正直身体のだるさがすごいんだ。

 できればすぐに寝たい。

 一応アフィナが治癒魔法をかけてはくれているんだが・・・。

 ウララの足元にも及ばないそれじゃあ、完治には程遠いと思う。

 まぁ吐血とか・・・よっぽどTVドラマとかの話だと思っていた。

 僥倖だったのは『勝者ウィナー』の魔法だな。

 自分だけが優位に立てると思ったら大間違い。

 マドカがここまでしてなけりゃあ、もう少し手こずっていたはずだ。

 下手すりゃアリアムエイダが重篤な被害を受けるほど・・・。

 だけどそれももう終わり。

 あ?理不尽だぁ?禁止カードを使ったツケだろ?

 


 ■



 『幽霊船ゴーストシップ』にかけられた強化魔法、『勝者ウィナー』の効果を一方的に奪い取る。

 アフィナやシルキーから「毒」の効果を奪った時同様、おれの身体にすぐさま染み込んでいくその効果。

 途端、全身に満ち満ちる全能感。

 それはおれもよく使う強化魔法、『幻歩ファントムウォーク』なんかとは明らかに違う、間違いなく一線を画した物である確信。

 

 (なるほど・・・禁止指定されるのも頷ける。)

 

 もちろん未だ「毒」の効果も継続中だ。

 徐々に、そして確実におれの体力は削られ続けているのだろう。

 おそらくアフィナが解毒できたのは、自身がかかっていたであろう弱い方。

 シルキーの意識を奪うほどの悪素は、舞台をおれの身体へと移し、なおもその猛威を振るっている。

 正直身体以上に思考がヤバイ。

 できればすぐにでも眠りたいくらいだ。

 

 (だがっ・・・!)


 ここからが本当の本番。

 アフィナとシルキーを救うために取った行動が、そのままダイレクトに『幽霊船ゴーストシップ』を叩き潰す一手に変わった。

 

 「セイ!まだ解毒が・・・!」


 おれの身体を抑えようとするアフィナを優しく振りほどき、おれは甲板上に立ち上がる。

 まだ薄ぼんやりとする頭を一度振り、できるだけいつも通りに不敵に笑う。

 心配そうな仲間たちに、「大丈夫だ。」と声をかけ、身体に染み付いた自然な動き。

 丹田の構えで拳を腰溜めに・・・。

 

 目の前、障害となりえるゾンビは最早数体。

 

 「ヴィリス、アフィナ。シルキーを頼むぞ。行くぞメリラ!」


 「セ、セイ!?待って!」


 「殿下!ご武運を!」


 「了解!」


 口々に返答を返す仲間たちを振り返ることなく、一気に甲板上を駆け抜ける。

 時間は・・・余り無い。

 おれの身体に毒が回りきる前に、この船の動力・・・つまりコアをぶっ壊す!

 走りながら『魔導書グリモア』を展開。

 目の前に広がる手札から、一枚の魔法を選択する。


 『朱のハンズ・オブ・ヴァーミリオン


 すばやく魔法名を詠唱、カードが光の粒子に変わる。

 光の粒子がおれの拳に纏わり付き、朱色の魔力光が灯った。

 身体強化魔法『幻歩ファントムウォーク』、攻撃力強化魔法『朱のハンズ・オブ・ヴァーミリオン』、そして奪い取った強化魔法『勝者ウィナー』。

 これだけの強化をかけて一気にケリを付ける。


 死体のくせに必死に防衛しようとでも言うのか、未だ健在のゾンビが疾走するおれと追従するイアネメリラの前に立ち塞がる。

 少し先には船室へと続くであろう謎金属のドア。

 おそらくコアは船室のどこかだ。

 たぶん船長室とかそんなところじゃないか?

 正確にわかってる訳じゃないが、この手の話ってそうはずれはないだろ。


 「推し通る!」


 短く宣言、瞬時に是彼の距離を詰める。

 元はオーガ種だったであろう、3m近い体躯を持ったゾンビの懐に潜り込み、突き上げるイメージで掌底を叩き込む。

 そしてこの船で覚えた新技、「なんちゃって発剄」をお見舞い。

 自分の掌から『朱のハンズ・オブ・ヴァーミリオン』で属性を変えた、炎の魔力が放たれたのが、理屈ではなく感覚で理解できた。

 ゴッ!ドパァッ!

 派手な破砕音を奏で吹き飛ぶゾンビオーガの半身。

 他の個体も、すでにヴィリスの水槍やイアネメリラの魔力球によって無力化されている。

 もうおれたちを阻める者は存在しなかった。



 ■


 

 ヴィリスが異変に気付き、おれに向かって叫ぶ。


 「殿下!船が移動しています!」


 (・・・なるほど。)


 確かにゆっくりとだが動いている。

 向かう先は、どう見てもアリアムエイダの鎮座する神殿だ。

 どうやらいよいよ切羽詰って、自爆テロでも決行するつもりらしい。

 なんたって『幽霊船ゴーストシップ』は、如何にも船そのものってナリだが、その実ちゃんと思考能力を持った盟友ユニットな訳だからな。

 追い詰められればそれくらいのこともするだろう。


 「セイっ!」「ますたぁ!」


 相手の思惑が理解できたのだろう。

 シルキーを回復中のアフィナと、おれに追従するイアネメリラが同時に叫ぶ。


 「わかってる!コアを潰せば船ごと消える!」


 目の前には謎金属でできた扉。

 調べるまでも無い、どうせ開かないんだろう?

 いつもいっつもおれを阻む扉だの門だの。

 かったるいにも程がある。

 本来の開け方を忘れちまったらどうしてくれるんだ。(すでに半ば手遅れ

 いい加減うんざり、こめかみに痛みを覚えつつ、左手に魔力を集中するイメージ。


 「ハァァァァ・・・オラァ!!」


 呼気を整え、裂帛の気合と共に突き出す裏拳。

 ガゴン!ゴドバァ!

 拳がぶちあたり爆音と業炎を噴き上げ、内側に吹き飛ぶ扉。

 なんとか壊せたがこれ・・・なんつー硬さだよ。

 『勝者ウィナー』の効果を奪ってなかったら相当苦労したと思う。

 おれが扉を破壊するのと同時に、船体が大きくまるで苦しんでいるかのように傾げる。

 なんだか移動速度が加速した気がするぞ・・・?


 「ヴィリス!少しでも良い、海流操作で動きを抑制しろ!」


 おれの指示にもヴィリスの表情は暗い。


 「殿下!やってるんです・・・やってるんですが!」


 『海の覇者』たるヴィリスの力でも制御しきれないのか。

 おそらくは海流云々以前の問題で、『幽霊船ゴーストシップ』の質量がありすぎるんだろうな。


 焦るおれたちを敵は見逃さない。

 ぶち破った扉の先、薄暗がりの中にどんよりとした複数の人影。


 「くそ!中にも居やがる!」


 案の定というか当然というか、中にも待ち構えるゾンビたち。

 さすがにもう大型は居ない。

 ほとんどが人型、元帝国兵と見える奴ばかりだ。

 

 「邪魔だ!どけぇ!」


 おれは船の内部へと踊り込む。

 外は如何にも中世の帆船って感じなのに、内部はまるで近未来の鋼鉄製という節操の無さ。

 正直意味がわからないが、考えても仕方ないことはこの際無視だ。

 何より毒が進行中のおれには時間がない。

 無謀な自爆テロも止めないといけないしな。


 イアネメリラの援護を受けながら奥へ。

 人が三人は横に並んで歩けるような通路を進む。

 間断なく襲い掛かってくるゾンビたちを光の粒子に帰し、そのカードを回収しながらだ。

 そしてそれは突然訪れた。


 おれたちの目の前、襲いかかろうとしていたゾンビが、何の前触れも無く光の粒子に変わり、そのまま船の内壁に吸い込まれていく。


 「ますたぁ・・・!」


 「ああ、こいつ・・・燃料切れだ!」


 そう、『幽霊船ゴーストシップ』は一定時間ごとにアンデットの生贄を吸収する。

 そのコストが払えなくなれば、この盟友ユニットは現世に顕現していることが叶わない。

 今目の前で起きた珍事、それはつまりそういうこと。

 おれたちを阻むための防衛部隊すら吸収しないといけないほど、切迫した状況。

 答えは簡単だ。

 この船に乗り込んだゾンビはもう居ない。


 敵勢が尽きたことで、程なく一際豪華な扉の前に辿り着く。

 おれの体力も限界。

 毒が完全に全身に回り、普通に歩くことさえ億劫だ。

 

 (だが・・・トドメは刺す!)



 「ますたぁ・・・顔色が・・・。」


 わかっている。

 しかしここで、ただ黙って待っている訳にも行かない。

 アリアムエイダまで、どれ程の距離が縮まったかはわからないが、到底楽観できるものではないし、何より一番良くないのはこのままこの船を、燃料切れでカードに返すこと。

 燃料切れ、生贄不足は討伐に含まれない。

 あくまで召喚維持費の未払いによる撤収だ。

 おそらくカードになった後、マドカの掌に戻るだろう。

 そうなるとこの国、『深海都市ヴェリオン』という海フィールドで、再度この船と会敵すること・・・想像に難くない。

 おれは絶対にここで、アンティルールを発動させる必要があった。


 『勝者ウィナー』の効果が減退してきているのだろう。

 再発した身体の気だるさを押し殺し、豪華な扉を蹴り破る。

 中は如何にも中世の船長室と言った様相の部屋。

 黒檀?のように見える木製の大きな机の上に、布に載せられた拳大、紫色の水晶球。

 おれは拳を振り下ろし、その球体を粉々に砕いた。

 





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