・第百三十八話 『進化(レボリューション)』
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※三人称視点、竜兵側です。
一方その頃・・・。
セイは空中に滞遊していた『幽霊船』を、上層に見える海中へと引きずりこもうとしているように見えた。
その意図を正確に汲んで、竜兵はより強い魔力を込める。
大地の攻撃魔法『高貴なる大地』によって花道を作り上げ、更に押し込もうとした所で邪魔が入った。
接近するほとんどの敵は、味方であるバイアやローレン、オーゾルが対応してくれていたのだが・・・。
その合間をすり抜けて、ゾンビ化した『レイベース帝国』の仕官級盟友、『剣闘士』が竜兵に襲い掛かってきたのだ。
咄嗟に虚空から呼び出した愛剣、『竜王の牙』で応戦する。
ガキィン!っと甲高い音を立て、相手の剣を受け止めた竜兵。
本来なら鎧袖一触の相手だが、元より地面に手を付く形という体勢の悪さ、更には不意打ちだったことも相まって、少し動揺してしまった。
当然媒介にしていた大地から、手を離したことにより魔法も滞ってしまう。
それに気付いた兄貴分に謝罪の言葉をかける。
だが、竜兵の信頼する兄貴分・・・セイはその程度の障害には怯まない。
むしろ竜兵を気遣うような言葉をかけ、すぐさま岩石の花道を駆け上がって行った。
直後、ゴッゴン!ゴッゴン!と、岩盤を叩くような音が響き、巨大な『幽霊船』の船体が、ドーム状に覆われた海水の中へと弾き飛ばされる。
(アニキ・・・どんだけ・・・・。)
『剣闘士』と鍔迫り合いを繰り広げつつも、端目に捉えたありえない行動に、思わず心でつっこみを入れてしまう竜兵。
それもそうだろう。
謎物質で造り上げられた戦艦とも言うべき盟友『幽霊船』を、強化魔法をかけたとは言え、身長180cm少々のセイが素手の殴打でぶっとばしているのである。
如何に異世界、それも常識とは一線画した兄貴分、セイの行いだとしても簡単に納得できる物でもない。
しかし、竜兵はすぐに意識を切り替える。
(さすがアニキ!)
いつもの感嘆詞を胸に、彼の行動をただ褒め称える。
そう、竜兵にとってセイという存在は、まさにヒーロー。
多少の理不尽や不利なんて、その拳一つで打ち払ってくれるはずなのだ。
10年来、他の幼馴染同様・・・いや、妹である美祈を除けば、間違いなく一番側でセイの勇姿を見続けていたからこそそう思えるのだろうが。
そうこうする内に、セイは『幽霊船』へ乗り込むことに成功したようだ。
なんとか自身の兄貴分が目的を果たしたことで、竜兵もやっと目の前に集中できた。
落ち着いてしまえば造作もないこと。
これが生前の練達な剣技ならば、もう少し話しは違ったのかもしれないが、現在ゾンビ化してしまっていることで、力こそあれどその動きは余りにも精彩を欠いていた。
剣術に特化した『剣闘士』と言え、竜兵が発する15歳の少年とは到底思えないありえないほどの膂力。
二万年を生きてきた最古のドラゴン、『古龍』バイアをも思わず唸らせる卓越した剣技に対し、抗う術など持ってはいなかった。
邪魔者であるゾンビを無造作に切り捨て、竜兵は小さく息を吐く。
そこで周囲を見回し、しっかり現状を確認。
「うわぁ・・・いっぱいだ・・・。」
思わず漏れた呟きを、誰も諌めることなどできないだろう。
竜兵を中心に、ローレンとオーゾル、『大王海亀』と上空にはドラゴンモードのバイア。
そして未だビチビチと暴れるサーペント型の『水竜』。
それらを囲むように全方位、多種多様なゾンビの群れがすでに隊伍を組んで待ち構えていた。
発生元へと乗り込んだセイのおかげで、『幽霊船』からのおかわりは無さそうだが、上空はまだしも周囲の海域からは未だ続々と結集中。
殲滅するのも無理ではないが、実際時間はかかるだろう。
竜兵は自陣と敵勢の戦力を、正確に把握していた。
愛剣を地面に付け、うんざりと言った表情の竜兵に、ローレンがすっと近寄り声をかける。
「竜兵君、済まないな。一匹打ち漏らしをそちらに回してしまったようだ。」
竜兵はローレンの言葉に、「それは良いんだけど・・・。」と返答しつつも、苦しそうな『水竜』の様子を気にしている。
もちろん箱に返せば済む話でもあるのだが、せっかく呼び出した盟友だ。
できれば一緒に戦って欲しい。
そうする材料は先ほど展開した『魔導書』に存在している。
彼のドラゴンを救い、尚且つ戦力として計算。
状況を更に有利にする為の一手だ。
それは一つの魔法、但し・・・ちょっとだけ問題があった。
竜兵の『魔導書』は、セイのそれと違いほとんど魔法使いの盟友が居ない。
皆無・・・ではないが、実に二枚だけである。
それも仕方のないこと、竜兵はドラゴン族しか使わないからだ。
その関係上、どうしても魔法を唱えるのは竜兵の仕事になってしまい、先ほどのように邪魔をされるということもある訳だ。
仲間たちに伺いを立てる。
「じっちゃん、おっちゃんたち。少しだけ時間稼げる?」
優しく頭に響くバイアの声。
【任せんしゃい。お竜ちゃんの好きなようにやったら良いぞい。】
ローレン、オーゾル両人にも依存はない。
油断無く敵勢を睨みながらも、揃って竜兵に首肯を返す。
言葉を正確に解しているのか、なぜか『大王海亀』も頷いていたように見える。
「じゃあちょっとだけお願い!魔導書」
仲間たちからの力強い合意を得た事で、もう一度手札を確認し、灰色のカード一枚と光るカード一枚、計二枚を選択する竜兵。
その光景を見て本能的に危機感を覚えたのか、じりじりと近寄ってきていたゾンビたちが、一斉に襲い掛かってきた。
■
【お竜ちゃんの邪魔はさせんぞい!!】
目を瞑り二枚のカードを両手で持った竜兵を尻目に、バイアが気勢を上げて『吐息』を放つ。
その属性は炎と天。
逆巻く炎と奔る風刃が、彼の口から迸る。
炎と風刃は絶妙に混ざり合い、群れるゾンビの中心に着弾すると、その身体を紙切れのように引きちぎり、更に引きちぎった側から燃やしていく。
圧倒的な蹂躙。
そこには種族も属性も、はたまた身体のサイズすら意味を持たない。
余りにも高威力、そして手加減が非常に困難なため、滅多な場所では使えないが、今この場では何の問題もない。
「ルルゥオオオ!!」
唸り声を上げた『大王海亀』が、その口から滂沱の水流を吐き出す。
ゾンビたちは水流の勢いに足を取られ、体勢を崩す者や転倒する者が多数現れた。
それでも敵勢の数が多すぎる。
バイアの『吐息』を掻い潜り、『大王海亀』の吐き出した水流に倒れた者を踏み台に、無傷のゾンビたちが竜兵へ向かう。
それを阻むのはおっさん二人。
『深海都市ヴェリオン』が誇る凄腕諜報員、『海星』ローレンと『水先案内人』オーゾルだ。
「オーゾル、わかっているな?」
「はい、ローレン様!このオーゾル、いつでもいけますぞ!」
二人は一瞬だけ視線を合わせ、同時に頷く。
そしてオーゾルがゾンビに向けて走り出す。
「貴族たる者ぉ!」
ローレンが叫びと共に両手を下から上へ振り上げると、オーゾルの走る先に水柱が噴き上がる。
オーゾルは一切の躊躇無くその水柱に飛び込む。
「如何なる困難からも、同胞を守り抜くべし!」
矜持のような物を唱え、水柱を突っ切り岩場の上へ降り立つオーゾル。
水柱に飛び込んだはずの彼は、その身を一切濡らしていない。
しかし飛び込む前と後で明らかに異なる場所がある。
それは・・・その手に握られている一本の流麗な両手剣。
柄こそしっかりとした固形に見えるが、その刀身は流れ落ちる流水のようにたゆたい、いっそ静謐にすら感じるほどの魔力を放出していた。
そしてオーゾルは剣を真一文字、襲い掛かるゾンビへ向けて振るう。
一瞬の静寂。
バイアの放った『吐息』の影響も、『大王海亀』の激流も、更には常軌を逸したゾンビたちの唸り声さえも聞こえない、凛とした世界。
パンッ!っと小気味良い音を立て、オーゾルの振るった大剣が砕ける。
その手から零れ落ちる水。
何が起きたかはわからない。
当然それが自身の身に起きた事だろうとも。
ゾンビたちは沈黙を破り、一斉に動き出そうとした。
だがそれは叶わない。
動き出すと同時、迫っていたゾンビの下半身が、その上に載った上半身を置き去りにする。
『吐息』も流水も免れ、今正にその猛威を突き立てようとした前衛は、等しくその半身を失った。
だがまだ敵勢は多い。
直近こそ片付いたものの、押し寄せる波の如くゾンビは進む。
しかし・・・満を持し、竜兵の詠唱が終わった。
仲間たちはその役目、時間稼ぎを滞りなく勤め上げた。
「みんなありがと!行くよ・・・『進化』!」
竜兵が魔法を放つ。
灰色のカードが地に伏す『水竜』に吸い込まれ、光るカードが粒子に変わってその身に降り注ぐ。
竜兵と『水竜』の視線が絡み合う。
そこにあるのは確かな信頼。
「『水竜』、おいらたちを守って!」
「ルルァァァァァ!」
咆哮と共に浮き上がり、光に包まれる『水竜』。
そして彼の水色の身体から、同色の四肢、光り輝く翼が生まれる。
それに伴い、サーペント型だった竜体は、少しずんぐりとした所謂西洋のドラゴン型へと変化していく。
【こ、これは・・・。】
「「・・・一体!?」」
なんとなく状況を察したバイアと、竜兵の行動を信頼こそすれ、意味はまったくわからないおっさん二人。
三者三様、動揺する間に竜の変化が終わる。
そこに現れたのは体長5mに達する、鮮やかな水色のドラゴン。
翼だけは光り輝き、無数の燐光を撒き散らす。
「いっけぇ!」と竜兵の声。
直後、仲間たちを綺麗に避けた膨大な量の水流・・・『聖水竜帝』の『吐息』がゾンビたちを根こそぎ薙ぎ払い、一瞬で光の粒子に帰す。
おびただしい枚数のカードが、竜兵の差し出した右手に集う。
「『水竜』に進化してもらって・・・『聖水竜帝』になってもらったよ!さぁ、みんなちゃっちゃと片付けよう!」
手にしたカードを『図書館』に収納、地に付けた大剣を背負い直し、さっとその背に飛び乗った竜兵が宣言。
ゾンビの群れにビシィ!っと人差し指を突きつける。
その威風堂々とした姿に、一瞬呆けた大人たちも我に帰った。
【ほっほ、お竜ちゃんめ・・・やりおるわい!】
「オーゾル、若人においしい所を持っていかれて良いのか?」
「いいえローレン様!このオーゾル。まだまだ若者には負けませんぞ!」
それぞれの決意を胸に敵勢に向かって動き出す一同。
戦闘は更に激化していく。
【お竜ちゃん!ちょっとまずいかもしれん!】
バイアの声が頭に響き、彼の視線の先を伺う竜兵。
その視線の先では、煙を噴き上げているように見える『幽霊船』が、ゆっくりと『海龍』アリアムエイダの鎮座する神殿へ向けて墜落して行く所だった。
「ア、アニキー!?」
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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※せっかくのお休みでもほぼほぼ寝ているという・・・。
どうしてこんなに眠いのか・・・orz
ともあれ更新がんばります!