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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
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・第百三十六話 『幽霊船(ゴーストシップ)』後編

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


 

 おれたちが降り立った甲板上は正にカオス。

 半円状十重二十重と囲んだゾンビな乗組員どもが、腐った身体を揺らしながら迫ってくる。

 なかなかの恐怖映像、子供なら間違いなくタイガーホースだ。

 現にアフィナとシルキーは反撃こそすれ、身を寄せ合い震えている。

 むしろ悲鳴も上げずに居るので、頑張っていると言えるだろう。


 イアネメリラとヴィリスは、さすがに英雄級盟友ユニットだ。

 不快そうな表情こそ浮かべるものの、水槍と魔力球によって黙々と処理作業を進める。

 一番ワリを食ってるのはおれだろう。

 甲板上を陸生に対応させたため、ヴィリスが降り立つことはできないそのツケ。

 そして攻撃手段が肉体言語ゆえ、自ずと敵のまん前、それも超近接での立ち回りを余儀なくされている。

 今まさしく、全敵勢のヘイトを一心に受けていた。

 

 だが・・・問題はそこじゃない。


 「ますたぁ・・・キリが無いね・・・。」


 おれの背後、中空に浮かぶイアネメリラが、すこぶる鬱陶し気に漏らす。

 『地球』の知識があればすぐお察し頂けるだろう。

 どんな作品だろうと、ゾンビに対する共通の認識があるはずだ。

 それは痛覚の欠如であったり、致命傷に対する抵抗性。

 アンデット・・・その名の通り「不死」、つまり生半可な攻撃じゃ倒せないってのは、『地球』だろうが『リ・アルカナ』の世界だろうが共通らしい。


 現状有効な効果を出せているのは、シルキーとヴィリスだけ。

 言わずもがな『浄化の雷』を使用しているシルキーの光属性と、水槍の高火力による肉体の消失を狙った攻撃だ。

 アフィナの火魔法が、もっと効いてくれると思ったんだが・・・。

 残念ながら水棲の魔物や、直前まで水中に居たことによる湿気を含んだ敵勢のせいで、目立った戦果は得られない。

 イアネメリラの魔力球は、本人同様闇属性。

 さすがに無効化や吸収されるなんてオチは無いが、それでもせいぜい体勢を崩す程度。

 おれの打撃も然り、相手が骨そのものである『スケルトン』だったりすれば、余裕で粉砕・・・再起不能にすることも可能なのだが・・・。

 さすがに腐肉を纏ったゾンビ相手には手こずっている。


 群がる敵をフットワークで避けながら、ハタと思い当たる。

 おれが『地球』に居た頃、中学まで通っていた空手道場の先生。

 彼が、「ちょっとだけかじった。」と言っていた中国拳法。 

 ちらっとやり方を聞いただけ、しかしその先の知識は、秋広がおれの部屋に置いていった格闘漫画に載っていた。


 (だめもとで試してみるか・・・。)


 付け焼刃も良いところだが、なんとなくできそうな気がする。


 「グルウァァァ!!」


 どんよりと濁った瞳、口角から涎を垂れ流して突っ込んできた『赤熊レッドベアー』が、その異様に発達した豪腕を横薙ぎに振るう。

 これぞまさしくベアクローって奴だろう。

 普通に当たれば人体など木っ端の如く吹っ飛ばされる一撃。


 しかしおれは、あえて前に出る。

 横薙ぎの一撃を避け、赤い獣毛に包まれた胸元に向けて掌打。

 敵に触れるか触れないか、その直前に掌から魔力を打ち出すイメージ。

 所謂『発剄』と呼ばれる中国拳法の極意。

 『地球』では気の力をどうのこうのと聞いていたが、今回それを魔力でやってみた。


 ドンッ!

 おれの掌打が当たった場所が陥没。

 直後そこから紫色の光を放ち、『赤熊レッドベアー』の身体が仰け反った。

 まるで内部から破壊されたと言わんばかり、腐汁と光の粒子を撒き散らしてカードに変わる。

 

 「「えええっ!?」」


 アフィナとシルキーが「理解できない!」と言った叫びを上げる中、おれは確かな確信を得ていた。

 

 (これは・・・使える!)


 魔力でやってみたのが正解だったんだろう。

 気合ならまだしも、気の力とか言われても、正直・・・わからん。

 だがおれは、この世界に来てから、魔力の感覚だけは実に良く触ってきた。

 カードを使用する時は元より、なんだかよくわからん膨大な魔力総量を有し、『魔力炉マナタンク』と化して他人に魔力を譲渡していたくらいだから・・・。


 咄嗟の思い付きが僥倖だった。

 手札を消費しないで基本攻撃力の底上げが出来るとは・・・。

 さすがに出力等は要調整だろうな。

 体長3m、大型の熊さんが一撃で光に変わる攻撃、下手な相手には怖くて使えない。

 間違いなく「人に向けてはいけません。」の注意書きが書いてあるはずだ。



 ■



 おれの「なんちゃって発剄」が火を噴き、徐々に敵勢が減っていくんだが・・・。

 一つ・・・謝りたいことがある。

 さっきおれは自分がすごい事をした気になっていた。

 「なんちゃって発剄」を開発したことだ。

 ところがどっこいだぞ?

 思わず死語も使っちゃうぞ?


 おれの動きを見ていたイアネメリラさんがだ。

 「なぁるほど~、そうすればいいんだ~。」なんて、いつもの甘ったるい声を発した。

 直後、彼女が放った紫に色付く魔力球。

 それが『豪腕蟹マイトクラブ』の体内に、音も無く吸い込まれていったかと思うと・・・。

 鉛を髣髴とさせる刺々しい蟹は、甲殻の隙間から紫の光を溢れ出させて爆散した。


 「「・・・・・・。」」


 「ええっ!?」


 アフィナとシルキーは絶句。

 今度はおれが「聞いてないよ!?」の声を上げる羽目になった訳だ。


 「できそうだったから真似しちゃった~、てへっ。」


 いやいや、真似どころの話じゃないぞ?

 おれが打撃のインパクトの瞬間に発動している「なんちゃって発剄」を、遠距離から魔力球で行うとか・・・。


 (イアネメリラさんすげぇ・・・。)


 おれは再度、彼女のハイスペックさを思い知らされた。


 それはともかく。

 処理部隊が二人から倍の四人になったことで、戦況は一気に加速する。

 もはやゾンビたちは大した障害となり得ない。

 このままいけば、問題なく家捜しタイムに突入・・・コアの破壊も容易だろう。

 そんなことを考えていた時に、それは突然起こった。

 いや、前情報として持っていたのに気付けなかったのは、おれの油断だな。

 

 別に攻撃を受けた訳でもない、おれたちとは違い有効な攻撃手段を見出せず、最早びっくりするため要員、空気と化していたアフィナが、突如バランスを崩したようにふらつく。

 慌てて隣に居たシルキーが支えるが、支えた当人も同様にバランスを崩す。

 半ば抱き合うように、もつれ合って甲板に膝を突く二人。


 「あ・・・あれ・・・?」


 「う・・・うぅ・・・。」


 二人はすぐに立ち上がろうとしているのだろうが、どうにも力が入らないようでそのまま座り込んでしまう。

 その後は揃ってイヤイヤをするように、頭をゆるゆると振っている。

 端目で見ただけではわからないが、どうも意識が朦朧としているような?


 (なんだ?何が起こっている!?)


 「殿下!」


 その異変に最初に気付いたのは、海中でおれたちを俯瞰するように見ていたヴィリス。

 そしておれも違和感に気付く。


 「甘い・・・匂い・・・。」


 頭に響く警鐘。

 『幽霊船ゴーストシップ』のカードテキストと、アリアムエイダの言葉が脳裏を過ぎる。


 「妾の本体が手強いと見るや、毒攻撃と遠距離砲撃に切り替えたようじゃ。」


 「・・・毒か!」


 腐臭とはまた違う、作り物めいた甘い香り。

 おれは慌てて片手を使い、鼻と口を覆う。

 それを見てイアネメリラも右ならえ。


 いよいよ防衛部隊が減った『幽霊船ゴーストシップ』は、甲板上に毒を散布したようだ。

 たぶん肉体的に最も脆弱なアフィナが第一に、次いでシルキーが被毒した。

 放っておけば、海中に居るヴィリスはまだしも、おれとイアネメリラも危険だろう。

 逆にゾンビな奴らは毒なんて効かない。


 (詰めが甘い!)


 自分のミスに情けなくなるが、今はここを乗り切るのが先だ。

 おれはイアネメリラに指示を出す。


 「メリラ!羽根で風を!」

 

 「了解!」


 返事と共に、その黒翼で風を起こす。

 おれたちの様子を伺いながら、飛び掛る隙を伺っていたゾンビの残党も、強風によってたたらを踏む形。

 一気に距離を取るためバックステップ。

 アフィナとシルキーを抱え起こす。


 「セ、セイ・・・?ボク・・・?」


 アフィナはまだいい。

 なんとか意識がある。

 後からかかったはずのシルキーの方が深刻だ。

 気温は寒くないはずなのに青い顔、両手で自信の身体を抱きしめ呼吸も荒い。


 「くそっ!やられた・・・。毒を使うのは知ってたのにな。」


 (早くシルキーを治療しないと・・・。)


 この毒の効果はどれほどか・・・。

 わからない。

 VRバーチャルリアリティでは甘い匂いなんて当然感じなかったから、感覚としては画面上にデバフ効果として表れるだけだった。

 そしてライフを見られるのなら、どのくらいのペースで減っていくかも把握できる物。

 しかしこれは現実。

 実際問題、砲撃と共に被毒したアリアムエイダが、その分体を消失させてしまうほどの威力だったんだ。

 決して生易しい物ではないだろう。


 気ばかりが焦る。

 しかし、治癒系統の魔法を使えるアフィナも被毒中。

 たぶんローレンとオーゾル、どちらかは解毒魔法も使えそうだが、当然下に戻る暇も無ければシルキーを落すのも論外。


 おれの焦りを察知し、シルキーの様子に気付いたアフィナが、辛そうな顔をしながら治癒魔法をかけようとするのを押し留め、おれは『魔導書グリモア』を展開する。


 イアネメリラに牽制を任せて、確認した現在の手札は五枚。

 ドロータイミングが過ぎて、新たなカードを一枚引いている。

 

 (これを使うしか・・・。)


 新たに増えた一枚のカードを見て、覚悟を決めた。

 





ここまで読んで頂きありがとうございます。

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