・第百三十五話 『幽霊船(ゴーストシップ)』前編
いつもお読み頂きありがとうございます。
ブクマ励みになります^^
※前後編です。
異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、これはあいつらにとって予定道りなのか、はたまた予想外なのか。
兄貴には判断が付かないところだ。
だがこれはもしかすると、一つの綻びかもしれない。
今まで、おれたちの先手を打ってきたかのように見える『略奪者』。
『港町』カスロのことでもそうだが、『魔海の口』まで出したからには、おれたちに船が無い・・・つまり、あの場で足止めを食らってると思っているんじゃないだろうか?
マドカの思惑はわかる。
ストレートに考えてそれは当然、『海龍』アリアムエイダの排除だろう。
だがしかしだ。
ここにおれたちが居ることを知っているとしたら、『幽霊船』だけで由とするだろうか・・・。
おれにはそうは思えない。
いくら海戦が得意な船型の盟友とはいえ、こちらにはすでにイアネメリラとヴィリスという英雄級盟友が二人。
どう見たって力不足だ。
これは対『略奪者』相手、初のアドバンテージと言えるんじゃないか・・・。
■
おれが向かうのは、すっかり船体を立て直し、空中に浮かぶ『幽霊船』。
海上海中、陸上はおろか、空中ですら航行可能なそれは、最早船と括って良いのか甚だ疑問だったりする。
おれとアフィナを背に乗せるため、本来の姿『一角馬』へと戻ったシルキー。
竜兵の放った魔法、『高貴なる大地』によって、爆発的に噴き上がる岩石の槍矛が、彼女の馬体を易々と担いだまま、『幽霊船』へ伸びていく。
おれはシルキーの首筋を優しく叩き、「踏ん張れ!」と声をかける。
「ブルルッ!」と了承だろう、軽く嘶いたシルキーが四肢に力を込める。
直後、ゴガァッ!っと派手な音を立て、岩槍が空中の『幽霊船』艦底部にぶち当たった。
が、しかし・・・。
(硬いっ!)
それは見た目の派手さに反して、余りにも軽微な損傷だ。
無傷ではないが、まさか穴も開かないとは思わなかった。
『高貴なる大地』は同系統の土魔法、『土槍』よりも遥かに高位な攻撃魔法だというのに、艦底はよほど硬質な素材なのか、鋭いはずの岩槍が逆に破砕する有様だった。
さすがは異界の謎金属と言える。
普通船ってのは底が弱点だったりするんだが、この相手には当てはまらないらしい。
クルーザーアタック(船体当たり)は、上層の艦橋部を確実に破壊していたし、狙うは・・・上かっ!
「ごめんアニキ!硬い!」
眼下で地に手を付けたまま、未だ魔力を送り続ける竜兵が叫ぶ。
「竜兵!構わないから押せ!」
おれの指示に、「わかった!」と元気良く答え、竜兵は大地へと更に魔力を込める。
突き刺さる事が無くとも、岩槍の推進力は健在。
破砕した石片を撒き散らしながら、『幽霊船』を突き上げていく。
少しずつ近付いてくる、空いっぱいに広がる海面。
もうちょっとで届く・・・そこで岩槍の推進力が止まる。
「くっ!ごめんアニキ!」
(限界域か?)
そう思い下の陸地を見下ろせば、魔力を送っていたはずの竜兵が、アンデットと思われる『剣闘士』と鍔迫り合いになっていた。
「十分だ、竜兵。後はそっちに集中しろ!」
おれは竜兵の「わかった!」の返事を待たず、シルキーの背から『高貴なる大地』で作られた岩石の花道へ。
即座に『魔導書』を発動する。
目の前に浮かぶA4のコピー用紙サイズ、六枚のカード。
一枚を選択、発動する。
『二重』
魔法名を口に紡げば、カードは光の粒子に変わりおれの左手に集まっていく。
光の粒子は、輝く魔法文字でできた円環へと昇華する。
そしておれは迷い無く、『幽霊船』へ向けて走り出す。
「セ、セイ!まさか!?」
アフィナが驚愕に目を見開き、慌ててシルキーが追従する。
走りながら運動強化魔法『幻歩』も発動。
身体がすっと軽くなり、ある種全能感のような物さえ覚える。
やっぱりこの魔法は使い勝手がすこぶる良い。
花道の突き当たり、正に艦底に手が届く場所。
辿り着いたおれは、丹田の構えで一度呼吸を整える。
「な、殴るのっ!?」
正解。
おれは今までもこれからも、仲間とこの拳で道を切り開く。
お前もいい加減長い付き合いだし、そろそろ理解してると思ったんだが?
「セイ!?竜君の攻撃魔法でも効かなかったんだよ?」
そこまで来ても納得できなかったのか、慌てて確認するアフィナ。
やっと彼女の心配事が理解できた。
どうやらアフィナは、おれがこの艦底に穴を開けて内部に乗り込むつもりだと思っているらしい。
それは違う。
さすがにこの謎金属、穴が開くだろうとはおれも思っていない。
おれはこのまま押すつもりだ。
すでにイアネメリラとヴィリスが、向こう側で待機済みなのは視界に入っている。
ヴィリスの援護に期待できない空中よりは、如何に相手が戦艦だろうと、海中にひきずり込んだ方が遥かにマシだ。
おれは黙って艦底に拳を叩き付ける。
過剰かとも思ったが、連続で五発。
『二重』の効果数五発分、つまり倍の10発分の威力があるはずだ。
ゴッゴン!ゴッゴン!と五発x2の打撃音。
魔法文字の円環が、おれの左手から完全に消失する。
■
本当に硬い。
凹みもしない艦底だが、間違いなく上方の海面へ向け弾き飛ばされていく『幽霊船』。
バシュアー!!!
完全に着水。
まぁ船底からじゃなくて、ボロボロのマストが立つ甲板部からのそれが、正確には着水と言うかは別として・・・。
「シルキー、跳べ!」
シルキーへ指示を出したおれは、膨大な量の水飛沫を上げ、海中に強制送還させられた『幽霊船』へ向けて、一気に跳躍する。
空中でイアネメリラの手を掴み更に上へ。
海中で待つヴィリスが、海水を操りトンネルを作って、おれたちを飲み込む。
確固な足場と化した水面へ着地。
そして彼女は海水を操作、『海の覇者』の力で『幽霊船』を丸ごと覆う水泡を作り出す。
おれたちはその勢いのまま、『幽霊船』に乗り込んだ。
(下もすごいが・・・ここも大概だな・・・。)
『幽霊船』の甲板。
そこはアンデットの見本市ができていた。
どれもが基本はゾンビなんだろうが、元になった種別が多様過ぎた。
人族の帝国兵各種を筆頭に、獣人、天使、魔族も居る。
もちろん陸の魔物、『一角馬』や『翼獅子』なんかはさすがに居ないが、『赤熊』とかは普通に居るな。
水棲の魔物や亜人も多い。
異様に発達した右手のハサミを、キチキチと威嚇するように 開け閉めしている『豪腕蟹』
自前の強固な鱗と、生物の骨で作られたと見られる槍を構えた『蜥蜴人』。
そのどれもが濁った目、口からはだらしなく涎を零し、見るからに腐っている者、中にはすでに骨が見えている個体すらいる。
甲板の舳先に降り立ったおれたちの前には、そんな連中が一目でお腹一杯・・・いやむしろごめんなさいってくらいたむろしていた。
そしてそのすべてが一斉に、濁った瞳で敵意の視線を向けてくる。
・・・お前ら、コンビニ前の学生か?
(さぁて・・・どうしたもんか・・・。)
目的は単純だ。
『幽霊船』のどこかにあるコアをぶっ壊す。
言うは易し、行なうは難しなんだがな。
どこにあるかもわからないし、目の前のゾンビな皆さんが、おれたちの家捜しを黙って見守ってくれる訳も無い。
命がけの家捜しである。
某勇者様が、他人の家のタンスを漁るのとは訳が違う。
これがウララなら・・・一瞬で浄化しちまうんだろうけどな。
あいにくとおれにはアンデットに対する優位性は皆無。
言っても今更なんだが・・・毎度毎度ハードが続くぜ。
この世界に来てからのおれは、『地球』一不運なスキンヘッドの刑事も越えるハードさだと思うぞ?
是非とも待遇の改善を要求したい。
主に『略奪者』のやつらに!
足場が安定したことでアフィナはシルキーの背から降り、それを待っていた彼女がいつもの煙を上げて人化する。
その判断にはおれも異論は無い。
『一角馬』モードでも、雰囲気で意思疎通はできるし、こっちの言ってる事は間違いなく理解しているからそう不便は無いだが・・・。
シャングリラで帯同していた頃とは違い、竜兵の作ったブレスレット(と言う名を冠しただけのオーパーツ)のおかげで、人の姿でもその権能を行使できるようになった今、移動以外なら言葉を話せる人の姿の方が便利だろう。
「セイさん・・・。」
不安を孕む声に、おれは黙って二人の数歩前へ出る。
当然の如く斜め後ろ中空に浮かぶイアネメリラ。
『幽霊船』全体を包む水泡を操り、内側へ向けて幾本もの水槍を作り始めるヴィリス。
「グ・・・ギガ・・・グルァ!」「ギュワァァァァ!」「ギチギチギチチチ」
威嚇、警戒、敵愾を露にするゾンビたち。
こう着状態も束の間・・・。
「・・・来る!」
真っ先に突っ込んできた『蜥蜴人』ゾンビの槍を、さっくりと手の甲で払いそのまま身体を半回転。
勢いを乗せた後ろ回し蹴りで弾き飛ばす。
おれの声に反応し、ヴィリスが水槍、イアネメリラは魔力球を繰り出し牽制。
一拍遅れてアフィナは火球、シルキーは『浄化の雷』を。
一斉に飛び掛ってくる敵に、おれたちは各々の攻撃手段を繰り出した。
これから・・・パッと見50体は下らないであろうゾンビパーティーを、五人で切り抜け『幽霊船』を叩き落す!
あ・・・実際に地面に落したら自分もシャレにならなそうだから、気持ち的な意味な?
ここまでお読み頂きありがとうございます。
良ければご意見、ご感想お願いします。