・第百三十四話 『高貴なる大地(ノーブルグラウンド)』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、今度はVS戦艦らしい。
兄貴もうんざりしている。
某格闘ゲームのボーナスステージじゃあるまいし・・・。
あれは車だったけど似たようなもんだろ?
今までも鉄の塊みたいな物を数々ぶん殴ってきたが、今回の相手は『幽霊船』。
鉄の塊どころか異界的な修正が入って謎金属に変化している。
マドカの使役する盟友はこんなのばっかりだ。
しかも船相手に水中戦とか・・・かったるいにも程があるぞ。
まぁこっちには、海限定で無双の『水の戦乙女』ヴィリス様が居るわけで・・・。
え?神殿の周りに水無いって?
「海が無いなら、己は役に・・・。」
とぷんっ
ちょ!?待てヴィリス!戻って来いいいいい!
■
斜め下方に向かって進む、アリアムエイダとバイアの力を受けたおれたちの船。
進み始めて10分?15分くらい経っただろうか。
水属性のメンバーが口にしていた、人体に及ぼす危険のようなものは未だ見えない。
船上では竜兵が、消耗したバイアに魔力を譲渡、回復魔法をかけていた。
『龍王の秘法』
竜兵の目前に浮かぶ五枚のカード。
その内の一枚を選択し魔法名を唱える。
カードが光の粒子に変わり、竜兵の右手に輝く緑光が集まっていく。
そして竜兵は、その掌をバイアの胸に優しく重ねた。
緑光が徐々に収まっていくと、息切れていたバイアの呼気がドンドン穏やかに、額から流れ出ていた汗も自然と引いていく。
「ふぃ~。」
張り詰めていた緊張の糸を吐き出すように、竜兵が大きく嘆息した。
「済まんのぅ、お竜ちゃん。」
目を細め微笑むバイアに、竜兵は途端破顔する。
竜兵が使った魔法、『龍王の秘法』とは・・・ドラゴン族を問答無用で全快復させる魔法。
種族限定ではあるが、まさしく死んでさえいなければ癒しつくしてしまうと言う物だ。
「じっちゃんどお?」
「うむ、もう全快じゃわい。さすがお竜ちゃんじゃ。」
バイアが大事無く、ほっと胸を撫で下ろしつつもおれは、遥か下方未だ見えぬ『アリポスの谷』最深部へ目を凝らしていた。
そんな折・・・微かに閃く赤光。
この青と黒しか存在しない深海で赤い光・・・。
いや、更に奥には青銀色の光も見える。
おそらくは・・・『幽霊船』の砲撃と、アリアムエイダの鱗の輝き。
「見えたっ!」
光った場所を注視していると、確かにとんでもない大きさの青銀色の蛇体が、まるでとぐろを巻くかのように鎮座している。
あれは間違いなくアリアムエイダの本体だろう。
身体からはみ出した尻尾の先、まるで長大な刀剣のようなそれを、縦横に振るいその尻尾が振られる先で何度も爆発が起きる。
アリアムエイダに向かう砲撃、その射線を辿り大元を探す。
(『幽霊船』は・・・遠いっ!)
果たしてアリアムエイダと『幽霊船』の間には、相当な距離があった。
おれの言葉に反応した竜兵が、いつのまにか隣に立ちこちらを見上げていた。
「アニキ・・・どうする?」
「そうだな・・・。」
少し逡巡する。
おれたちが真っ当なパフォーマンスをするためには、どうしたって一度着地しないといけない。
幸い『アリポスの谷』最深部は空気のある陸地になっているらしいし、地に足をつけてさえしまえば、その先は色々なプランも立てようがあるのだが・・・。
問題はどこへ降りるのか。
下手な場所に降りると、そのまま『幽霊船』の砲撃の的になる可能性もある訳だ。
迷っている間にアリアムエイダが何度か被弾。
その巨躯をよじり、苦しげに身悶えする。
「くっ・・・アニキ!」
竜兵が悔しそうに拳を握り、何かを願うようにおれの顔を見た。
(わかってる・・・ええい、もう考えるのはやめだ!)
半ばやけくそ、おれも覚悟を決めた。
この船の本来の持ち主、すまん!
返す「つもり」はあった!
「ヴィリス、『幽霊船』に突っ込め!」
「はい、殿下!往きます!」
「「「「ええええええええええっ!?」」」」
おれの命令と、間髪入れずのヴィリスの返答に、アフィナ、シルキー、ローレン、オーゾルが揃って悲鳴を上げた。
■
ヴィリスが海流を操作し、更に角度を鋭角に船がグングン加速する。
「お前ら!バイアに掴まれぇ!」
「「きゃあああああ!」」「ひいいいいい!」「ぬおおおおお!?」
ゴガァンッ!!!
おれの叫びと彼らの悲鳴、そして激突の衝撃、果たしてどれが先だったろうか。
アリアムエイダの分体の魔力を纏い、ヴィリスの海流操作によって一本の槍と化したおれたちの船が、『幽霊船』の頭上から襲い掛かった。
自身の船体と相手の艦橋部分を破砕しながら、おれたちは中空に投げ出される。
(げっ!もう水が無ぇ!?)
これは予想外、すでに空気のある空間に突入していたらしい。
下に見える地面は岩場だ。
そのまま落下したらただでは済まない。
近いだろうとは思っていたが、まさか空中に投げ出されることになろうとは。
おれは良い。
すでに帯同していたイアネメリラが姿勢を制御、ゆっくりと地面に降りている最中だ。
竜兵を始め、アフィナ、シルキー、おっさん二人もなんとか、ドラゴンモードに変わったバイアにしがみつけたようだ。
(やべぇ・・・ヴィリスと『水竜』がそのまま落下中だ。)
一番前どころか水中に居たあいつらは、完全にバイアとの距離も離れてしまっている。
すごく切なそうな表情の一人と一頭に、思いっきり視線が絡む。
ちょ、罪悪感パねぇ・・・。
『軟地』
竜兵が地面に向かってカードを一枚投擲する。
何かを受け入れた目をしたヴィリスと『水竜』が、ポヨンっと音がしたのではないかと錯覚するほど、柔らかく岩場に受け止められた。
どうやら竜兵が、地形変化の魔法をかけてくれたらしい。
おれたちが着地すると、人魚とサーペント型のドラゴンが一頭、地面でビチビチしていた。
「クルァァァァ!」
「殿下・・・己は・・・己は・・・所詮魚類ですっ!」
悲しげな苦鳴を上げる『水竜』と、涙ながらにおれに訴えかけるヴィリス。
いや、なんつーか・・・すまんかった。
おれがいたたまれない気持ちになっていると、竜兵から注意の喚起が上がる。
「アニキ!『幽霊船』が!」
慌てて上空?上海?を見上げると、おれたちの体当たりの影響で、斜めに傾いでいた『幽霊船』が、側面の砲門をこちらへ向けている最中だった。
(やっべぇ!)
元よりクルーザーアタック(船体当たり)で倒せるとは思わなかったが、予想以上にダメージが少ない。
アリアムエイダへの攻撃が止んだのは救いだが、その矛先がおれたちに変わっただけとも言う。
『幽霊船』の砲門から火線が光る。
その時、近くにあった巨岩だと思っていた物体が、突然おれたちの頭上を覆うように動いた。
ゴンッゴッゴンドガァ!
轟音と閃光、そして炎を一瞬だけ感じるが、おれたちは無傷。
理由は今まで岩だと思っていた存在が助けてくれたからだ。
『大王海亀』・・・体長30mの大亀、水中生物最硬の甲羅を持つ海の王者。
水棲のドラゴン族を除けば、間違いなく海中最強の魔物だろう。
その大亀は、きょとんとするおれたちに対しまるで、「ここは任せろ。」と言わんばかり頷くと、のっそりとその巨体を揺らし動き始めた。
「え?え?」
戸惑う仲間たち。
逆におれは即座に理解する。
おそらく彼?彼女?はアリアムエイダの仲間だ。
神殿に向かうことを優先しよう。
「セ、セイ、良いの?」
「ああ、亀に悪い奴は居ない!」
不安そうなアフィナに、自信満々で断言する。
実家で飼っていた陸亀のコタローが良い例だ。
いまいち納得していなさそうだが、おれに追従する仲間たち。
しかし・・・そうは問屋が卸さない。
『幽霊船』は、その砲撃が有効打足りえなかったことに気づいたのだろう。
その甲板からおびただしい数のアンデットを投下してきたのだ。
そして大型の水棲魔物、特に水陸両用と思われるアンデットも集まり始める。
いかに『大王海亀』が硬くても、これらの敵全てを足止めすることは叶わない。
「アニキ!ここはおいらが!アニキは『幽霊船』をお願い!」
竜兵の言葉と状況を照らし合わせる。
わかってる、どうやったって大多数相手の防衛線はおれの本分じゃない。
むしろ持久戦になって、竜兵に勝てる奴の方が少ないだろう。
おれはこの場を竜兵に任せることにする。
「わかった。無理をするなよ・・・。ローレン、オーゾル頼む!」
「任せたまえ。」
「このオーゾル、竜兵殿には指一本触れさせないと約束しますぞ!」
おっさん二人も力強く頷いた。
アフィナとシルキーは少し涙目、「また置いていかれる?」とその表情が雄弁に語っていた。
今回は置いていかない・・・『魔海の口』の時と違って、今度は守りきる自信があるからな・・・。
そんなことは決して口には出さないが。
「メリラ!ヴィリスを海中に戻してやってくれ!シルキー『一角馬』モードだ、アフィナ行くぞ!」
「了解!」「はい!」「うん!」口々に返事する女性陣。
ヴィリスは完全に涙目だが、海に戻れば大丈夫・・・なはずだ。
イアネメリラがヴィリスを抱え上げ、上海に向かって飛ぶ。
『一角馬』の姿に戻ったシルキーに、おれとアフィナで跨り走り出す。
「アニキ!」と竜兵に呼ばれ振り返る。
竜兵は地面に両手を付けていた。
(なるほど。)
「シルキー、跳べ!」
おれの指示に合わせてジャンプするシルキーと、竜兵が魔法を発動するのは同時だった。
『高貴なる大地』
それは本来なら土属性の攻撃魔法。
『土槍』同様、土槍を放つ魔法だが、その規模と始点が異なる。
大地から生えた長大な槍矛は、跳んだおれたちを乗せて『幽霊船』に一直線突き進む。
さぁ・・・今度は船を落とすかね。
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