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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
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・第百三十四話 『高貴なる大地(ノーブルグラウンド)』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


 異世界からこんばんは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、今度はVS戦艦らしい。

 兄貴もうんざりしている。

 某格闘ゲームのボーナスステージじゃあるまいし・・・。

 あれは車だったけど似たようなもんだろ?

 今までも鉄の塊みたいな物を数々ぶん殴ってきたが、今回の相手は『幽霊船ゴーストシップ』。

 鉄の塊どころか異界的な修正が入って謎金属に変化している。

 マドカの使役する盟友ユニットはこんなのばっかりだ。

 しかも船相手に水中戦とか・・・かったるいにも程があるぞ。

 まぁこっちには、海限定で無双の『水の戦乙女』ヴィリス様が居るわけで・・・。

 え?神殿の周りに水無いって?

 「海が無いなら、己は役に・・・。」

 とぷんっ

 ちょ!?待てヴィリス!戻って来いいいいい!



 ■



 斜め下方に向かって進む、アリアムエイダとバイアの力を受けたおれたちの船。

 進み始めて10分?15分くらい経っただろうか。

 水属性のメンバーが口にしていた、人体に及ぼす危険のようなものは未だ見えない。

 船上では竜兵が、消耗したバイアに魔力を譲渡、回復魔法をかけていた。


 『龍王の秘法ミスティック・オブ・ドラゴニア


 竜兵の目前に浮かぶ五枚のカード。

 その内の一枚を選択し魔法名を唱える。

 カードが光の粒子に変わり、竜兵の右手に輝く緑光が集まっていく。

 そして竜兵は、その掌をバイアの胸に優しく重ねた。

 緑光が徐々に収まっていくと、息切れていたバイアの呼気がドンドン穏やかに、額から流れ出ていた汗も自然と引いていく。


 「ふぃ~。」


 張り詰めていた緊張の糸を吐き出すように、竜兵が大きく嘆息した。

 

 「済まんのぅ、お竜ちゃん。」


 目を細め微笑むバイアに、竜兵は途端破顔する。

 竜兵が使った魔法、『龍王の秘法ミスティック・オブ・ドラゴニア』とは・・・ドラゴン族を問答無用で全快復させる魔法。

 種族限定ではあるが、まさしく死んでさえいなければ癒しつくしてしまうと言う物だ。


 「じっちゃんどお?」


 「うむ、もう全快じゃわい。さすがお竜ちゃんじゃ。」


 バイアが大事無く、ほっと胸を撫で下ろしつつもおれは、遥か下方未だ見えぬ『アリポスの谷』最深部へ目を凝らしていた。

 そんな折・・・微かに閃く赤光。

 この青と黒しか存在しない深海で赤い光・・・。

 いや、更に奥には青銀色の光も見える。

 おそらくは・・・『幽霊船ゴーストシップ』の砲撃と、アリアムエイダの鱗の輝き。


 「見えたっ!」


 光った場所を注視していると、確かにとんでもない大きさの青銀色の蛇体が、まるでとぐろを巻くかのように鎮座している。

 あれは間違いなくアリアムエイダの本体だろう。 

 身体からはみ出した尻尾の先、まるで長大な刀剣のようなそれを、縦横に振るいその尻尾が振られる先で何度も爆発が起きる。

 アリアムエイダに向かう砲撃、その射線を辿り大元を探す。


 (『幽霊船ゴーストシップ』は・・・遠いっ!)


 果たしてアリアムエイダと『幽霊船ゴーストシップ』の間には、相当な距離があった。


 おれの言葉に反応した竜兵が、いつのまにか隣に立ちこちらを見上げていた。


 「アニキ・・・どうする?」


 「そうだな・・・。」


 少し逡巡する。

 おれたちが真っ当なパフォーマンスをするためには、どうしたって一度着地しないといけない。

 幸い『アリポスの谷』最深部は空気のある陸地になっているらしいし、地に足をつけてさえしまえば、その先は色々なプランも立てようがあるのだが・・・。

 問題はどこへ降りるのか。

 下手な場所に降りると、そのまま『幽霊船ゴーストシップ』の砲撃の的になる可能性もある訳だ。


 迷っている間にアリアムエイダが何度か被弾。

 その巨躯をよじり、苦しげに身悶えする。


 「くっ・・・アニキ!」


 竜兵が悔しそうに拳を握り、何かを願うようにおれの顔を見た。


 (わかってる・・・ええい、もう考えるのはやめだ!)


 半ばやけくそ、おれも覚悟を決めた。

 この船の本来の持ち主、すまん!

 返す「つもり」はあった!


 「ヴィリス、『幽霊船ゴーストシップ』に突っ込め!」


 「はい、殿下!往きます!」


 「「「「ええええええええええっ!?」」」」


 おれの命令と、間髪入れずのヴィリスの返答に、アフィナ、シルキー、ローレン、オーゾルが揃って悲鳴を上げた。



 ■



 ヴィリスが海流を操作し、更に角度を鋭角に船がグングン加速する。


 「お前ら!バイアに掴まれぇ!」


 「「きゃあああああ!」」「ひいいいいい!」「ぬおおおおお!?」


 ゴガァンッ!!!

 おれの叫びと彼らの悲鳴、そして激突の衝撃、果たしてどれが先だったろうか。

 アリアムエイダの分体の魔力を纏い、ヴィリスの海流操作によって一本の槍と化したおれたちの船が、『幽霊船ゴーストシップ』の頭上から襲い掛かった。

 自身の船体と相手の艦橋部分を破砕しながら、おれたちは中空に投げ出される。

 

 (げっ!もう水が無ぇ!?)


 これは予想外、すでに空気のある空間に突入していたらしい。

 下に見える地面は岩場だ。

 そのまま落下したらただでは済まない。

 近いだろうとは思っていたが、まさか空中に投げ出されることになろうとは。

 

 おれは良い。

 すでに帯同していたイアネメリラが姿勢を制御、ゆっくりと地面に降りている最中だ。

 竜兵を始め、アフィナ、シルキー、おっさん二人もなんとか、ドラゴンモードに変わったバイアにしがみつけたようだ。


 (やべぇ・・・ヴィリスと『水竜アクア・ドラゴン』がそのまま落下中だ。)


 一番前どころか水中に居たあいつらは、完全にバイアとの距離も離れてしまっている。

 すごく切なそうな表情の一人と一頭に、思いっきり視線が絡む。

 ちょ、罪悪感パねぇ・・・。


 『軟地ソフトフィールド


 竜兵が地面に向かってカードを一枚投擲する。

 何かを受け入れた目をしたヴィリスと『水竜アクアドラゴン』が、ポヨンっと音がしたのではないかと錯覚するほど、柔らかく岩場に受け止められた。

 どうやら竜兵が、地形変化の魔法をかけてくれたらしい。


 おれたちが着地すると、人魚とサーペント型のドラゴンが一頭、地面でビチビチしていた。


 「クルァァァァ!」


 「殿下・・・己は・・・己は・・・所詮魚類ですっ!」


 悲しげな苦鳴を上げる『水竜アクアドラゴン』と、涙ながらにおれに訴えかけるヴィリス。

 いや、なんつーか・・・すまんかった。

 おれがいたたまれない気持ちになっていると、竜兵から注意の喚起が上がる。


 「アニキ!『幽霊船ゴーストシップ』が!」


 慌てて上空?上海?を見上げると、おれたちの体当たりの影響で、斜めに傾いでいた『幽霊船ゴーストシップ』が、側面の砲門をこちらへ向けている最中だった。


 (やっべぇ!)


 元よりクルーザーアタック(船体当たり)で倒せるとは思わなかったが、予想以上にダメージが少ない。

 アリアムエイダへの攻撃が止んだのは救いだが、その矛先がおれたちに変わっただけとも言う。

 『幽霊船ゴーストシップ』の砲門から火線が光る。

 その時、近くにあった巨岩だと思っていた物体が、突然おれたちの頭上を覆うように動いた。


 ゴンッゴッゴンドガァ!


 轟音と閃光、そして炎を一瞬だけ感じるが、おれたちは無傷。

 理由は今まで岩だと思っていた存在が助けてくれたからだ。

 『大王海亀キングアダマンタス』・・・体長30mの大亀、水中生物最硬の甲羅を持つ海の王者。

 水棲のドラゴン族を除けば、間違いなく海中最強の魔物だろう。

 その大亀は、きょとんとするおれたちに対しまるで、「ここは任せろ。」と言わんばかり頷くと、のっそりとその巨体を揺らし動き始めた。

 

 「え?え?」


 戸惑う仲間たち。

 逆におれは即座に理解する。

 おそらく彼?彼女?はアリアムエイダの仲間だ。

 神殿に向かうことを優先しよう。


 「セ、セイ、良いの?」


 「ああ、亀に悪い奴は居ない!」


 不安そうなアフィナに、自信満々で断言する。

 実家で飼っていた陸亀のコタローが良い例だ。

 いまいち納得していなさそうだが、おれに追従する仲間たち。


 しかし・・・そうは問屋が卸さない。

 『幽霊船ゴーストシップ』は、その砲撃が有効打足りえなかったことに気づいたのだろう。

 その甲板からおびただしい数のアンデットを投下してきたのだ。

 そして大型の水棲魔物、特に水陸両用と思われるアンデットも集まり始める。

 いかに『大王海亀キングアダマンタス』が硬くても、これらの敵全てを足止めすることは叶わない。 


 「アニキ!ここはおいらが!アニキは『幽霊船ゴーストシップ』をお願い!」


 竜兵の言葉と状況を照らし合わせる。

 わかってる、どうやったって大多数相手の防衛線はおれの本分じゃない。

 むしろ持久戦になって、竜兵に勝てる奴の方が少ないだろう。

 おれはこの場を竜兵に任せることにする。 


 「わかった。無理をするなよ・・・。ローレン、オーゾル頼む!」


 「任せたまえ。」


 「このオーゾル、竜兵殿には指一本触れさせないと約束しますぞ!」


 おっさん二人も力強く頷いた。

 アフィナとシルキーは少し涙目、「また置いていかれる?」とその表情が雄弁に語っていた。

 今回は置いていかない・・・『魔海のガレオンイーター』の時と違って、今度は守りきる自信があるからな・・・。

 そんなことは決して口には出さないが。 


 「メリラ!ヴィリスを海中に戻してやってくれ!シルキー『一角馬ユニコーン』モードだ、アフィナ行くぞ!」


 「了解!」「はい!」「うん!」口々に返事する女性陣。

 ヴィリスは完全に涙目だが、海に戻れば大丈夫・・・なはずだ。

 イアネメリラがヴィリスを抱え上げ、上海に向かって飛ぶ。

 『一角馬ユニコーン』の姿に戻ったシルキーに、おれとアフィナで跨り走り出す。

 「アニキ!」と竜兵に呼ばれ振り返る。

 竜兵は地面に両手を付けていた。


 (なるほど。)


 「シルキー、跳べ!」


 おれの指示に合わせてジャンプするシルキーと、竜兵が魔法を発動するのは同時だった。


 『高貴なる大地ノーブルグラウンド


 それは本来なら土属性の攻撃魔法。

 『土槍アースグレイブ』同様、土槍を放つ魔法だが、その規模と始点が異なる。

 大地から生えた長大な槍矛は、跳んだおれたちを乗せて『幽霊船ゴーストシップ』に一直線突き進む。

 さぁ・・・今度は船を落とすかね。

 




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