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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
139/266

・第百三十二話 『懐想』

いつもお読み頂きありがとうございます。

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 異世界からこんにちは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、なんだか情報が小出しにされているようで、どうにもすっきりしないんだ。

 兄貴もさすがに無意味なことじゃないと思う。

 思えばこの世界に転移して・・・いや、もしかしたら『地球』でも、似たようなことを言われた覚えがあるかもしれない。

 おれが『蒼槍の聖騎士ガラント・オブ・フィナーレ』ウィッシュに似てるって話だ。

 初対面時のアフィナを筆頭に、おれの盟友ユニットたち、特にギルド『伝説の旅人』に属していたやつらに何度か言われた。

 自分でははっきりわからないが、そんなに似ているんだろうか?

 そういえばウララが鎮魂歌を歌った時も・・・突然金髪碧眼に変化した彼女に対し、『横笛の乙女』テュレサが言っていた。

 『法術姫メイデン・オブ・ルーンマリア』ルピタ・・・。

 やはりギルド『伝説の旅人』のメンバーが気付いた、当ギルドの英雄だった存在。

 そしてそれが今回竜兵にも・・・。

 一体、何があるっていうんだ?



 ■



 水中をこちらへ向かって、ゆっくり近付いてくる白い光。

 それは深海でも届くと言うのに、柔らかな温かみすら感じさせる光だった。

 竜兵とバイア、それに竜兵の使役する『水竜アクアドラゴン』は、その光をじっと見詰めている。

 他の面々もその視線に気付いたのか、同じように水中を注視し始めた。

 

 「あれは何だ?」


 おれの呟きに対し竜兵とバイアが、「アニキ、たぶん危険じゃない・・・。」「そうさのぅ・・・ここであやつが現れるのは予想外じゃったがの・・・。」と口々に言った。

 

 (あやつ・・・?)


 生物、人物を指す呼称に、海洋生物と意思疎通ができると言ったローレンを見るが、彼は首を傾げ両手を左右に広げた、所謂お手上げのポーズ。

 そうこうする間に、光の正体が目視出来る所まで近付いていた。

 現れたのは・・・ドラゴン。

 青銀の鱗をまるで発光しているかのように輝かせた、体長20mほど、長細い体サーペント型のドラゴンだった。

 その竜は船の周囲、展開された水泡の結界を包むようにゆっくり旋回する。

 アフィナとシルキーは驚愕し、「「ふぁぁぁ・・・」」と声まで合わせてポカーン顔。


 「うん・・・うん。そうだよ。」


 竜兵が何度か頷きながら小さく呟く。

 バイアはその竜をじっと見つめていたが、大きく頷くとおれたちへ振り向いた。

 

 「兄者君たち、すまんが水泡の結界を少々緩めてくれんかのぅ?」


 青銀に輝くサーペント・・・その正体に何となく当たりを付けながら、おれはヴィリスやローレン、オーゾルと言った面々に視線を向ける。

 バイアの発言には一瞬戸惑った彼女達も、おれの目線から了解の意思を汲み取ったのだろう。

 ヴィリスが船から飛び出し、結界部分に手を触れる。

 周囲の結界が、自然環境、水や圧などを防ぐ物はそのままに、外敵を弾く機構を緩和したのが感じ取れた。

 すると、船の周りを滞遊していたドラゴンが、眩い光を放ち始めた。

 

 (これは・・・。)


 何度か見たことのある光景。

 そう、バイアやシルキーが人化する時と同様の光だ。

 光が収まると、外に居たサーペントの姿は跡形も無く消えていて、逆に船上には一人の見慣れない女性が立っている。

 歳の頃は20代後半くらいか?

 少なくとも30を越えているようには見えない。

 不思議な光沢を放つ青銀の髪を、後ろ頭で二つ輪を作るように纏め、瞳は閉じられているがなんとも色っぽい美貌を湛えていた。

 女性にしては背も高く、たぶんおれよりは少し低いくらい・・・170cmは越えている。

 手足も長く、太ももの付け根ギリギリまでスリットが入った、青いチャイナドレスみたいな服を着込み、体型もまるでスーパーモデル。

 ボンキュッボンを体現したかのような様相だ。

 すでにローレンとオーゾル、おっさん二人はそのスリットに釘付け。

 余りにもあからさまなその視線に、メンバーの女性陣から絶対零度の視線が飛んでいる。


 彼女がゆっくりと両目を開きたおやかに一礼する。

 そしてバイアと、なぜか竜兵を見据え、はっきりと言葉を発した。 


 「遠路遙々お越しくださった事を感謝する。妾はアリアムエイダ。とは言っても、この姿は分体に過ぎぬゆえ、そう力は無いのだが・・・。」


 「「なっ!?」」


 驚愕するおれの仲間たち。

 むしろ驚いていないのはおれと竜兵、バイアだけだ。

 いや、イアネメリラはわからん・・・ずっと背中に張り付いたままだから・・・。


 (やっぱりか・・・。)


 何らかの情報を受けていただろう竜兵とバイアは別として、おれ自身は予想こそしていたが確信は持てなかった。

 なぜならカードテキストに書かれていたのは、全長100mを越える存在だったからだ。

 それが今回は約20mという姿で現れたのだが、身に纏う神々しさ故に他の存在を想像できなかった。

 しかし分体・・・それならなんとなく理解はできる。

 やはり彼女が、相当な力を持つ存在だと言うのは間違い無さそうだ。



 ■



 「久しいのぅ・・・エイダ。」


 バイアの言葉に小さく頷くアリアムエイダの人型モード。

 竜兵は立ち上がり、ゆっくり彼女の元へ近付いていく。


 「お姉ちゃんが・・・アリアムエイダ?」


 アリアムエイダはその問いに、「ああ。」と答えながら・・・突然竜兵を抱きしめた。

 「ふぇっ!?」っと奇声を発し、されるがままになる竜兵。

 咄嗟のことに、おれたちも反応できない。

 しばらくして彼女は、優しく竜兵を解放した。


 「エイダ・・・一体、どうしたんじゃ?」


 バイアが尋ねるが、逆にアリアムエイダはきょとんとした表情を返す。

 「お、お、お、おいら・・・。」と、顔を真っ赤に染めた竜兵がなんかジタバタしている。


 「バイア様・・・?この子はヴァルンでは無いのか?」


 「なにっ!?」


 アリアムエイダの放った一言に、バイアが珍しく動揺した姿を晒す。

 

 (ヴァルン・・・だと?)


 聞き覚えのある名称に、おれは思わず『魔導書グリモア』の控え(サイド)を確認した。

 『龍の寵児ドラゴニアキャスト』ヴァルン・・・多国籍ギルド『伝説の旅人』に所属する英雄。

 出生は不明、10歳までを『溶岩竜帝ヴォルカニックドラゴンロード』に育てられたとされる人族の少年で、11歳から紆余曲折を経た後、ウィッシュに拾われたとされる盟友ユニット

 カードに載っているイラストは、灰色の短髪に前髪の一房だけが赤いメッシュ。

 そして多数のドラゴンに囲まれて満面の笑みを浮かべるその少年、やんちゃそうな鳶色の瞳が確かに竜兵にそっくりだ。

 このカードもVRバーチャルリアリティでは使用できなかった。


 ウィッシュ、ルピタ、ヴァルン、おれの持つ『伝説の旅人』のカードとおれたちが似ている?

 だが・・・それが一体何だと言うのだろうか・・・。

 後ろからカードを覗き込んでいたイアネメリラも、「確かに目が似てるね・・・。」とポツリと呟く。

 そんなおれたちを尻目に竜兵は、慌てていたのも束の間、きょとんとした顔で首を傾げると、アリアムエイダに声をかけた。


 「アリアムエイダ、おいらはヴァルンじゃないよ?おいらの名前は北野竜兵きたのりゅうへい、異世界の魔導師『ストレングス』の竜兵さ!おいらたち、アリアムエイダと『深海王国ヴェリオン』を助けに来たんだ!」


 「ふむ・・・。異世界の魔導師とな・・・。」


 小さく呟いたアリアムエイダは、「確かにあの子と同じ波動を感じたのだが・・・。」と、やや納得できなそうながらも、改めておれたちに正対する。

 一同言葉ではなく肌で感じたのだろう。

 目の前の女性が、『海龍』アリアムエイダであることを疑う者は存在しない。

 スリットに目を奪われていたおっさん二人も居住まいを正す。

 バイアが驚愕の表情のまま何事か呟き、未だこちら側に帰ってこないが・・・ヴァルンの名前はそんなに動揺を誘う物だったのだろうか?


 仕方ない、代表しておれが話すとしよう。

 おれは『龍の寵児ドラゴニアキャスト』ヴァルンのカードを控え(サイド)に戻し、アリアムエイダに来訪の真意を尋ねた。


 「アリアムエイダ、おれは異世界の魔導師セイ。一応このメンバーのまとめ役をやっている。ヴェリオンの襲撃を聞き、救援に向うためにここへ来た。そちらは危険と聞いたが、一体何が起こっているのか、そしてあんたがここに現れた理由を教えてもらえるか?」


 アリアムエイダは興味深そうにおれの顔を伺っていた。


 「なるほど・・・異世界の魔導師・・・。ふむふむ・・・主神アールカナディア様の『加護』、カードの力か。なんと・・・バイア様はすでに亡くなられていると?」


 どうやらバイア同様、ある程度の思考を読むことができるらしい。

 正直頭の中を覗かれるのは、あまり良い気分じゃないがな。


 「あいや済まぬ。妾にはそこまで深くは読めぬゆえ堪忍してたもぅ。」


 あまり良い気分じゃない。そう思ったおれの感情を感じ取り、慌てて謝罪するアリアムエイダ。

 しかしこれでなんとなく彼女の人となりが理解できた。

 ドラゴンなのに人となりってのもおかしな話だが、どうやら悪い奴では無さそうだ。


 「まぁいい。心が読めるなら状況はわかってもらえただろ?」


 おれがそう声をかけると彼女は、「ああ、セイ殿たちの助力に感謝する。」とまたもや恭しく頭を垂れる。

 そしておれたちが聞きたかった情報を話し始めた。


 「およそ一週間程前からか・・・伝説の魔物とされるゾンビーの群れが、妾の守護する『アリポスの谷』に現れた。彼奴等は当初、妾たちには目もくれずヴェリオンを目指しておるようだった。しかしそのような問題、妾たちとてただ手をこまねいて傍観しておることもできぬ。とりあえず強力な水棲の魔物たちと共に、彼奴等を駆逐しようとしたのだが・・・。」


 そこで一度言葉を切るアリアムエイダ。

 なるほど、一週間前って言うと・・・丁度セリーヌが神託をよこしたくらいか。

 しかしどうやって深海の都市に攻め入ってると思ったが・・・まさか歩いて向っているとはな。 

 話には当然続きがある。


 「事前に抜けていたらしい数小隊を除き、順調に駆逐できていると思った。しかし正体不明の敵は恐るべき代物を投入してきたのだ。」


 やはり正体不明扱いか。

 セリーヌは『略奪者プランダー』のことをこっちの神様、確か『平穏の神』オーディアだったか?に話してないんだろうか。

 そして恐るべき代物とは・・・。

 マドカの存在を認識したおれたちには、少しだけ心当たりがあるが。


 「ねぇ、アリアムエイダ・・・。」


 そこでおれと同じ懸案に思い当たっているだろう竜兵が口を開く。

 アリアムエイダは竜兵に声をかけられると、とても柔らかい表情で微笑みかける。


 「なんじゃお竜ちゃん?妾のことはエイダと呼んでたもぅ。」


 (やっぱドラゴンは竜兵の事が気になるのかね?)


 思えばバイア以下、どのドラゴンも竜兵を好む習性が見てとれる。

 竜兵は少し顔を赤らめつつ、「じゃ、じゃあエイダ姉?」と言い直し、再度先ほど言いかけた質問を発した。


 「もしかして・・・『幽霊船ゴーストシップ』が出た?」


 それはおれも懸念した存在。

 案の定アリアムエイダも驚愕の表情を浮かべた後、静かに・・・だが確かに頷いた。


 「セイ・・・『幽霊船ゴーストシップ』って・・・?」


 不安気に問うアフィナ。

 シルキーもアフィナの手をぎゅっと握り締めている。

 

 「マドカの盟友ユニットだ。海中だと滅茶苦茶厄介だな・・・。」


 端的に告げた内容、竜兵のいやそうな顔も相まって、仲間たちの不安をつのる。

 実際に相対して十分その脅威を見せ付けられたのだろう。

 アリアムエイダも非常に深刻な面持ちになっている。


 「それがあって妾の結界で海路を封鎖したのだが・・・何とも懐かしい波動を感じてのぅ・・・。様子見で分体をここまで来させた訳なのだ・・・。」


 (大体は想定道りか・・・。)


 最大の問題は『幽霊船ゴーストシップ』だな・・・。

 

 「アリアムエイダ殿、ヴェリオンは・・・どうなっていますか?」


 黙って話を聞いていたローレンが、アリアムエイダに尋ねる。

 

 「今のところは何とも言えぬ・・・。被害は受けておるが・・・滅んでしまうような物では無い。しかし妾の結界が抜かれれば・・・。」


 「そう・・・ですか・・・。」


 ローレン、オーゾルも目に見えて暗くなる。

 まぁ自国のピンチを聞けばな・・・。

 やはりあまり猶予は無いようだ。

 その時アリアムエイダが突然胸を押さえ苦しみだした。


 「おい!どうした!?」


 「エイダ姉!?」 


 おれと竜兵が慌てて駆け寄り抱き起こす。

 アリアムエイダは苦悶の表情を浮かべながら、必死の体で言葉を搾り出した。


 「い、いかん・・・神殿が攻撃されておるっ!」





ここまでお読み頂きありがとうございます。

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