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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
138/266

・第百三十一話 『潜水』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


※久々料理回ですー><


 異世界からこんにちは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、人間黙ってても腹は減る。

 兄貴もそれはわかっているさ。

 だから食事をしたいと言うのは仕方ないだろう。

 それがたとえ海中と言う異質な空間だったとしても、約半日景色が変わらないと言われたら、当然生理現象を満たす行動に出るのも頷ける。

 だけどな・・・無駄飯食らいは話が別なんだぞ?

 戦闘に耐えないのは良い、それでも連れて来たんだ・・・面倒は見るさ。

 それにしたって、お手伝いを申し出るのがイアネメリラと竜兵だけって・・・。

 どういうことだゴルァ!?

 「ボク(私)が触ったら、また味付けとか間違うし。」

 アフィナ、シルキー、お前らはずっとそのままで良いんだな?

 つまり最初から成長するつもりは無いと。

 「はっはっは、セイ君。貴族は料理などしないんだよ。」

 「さすがローレン様!このオーゾルその胆力に脱帽です!」

 おーけー、寝言はおれに勝ってからほざけよ?

 お前ら全員飯抜きだーーーー!!


 

 ■



 おれたちは『アリポスの谷』を進んでいた。

 光も届かない深海。

 船の前後は切り立った崖らしいのだが、当然目をこらしたくらいでは見えない。

 ヴィリスの力で普通の漁船(一応『地球』で言う所の、ちょっとしたセレブが自家用にしているクルーザーくらいのサイズ)を、水魔法で保護して潜水を始めた訳なんだが。

 もう結構な時間潜り続けていた。

 進行速度もかなり遅いけれど、「これ以上スピードを出すと色々危険。」と、水属性な皆さんから忠告を受けている。

 まぁ水棲のプロ?がそう言うなら従うほか無い。


 「結局・・・あとどのくらいかかりそうなんだ?」


 おれは船の舳先、まるでレリーフのように座っている人魚に向って問いかける。

 彼女は数瞬周りを見渡し、小さく何事か呟いた後、「そうですね・・・。」と前置きしてから話し始めた。


 「今ちょうど『アリポスの谷』最深部まで残り三分の二と言った所でしょうか?時間にしたらあと半日はかかると思われます。」


 まだ三分の一なのか・・・。

 あと半日この光景が続くのは、さすがにだるいかもしれない。

 まぁ大人しく寝とくって手もあるんだが・・・。

 さっき起きたばっかりだしなぁ。


 「殿下・・・やはりお暇でしょうか?」


 おれの顔を伺い思案気な表情を見せるヴィリスに、「まぁな。」と苦笑混じりで返す。

 「それでしたら・・・。」とヴィリスが何かを言いかけるのを遮り、静かな深海で妙に元気な声が響いた。


 「じゃあセイ、ご飯作って!ボク、お腹空いちゃった!」


 どうやらおれたちの会話に、耳をそばだてていた残念が居るようだ。


 「・・・白パンでも食ってろ。」


 おれが『図書館ライブラリ』から出した『白パン』を、『カード化』解除してアフィナへ渡す。

 「えー!」と不満の声を上げつつも、しっかりと両手で掴んだ白パンを頬張るアフィナ。

 続いてシルキーも寄って来て、「セイさん、私はセイさんの料理が良い。」と主張する。

 おれの背中にへばり付いているイアネメリラを確認しても、「作ってあげたら~?」とニコニコ。

 料理の話題が出たところで、座り込んでずっと何かを作っていた竜兵も、やたらキラキラした目でおれを見つめる。

 もちろんバイアも同様だ。

 おっさん二人に至っては何やら酒瓶のような物を取り出し、「「ツマミも頼むぞ!」」とサムズアップ。

 なんだこいつらの一体感。

 これは完全に作る流れになってるな・・・。


 はぁ~、とため息一つ。

 まぁ現状できる事もないし、船上?深海?ランチとでもしゃれこむかね。


 「アニキ!おいら魚介料理が良いな!」


 おれがやる気になったのを感じ取ったのか、竜兵がリクエストを出す。


 (魚介・・・料理ねぇ?)


 思わずヴィリスを見つめてしまう。

 慌てて自身の身体を抱き、「で、殿下!己は食べてもおいしくないですよ!?」と涙目になるヴィリス。

 

 「いやいや、食わねーし。なんか適当に採ってくることはできるか?」


 今まで海なんて来なかったし、『図書館ライブラリ』に海産物は無い。 

 ヴィリスは「なるほど!では探してきます!」と言って、船を守る水泡から飛び出していく。

 船を守護する人魚が居なくなったので、バイアがその威圧を一気に膨らませたのがわかった。

 竜兵とイアネメリラがテーブル等を並べて、簡易の作業台を作り、『図書館ライブラリ』から取り出したエプロンを纏って準備完了。

 「いつでも指示を!」の構えに、おれも重かった腰を上げた。


 「おい、欠食少女二人。お前らは手伝わないのか?」


 「うん!ボクは食べる方で頑張るよ!」


 「私はほら、また調味料とか間違うし・・・。」


 元気良く明後日な返事の残念と、すっと目を逸らす馬の人。

 こいつら・・・。

 言いだしっぺのくせに、協力する気は0のようだ。


 「はっはっは!料理までできるとは・・・セイ君は多才だな!」


 「ええ、このオーゾル。改めて彼の働きに、感服いたしますぞ!」


 もはや他人事。

 すでに酒盛りの準備が整ったおっさん二人にジト目を向ける。


 「お前らなぁ・・・。出奔したとは言え、自国の王族が働いてるのに、放っといていいのか?」


 おれの言葉に「今気付いた!」と言う顔をした不良中年二人が、「ヴィ、ヴィリス様ー!我らも行きますー!」と叫び、大慌てで水中へ飛び出していった。



 ■



 『図書館ライブラリ』を展開して食材や調味料を取り出しつつ、何を作ろうかと思案する。

 どうせこいつらすげー食うんだろうから、それなりに量も作れてなおかつ腹持ちの良さそうな物か・・・。

 ヴィリスとおっさん二人が何を採ってくるかわからない以上、無難なところにしときますかね。

 おれが料理を決め、調達組以外で用意できる食材の準備を終えると、竜兵がキラキラした目でおれに言う。


 「アニキ!おいら何作るかわかっちゃった!」


 (まぁわかるだろうな。)


 適当に採って来るであろう魚介、バター、玉ねぎ、トマト、そして米。

 そう、パエリアだ。

 まぁおれの作るのは基本の奴じゃない。

 なんちゃってパエリアって感じだけどな。


 食材調達組もそんなに時間はかからないだろう。

 もしあんまり食材が無くても、最悪鶏肉とかでピラフ風にしてもいい。

 そんな事を考えながら調理を始めることにする。

 

 人数も考え、それなりの大きさの鍋を使用する。

 熱した鍋にバターを投入、玉ねぎをさっと炒めていく。

 その後で米も・・・この米は洗わないのがポイントかね。


 米全体にバターが絡んだら、小さなサイコロ状に刻んだトマトを投入。

 さっくりと全体的にからめ、水っぽくならないように気をつけながら水を足す。

 ちょっとだけコンソメを入れておくか。

 約15分程煮込み・・・。


 と言った所で食材調達組が戻ってくる。

 エビ、イカ、なんかアサリっぽい貝とか・・・深海って言っても海底じゃ無いのに、結構食える魚介が居るんだな。

 しかもほとんど『地球』で見たそれと姿形が変わらない。

 

 (こ・・・これはっ!?)


 ヴィリスが調達してきた食材の中に、おれを活目させる物が混じっていた。

 それは生で良し、焼いて良し、フライもまた良し、栄養満点、海のミルクと言われる貝。

 牡蠣だ!

 因みにおれの大好物である。

 これはパエリアには使わない。

 思わず緩む頬を引き締め、「いかん、いかん、まずはパエリア。」と気持ちを切り替える。


 パエリア作成中の鍋を確認。

 水分量が半分ほどになってきたので処理した魚介類を入れ、再び蓋をして弱火で水分がなくなるまで炊いていく。

 水分がなくなったら10分ほど放置する。

 実にそそる匂いが漂う。


 その間にもう一品。

 おれにとってはメインディッシュ。

 牡蠣の酒蒸しだ。

 

 これには手をかける必要も無い。

 いや、むしろ無駄に手をかけてはいけない。

 ちょっと深めの鍋に、ざっと洗った殻つきの牡蠣と料理酒を投入。

 最近は殻をはずして作るレシピもあるようだが・・・おれに言わせれば邪道!

 あくまでも殻つきに拘るぜ?

 蓋をして中火で蒸す。

 牡蠣の殻が開けば完成。

 異世界、それにトラブル巻き込まれ中とは言え、こっちに来てから初の大好物。

 さすがに楽しみだ。


 ちょうどパエリアも出来上がったな。

 竜兵、イアネメリラと協力して全員によそっていく。

 途中竜兵の使役する『水竜アクアドラゴン』が、無言ながらとてつもなく切なそうな顔?をしていたので、『図書館ライブラリ』から出した固まり肉を食わせてやる。

 そんな一幕を挟みつつ、全員に料理が行き渡り、おれは一つ頷いた。

 それを見ていた全員が唱和する。


 「「「「「いただきます!」」」」」


 (・・・うま・・・。)


 いや、今日は自分でもうまいのわかったわ。

 一同絶句、一瞬呆けた後、我先にとかっ込んでいく。

 まぁうまいはうまいが、おれはゆっくり牡蠣の酒蒸しを頂くとしよう。


 それぞれが食事を堪能する中突然、竜兵、バイア、そして『水竜アクアドラゴン』が辺りをきょろきょろと見回した。


 「おい、どうした?」


 おれの問いに、「う、うん・・・。」「ぬぅ。」と当人たちは歯切れ悪く答えるが、二人と一頭が視線を向けた先は同じだった。

 何か見えるのかとおれも目を凝らす。

 そこには、遠くからゆっくりと近寄ってくる、白い光があった。





ここまでお読み頂きありがとうございます。

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