・第百三十一話 『潜水』
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※久々料理回ですー><
異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、人間黙ってても腹は減る。
兄貴もそれはわかっているさ。
だから食事をしたいと言うのは仕方ないだろう。
それがたとえ海中と言う異質な空間だったとしても、約半日景色が変わらないと言われたら、当然生理現象を満たす行動に出るのも頷ける。
だけどな・・・無駄飯食らいは話が別なんだぞ?
戦闘に耐えないのは良い、それでも連れて来たんだ・・・面倒は見るさ。
それにしたって、お手伝いを申し出るのがイアネメリラと竜兵だけって・・・。
どういうことだゴルァ!?
「ボク(私)が触ったら、また味付けとか間違うし。」
アフィナ、シルキー、お前らはずっとそのままで良いんだな?
つまり最初から成長するつもりは無いと。
「はっはっは、セイ君。貴族は料理などしないんだよ。」
「さすがローレン様!このオーゾルその胆力に脱帽です!」
おーけー、寝言はおれに勝ってからほざけよ?
お前ら全員飯抜きだーーーー!!
■
おれたちは『アリポスの谷』を進んでいた。
光も届かない深海。
船の前後は切り立った崖らしいのだが、当然目をこらしたくらいでは見えない。
ヴィリスの力で普通の漁船(一応『地球』で言う所の、ちょっとしたセレブが自家用にしているクルーザーくらいのサイズ)を、水魔法で保護して潜水を始めた訳なんだが。
もう結構な時間潜り続けていた。
進行速度もかなり遅いけれど、「これ以上スピードを出すと色々危険。」と、水属性な皆さんから忠告を受けている。
まぁ水棲のプロ?がそう言うなら従うほか無い。
「結局・・・あとどのくらいかかりそうなんだ?」
おれは船の舳先、まるでレリーフのように座っている人魚に向って問いかける。
彼女は数瞬周りを見渡し、小さく何事か呟いた後、「そうですね・・・。」と前置きしてから話し始めた。
「今ちょうど『アリポスの谷』最深部まで残り三分の二と言った所でしょうか?時間にしたらあと半日はかかると思われます。」
まだ三分の一なのか・・・。
あと半日この光景が続くのは、さすがにだるいかもしれない。
まぁ大人しく寝とくって手もあるんだが・・・。
さっき起きたばっかりだしなぁ。
「殿下・・・やはりお暇でしょうか?」
おれの顔を伺い思案気な表情を見せるヴィリスに、「まぁな。」と苦笑混じりで返す。
「それでしたら・・・。」とヴィリスが何かを言いかけるのを遮り、静かな深海で妙に元気な声が響いた。
「じゃあセイ、ご飯作って!ボク、お腹空いちゃった!」
どうやらおれたちの会話に、耳をそばだてていた残念が居るようだ。
「・・・白パンでも食ってろ。」
おれが『図書館』から出した『白パン』を、『カード化』解除してアフィナへ渡す。
「えー!」と不満の声を上げつつも、しっかりと両手で掴んだ白パンを頬張るアフィナ。
続いてシルキーも寄って来て、「セイさん、私はセイさんの料理が良い。」と主張する。
おれの背中にへばり付いているイアネメリラを確認しても、「作ってあげたら~?」とニコニコ。
料理の話題が出たところで、座り込んでずっと何かを作っていた竜兵も、やたらキラキラした目でおれを見つめる。
もちろんバイアも同様だ。
おっさん二人に至っては何やら酒瓶のような物を取り出し、「「ツマミも頼むぞ!」」とサムズアップ。
なんだこいつらの一体感。
これは完全に作る流れになってるな・・・。
はぁ~、とため息一つ。
まぁ現状できる事もないし、船上?深海?ランチとでもしゃれこむかね。
「アニキ!おいら魚介料理が良いな!」
おれがやる気になったのを感じ取ったのか、竜兵がリクエストを出す。
(魚介・・・料理ねぇ?)
思わずヴィリスを見つめてしまう。
慌てて自身の身体を抱き、「で、殿下!己は食べてもおいしくないですよ!?」と涙目になるヴィリス。
「いやいや、食わねーし。なんか適当に採ってくることはできるか?」
今まで海なんて来なかったし、『図書館』に海産物は無い。
ヴィリスは「なるほど!では探してきます!」と言って、船を守る水泡から飛び出していく。
船を守護する人魚が居なくなったので、バイアがその威圧を一気に膨らませたのがわかった。
竜兵とイアネメリラがテーブル等を並べて、簡易の作業台を作り、『図書館』から取り出したエプロンを纏って準備完了。
「いつでも指示を!」の構えに、おれも重かった腰を上げた。
「おい、欠食少女二人。お前らは手伝わないのか?」
「うん!ボクは食べる方で頑張るよ!」
「私はほら、また調味料とか間違うし・・・。」
元気良く明後日な返事の残念と、すっと目を逸らす馬の人。
こいつら・・・。
言いだしっぺのくせに、協力する気は0のようだ。
「はっはっは!料理までできるとは・・・セイ君は多才だな!」
「ええ、このオーゾル。改めて彼の働きに、感服いたしますぞ!」
もはや他人事。
すでに酒盛りの準備が整ったおっさん二人にジト目を向ける。
「お前らなぁ・・・。出奔したとは言え、自国の王族が働いてるのに、放っといていいのか?」
おれの言葉に「今気付いた!」と言う顔をした不良中年二人が、「ヴィ、ヴィリス様ー!我らも行きますー!」と叫び、大慌てで水中へ飛び出していった。
■
『図書館』を展開して食材や調味料を取り出しつつ、何を作ろうかと思案する。
どうせこいつらすげー食うんだろうから、それなりに量も作れてなおかつ腹持ちの良さそうな物か・・・。
ヴィリスとおっさん二人が何を採ってくるかわからない以上、無難なところにしときますかね。
おれが料理を決め、調達組以外で用意できる食材の準備を終えると、竜兵がキラキラした目でおれに言う。
「アニキ!おいら何作るかわかっちゃった!」
(まぁわかるだろうな。)
適当に採って来るであろう魚介、バター、玉ねぎ、トマト、そして米。
そう、パエリアだ。
まぁおれの作るのは基本の奴じゃない。
なんちゃってパエリアって感じだけどな。
食材調達組もそんなに時間はかからないだろう。
もしあんまり食材が無くても、最悪鶏肉とかでピラフ風にしてもいい。
そんな事を考えながら調理を始めることにする。
人数も考え、それなりの大きさの鍋を使用する。
熱した鍋にバターを投入、玉ねぎをさっと炒めていく。
その後で米も・・・この米は洗わないのがポイントかね。
米全体にバターが絡んだら、小さなサイコロ状に刻んだトマトを投入。
さっくりと全体的にからめ、水っぽくならないように気をつけながら水を足す。
ちょっとだけコンソメを入れておくか。
約15分程煮込み・・・。
と言った所で食材調達組が戻ってくる。
エビ、イカ、なんかアサリっぽい貝とか・・・深海って言っても海底じゃ無いのに、結構食える魚介が居るんだな。
しかもほとんど『地球』で見たそれと姿形が変わらない。
(こ・・・これはっ!?)
ヴィリスが調達してきた食材の中に、おれを活目させる物が混じっていた。
それは生で良し、焼いて良し、フライもまた良し、栄養満点、海のミルクと言われる貝。
牡蠣だ!
因みにおれの大好物である。
これはパエリアには使わない。
思わず緩む頬を引き締め、「いかん、いかん、まずはパエリア。」と気持ちを切り替える。
パエリア作成中の鍋を確認。
水分量が半分ほどになってきたので処理した魚介類を入れ、再び蓋をして弱火で水分がなくなるまで炊いていく。
水分がなくなったら10分ほど放置する。
実にそそる匂いが漂う。
その間にもう一品。
おれにとってはメインディッシュ。
牡蠣の酒蒸しだ。
これには手をかける必要も無い。
いや、むしろ無駄に手をかけてはいけない。
ちょっと深めの鍋に、ざっと洗った殻つきの牡蠣と料理酒を投入。
最近は殻をはずして作るレシピもあるようだが・・・おれに言わせれば邪道!
あくまでも殻つきに拘るぜ?
蓋をして中火で蒸す。
牡蠣の殻が開けば完成。
異世界、それにトラブル巻き込まれ中とは言え、こっちに来てから初の大好物。
さすがに楽しみだ。
ちょうどパエリアも出来上がったな。
竜兵、イアネメリラと協力して全員によそっていく。
途中竜兵の使役する『水竜』が、無言ながらとてつもなく切なそうな顔?をしていたので、『図書館』から出した固まり肉を食わせてやる。
そんな一幕を挟みつつ、全員に料理が行き渡り、おれは一つ頷いた。
それを見ていた全員が唱和する。
「「「「「いただきます!」」」」」
(・・・うま・・・。)
いや、今日は自分でもうまいのわかったわ。
一同絶句、一瞬呆けた後、我先にとかっ込んでいく。
まぁうまいはうまいが、おれはゆっくり牡蠣の酒蒸しを頂くとしよう。
それぞれが食事を堪能する中突然、竜兵、バイア、そして『水竜』が辺りをきょろきょろと見回した。
「おい、どうした?」
おれの問いに、「う、うん・・・。」「ぬぅ。」と当人たちは歯切れ悪く答えるが、二人と一頭が視線を向けた先は同じだった。
何か見えるのかとおれも目を凝らす。
そこには、遠くからゆっくりと近寄ってくる、白い光があった。
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