・第百二十九話 『油装(オイルコート)』
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異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、海は広いし綺麗だぞ。
兄貴は今、船上で大海原を駆け抜けている。
時折船へと襲い掛かる大型の水棲型魔物なんかを、自分達の住処へと優しくエスコート(拳で殴り返す)しながらだ。
ちゃんとした潜水船なら、魔物除けの結界発生装置もあるらしい。
だがこの船にはそれが無い。
ゆえにおれが舳先で魔物除け代わりになってる訳だが・・・。
まぁこれから深海へ・・・まずは『深海平原』を抜けて、『アリポスの谷』の『海龍』アリアムエイダが棲む神殿に寄る予定だ。
あれ?でも深海へ行くのに海上なの?ってそう思うよな。
潜水船ね・・・欲しかったよね。
うん、色々あるんだ。
あと一つ断っておく。
これはあくまで借用である、返す気はある!
できるかはわからないけど。
■
なんとかこっちの問題は片付いた。
ヴィリスとローレンの能力で、さくっと港まで送ってもらう。
(竜兵たちは無事だろうか?)
町の方に目を凝らすが、派手に噴き上げた火柱も、今は完全に沈黙。
それなりに喧騒はあるようだが、目立った混乱は起きてないようにも見える。
(竜兵は忙しいかもしれないしな・・・。)
情報は早く共有したいところだが、あっちのメインアタッカーである竜兵の手を止めるのは早計だろう。
おれは『図書館』から「ドラゴンホットライン」用の銀板を取り出し、「パモピモ」の名前をタップした。
ガォォーン!ガォォーン!ガォォーン!
いつものコール音が鳴っているのがわかる。
ガチャッ!
なぜか感じる受話器を上げるような音。
それ無駄じゃねー?
「こんばんは!こちら現場のパモです!」「同じくピモです!」
「「本日は二重音声によってお送りします!!」」
「あー、そういうの良いから。」
めんどくせぇ。
さっくりと打ち切るおれに、「セイー!ノリ悪いぞー!」とお怒りの羽根妖精x2。
「そっちはどうなんだ?こっちは終わったぞ。」
「えっ!?早いねー!」「リュウー!セイは終わったってー!」
パモピモは驚くと共に、即座に竜兵へ伝言した。
しばらくして竜兵の声が、銀板越しに聞こえてくる。
「さすがアニキー!こっちは・・・うん、とりあえず合流するよ。」
おれをいつも通り賞賛した後、なぜか彼らしくない歯切れの悪い言葉。
潜水船の確保はうまくいかなかったのかもしれない。
「セイー!すぐそっちに行くねー!」「待っててねー!」
パモピモの明るい言葉と共に通信が切れた。
しばらくして・・・。
港の一角に、音も無く大きな水溜りが移動してくる。
そこからわらわらと現れる面々。
オーゾルを皮切りに、竜兵、バイア、アフィナ、シルキー、パモピモと続く。
誰も目立った外傷なんかは見当たらないが、少々煤けている感じがするのと、パモピモを除くメンバーの表情が暗い。
やはり船の確保に失敗したんだろうか?
竜兵が「アニキー!」と叫びながら駆け寄ってくる。
ちょっと・・・涙目?
「おい、どうし・・・。」
「アニキごめん!おいらが付いていながら・・・。」
おれの問いを遮る形、目の前まで来た竜兵は深々と頭を下げ、突然謝った。
続いてバイアが、「兄者君、すまんのぅ。お竜ちゃんを責めないでやっておくれ・・・。」とこれまた元気の無い様子。
特にバツが悪そうなのはアフィナとシルキー。
おれと目線を合わせようともしない。
うん、これアレですね?
残念と馬の人がなんかやらかした系だろ。
「竜兵・・・アフィナとシルキーは、何をやらかした?」
静かに問いかけるおれに対し、アフィナとシルキーの肩が見事にビクゥッ!と引きつる。
「アニキ・・・ごめん。潜水船全部燃えちゃった・・・。」
えー?燃えたんすか・・・。
「りゅ、竜君は悪くないよ!ボクが・・・。」
「わ、私も・・・セイさんごめんなさい。」
アフィナとシルキーも竜兵に並んで頭を下げる。
おれはため息交じり、「まぁ・・・何があったか教えてくれ。」と言った。
■
「おいらたちが潜水船のドッグに行ったら、怪しい奴らが居てさ・・・。」
竜兵はポソポソと語り始める。
「今にも手に持ったたいまつで火を付けようとしたから、おいら即切り捨てたんだ。」
ふむ、そこまでは良い。
竜兵が人型の相手に対し、即切り捨てを選ぶようになってしまったとか・・・兄貴分を自負するこちらとしては少々複雑な思いもあるが、この世界ではそんなことも言っていられない。
(だがそれなら、放火は阻止できたんじゃないのか?)
事情のわからないこちら側のメンバーは、ただ黙って竜兵の言葉を待つ。
「ずいぶん弱くて、ちょっと油断しちゃったんだけど、そいつらアンデットだったんだ。マドカが相手なんだから、それを考えなかったおいらの失敗・・・。」
なるほどな。
マドカの手の者ってやつは全部アンデットってことか。
確かにあいつがやりそうなことだ。
「それでおいら不意打ちされちゃって・・・助けようとしてくれたあっちゃんとシル姉が、火球と『浄化の雷』で敵を撃ったんだ。」
竜兵の説明と共に、二人の美少女がどんどん小さくなっていく。
なんか読めてきた・・・。
思わず先を予想してしまったおれに、「違う違う。」と首を振る竜兵。
「二人の攻撃は、ちゃんと敵に当たったんだよ?ただ、相手が・・・マドカが一枚上手だったんだ。敵はゾンビだったんだけど、『油装』かけてあった・・・。」
うへぇ・・・そうきたか。
『油装』・・・対象の魔導師か盟友を油で覆い、対物理強化、火弱点に変更するという強化魔法。
この魔法には別の使い方がある。
そう、人間爆弾、自爆テロだ。
考えて欲しい、可燃性抜群の油に塗れた人型へ火球と雷を打ち込めば・・・。
答えは簡単。
はい、大爆発ですね。
恐らくは最初から、その使い方でも考慮されていたんだろう。
そこにピンポイントで火種を与えるのは、さすが残念と馬の人と言わざるおえないが・・・。
(これはミスというより・・・相手が一枚上手だったな。)
おれはこの件で三人を責めるのは違うな。と、そう思った。
「まぁ燃えちまったもんは仕方ねーな。他の手を考える。一応普通の船は三隻確保してあるしな。」
「無断借用だけど。」の言葉は飲み込んでおく。
おれは竜兵の頭をポンポンと撫で、アフィナとシルキーにも「気にするな。」と声をかけてやった。
因みに羽根妖精二匹は「キャンプファイヤー!」とか叫びながら、くるくる回っていたのでデコピンで撃墜しておく。
あんまり傷に塩を塗りこむもんじゃない。
もうやめてあげて、アフィナとシルキーのHPはすでに0よ。
そこで「あのぅ・・・。」っと申し訳無さそうな声がかかる。
声は港に面した海の水面から・・・ヴィリスだ。
「殿下・・・船があるなら己が運べますよ?」
おお!そうか!
さすがはヴィリス、『海の覇者』は伊達じゃない。
竜兵が目ざとく反応。
「ああ!ヴィリスじゃん!さすがはアニキ・・・このタイミングでヴィリス引いてたんだ・・・。」
「まぁな・・・。」
確かに神がかった引きではあった。
ネクストドローは専属魔法『海閃』だったし、ウララに話したら絶対また「デビルドロー」って言われるな。
そこでオーゾルもヴィリスの姿に気付き、なんか「おおおおお」と奇声を発して号泣する。
ローレンがオーゾルの側へ行き、肩をポンポンと叩く。
竜兵が合流するまでの間にローレンにはあらかた説明しておいたので、今度は彼がオーゾル相手に色々と説明をするだろう。
きっとオーゾルにとってもヴィリスの存在は衝撃だったんだな。
そこでまさかの竜兵が予想外の地雷を踏み抜いた。
「あ!そうか、『海閃』だったら『魔海の口』も一撃だよね!」
あ、それあかんやつや。
ハッとしたイアネメリラ共々、慌ててヴィリスに向けて振り返る。
案の定・・・ヴィリスはどす黒い雲を背負っていた。
「ふふふ・・・やはり己と言えば『海閃』ですよね・・・。当然一撃で倒せるとして認識されていますよね・・・。ふふふ・・・まさか不発だったなんて、そんなこと想像もできませんよね・・・。どうせ己なんて・・・エラ呼吸ですし・・・胸も小さいですし・・・魚ですし・・・いいえ、もはや魚以下、ミジンコより役に立たない。つまり、いらない子・・・。」
俯いて肩を震わせ、ボソボソと一人ごちるヴィリス。
まてまてまてまて!
エラ呼吸じゃないだろ?いやエラ呼吸なのか?
いや、そんなことはどうでもいい。
いらない子ルートへの進行が早すぎる!
「え・・・?おいら、なんかまずいこと・・・。」
竜兵も思わず絶句。
おれは竜兵に小さな声で囁く。
「あ、ああ。ヴィリスな・・・メンタルがお豆腐なんだ。」
とぷんっ!
小さな水音。
「ああ~!ヴィリスが逃げた~!」
イアネメリラが叫ぶ。
「ちょ!おま!?戻ってこ~い!!」
それからヴィリスのメンタルが復活するまで、約一時間を要した・・・。
そしておれたちは、ヴィリスが掌握した海上を爆走中。
前途多難が過ぎるわ・・・。
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