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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
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・第百二十九話 『油装(オイルコート)』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^

 異世界からおはよう。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、海は広いし綺麗だぞ。

 兄貴は今、船上で大海原を駆け抜けている。

 時折船へと襲い掛かる大型の水棲型魔物なんかを、自分達の住処へと優しくエスコート(拳で殴り返す)しながらだ。

 ちゃんとした潜水船なら、魔物除けの結界発生装置もあるらしい。

 だがこの船にはそれが無い。

 ゆえにおれが舳先で魔物除け代わりになってる訳だが・・・。

 まぁこれから深海へ・・・まずは『深海平原』を抜けて、『アリポスの谷』の『海龍』アリアムエイダが棲む神殿に寄る予定だ。

 あれ?でも深海へ行くのに海上なの?ってそう思うよな。

 潜水船ね・・・欲しかったよね。

 うん、色々あるんだ。

 あと一つ断っておく。

 これはあくまで借用である、返す気はある!

 できるかはわからないけど。



 ■



 なんとかこっちの問題は片付いた。

 ヴィリスとローレンの能力アビリティで、さくっと港まで送ってもらう。


 (竜兵たちは無事だろうか?)


 町の方に目を凝らすが、派手に噴き上げた火柱も、今は完全に沈黙。

 それなりに喧騒はあるようだが、目立った混乱は起きてないようにも見える。

 

 (竜兵は忙しいかもしれないしな・・・。)


 情報は早く共有したいところだが、あっちのメインアタッカーである竜兵の手を止めるのは早計だろう。

 おれは『図書館ライブラリ』から「ドラゴンホットライン」用の銀板を取り出し、「パモピモ」の名前をタップした。

 ガォォーン!ガォォーン!ガォォーン!

 いつものコール音が鳴っているのがわかる。

 ガチャッ!

 なぜか感じる受話器を上げるような音。

 それ無駄じゃねー?


 「こんばんは!こちら現場のパモです!」「同じくピモです!」


 「「本日は二重音声によってお送りします!!」」


 「あー、そういうの良いから。」


 めんどくせぇ。

 さっくりと打ち切るおれに、「セイー!ノリ悪いぞー!」とお怒りの羽根妖精x2。


 「そっちはどうなんだ?こっちは終わったぞ。」


 「えっ!?早いねー!」「リュウー!セイは終わったってー!」


 パモピモは驚くと共に、即座に竜兵へ伝言した。

 しばらくして竜兵の声が、銀板越しに聞こえてくる。


 「さすがアニキー!こっちは・・・うん、とりあえず合流するよ。」


 おれをいつも通り賞賛した後、なぜか彼らしくない歯切れの悪い言葉。

 潜水船の確保はうまくいかなかったのかもしれない。


 「セイー!すぐそっちに行くねー!」「待っててねー!」


 パモピモの明るい言葉と共に通信が切れた。


 しばらくして・・・。

 港の一角に、音も無く大きな水溜りが移動してくる。

 そこからわらわらと現れる面々。

 オーゾルを皮切りに、竜兵、バイア、アフィナ、シルキー、パモピモと続く。

 誰も目立った外傷なんかは見当たらないが、少々煤けている感じがするのと、パモピモを除くメンバーの表情が暗い。

 やはり船の確保に失敗したんだろうか?

 竜兵が「アニキー!」と叫びながら駆け寄ってくる。

 ちょっと・・・涙目?


 「おい、どうし・・・。」


 「アニキごめん!おいらが付いていながら・・・。」


 おれの問いを遮る形、目の前まで来た竜兵は深々と頭を下げ、突然謝った。

 続いてバイアが、「兄者君、すまんのぅ。お竜ちゃんを責めないでやっておくれ・・・。」とこれまた元気の無い様子。

 特にバツが悪そうなのはアフィナとシルキー。

 おれと目線を合わせようともしない。

 うん、これアレですね?

 残念と馬の人がなんかやらかした系だろ。


 「竜兵・・・アフィナとシルキーは、何をやらかした?」


 静かに問いかけるおれに対し、アフィナとシルキーの肩が見事にビクゥッ!と引きつる。


 「アニキ・・・ごめん。潜水船全部燃えちゃった・・・。」


 えー?燃えたんすか・・・。

 

 「りゅ、竜君は悪くないよ!ボクが・・・。」


 「わ、私も・・・セイさんごめんなさい。」


 アフィナとシルキーも竜兵に並んで頭を下げる。

 おれはため息交じり、「まぁ・・・何があったか教えてくれ。」と言った。



 ■



 「おいらたちが潜水船のドッグに行ったら、怪しい奴らが居てさ・・・。」


 竜兵はポソポソと語り始める。

 

 「今にも手に持ったたいまつで火を付けようとしたから、おいら即切り捨てたんだ。」


 ふむ、そこまでは良い。

 竜兵が人型の相手に対し、即切り捨てを選ぶようになってしまったとか・・・兄貴分を自負するこちらとしては少々複雑な思いもあるが、この世界ではそんなことも言っていられない。


 (だがそれなら、放火は阻止できたんじゃないのか?)


 事情のわからないこちら側のメンバーは、ただ黙って竜兵の言葉を待つ。


 「ずいぶん弱くて、ちょっと油断しちゃったんだけど、そいつらアンデットだったんだ。マドカが相手なんだから、それを考えなかったおいらの失敗・・・。」


 なるほどな。

 マドカの手の者ってやつは全部アンデットってことか。

 確かにあいつがやりそうなことだ。


 「それでおいら不意打ちされちゃって・・・助けようとしてくれたあっちゃんとシル姉が、火球と『浄化の雷』で敵を撃ったんだ。」


 竜兵の説明と共に、二人の美少女がどんどん小さくなっていく。

 なんか読めてきた・・・。

 思わず先を予想してしまったおれに、「違う違う。」と首を振る竜兵。


 「二人の攻撃は、ちゃんと敵に当たったんだよ?ただ、相手が・・・マドカが一枚上手だったんだ。敵はゾンビだったんだけど、『油装オイルコート』かけてあった・・・。」


 うへぇ・・・そうきたか。

 『油装オイルコート』・・・対象の魔導師か盟友ユニットを油で覆い、対物理強化、火弱点に変更するという強化魔法。

 この魔法には別の使い方がある。

 そう、人間爆弾、自爆テロだ。

 考えて欲しい、可燃性抜群の油に塗れた人型へ火球と雷を打ち込めば・・・。

 答えは簡単。

 はい、大爆発ですね。


 恐らくは最初から、その使い方でも考慮されていたんだろう。

 そこにピンポイントで火種を与えるのは、さすが残念と馬の人と言わざるおえないが・・・。


 (これはミスというより・・・相手が一枚上手だったな。)


 おれはこの件で三人を責めるのは違うな。と、そう思った。


 「まぁ燃えちまったもんは仕方ねーな。他の手を考える。一応普通の船は三隻確保してあるしな。」


 「無断借用だけど。」の言葉は飲み込んでおく。

 おれは竜兵の頭をポンポンと撫で、アフィナとシルキーにも「気にするな。」と声をかけてやった。

 因みに羽根妖精二匹は「キャンプファイヤー!」とか叫びながら、くるくる回っていたのでデコピンで撃墜しておく。

 あんまり傷に塩を塗りこむもんじゃない。

 もうやめてあげて、アフィナとシルキーのHPはすでに0よ。


 そこで「あのぅ・・・。」っと申し訳無さそうな声がかかる。

 声は港に面した海の水面から・・・ヴィリスだ。


 「殿下・・・船があるなら己が運べますよ?」


 おお!そうか!

 さすがはヴィリス、『海の覇者』は伊達じゃない。

 竜兵が目ざとく反応。


 「ああ!ヴィリスじゃん!さすがはアニキ・・・このタイミングでヴィリス引いてたんだ・・・。」


 「まぁな・・・。」


 確かに神がかった引きではあった。

 ネクストドローは専属魔法『海閃』だったし、ウララに話したら絶対また「デビルドロー」って言われるな。


 そこでオーゾルもヴィリスの姿に気付き、なんか「おおおおお」と奇声を発して号泣する。

 ローレンがオーゾルの側へ行き、肩をポンポンと叩く。

 竜兵が合流するまでの間にローレンにはあらかた説明しておいたので、今度は彼がオーゾル相手に色々と説明をするだろう。

 きっとオーゾルにとってもヴィリスの存在は衝撃だったんだな。

 そこでまさかの竜兵が予想外の地雷を踏み抜いた。


 「あ!そうか、『海閃』だったら『魔海のガレオンイーター』も一撃だよね!」


 あ、それあかんやつや。

 ハッとしたイアネメリラ共々、慌ててヴィリスに向けて振り返る。

 案の定・・・ヴィリスはどす黒い雲を背負っていた。


 「ふふふ・・・やはり己と言えば『海閃』ですよね・・・。当然一撃で倒せるとして認識されていますよね・・・。ふふふ・・・まさか不発だったなんて、そんなこと想像もできませんよね・・・。どうせ己なんて・・・エラ呼吸ですし・・・胸も小さいですし・・・魚ですし・・・いいえ、もはや魚以下、ミジンコより役に立たない。つまり、いらない子・・・。」


 俯いて肩を震わせ、ボソボソと一人ごちるヴィリス。

 まてまてまてまて!

 エラ呼吸じゃないだろ?いやエラ呼吸なのか?

 いや、そんなことはどうでもいい。

 いらない子ルートへの進行が早すぎる!


 「え・・・?おいら、なんかまずいこと・・・。」


 竜兵も思わず絶句。

 おれは竜兵に小さな声で囁く。


 「あ、ああ。ヴィリスな・・・メンタルがお豆腐なんだ。」

 

 とぷんっ!

 小さな水音。


 「ああ~!ヴィリスが逃げた~!」


 イアネメリラが叫ぶ。


 「ちょ!おま!?戻ってこ~い!!」


 それからヴィリスのメンタルが復活するまで、約一時間を要した・・・。

 そしておれたちは、ヴィリスが掌握した海上を爆走中。

 前途多難が過ぎるわ・・・。

 




ここまでお読み頂きありがとうございます。

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