・第百二十七話 『魔海の口(ガレオンイーター)』中編
いつもお読み頂きありがとうございます。
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※ごめんなさい、二話で終わらなかった><
次回こそ後編ですorz
引いていた一枚のカード。
それを見ておれは、柄にも無くニヤリとしてしまった。
(なるほど、この状況なら確かに・・・。)
自分の引きの強さ、改めてそれを確信する。
「ますたぁ・・・?」
「セイ君、一体何を?」
普段のおれからは想像の付かないであろう態度。
それに困惑するイアネメリラとローレン。
まぁローレンの場合は『魔導書』自体にも驚いているようだが。
そう言えばその辺の説明は端折ったな。
「メリラ、どうやら女神様はよっぽど、『略奪者』が嫌いらしい。」
「・・・え?それってどういう?」
意味がわからないらしい。
だがおれには、ここでこのカード・・・この盟友を引けること、それ自体女神の思し召しとでも言うしかない気分だった。
確かに『魔導書』に入れていた。
だが当然一枚。
そして普段ならきっと呼ぶ事の無いであろう盟友。
こう言っちゃなんだが、引くまで忘れていた。
なぜなら特殊な環境において最強を誇るその力も、普段は通常の戦士系盟友に到底及ばない。
にも関わらず召喚に使うコスト、紋章が五つもかかるんだ。
それにその特殊な環境ってのに、今まで遭遇しなかったのもある。
だがその特殊な状況、言わば敵方の呼び出した『魔海の口』の召喚条件・・・水上限定というそれが今、目の前に広がっている。
そう、今からおれが呼ぼうとしている盟友も水戦特化型だった。
今回ある意味、ロカさんの『水支配』よりも凶悪な能力。
『略奪者』の勝手な都合で呼び出された敵方の盟友、『魔海の口』に対しおれは、合掌でもしてやりたい気分だ。
「ローレン、もしかしたらお前にとっては、驚きが過ぎるかもしれない。だが受け入れろ。」
そのカードに書かれていたテキストを思い出したおれの宣言に対し、頭の上に?マークを浮かべた表情のローレン。
「あ、もしかして・・・。」と呟いたイアネメリラが、おれの肩越しに手札を覗き込み納得する。
「ますたぁ・・・ほんとにすごいね?このタイミングで彼女を引けるんだ・・・。」
「ああ、さすがにおれも驚いた。」
おれは静かにカードを三枚選択する。
灰色のカード二枚が、連なる泡の紋章を三つずつ、計六つ産み出す。
同時に、さっきまで灰色だったカードが淡く光り始めた。
紋章が金箱に吸い込まれ、目の前に浮かぶカードを見つめる。
そしておれは厳かに、召喚の理を唱えた。
『伝説の旅を続けし者、大いなる海路開く者、我と共に!』
金箱の蓋が開き、そこから溢れ出す金色の光。
いつもの召喚光が収まって、おれたちの前に・・・正確には目の前の海上に現れたのは、鮮やかな緑の長髪、額に豪奢な銀のサークレットを飾り、白地に青い装飾の三叉槍を持った女性。
一目で見惚れる美しい顔、特徴的なのは耳。
本来なら人のそれが付いているであろうそこには、髪色と同じ鮮やかな緑の小さなヒレが一対付いている。
歳の頃はおれ以上イアネメリラ未満と言ったところ、マリンブルーの魅力的な瞳でおれを見つめる彼女だが、下半身は水中にも関わらず、その姿はあまりにも露出過多。
透き通るような白い肌、そのほとんどを衆目に晒し、やや慎ましやかなその胸を貝殻で隠している。
そう・・・「ホタテビキニ」ってやつだ。
そして水中に半身隠れているにも関わらず、彼女自身の淡い発光によって明らかになるその下半身。
本来人の二の足があるであろうそこには、髪色と同じ鮮やかな緑の鱗に包まれた魚体。
所謂・・・人魚だ。
イアネメリラがふわふわと彼女の前に移動。
ぎゅっと握手を交わす。
「殿下・・・お久しゅうございます。」
そう言ってペコリ、水中で器用に頭を垂れる彼女。
殿下・・・のくだりはちょっと微妙だが。
他の盟友たちも大概好き勝手におれを呼ぶから、今更つっこむことでもないだろう。
おれは片手を挙げ、「ああ、ヴィリス。よろしく頼む。」と答えた。
「ヴィ・・・ヴィリス様だとおおおおおおおおおおおおおおおお!!!???」
そのやりとりを見てローレンが、顔面蒼白で絶叫した。
はいはい、まぁそうなるよな。
■
彼女の名前は『水の戦乙女』ヴィリス・J・ヴェリオン。
そう・・・ヴェリオン・・・『深海都市ヴェリオン』の王族だ。
ローレンが彼女を見て驚愕、絶叫したのも当然と言えるだろう。
だってヴィリスは、彼にとっての主みたいなもんだからな。
もしかしたら生前面識があったのかもしれない。
だがそこには「元」が付く。
彼女も20年前の大戦時、国を出奔して無国籍ギルド『伝説の旅人』に在籍していた。
ヴィリスと『伝説の
旅人』の馴れ初め等は明記されていないのでわからないが、正直出奔してくれて助かったと思う。
『伝説の旅人』所属の盟友でなかったら、おれが『魔導書』に組み込んでいたとは考えられない。
ローレンはいつのまにかヴィリスに向って片膝を突き、深々と頭を垂れていた。
「ヴィリス様・・・生きて、生きておられたのですね・・・。私はファーデルト家のローレン。ローレン・C・ファーデルトです。当時とお変わりの無い姿、セイ君を殿下と呼称したこと・・・未だ混乱はしておりますが、今はただ貴女様のご無事を喜ぶばかりです。」
涙ながらにとうとうと訴えるローレン。
正直ちゃんと説明しなくてすまんかった。
ヴィリスも非常にバツの悪そうな顔になっている。
それでも意を決したのか、ヴィリスは静かに声をかけた。
「ファーデルトのローレン。顔を上げてください。確かに貴方の事は覚えております。されど現在の己はすでに故人、まして祖国を出奔した身です。今はただ殿下に仕える一盟友にすぎないのです。」
顔を上げたローレンが、ハッとした表情でおれを見る。
そしてヴィリスはなおも言葉を続けた。
「すぐに納得はできないでしょう。されど今は、先に片付ける難題があるはずです。」
決然とした表情で外海を望むヴィリス。
釣られるようにおれたちはその方向を伺った。
(すげぇな・・・。)
更に禍々しさを増して渦巻く海面。
ちょうど今真っ二つに破砕された大型船が、まるで海面から生えているように空へ向けてその舳先と船尾を突き上げていた。
ゆっくりと海中に没していく大型船。
海面には白い円柱型の巨石が突き出ている。
さすがは異界の英雄級盟友。
その脅威を目の当たりに、ローレンも現状を再確認した。
だが彼女の能力と特技なら、この状況も簡単に打破できる。
そう安堵したのも束の間。
おれたちの向かう方とは逆方向、町の方から「ドゴォ!」っと爆音。
そして深夜の町並みから、何本も火の手が上がる
「チィッ!」
思わず舌打ち。
海だけじゃなく町の方でも何らかの動きがあったらしい。
おそらくは『略奪者』マドカの手の者によるものだろう。
さすがにそう簡単にはいかないか。
竜兵たちに何も無ければいいが・・・。
まぁ考えても仕方ない。
それにあっちにはバイアと竜兵が居る。
きっと何とかするだろう。
「メリラ、ヴィリス!とりあえずおれたちは『魔海の口』を潰すぞ!ローレン、水属性の加護をくれ!」
おれは気持ちを切り替え、咄嗟に指示を出す。
「「了解!」」っと頼もしい、おれの盟友たちの返事。
ローレンもさすがに全ては納得できなかったのか、「セイ君、後でもっと詳しく話を聞かせてくれ!」と叫びつつも、おれに水属性の魔法をかけたのがわかった。
そうだな、説明は後でするよ。
「殿下、ローレン!道を作ります!」
ヴィリスが宣言し、その三叉槍を海面と水平になぎ払う。
おれはその海面へ向けて無造作に跳躍。
慌ててローレンも付いてくる。
イアネメリラが軽く手を振るい、おれとローレンはふぅわりと海面に降り立った。
これはヴィリスの能力の一つ、『海の覇者』。
ヴィリスが存在するエリアの海は、彼女の気持ち一つでその性質を変える。
「海」限定ではあるが何とも馬鹿げた力、海面を足場に変えるなんて正に朝飯前なんだ。
そしておれたちは一気に外海、『魔海の口』へ向けて駆け出す。
先導するかのように先を泳ぐヴィリス。
イアネメリラはおれの斜め後ろを飛んでいる。
「魔導書」
目の前に現れるA4のコピー用紙サイズ、四枚のカード。
新しく引いてきたカードに目線を走らせ、さっと二枚を選択。
一枚をヴィリスに投擲し、もう一枚は即座に発動する。
『朱の掌』
おれの両手に朱色の輝きが灯る。
簡単な攻撃力強化、しかしその本質は別だ。
この強化魔法は、攻撃力を強化すると共に、その属性を「魔力、炎」に変更する。
水属性の相手に対して効きはいまいちだが、少なくとも『物理無効』の『魔海の口』を殴ることができるようになる。
そしてもう一枚、さっき引いてきたカードこそが本命。
ヴィリスはカードを受け取った後、泳ぎながらも目を瞑り集中して詠唱。
その詠唱が終わりカッと目を見開く。
カードが光の粒子に変わり、彼女の三叉槍の穂先にまとわり付く。
そして彼女は、その魚体を閃かせて跳躍、海中から空中に飛び出した。
それを見て急ブレーキ、おれは海面で半身に構える。
「殿下!往きますっ!」
立ち止まったおれの顔を確認して、ヴィリスは三叉槍を振りかぶった。
イアネメリラが、おれたちの前へ障壁を展開。
ローレンも慌てて立ち止まり、海面に手を当てる。
そこから水の障壁が生まれ、イアネメリラの張った障壁の補強をするように周りを囲む。
どうやら全員ヴィリスが何をするのかわかったようだ。
おれは彼女に頷き、Goサインを出す。
「いけ!ヴィリス!」
「『海閃』!!!」
裂帛の気合と共に、ヴィリスが三叉槍を振り下ろした。
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