・第百二十六話 『魔海の口(ガレオンイーター)』前編
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、急展開だ。
兄貴も当然、この町になんらかの動きはあるだろうと思っていた。
それが『海龍』アリアムエイダのことだけならまだ良かったんだが・・・。
ドクロ面の『略奪者』は、『死』のマドカと見て間違いないだろう。
思わずアイツの不健康そうな面を思い出したよ。
お前、仮面被らなくてもドクロ顔だったよな?
何を考えて『略奪者』なんてやってんのか知らないが、船を壊す・・・か。
これから『深海都市ヴェリオン』・・・海中に作られたそこへ向わなきゃ行けないのに、勝手な都合で足を壊されると困るんだ。
『地球』じゃ一応顔見知りだったがな・・・おれの前に立ち塞がるなら、お前は敵だ。
いや、それも今更だな。
向こうはとっくにその気だったはず。
『悪魔』を怒らせた輩の末路、知らないとは言わせないぜ?
■
(マドカ・・・船を壊す・・・。)
情報を反芻。
その言葉が浸透してくるにつれ、嫌な予感が背筋を駆け巡る。
今のおれは、相当焦った顔をしている自覚があった。
おそらくは竜兵も同じ。
そんなおれたちの様子を、他の面々が心配そうに伺う。
「お竜ちゃん、兄者君?一体どうしたと言うんじゃ?」
バイアが代表して声をかけてくる。
いかに『略奪者』絡みとは言え、おれや竜兵がこれほど反応するとは思わなかったんだろう。
それは予感。
心当たりが有り過ぎる。
マドカの常用していた一枚の盟友カード。
今現在、その制約・・・条件が整いすぎていた。
「あ、ああ。バイアちょっと待ってくれ。ピモ、マドカって呼ばれた奴は船を壊すって言った後、何をした?」
おれはバイアを始め、他のメンバーにも目線でお願い、ピモから情報を確認する。
「んー?なんか海に向けて、カードを三枚使ってた。それでなんかブツブツ言ってたよ。」
ほぼ確信に近い悪寒。
カードを三枚・・・おそらく二枚は紋章用のコスト。
そしてブツブツってのは当然、召喚の理だろう。
おれはピモに、「そのブツブツ聞こえたか?」と再度尋ねる。
銀板の向こう側、ピモは「え?んーと、んーっと・・・そうだ!」と少し逡巡した後、何かを思い出す。
「んっとね・・・『混沌の海の捕食者、なんとかかんとか・・・我と共に!』だったかな?」
「ピモ、なんとかかんとかの所は・・・『駆者を捕らえすり潰す者』じゃなかった?」
竜兵があやふやな部分を補足すると、「それそれー!」と興奮した返事が返ってくる。
(やっぱりか。)
おれと竜兵は、顔を見合わせ頷き合う。
いや、心底嫌な予感はしてたんだ。
できればキノセイであって欲しかった。
「間違い無い。『魔海の口』呼びやがった!」
『魔海の口』・・・またしても異界の英雄級盟友だ。
水中にしか召喚できず、見た目は海中から突如現れる巨石群。
しかしその実態は、水と異界、そして口が融合した魔法生物。
巨石にしか見えないそれは・・・奴の口から覗く乱杭歯だ。
「アニキ・・・おいら、最悪だ・・・。」
「そうだな・・・。」
竜兵がすっかり項垂れて、小さく呟く。
おれもそれに賛同、気持ちは大いにわかる。
ある意味これは、おれにも竜兵にも効果抜群、メタとも言えた。
『魔海の口』の能力は『物理無効』と『騎乗殺し』・・・。
『物理無効』は読んで字の通り、おれの格闘は元より、竜兵の大剣による斬撃も当然無効。
そりゃそうだ・・・相手は水そのものみたいなもんだからな。
そして『騎乗殺し』・・・その効果は単純明快。
おれの盟友である、『反乱者』アリアンの能力『帝国殺し』が帝国兵を即死させていたのと同様、『騎乗』を持つ盟友や『謎の道具』なんかを一撃で死亡、又は破壊する能力。
つまりドラゴンの背に乗って戦う竜兵、そのスタイルを根本から否定するような相手だ。
更に言えば・・・船って乗る物だよな?
おれたちがぐったりするのもわかってもらえるはずだ。
「『魔海の口』だと・・・!?」
どうやらローレンはその名を知っていたらしい。
いや、オーゾルもか・・・明らかに顔色が悪くなっている。
「ピモ!それでそのドクロ面はどこへ行ったの?」
竜兵がマドカの動向を確認。
しかしそれに返って来るのは、「んー?わかんない!しばらくしたら、とんでっちゃった。」と言う言葉だった。
(最悪だ。)
倒すのが難い敵、なら召喚者を狙えば?との目論見は簡単に瓦解する。
ローレンとオーゾルもおれや竜兵同様、一瞬で最悪な状況を把握した。
そして・・・倉庫の外から破砕音が響く。
■
「ア、アニキ!」
「くそっ!始まったか!」
情報の整理をしている間に、どうやら大元が動き出してしまったらしい。
こうなったら仕方ない。
いつも通り、おれが何とかするしかないだろう。
「メリラ、行くぞ!竜兵はおれたちが使う予定だった船を回収してくれ。アフィナとシルキーはそっちだ。バイアも海には近付くな。パモとピモは何とか合流しろ。ローレンかオーゾル、どっちでも良い。案内を頼む!」
おれの指示に各々「了解!」「わかった!」「私が行こう。」などと返答が返って来る中、当然不満の声を上げる者たちも居る。
「セイ!ボクもそっちに行く!」
「セイさん、私も・・・。」
悲痛な表情でおれを見つめるアフィナとシルキー。
戦闘には出さないと言われたバイアも少し不満そうだ。
問答している時間は無いんだがな。
理由を言わないと納得しないんだろ?
「アフィナは風と火、そして木属性。今回の敵、海水の塊とは相性が悪すぎる。シルキーは雷があるが、『騎乗』持ちだから論外。バイアも同じ理由だ!」
おれは少々荒っぽくだが、うむを言わせぬ勢いで理由を語る。
普段とは違う緊迫した反応に、アフィナも思わず黙って頷く。
「『騎乗』があるとダメなの?」と聞くシルキーの手を竜兵が引き、「それはおいらが説明するから。」とバイアを促す。
「オーゾル!竜兵君たちの方を頼むぞ!」
「ハッ!ローレン様お気を付けて!こちらはこのオーゾルにお任せを!さぁみなさん、セイ殿たちとは違う抜け道から出ますぞ!」
気合も新たなおっさんたちのやり取りを背中に、おれは部屋の隠し扉を開け放ち、イアネメリラと揃って倉庫の外へ飛び出した。
外に出た瞬間にわかる。
この町に来てから、今までそれほど感じられなかったむわっとした湿気。
港に揚げてあった船を、念のため『カード化』して『図書館』に回収する。
都合三隻・・・手配してあった船よりは恐らく粗悪品。
それに回収した船が潜水できるかもわからないが、本当の最悪は免れた。
あとは竜兵次第。
港に面した海面から空高く噴き上がる、幾本もの水柱。
水柱によって粉々に粉砕された船だった物の残骸が、水面に叩きつけられゆっくりと海中へ引きずり込まれていく。
海中から突如突き出た円柱のような巨石・・・奴の歯だ。
圧倒的異様、それが遠めにもはっきり見えた。
「これは・・・。」
おれに続いて倉庫から出てきたローレンが絶句する。
向こうはまだおれたちを敵とは認識していない。
それよりも今は、破壊した船の残骸を貪ることに手一杯のように見える。
全くもって食いしん坊な奴だ。
(さぁて・・・どうしたもんかね。)
「ますたぁ・・・。」
イアネメリラはおれの後方で浮かび、その柳眉な眉根を寄せている。
「セイ君、アレはマズいぞ・・・。君の実力を疑うわけではないが、『魔海の口』とは異界の邪神が侵略してきた折、その口で何十隻ものガレオン船を飲み込んだと言われる怪異。我が祖国でも最早伝説、生きた天災とでも呼称される存在だ。」
説明ありがとう。
カードゲーム時代の『リ・アルカナ』、そのカードテキストに書いてあった通りの内容だ。
確かに海そのものとも言える存在感。
おれたちなんて木っ端に等しいだろう。
まぁそれでもやるしかねーんだけどな。
「魔導書」
おれの目の前にA4のコピー用紙サイズ、六枚のカードが浮かび上がった。
半端な攻撃・・・まして物理攻撃がまったく通用しないのはわかっている。
かと言っておれの盟友たち、魔法使いに属するやつ等も火属性や闇属性に偏りすぎていて、邪神の眷属であり当然闇属性、尚且つ海水そのものと言った体の『魔海の口』に対し、決して相性が良いとは言えない。
せめてロカさんが居れば『水支配』は有効かもしれない。
そんなことを考えつつ手札を確認する。
何を引いているかと思ったが・・・なるほどな。
「とりあえず・・・一方的に蹂躙されるって事にはならなそうだぜ?」
おれはイアネメリラとローレンに、ニヤリと笑いかけた。
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※纏まりきらなかったでゴワス。
前後編予定です。