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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
132/266

・第百二十五話 『急変』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


※4/7 誤表記修正

 異世界からこんばんは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、あのバカ(秋広)はどこへ向かって居るのだろう。

 兄貴には皆目見当も付かない。

 ただ胸の奥に沸き起こる、沸々としたフラストレーションの塊をどうしてくれようかと。

 「きっとあっきーさんなりに、何か考えがあるんだよ。」って?

 君は優しいな・・・。

 兄貴はもう疲れたよ。

 セントバーナード犬と教会さえあれば、すぐにも天に昇っていけるくらいには・・・。

 いや、おれだけじゃないぞ。

 今回の情報に関しては、さすがの竜兵も途方に暮れている。

 それもそうだろう。

 どうしてせっかく脱出してきた、人跡未踏・・・氷の世界に戻るんだ?

 


 ■



 一同絶句。

 先に情報を聞いていたであろうローレンとオーゾル、おれの掌の中で「セイ離してー!中身出ちゃーう!」と騒いでいる羽根妖精は別だが・・・。

 どうやらおれは、余りの衝撃に羽根妖精を捕獲したことを忘れ、危うくプチっとしてしまう所だったらしい。

 慌てて解放したおれにパモが、「人殺しー!」と真っ赤な顔、腕をブンブン振り回しながら突っ込んできた。

 ポカポカと軽い音を立てながら、おれの頭を叩くパモを無視してこめかみを押さえる。

 うん、頭痛で頭が痛い。


 おずおずと言った体、アフィナがおれに声をかける。


 「えっとセイ・・・ボクの記憶が正しければ、秋広さん?は『氷の大陸メスティア』から、この『港町カスロ』に渡って来たんじゃ無かったっけ?」


 そうだね。

 おれの記憶でもその通りだから、お前は間違ってないよ。

 今まで押し黙っていたシルキーも、こてんと首を傾げ疑問を投じた。


 「え?じゃあ何で・・・メスティアに戻ったの?」


 いや、それはおれが聞きたい。

 予想の斜め上にも程がある。

 

 (いや・・・でも待てよ?)


 そこでハタと思い当たる引っかかり。

 さっきまでの話、それとタウンハンター氏の情報で感じた違和感。


 「おい、ローレン。確かこの町の船は今、他国に行けないとか言ってなかったか?」


 そう、この町の船は今航行不能・・・と言うか、船乗りが自主規制的状態のはずなんだ。

 おれの素朴な疑問に、竜兵も同じ印象を持っていたんだろう。

 二人揃ってローレンを見つめる。

 対してローレンは困り顔。


 「それがな・・・。ほとんどの船は出港を見合わせていたんだが、二日前までは一部の血気盛んな船乗りが、出港したらしいのだ。」


 「つまり・・・おれたちの探していたタウンハンターも、それに上手いこと便乗して出国した後だったと・・・?」


 ローレンの言葉をリレーして、おそらくの当たりを舌の上に乗せる。

 当てたくも無い予想が見事に命中、「うむ。その通りだ。」と頷くローレン。


 「しかもだな、その時一緒に出たと思われる船のほとんどが帰港しているのだが、タウンハンターを乗せたと思わしき船が戻っておらん。」


 やれやれ、いよいよ面倒くさいことになってきた。

 これはメスティアに行けたと見るべきだろうか・・・。

 それともトラブルに巻き込まれた?


 「因みにそれが最大の原因ともなって、現在出航してくれる船が無い。私も伝を頼って要請はしていたのだが・・・。」


 そう言ってローレンは、書きかけの書類をおれに見せる。

 なるほど、今は協力者を頼って足を何とかしようとしている所か。

 だがそういう背景があるなら難しそうだな。


 「空はだめなのか?」


 深海にあるヴェリオンはまだしも、メスティアには空路で行けない物だろうか?

 いや待てよ、ヴェリオンだって上空から侵入して、水中適性の魔法でもかけてもらえば良い。

 もしそれができるなら、こちらには『古龍』バイアという鬼札がある。

 ローレンもそれは考えていたのだろう。

 各々の視線がバイアに自然と集まった。

 だが当のバイアは、「無理じゃな。」とあっさり首を振る。

 予想はしていたらしいローレンとオーゾル。

 「やはりか・・・。」と呟きながらも少々落胆した雰囲気だ。


 「じっちゃん、どうして無理なの?」


 竜兵は純粋に疑問に思い、己が守護者・・・白髭の老人に問いかける。

 おれも同じ気持ち、何かしら理由はあるのだろうが、こんなににべも無く否定されるとな・・・。


 「お竜ちゃん、おそらくは『海龍』アリアムエイダの結界があるんじゃよ。『アリポスの谷』上空ではおそらく、わしとてまともな飛行ができんじゃろう。あやつもそれだけの力を持っておるし、海の中で何が起きておるかはわからんが、その直上でなんの影響も無いとは思えん。」


 八方塞り、全く持って厄介極まりない。



 ■



 いよいよ詰みの気配が濃厚だ。

 うーん、どうしたもんか。

 最早秋広の運を信じるしかないかもしれない。

 ああ、あいつは運を信じないのが信念だったな。


 「竜兵、ここは仕方ない。とりあえず、アリアムエイダのトラブルを解決してから秋広を探そう。」 


 状況を把握すると共に、どんどん暗くなっていく竜兵。

 おれはできることを提示することで、それから目を逸らさせることしか出来ない。


 「うん・・・うん!そうだね、アニキ!あきやんのことは心配だけど・・・きっとあきやんも何か考えがあるんだよね。狐の女がホナミ姉だったらって思うけど、今のおいらたちじゃ確かめようも無いし、困ってるドラゴンが居るなら、おいらがしっかりしなくちゃ!」


 ぐっと握り拳を突き出してくる竜兵にグータッチ。

 とりあえず切り替えは済んだようだな。

 おれたちはおれたちにしかできないことをしよう。

 きっと秋広もそう考えて動いてるはずだ・・・たぶん、おそらく、きっと。


 改めてローレンへ正対する。

 

 「実際問題どうなんだ?お前の伝で船は出るのか?」


 ローレンは静かに頷く。


 「正直渋る町人を説得するのは大変だったが、さすがに事が事だからな。少々強権を使わせてもらったよ。かねてよりヴェリオン王家とも繋がりのある商会から、潜水船を一艇接収させてもらうことになった。残念ながら船員は確保できなかったがね。」


 そうか、とりあえずの船だけはゲットしてあるんだな。

 しかし船員が居ないとなると・・・。


 「船の操舵は、このオーゾルにお任せ下さい。」


 オーゾルができるらしい。

 

 「その船はいつ手に入るんだ?」


 「明日の早朝だ。因みに物資の手配もすでに済んでいる。この隠れ家の中にある木箱がそれだ。これを積み込めば、今居る人数をヴェリオンまで運ぶのに、十分事足りるだろう。」


 さすがだな。

 おれはローレンの手際に感服した。

 伊達で諜報員なんてやってる訳じゃないようだ。

 

 「そういう事なら、この辺の木箱はおれと竜兵で運ぶか。」


 「おっけー!」


 「ん?どういうことだ?」


 訝しむローレンとオーゾルは置き去りに、おれと竜兵は木箱の中身を軽く確認。

 手分けしてさくさくと、『カード化』及び『図書館ライブラリ』への収納を開始する。

 それを見て他の面々も確認作業を手伝い始めた。


 驚いたのはおっさん二人。

 「セ、セ、セ、セイ君・・・それは一体!?」と、思わず件の天使を想起させるようなドモリを見せるローレン。

 オーゾルはあんぐりと口を開けたままだ。

 そう言えば『カードの女神』の『加護』について、余り詳しく説明しなかったかもしれない。

 ローレンの側まで飛んでいった羽根妖精が、「諦めな少年。奴らは常識では縛れない。そうだろ?」と、なぜかニヒルな口調でポンポンと肩を叩く。

 それはなんのネタなのか・・・。

 まぁいい、ツッコんだら負けな気がする。


 あと突き詰めておかないといけないことは・・・。

 黙々と『カード化』と収納を続けながら、この先のことを考えた。

 その時・・・。


 ガォーン!ガォーン!ガォーン!


 ここ数日ですっかり聞きなれた呼び出し音。

 「ドラゴンホットライン」の着信音だ。

 おれと竜兵は同時に『図書館ライブラリ』から、その銀板を取り出す。

 銀板に表示された相手は・・・「パモピモ」。

 パモは今ここに居る。

 ってことは、ローレンが『略奪者プランダー』の手の者に監視で付けたピモか?


 (何か動きがあったのかもしれない!)


 竜兵も表示名を見ておれを振り返る。

 二人揃って一つ頷き、通話の選択。

 通話を確認した途端、最近ではもう聞きなれた、パモそっくりな声が響く。


 「セイー?リュウー?聞こえるー!?」


 「ああ。なにかあったのか?」


 「ピモ?聞こえてるよ!」


 おれと竜兵の返答に、「よかった!」と叫ぶピモ。

 そして少し慌て気味に、今回の通話の件を話し出した。


 「ピモがね、見張ってた奴が『略奪者プランダー』と接触したよ!相手はドクロ面の奴。」


 ドクロ面、あいつか!

 『鈴音の町リーンドル』で、おれと相対した『略奪者プランダー』だ。


 「それでね・・・見張ってた奴が、そいつのことマドカ様って呼んでた!」


 (マドカ・・・まど・・・か・・・円谷翔太つぶらや しょうた!!)


 「アニキ!」


 おれと竜兵は同時に気付く。

 円谷翔太つぶらや しょうた、通称『デス』のマドカ。

 案の定というかなんと言うか、やはり『地球』の『リ・アルカナ』トップランカーだ。


 「そうか・・・『死屍累々(コープスフェスティバル)』、『反転リバース』、『魔眼デスゲイズ』・・・。」


 「うん、アニキ。どうして気付かなかったんだろう。全部マドカの使ってたカードだ。」


 そう、全て思い出せばヒントはごろごろ転がっていた。

 極端に言えば、『シェイド』も『夢の魂』もアイツが好んで使っていた盟友ユニット


 「でねでね!セイー!リュウー!聞いてるー!?」


 切迫したピモの声で我に帰る。


 「どうしたんだ?」


 「ドクロ面の『略奪者プランダー』、船を全部壊すって言ってた!!!」


 なんだとっ!?





ここまでお読み頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。


※少しずつセイたちが『略奪者プランダー』の素顔に気付き始めます。

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