・第百二十五話 『急変』
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※4/7 誤表記修正
異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、あのバカ(秋広)はどこへ向かって居るのだろう。
兄貴には皆目見当も付かない。
ただ胸の奥に沸き起こる、沸々としたフラストレーションの塊をどうしてくれようかと。
「きっとあっきーさんなりに、何か考えがあるんだよ。」って?
君は優しいな・・・。
兄貴はもう疲れたよ。
セントバーナード犬と教会さえあれば、すぐにも天に昇っていけるくらいには・・・。
いや、おれだけじゃないぞ。
今回の情報に関しては、さすがの竜兵も途方に暮れている。
それもそうだろう。
どうしてせっかく脱出してきた、人跡未踏・・・氷の世界に戻るんだ?
■
一同絶句。
先に情報を聞いていたであろうローレンとオーゾル、おれの掌の中で「セイ離してー!中身出ちゃーう!」と騒いでいる羽根妖精は別だが・・・。
どうやらおれは、余りの衝撃に羽根妖精を捕獲したことを忘れ、危うくプチっとしてしまう所だったらしい。
慌てて解放したおれにパモが、「人殺しー!」と真っ赤な顔、腕をブンブン振り回しながら突っ込んできた。
ポカポカと軽い音を立てながら、おれの頭を叩くパモを無視してこめかみを押さえる。
うん、頭痛で頭が痛い。
おずおずと言った体、アフィナがおれに声をかける。
「えっとセイ・・・ボクの記憶が正しければ、秋広さん?は『氷の大陸メスティア』から、この『港町カスロ』に渡って来たんじゃ無かったっけ?」
そうだね。
おれの記憶でもその通りだから、お前は間違ってないよ。
今まで押し黙っていたシルキーも、こてんと首を傾げ疑問を投じた。
「え?じゃあ何で・・・メスティアに戻ったの?」
いや、それはおれが聞きたい。
予想の斜め上にも程がある。
(いや・・・でも待てよ?)
そこでハタと思い当たる引っかかり。
さっきまでの話、それとタウンハンター氏の情報で感じた違和感。
「おい、ローレン。確かこの町の船は今、他国に行けないとか言ってなかったか?」
そう、この町の船は今航行不能・・・と言うか、船乗りが自主規制的状態のはずなんだ。
おれの素朴な疑問に、竜兵も同じ印象を持っていたんだろう。
二人揃ってローレンを見つめる。
対してローレンは困り顔。
「それがな・・・。ほとんどの船は出港を見合わせていたんだが、二日前までは一部の血気盛んな船乗りが、出港したらしいのだ。」
「つまり・・・おれたちの探していたタウンハンターも、それに上手いこと便乗して出国した後だったと・・・?」
ローレンの言葉をリレーして、おそらくの当たりを舌の上に乗せる。
当てたくも無い予想が見事に命中、「うむ。その通りだ。」と頷くローレン。
「しかもだな、その時一緒に出たと思われる船のほとんどが帰港しているのだが、タウンハンターを乗せたと思わしき船が戻っておらん。」
やれやれ、いよいよ面倒くさいことになってきた。
これはメスティアに行けたと見るべきだろうか・・・。
それともトラブルに巻き込まれた?
「因みにそれが最大の原因ともなって、現在出航してくれる船が無い。私も伝を頼って要請はしていたのだが・・・。」
そう言ってローレンは、書きかけの書類をおれに見せる。
なるほど、今は協力者を頼って足を何とかしようとしている所か。
だがそういう背景があるなら難しそうだな。
「空はだめなのか?」
深海にあるヴェリオンはまだしも、メスティアには空路で行けない物だろうか?
いや待てよ、ヴェリオンだって上空から侵入して、水中適性の魔法でもかけてもらえば良い。
もしそれができるなら、こちらには『古龍』バイアという鬼札がある。
ローレンもそれは考えていたのだろう。
各々の視線がバイアに自然と集まった。
だが当のバイアは、「無理じゃな。」とあっさり首を振る。
予想はしていたらしいローレンとオーゾル。
「やはりか・・・。」と呟きながらも少々落胆した雰囲気だ。
「じっちゃん、どうして無理なの?」
竜兵は純粋に疑問に思い、己が守護者・・・白髭の老人に問いかける。
おれも同じ気持ち、何かしら理由はあるのだろうが、こんなににべも無く否定されるとな・・・。
「お竜ちゃん、おそらくは『海龍』アリアムエイダの結界があるんじゃよ。『アリポスの谷』上空ではおそらく、わしとてまともな飛行ができんじゃろう。あやつもそれだけの力を持っておるし、海の中で何が起きておるかはわからんが、その直上でなんの影響も無いとは思えん。」
八方塞り、全く持って厄介極まりない。
■
いよいよ詰みの気配が濃厚だ。
うーん、どうしたもんか。
最早秋広の運を信じるしかないかもしれない。
ああ、あいつは運を信じないのが信念だったな。
「竜兵、ここは仕方ない。とりあえず、アリアムエイダのトラブルを解決してから秋広を探そう。」
状況を把握すると共に、どんどん暗くなっていく竜兵。
おれはできることを提示することで、それから目を逸らさせることしか出来ない。
「うん・・・うん!そうだね、アニキ!あきやんのことは心配だけど・・・きっとあきやんも何か考えがあるんだよね。狐の女がホナミ姉だったらって思うけど、今のおいらたちじゃ確かめようも無いし、困ってるドラゴンが居るなら、おいらがしっかりしなくちゃ!」
ぐっと握り拳を突き出してくる竜兵にグータッチ。
とりあえず切り替えは済んだようだな。
おれたちはおれたちにしかできないことをしよう。
きっと秋広もそう考えて動いてるはずだ・・・たぶん、おそらく、きっと。
改めてローレンへ正対する。
「実際問題どうなんだ?お前の伝で船は出るのか?」
ローレンは静かに頷く。
「正直渋る町人を説得するのは大変だったが、さすがに事が事だからな。少々強権を使わせてもらったよ。かねてよりヴェリオン王家とも繋がりのある商会から、潜水船を一艇接収させてもらうことになった。残念ながら船員は確保できなかったがね。」
そうか、とりあえずの船だけはゲットしてあるんだな。
しかし船員が居ないとなると・・・。
「船の操舵は、このオーゾルにお任せ下さい。」
オーゾルができるらしい。
「その船はいつ手に入るんだ?」
「明日の早朝だ。因みに物資の手配もすでに済んでいる。この隠れ家の中にある木箱がそれだ。これを積み込めば、今居る人数をヴェリオンまで運ぶのに、十分事足りるだろう。」
さすがだな。
おれはローレンの手際に感服した。
伊達で諜報員なんてやってる訳じゃないようだ。
「そういう事なら、この辺の木箱はおれと竜兵で運ぶか。」
「おっけー!」
「ん?どういうことだ?」
訝しむローレンとオーゾルは置き去りに、おれと竜兵は木箱の中身を軽く確認。
手分けしてさくさくと、『カード化』及び『図書館』への収納を開始する。
それを見て他の面々も確認作業を手伝い始めた。
驚いたのはおっさん二人。
「セ、セ、セ、セイ君・・・それは一体!?」と、思わず件の天使を想起させるようなドモリを見せるローレン。
オーゾルはあんぐりと口を開けたままだ。
そう言えば『カードの女神』の『加護』について、余り詳しく説明しなかったかもしれない。
ローレンの側まで飛んでいった羽根妖精が、「諦めな少年。奴らは常識では縛れない。そうだろ?」と、なぜかニヒルな口調でポンポンと肩を叩く。
それはなんのネタなのか・・・。
まぁいい、ツッコんだら負けな気がする。
あと突き詰めておかないといけないことは・・・。
黙々と『カード化』と収納を続けながら、この先のことを考えた。
その時・・・。
ガォーン!ガォーン!ガォーン!
ここ数日ですっかり聞きなれた呼び出し音。
「ドラゴンホットライン」の着信音だ。
おれと竜兵は同時に『図書館』から、その銀板を取り出す。
銀板に表示された相手は・・・「パモピモ」。
パモは今ここに居る。
ってことは、ローレンが『略奪者』の手の者に監視で付けたピモか?
(何か動きがあったのかもしれない!)
竜兵も表示名を見ておれを振り返る。
二人揃って一つ頷き、通話の選択。
通話を確認した途端、最近ではもう聞きなれた、パモそっくりな声が響く。
「セイー?リュウー?聞こえるー!?」
「ああ。なにかあったのか?」
「ピモ?聞こえてるよ!」
おれと竜兵の返答に、「よかった!」と叫ぶピモ。
そして少し慌て気味に、今回の通話の件を話し出した。
「ピモがね、見張ってた奴が『略奪者』と接触したよ!相手はドクロ面の奴。」
ドクロ面、あいつか!
『鈴音の町リーンドル』で、おれと相対した『略奪者』だ。
「それでね・・・見張ってた奴が、そいつのことマドカ様って呼んでた!」
(マドカ・・・まど・・・か・・・円谷翔太!!)
「アニキ!」
おれと竜兵は同時に気付く。
円谷翔太、通称『死』のマドカ。
案の定というかなんと言うか、やはり『地球』の『リ・アルカナ』トップランカーだ。
「そうか・・・『死屍累々(コープスフェスティバル)』、『反転』、『魔眼』・・・。」
「うん、アニキ。どうして気付かなかったんだろう。全部マドカの使ってたカードだ。」
そう、全て思い出せばヒントはごろごろ転がっていた。
極端に言えば、『シェイド』も『夢の魂』もアイツが好んで使っていた盟友。
「でねでね!セイー!リュウー!聞いてるー!?」
切迫したピモの声で我に帰る。
「どうしたんだ?」
「ドクロ面の『略奪者』、船を全部壊すって言ってた!!!」
なんだとっ!?
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※少しずつセイたちが『略奪者』の素顔に気付き始めます。