・第百二十三話 『港町』
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異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、「嵐の前の静けさ」って言葉があるだろう?
兄貴は今、それを感じている。
幸いここ数日は、目立ったトラブルも起きていない。
ひとえに竜兵の製作チートの恩恵だろう。
旅の初日に土が付いたおかげで、残念と馬の人も比較的大人しくしてくれている。
いや、それなりにはやらかすんだぞ?
おれの料理の手伝いと称して、握ったおにぎりが砂糖味だったりとか・・・薪拾いに行ったはずが、なぜかモンスター蜂の大群連れてきたりとか・・・。
テンプレはちゃんと踏み抜く辺り、もう呆れを通り越して感心するわ。
それでもリーンドルの事件に比べたらかわいいものだ。
現在もイアネメリラが首ホールド、残念が左手ホールド、馬の人が右手ホールド・・・。
おい、身動きが取れん!
男色ピエロ?
当然お引取り願ったよ、話し合い(物理)で。
■
『鈴音の町リーンドル』を発ってからはや二日。
おれたちは、最初の目的地『港町カスロ』まで徒歩であと半日と言った場所まで来ていた。
まさか出発初日で見事な待ち伏せを受けるとも予想してなかったが、それからの道中は平穏すぎるくらい。
もちろんあれからは大きな町を避け、バイアにも少々長めに飛んでもらい、なおかつ基本野宿で進んできたんだが。
現在は空翔るバイアの背、イアネメリラ、アフィナ、シルキーにがっちりと身体をホールドされたまま移動中。
これは例の男色ピエロ、『愚者の王』カオスがもたらした副産物、置き土産だ。
奴は帰るまでの間、メンバー全員の精神に多大なダメージを与え続けた。
そこには竜兵やバイアも含まれる。
いやまてよ、ダメージ量で言うならおれが一番ですよね?
いろんな意味で。
「りゅ、竜兵・・・たすけ・・・。」
「アニキ、今回はおいらも庇えないよ・・・。」
身動きも取れずに悶えるおれを何処吹く風。
竜兵はバイアの頭の上でどこか遠くを見つめている。
いやいや、兄貴がピンチですよー?
ヴェリオンの貴族な変態紳士。
ローレンとオーゾルは、リーンドルを発つ際に別れた。
彼らはヴェリオンの秘匿魔法と、自分達の能力を使って先行するらしい。
なんでも丸一日ほどでカスロまで行けるらしいのだが、水属性を持たない者は恩恵に預かれないとかなんとか言っていた。
カスロでおれたちを迎える準備をしておくと言っていたし、その言葉に甘えさせてもらうつもりだ。
「タウンハンター」氏のことも調べておいてくれるとは言っていたが、差日の二日間で何か情報を得られただろうか?
まぁそっちは最悪、カスロで別れる予定の竜兵とバイアに任せるしかないだろう。
あと問題は・・・。
クリフォードがセリーヌから受けた神託で判明しているのが、「ヴェリオンが、『略奪者』絡みと思われるゾンビに、断続的な攻撃を受けている。」という曖昧極まりない情報だってことだな。
ヴェリオンが海中に存在する中央政権的国家と言えど、当然国家であるからには町一つじゃない訳だ。
せめてどこから攻撃されてるとか、どの町がまずいとか・・・言うべき事はあったと思う。
神託がほぼ一方通行なのも良くないんだよなー。
まともにクリフォードが質問できるならもうちょっと情報の統制が取れるはず。
(あの神ほんと・・・慌てん坊将軍か・・・。)
おれはホールドされたままの身体と、セリーヌの行動に少々やさぐれつつも、カードゲームの『リ・アルカナ』の知識を、ローレンとオーゾルに確認を取った情報と符合する。
『港町カスロ』から『深海都市ヴェリオン』に至るまで、三つの大きな町というかエリアを想起した。
一つ目は、深緑の海草群と珊瑚礁がどこまでも広がる、大陸棚とでも言うべき長大な砂地、『深海平原』。
二つ目は、『深海平原』の切れ間、突然の断崖絶壁、幅は狭いところで数mから広いところで数km、深さは未だ測定者無し。
最深部には『海龍』アリアムエイダの神殿があると言われる『アリポスの谷』。
そして三つ目、魚人や人魚、水棲系の獣人などが暮らす城下町、『王都アクアマリン』。
当然クリフォードからの親書も預かっているわけだし、『王都アクアマリン』を目指すのだろうが・・・。
厄介なことに『深海平原』、『アリポスの谷』、どちらもショートカットはできないらしい。
定期潜水船なら越えるのは容易だとの話だが、果たしてゾンビーな奴らは今現在どこを、どのように攻めているのか。
素直に船で渡って安全だろうか?
否、おれの予想では、きっと船は襲われる。
逆にそこが一番襲い易い。
おれと盟友だけならたぶん何とかなる。
それこそロカさんが居れば無双じゃないかと。
しかし水中戦は正直遠慮したい所だ。
溺れておれにしがみつく、残念と馬の人が目に浮かぶんだよ。
ローレンやオーゾルなんかは、水の中でも陸上と同様に活動できる付与魔法みたいなのも使えるらしいし、できればその付与を受けて会敵したい。
「アニキ!そろそろ・・・。」
「そうだな、バイア降りてくれ。」
おれの言葉と共に、バイアが少しずつ高度を下げていく。
■
『港町カスロ』・・・この町には城壁が無い。
魔物が溢れるこの異世界、おれが知る限りではどんな小さな村落でも、手製の木柵くらいは見受けられた。
だがこの町に至ってはその類のものが一切無い。
理由は単純、必要無いからだ。
なぜならこの町は一方を外海に、他二方を大きな河川に挟まれた巨大な三角州の上に作られている。
そしてその河川を跨ぐように架けられた二対の橋が、所謂城門の役割を果たしていた。
最後尾に並んでから約一時間。
門番?橋番?から多少の好奇の視線を受けつつも、無事町の中に辿り着く。
今回おれたちは顔を隠すのをやめた。
さすがにおれや竜兵の戦装束を見せる訳にもいかず、茶系の如何にも旅装に見えるローブに身を包んではいるが、他の面々はそのままの格好である。
と言うのも、この町は各国の海の中継点、商取引の要になっているため、実に多種多様な人種が溢れかえっていたからだ。
商人風の人間種が一番多いが、職人と思しきドワーフ族や、吟遊詩人のようなエルフ族、橋番の衛兵は犬系の獣人だったし、鎧姿のトカゲ人・・・所謂リザードマンみたいなのも居る。
まさに人種の坩堝と言えるだろう。
さすがに魔人種や堕天使は見かけなかったので、残念ながらイアネメリラは箱の中だ。
穏やかに吹き抜ける浜風が、アフィナのサイドテールとシルキーのポニーテールを揺らしている。
すれ違う人々が一様に二人を振り返るところを見ると、やはりこの世界でも彼女達は文句なし美少女に分類されるんだろう。
確かに傍目から見ても、健康的な脚線美をミニスカハイソックスで強調するアフィナ、野に咲く一輪の花のようでありながら、そこはかとなく気品を滲ませるシルキー、魅力的だろうなとは思う。
但し・・・しゃべらなければ。
「セイ!お腹空いた!ボク、セイの作ったご飯が良い!」
「セイさん・・・私も・・・。」
これだ。
「今日は宿だ。おれが作る必要無いだろう?」
おれの返答に、二人揃って「ええええ!?」と声を上げる。
野宿してる間は、ずっとおれが料理作ってたじゃないか・・・。
しかもバイアはまだしも、イアネメリラと竜兵以外手伝わないって、どんな了見だ?
(うん、この二人今日は正座させよう。)
おれは密かに心に誓った。
■
大通りを連れ立って歩いていると、向こうから見知った顔が向ってくる。
彼はそれなりに人が溢れる大通りを逆走しているにも関わらず、スイスイとまるで人波を泳ぐかのように寄ってきた。
その男・・・黒髪おかっぱに口髭の中年、『深海都市ヴェリオン』の指導者『水先案内人』オーゾルは、あっと言う間におれたち一行に合流し、最初から同行していたかのように自然な調子で話しかけてきた。
「セイ殿、無事到着されたようで何よりですぞ。ここからはこのオーゾルが案内致します。」
アフィナもシルキーもあんまり冷たい目で見てやるな・・・。
確かに問題のあるおっさんだが、お前らを助けるためにも「一応」がんばってくれたんだぞ?
いや、これ以上はフォローのしようが無いな。
わかったから・・・おれまで睨むな。
露骨に嫌そうな二人から目を逸らし、「ああ、頼む。」と言った所でハタと気付く。
常にツーマンセルで動いていた片割れ、『水星』ローレンの姿が見えない。
(何かあったのだろうか?)
おれの視線に気付いたのかオーゾルは、「少々問題が起きました。」と声のトーンを落とした。
「ローレンに何かあったのか?」
少し心配になり彼の安否を問うおれ。
竜兵とバイアも深刻な表情になる。
対してオーゾルは片手を振り、「いえ、ローレン様に何かあった訳ではありません。」と否定。
そして、「まずはこちらへ・・・。」と手で裏路地を示す。
複雑に入り組んだ裏路地を数分歩く。
(潮の匂いだ・・・。)
気付いたときは眼前に海が広がっていた。
「ここは・・・倉庫街か?」
人気もまばらな港沿いの一画。
大きな倉庫と倉庫の間を通り抜けてきたらしい。
外観はまるで『地球』の刑事ドラマで、銃器や白い粉等を密売する現場のような場所。
オーゾルは迷い無くその一つに向う。
「ここは名目上ヴェリオンの商人の持ち物になっていますが・・・実際にはローレン様と私のカスロでの拠点です。」
そう言って勝手口のような場所を開くオーゾル。
なるほど・・・諜報員ゆえの対策と言った所か?
建物の中は本当に普通の倉庫のようだった。
中身はわからないが、いくつもの木箱が詰み上げてある。
オーゾルはツカツカと壁際まで進み、傍目からは壁にしか見えないその場所に手をかける。
ゆっくりと回転する壁。
所謂アレだ。
忍者屋敷的な・・・。
壁を抜けると、そこには如何にもな執務机に向かい、何か書類を処理しているローレンが待っていた。
「無事についたようで何よりだ。道中は問題無かったかね?」
執務机から立ち上がり、おれへとその右手を差し出しながら問うローレン。
おれはその手を握り、「ああ、概ねな。そっちは?」と答える。
ローレンはそれに、「こちらも道中は問題無かった・・・。」と言うが、その顔色は優れない。
問題が起きたって言ってたからな。
「問題はこの町で起きた?」
おれの言葉にローレン、オーゾルは顔を見合わせ一つ頷く。
つまりは正解。
こんな所で正解したくなかったが・・・。
ローレンは深々とため息をつき、意を決したかのように告げる。
「定期潜水船はおろか、この町の船全てが航行できない。」
そして発された言葉におれは、またしてもなトラブルの悪寒を感じずには居られなかった。
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