・第十二話 『藍の掌(ハンズ・オブ・インディゴ)』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、今日は君のおかげで助かったよ。
兄貴は確信した。
きっとおれと美祈の絆は、時空を超える!
体内の妹成分が不足してきて、少々おかしなことを言ってるかもしれないのは目を瞑ってほしい。
おかしくもなるだろう?
旅の友は子犬と残念過ぎるハーフエルフ・・・
あれ?おかしいな・・・目から汗が・・・
■
「・・・じ・・・るじ・・・主!」
ロカさんがおれのことを呼んでいる。
おれがその声で目を覚ますと、辺りはまだ真っ暗だった。
焚き火の向こうには、明らかに眠っているアフィナに抱きしめられた、ロカさんが居た。
「もう食べられないよ~」などと、テンプレの寝言を漏らす、残念ハーフエルフの頭を殴りたい。
「・・・ロカさん・・・状況が・・・」
さすがに寝起きでこれは予想外だ。
アフィナの魔の手から、なんとか逃れようとロカさんがもがいている。
「むぅ、主・・・我輩も不本意である。この娘、主が仮眠してから半時も立たぬ間に、我輩を抱きしめたまま居眠りを始めた。その上どうやっても起きんのである・・・。」
いや、アフィナが寝落ちるのは、ある意味予想通りだったんだが、ロカさんまで道連れとか・・・
残念のインフレ、予想の斜め上だ。
「それより主・・・。」
「あぁ、なんか変だな・・・。」
ロカさんがおれを起こした理由。
寝る前までは、確かに生き物の息遣いがあった『迷子森』が、異様に静まり返っている。
「帝国・・・の追っ手にしては早すぎないか?」
「で、あるな。」
言葉少なに目線をかわす、おれとロカさん。
まずは残念を起こそう。
おれは自然な感じで起き上がり、アフィナを揺する。
「アフィナ起きろ。」
「・・・んぅセイ、まだ早すぎるよ・・・ボクたち今日出会ったばっか・・・」
まったく起きる気配の無いアフィナ。
それにお前どんな夢見てるんだ?勝手におれを妄想に登場させるな。
なんだか頭痛がひどくなってきた。
「おい残念!いい加減にしろ!」
少々(かなり)怒気を含んだおれの声に、一瞬ビクっとするアフィナだが未だ起きそうに無い。
足手まといにも程があるだろう?
竜兵じゃないがorzな気分だ。
「ロカさん、水。」
おれは諦めた。
■
ロカさんの出した水を、頭にぶっかけられたアフィナがやっと目を覚ます。
「ひどいよセイ!いきなりみ・・・ふごぅ」
大声で非難しようとしたアフィナの口を手で塞ぐ。
非難がましい目で訴えかけてくるが、今は無視だ。
すでにロカさんには魔力を譲渡し、戦闘用の2mサイズになってもらっている。
「何だと思う?」
「帝国の兵士の気配ではない。ただ・・・」
言いよどんだロカさんに、おれは肯定の言葉を繋げる。
「あぁ・・・囲まれてるな。」
はっきりとはわからないが、なんとなく首筋の後ろがチリチリする感覚。
そして木々や岩、草むらなどの遮蔽物から感じる視線のようなもの。
おれがVRの世界でも重宝していた、第六感みたいなものだ。
やっと現状を把握したアフィナを開放すると、耳元に口を寄せ囁いてきた。
「たぶん『静寂』使ってる。風の精霊が警告してくれてるよ。」
ふむ、夜中に『静寂』を使用して包囲か。
完全にギルティと断じていいだろう。
「ロカさんはアフィナを。」
「でもセイ・・・丸腰・・・」
アフィナがおれを案じてくるが、何の問題も無い。
ロカさんが頷いたのを見て、すぐに魔導書を展開する。
「魔導書」
おれの周りに、六枚のカードが浮かび上がる。
それが戦闘開始の合図とでも言わんばかりに、遮蔽物の陰から四本のクロスボウボルトが飛んできた。
くそ・・・こんな時に限って引きがいまいちだ。
自分に向かってきた二本のボルトを避けようとしたが、ボルトはあらぬ方向へ飛んでいく。
ロカさんは爪で二本とも器用に弾いたようだ。
アフィナがおれにサムズアップしている所を見ると、ボルトを逸らしたのはアフィナの魔法のようだ。
・・・初めて役に立ったな。
そんなことを考えながら、カードを選択する。
決して良い引きではないが、使えるもので何とかするしかない。
選択したカードは二枚。
運動強化の『幻歩』と、腕力強化の『藍の掌』だ。
『幻歩』の効果で、おれの足元が揺らめき、体が一気に軽くなる。
そして『藍の掌』の効果で、左手が藍色の光に包まれる。
効果が発動する時には、おれたちに矢を射掛けた連中が姿を現していた。
■
「『暗殺者』だな。」
「そのようである。」
カードゲームの『リ・アルカナ』にも存在した、黒装束に覆面の仕官級盟友『暗殺者』が四人、おれたちの前に立っていた。
しかし腑に落ちない。
カードゲームの『リ・アルカナ』で『暗殺者』のカードは、『レイベース帝国』の陣営ではなかった。
いや、考察は後だな。
おれは姿を現した『暗殺者』と、一気に距離を詰める。
『幻歩』の効果で加速された、おれの速度オが予想外だったのか棒立ちだ。
容赦はしない。
一人を『藍の掌(ハンズ・オブ・インディゴ』で強化された左手で殴りつけると、信じられないことに一撃で『暗殺者』が光の粒子に変わる。
マジか・・・。
ちょっと、夕日が見える海岸とか行きたくなった。
動揺した『暗殺者』二人を、ロカさんが爪であっさりと引き裂く。
その間におれは、もう一人を捕獲した。
「尋問とかできると思うか?」
おれがロカさんに尋ねようとした瞬間だった。
「お兄ちゃん!危ない!」
愛しい美祈の声が聞こえた気がしたおれは、思わず捕獲した『暗殺者』を離して後ろを振り向く。
振り向いた眼前には、刃が黒く塗られた短剣が迫っていた。
とっさに頭をずらして避ける。
短剣は、おれが捕獲していた『暗殺者』の眉間に突き刺さる。
「『女盗賊頭』エデュッサ・・・。」
おれの漏らした呟きに、短剣を投げたであろう女がニヤリとする。
その女は白髪に赤目、南国系のような褐色の肌で、そのグラマラスな体に豹柄のビキニアーマーのようなものを着て、ナイフを何本も弄んでいた。
野生的な美人なのだろうが、男たちがそれを見て覚えるのは欲情や憧憬ではなく、戦慄だろうな。
おれはその女が出す危険な雰囲気に、そう感じた。
「あたいの事を知ってるんだねぇ・・・ま、関係無いけど。」
エデュッサはそう言ってナイフを何本か投擲し、一気におれに飛び掛ってくる。
そしておれは、カードチートの力を再認識することになった。
■
今、おれの周りには五枚のカードが浮かんでいる。
あの後、飛び掛ってきたエデュッサを『幻歩』で避け、『藍の掌』のかかった左手で捕まえ、地面に組み伏せようとした。
そう、おれはあくまで生きたまま捕縛しようとしたのだ。
しかし予想に反し、『藍の掌』の力が強すぎて、そのままエデュッサを地面へ叩き付けてしまう。
そして、人体から出てはいけない「パキョ」という音がして・・・彼女はカードになった。
「・・・さすが主」と、頷くロカさん。
ドン引きのアフィナの膝が笑っているのが心に痛い。
それはそれとして、問題は死んでカード化したはずの五人が、なぜおれの周りに浮いているのか?
その答えに、とてつもなく嫌な予感が過ぎる。
「図書館」
おれが『図書館』を発動すると、周りで浮いていたカードがごく当然と言う様に、黒い本へ吸い込まれていった。
「セイ・・・今のって・・・」
アフィナの疑問の答えが、おれの中ではっきりと確信に変わる。
「アンティ・・・」
おれの呟きが、白み始めた空に消えていった。
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