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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
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・第百二十話 『魔力暴走』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります。

 

 異世界からおはよう。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、今更ながら思うことがあるんだ。

 兄貴達はとても不利かもしれない。

 おれは自分たちのことを、この世界ではチートだと思っていた。

 カードの力をある種自在に扱える・・・それは間違いなくアドバンテージなんだろう。

 でも今日は『略奪者プランダー』の二人もカードを使っていた。

 その辺の雑魚ならどうとでもなるだろう。

 しかし相手は、自分たちとほぼ同位であろうタロット持ち。

 これから先、戦いはことさらに激化していくと思う。

 少なくとも奴らが、怪し気な計画とやらを諦めるまでは・・・。

 一つだけどうしても納得がいかないことがある。

 お前ら、その移動チートやめろゴルァ!

 え?竜兵の製作チート?ナンノコトデスカ?



 ■



 おれはがっくりと項垂れていた。


 「やられた・・・完全に・・・。」


 「ますたぁ・・・元気出して~?」


 慰めるイアネメリラの声も、どこか気まずい雰囲気。

 カオスがぺっとりとおれの身体にくっついているが、直前に起きた出来事のせいで引き離す気力も無い。

 

 「くそ!あいつら逃げるの早すぎだろ!?」


 思わず拳を地面に叩きつける。

 

 そう・・・おれたちはあの状況まで追い詰めたドクロ面に、実にあっさりと逃げられたのだ。

 おれたちを睨みつけ、「殺す!殺してやる!」などとキレているフリをしながら、奴が放った魔法は『魔力暴走』。

 対象の盟友ユニット一体の魔力を暴走させ、爆発、破壊する魔法だった。

 異界化が解かれ弱っている『魔眼デスゲイズ』に向けられたそれを、おれたちは強化魔法の類だと認識した。

 てっきり仕切りなおして向かってくるものだとばかり・・・。

 

 効果に気付いた時はすでに手遅れだった。

 『魔眼デスゲイズ』の球体が不自然にボコボコと脈打ち、無数の目から赤い光が漏れ始める。

 イアネメリラが慌てて、自身の前面へ魔力障壁を展開し、おれがそこへ身体能力に物を言わせてギリギリ滑り込む。

 直後、目の前いっぱいに広がる赤光。


 轟音と閃光を上げて襲い掛かってきた、レーザーのような魔力の奔流を耐えること数秒。

 それが止んだとき、周囲は焼け野原になっていた。

 視界の端、遥か彼方にドクロ面の着ていた白いローブを確認する。

 一瞬で理解する。


 (到底追いつけない。)


 相手が地面を走っていてすらそうなのに、おれの気持ちを裏打ちするかの如く、ドクロ面の姿が何も無い中空に掻き消えた。

 その移動チート、マジで卑怯だからああああ!!!

 叫んでしまうのも仕方ないだろう?

 こっちはせいぜいカーシャの『ゲート』くらい、普段は盟友ユニットの力を借りてえっちらおっちら行軍中だ。

 それでもバイアが飛んでくれるだけ、かなりマシではあるんだが。

 あいつらは普通にワープしてますよね?

 『カードの女神』な幼女様、移動チートの『加護』を要請します。


 それはさておき・・・。

 今ならわかる。

 アイツはおれの攻撃を受けたときも、最初から激昂などしていなかった。

 あの瞬間にすでに逃げることを決めていたのだろう。

 思い返せば『略奪者プランダー』はいつもそうだ。

 帝国と戦っていたとき、最後に現れた猿面の男ツツジ・・・あくまでもキルアを逃がすため、もしくはガイウスを殺害するための時間を稼いでいたように思う。

 『女帝エンプレス』、桜庭春さくらば はるも、奇襲失敗と同時、即座に転身した。

 鳥面の人物なんて、おれは姿すら見ていない。


 こうして改めて見ると、奴らが異常なほど安全マージンを取っているのがよくわかる。

 戦い方にしてもそうだ。

 今回みたいなパターンは完全にイレギュラー。

 基本は陰に隠れ、闇に潜み、暗躍や権謀術数で行動している。

 純粋な戦闘能力は別として、その点に関してだけ言うなら、おれたちは圧倒的に負けていると言えるだろう。

 おれ自身、所詮高校二年生のガキだしな・・・。

 今ここに秋広が居ないのが心底悔やまれる。

 アイツはそっち関係で相当頼りになるんだがなぁ・・・。


 まぁ居ないものは仕方ないし、いつまでも落ち込んでも居られない。

 少なくともアフィナとシルキーは無事救い出せたし、なんとか『反転リバース』の影響も少ないうちに着地できたんじゃなかろうか。

 さて、事後処理を始めるか。

 目立ちたくは無いが、ここまで騒ぎになれば今更だろう。

 

 「おい、そろそろ離れろ。」


 ずっとぺったりと張り付いたまま、いつのまにかおれの服のボタンをはずそうとしているカオスを、ジト目で睨む。

 

 「ええ~?せっかくもうすぐで脱げるのに~?」


 いや、脱がす必要性がわからんのだが。

 イアネメリラさん?おれは悪くないですよね?

 なんで腕が力いっぱい抓られてるんですかね?


 「それからアフィナもそろそろ開放してやれ。」


 うん、白目向いてて怖いからね。

 「ほいほーい♪」と、軽い返事でカオスが手を振るい、アフィナが正しく糸の切れた人形のようにカックンとへたりこむ。



 ■



 (さすがに地面に直は無いな・・・。)


 とりあえず『図書館ライブラリ』から出した毛布を地面に敷き、カオスの『傀儡』から開放されたアフィナとシルキーを横たえた所で上空から声が聞こえてきた。


 「アニキー!」


 「兄者君、無事かのぅ?」


 竜兵とバイアが、『翼竜ワイバーン』の背に乗って向かって来ている。

 一度上空で旋回し、ゆっくりと降りてきた二人は随分と心配していたようだ。

 おれは二人に軽く手を上げ、「こっちは何とかな・・・アフィナとシルキーも助け出せた。ドクロ面には逃げられたけどな・・・。」と答える。

 竜兵も渋い顔だ。


 「ごめんアニキ!おいらも狐面の女を追い詰めたんだけど、相手の使役してた盟友ユニットに掻っ攫われて逃がしちゃった!」


 そう言ってペコリと頭を下げる竜兵。

 バイアもバツの悪そうな顔をしている。

 無論それを責められるはずも無い。

 おれだって逃がしてるしな・・・。


 「まぁ仕方ない。こと逃げるのに関しては、相手がおれたちより上だって認識できただけでも収穫があったと思おう。最大の目標であるアフィナとシルキーの救出は成功したんだしな。」


 まぁこの先に色々な課題を残す結果にはなってしまったが。

 おれの言葉にしっかりと頷く竜兵。

 どうやら気持ちの切り替えは済んでいるようだ。


 「それでね・・・アニキ・・・。」


 少し言い辛そうに、竜兵は言葉を詰まらせる。


 (他にも何かあったんだろうか?)


 おれが目線で促すと、「おいらもさっき思い当たったことで・・・正直信じたくは無いんだけど・・・。」と前置きしてから、想定外のことを話し始めた。


 「おいらが戦ってた狐面の女・・・『氷河期アイスエイジ』と『氷の天使』アリュセのコンボ使ってたんだ。それに武器が鉄扇二本、『華鳥扇』だった・・・。」


 氷属性強化及び火属性弱体に、ネームレベルの制限によるアリュセ無双のコンボか。

 確かに強力、むしろそれを打ち破った竜兵がすごい。

 武器は鉄扇・・・閉じて叩く、縁で切る、広げて防ぐと汎用性が高いが使いこなすのは難しい。

 なかなか渋い選択だな。


 (・・・ん?・・・『華鳥扇』???)


 すごくモヤっとした。

 なんだろう、この感覚は。

 首を捻ったおれと、それを見て逆に確信したような表情になる竜兵。


 「アニキ・・・。狐面の女ってホナミ姉じゃない?」


 突然告げられた名前。

 そして突如脳裏に溢れ出す膨大な情報。

 全ての情報が、糸で括りつけられるように繋がっていく。

 ホナミ・・・鈴原保奈美すずはら ほなみ・・・『節制テンパランス』のホナミ!

 おれたちとも仲の良かった少し年上、女子大生のトップランカー。

 優しく美人で面倒見の良い彼女は、上級者は元より初心者からも信望の厚い人物だった。

 おれたちの中では特に竜兵が懐いていた。


 そうだ・・・!確かにそうだ!

 夢の中でどこか聞き覚えのあると思った声。

 あれはホナミの声だったのか。

 考えろ・・・おれはいつからホナミに会って居ない?

 『地球』で最後に会ったのはいつだ?

 零れたパズルのピースが埋まっていく。

 それはいつもの日常。

 期せずして突然『サプライズ』に集まった、おれたち以外のタロット持ち四人。

 残りの三人は顔がぼやけて思い出せないが、はっきりと思い出せるのはPUPAピューパに乗り込んでいく彼女の後ろ姿。

 それが最後、そこから彼女と会っている記憶が無い。

 おれは竜兵と顔を見合わせた。


 「竜兵・・・。思い出した。たぶん間違いない。狐面はホナミだ!」


 

 竜兵はもうすっかり青い顔だ。


 「アニキ・・・だとしたらあきやんは!」


 ああ、まずいな。

 おれのようになぜかはっきり覚えて居ない可能性もあるが、もしその姿を見せられて思い出したなら・・・秋広はホナミを敵と認識できるだろうか。

 いや、本当にホナミは敵なのか?

 実際に事を構えたおれですら信じられない。

 むしろ『地球』での彼女を思い出すほどに、「なぜ?」という疑惑が深まる。


 「それにアニキ・・・。アリュセは自分の意思があるように見えたんだ。」


 「どういうことだ?」


 『カードの女神』は言っていた。

 『略奪者プランダー』に使役される盟友ユニットは、等しく自己の意思を持たないように見えると。

 その質問に答えたのはバイア。


 「兄者君、アリュセはわしと戦っておった。しかしのぅ、お竜ちゃんが狐面の女を気絶させた瞬間、全ての行動を捨てて彼女の元へ飛び、抱き上げるとそのままどこかへ飛んでいってしまったんじゃ。」


 竜兵も説明を補足する。


 「うん、じっちゃんをドラゴンモードにするのも憚られて・・・とてもじゃないけど追撃はできなかったんだ。」


 それはいい。

 今回は本当に全てが後手後手だった。

 しかしおれたちの盟友ユニット同様、意思を持つ英雄か・・・。


 その時、音も無く現れる二人の男。

 一人は天パの茶髪になまず髭、もう一人は黒髪おかっぱの口髭男だ。


 「ふむ。どうやら美少女は無事のようだな。」


 「このオーゾル、心配で胸が張り裂けそうでしたぞ!」


 なんだか騒がしいおっさんたちも寄ってきたし、この続きはまた後でだな。

 おれたちはアフィナとシルキーを抱え上げ、宿屋への帰路につくのだった。





ここまでお読み頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お待ちしてます。


※まさかの「勝利へのルート」不発。

戦闘を楽しみにしてた方ごめんなさいw

え?最初から期待してない!?


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