・第百十九話 『魔眼(デスゲイズ)』
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※セイ視点、いつもの扉ドッゴーンからです。
昨日待っててくださった方すみません。
PCの前で気絶(寝落ち)してて、気付いたら朝の四時でしたorz
異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、相手はこちらを良く知っているらしい。
兄貴の記憶には全く引っかからないのだが・・・。
思えば猫面の女、桜庭春を見たときも、おれはその顔をしっかりと認識していたにも関わらず、ウララに言われるまで思い出せなかった。
きっとドクロ面や狐面の女、はたまた猿面の男ツツジや、鳥面の男もそうなんだろう。
おそらくはカードゲーム『リ・アルカナ』のトップランカー、タロットの称号持ちである誰か。
奴らが何のために仮面を被るのか。
そしておれは、なぜ奴らの誰一人として思い出せないのか。
謎は深まるばかりだ。
■
ゴッガァン!
轟音を上げて強固な門扉、異界化した大鐘楼のそれが、内側へと吹き飛ぶ。
この世界に来てから、おれが門やら扉を破壊して進むことの何と多いことか。
決して破壊衝動に駆られているとかでは無いことをわかってほしい。
おれは悪くない、開かないのが悪い。
門を抜けた先には、捩くれた大鐘楼だった尖塔と、本来ならば美しい庭であっただろう・・・今は見る陰も無く毒々しい色合いの草木が茂る広場。
そして尖塔の前、まるでチャペルの階段のようになっている場所、一番上段には『夢の魂』に拘束され、虚ろな瞳で佇むアフィナとシルキー。
おそらくは『夢渡り』によって意識を奪われているのだろう。
階段の一番下にドクロ面の『略奪者』。
ドクロ面が、おれとイアネメリラの姿を見止めて呟いた。
「なるほどな。イアネメリラが居たのか・・・。」
たぶん自分の呪い魔法が弾かれたことの答え合わせ。
「お前らの目的は何だ?」
素直に答えるとは思っていない。
しかし聞かずには居られなかったおれ。
ドクロ面はそれを見ても特に反応はせず、「ノックにしては少し派手すぎないか、『悪魔』?」と、嘲るように続ける。
(言葉遊びでもしたいのか?)
ドクロ面はおれを見据えて問いかけてくる。
「一つだけ聞こう。『悪魔』、お前は帰りたくないのか?」
「・・・帰りたい。いや・・・必ず帰る。」
おれは決意も新たに拳を握り締めた。
その返答を聞いたドクロ面は、「ならば邪魔をするな。」と吐き捨てる。
意味がわからない。
表情が窺い知れぬドクロ面をまっすぐ見据え、必要なことは言わせて貰う。
「この世界の住人に、迷惑をかけるな。」
途端ドクロ面から放たれる気配が、敵愾心そのもの、不穏なものに切り替わった。
「この世界の住人?これはゲームだろう。少なくとも俺は、俺たちはそう思っている。」
「・・・なんだと?」
自分でも声が昏くなることを止められない。
こいつらは本気でそんな事を考えているのか?
だがおれよりも先に、ずっと抑揚の無い言葉で話していたドクロ面が声を荒げた。
「いいか『悪魔』!これはゲームなんだよ!考えても見ろ・・・生物が死んでもカードに変わる?ふざけるな!そんな現実があってたまるかっ!」
奴らにも何かあるのかもしれない・・・それでも、おれは認めない。
「お前がこれまで何をして、今何を思うかは知らない。それでも諦めろ。これが現実で、この世界には確かに生きている人々が居る。何度でも言うぞ。この世界の住人に、迷惑をかけるな!」
殺気を孕んだおれの警告に対しても、ドクロ面は飄々とした態度で答える。
「知ってるよ『悪魔』、お前偽善者だもんなぁ?」
(偽善者か・・・。)
以前『地球』でも同じ言葉をかけられた。
あれは誰にだったのか。
やはり『略奪者』は、おれのことを知っているのかもしれない。
おれの想起を寸断し、ドクロ面が続ける言葉。
「俺は・・・『地球』に帰りたいんだ!!!」
それは絶叫・・・もしくは慟哭だろうか。
魂が泣いているかのような声だった。
話しこんでいる間にも鐘は鳴る。
自身のライフが緩やかに、だが確実に削られていると体感する。
イアネメリラが「ますたぁ・・・。」と硬い声で案じていた。
そうだな・・・最早、問答は無用。
おそらくどこまで行っても平行線だ。
「二人を、返して貰う。」
相手は既に『魔導書』を展開している。
用件だけ端的に。
もちろんそれだけで済ましはしないが。
しかし、ドクロ面から返ってきたのは憮然とした雰囲気。
「やれやれ、俺は大人しくしていろと言ったはずだがな・・・。」
そう言ってドクロ面の男は『魔導書』のカードを二枚選択した。
灰色のカード一枚がドクロの紋章三つに変わり、召喚の理を唱える。
『混沌の海の退廃者、その身に怨嗟を纏いし者、我と共に!』
(この詠唱は・・・!)
背筋を冷や汗が伝う。
ドクロ面が持っていた金箱から、いつもの召喚光があふれ出す。
■
現れたのは・・・宙に浮かぶ2mサイズ、毒々しい紫の球体。
球体の至るところに細長い亀裂。
しばしの静寂の後、その亀裂が一斉に開く。
その亀裂の中にあったのは、目、目、目・・・。
中央に一際大きな血走った眼。
異界の英雄級盟友『魔眼』だ。
逸話で語られる、ギルド『伝説の旅人』が全盛期の時代。
世界の滅亡を企む邪神を討つ為に、異界へと乗り込んだ『蒼槍の聖騎士』ウィッシュたちを、手荒い歓迎で迎えたとされる邪神の側近。
『反転』され異界化したフィールドでしか召喚できないが、その強さは同じ英雄級であっても他の盟友と一線を画す。
特に厄介なのがその『特技』、『石化の魔眼』・・・読んで字の通り、その魔眼から放たれる光を浴びると石になる。
まさかこんな隠し玉があったとは・・・これは本格的にまずい。
おれも『魔導書』を展開し、構えた所で声をかけられる。
「おい『悪魔』・・・動くなよ?」
それはドクロ面の男。
油断無く身体はおれの方を向きながら、いつのまにかその手に握ったカードを、アフィナとシルキーに向けている。
おそらくは何がしかの攻撃魔法。
『夢の魂』によって拘束された二人、無防備で食らえば当然その命を散らすだろう。
イアネメリラが音も無く距離を取ろうとするが、先んじて「イアネメリラ、お前もだ!」と釘を刺され、その動きが止まる。
『魔眼』の全身が赤く発光を始め、『石化の魔眼』を放とうとしているのが理解できた。
勝利を確信しているであろうドクロ面。
どこか寂しげに呟いた。
「じゃあな偽善者。そこで仲良く、石になってろ。」
詰んでいる・・・。
普通ならそう思うのだろう。
だがそれは、おれには当てはまらない。
例えどんな盟友、それが規格外の異界の英雄級だったとしても、すでに布石は打ってある。
その証拠に、おれとドクロ面が話している間に、腰に下げた金箱から報告があった。
「旦那、掌握したよ♪」と・・・。
いよいよ『魔眼』から『石化の魔眼』が放たれる・・・!
まさにその直前。
キュドッゴン!と音を立て、炎の飛沫をあげながら紫の球体が傾ぐ。
「なにっ!?」
おれとイアネメリラに注目していたドクロ面は、その現象がわからない。
まぁおれ自身、思いのほか高威力でびっくりしたんだが・・・。
カオスが『傀儡』にしたから出せたのか?
これが本来のアイツの力?
まぁそれはいい、今は詮索している場合でもない。
『魔眼』を、風纏う火球でぶっとばしたのは、そう・・・我らが誇る残念美少女、エルフとドワーフのハーフなボクっ娘、アフィナ・ミッドガルドその人だ。
彼女は相変わらず虚ろな眼をしたまま、魔法を放った体勢のままで佇んでいる。
「貴様!?一体!」
ドクロ面が、おれたちの視線の先を見て驚愕した。
金箱から『愚者の王』カオスが飛び出し、「よいっしょぉ♪」の掛け声と共にアフィナを引き寄せる。
「おっとと~♪」など、少々大袈裟に騒いでカオスがアフィナを抱き上げ、イアネメリラはそれを庇うように移動した。
「くそがっ!!!」
感情を露に口汚く罵りの声を上げ、残ったシルキーを害そうと動くドクロ面。
(だが遅い・・・。)
奴の一瞬の隙を突き、おれはカードの選択を終えていた。
『混沌の絆』
静かに、呟くように唱えた魔法。
その効果は強制転移。
ドクロ面は慌ててこちらを振り返る。
おれとシルキーの足元・・・正確にはシルキーを拘束する『夢の魂』の下から紫の煙が吹き上がり、その煙が消えた先ではお互いの位置が入れ替わっていた。
カオスがおれの居た場所に現れた『夢の魂』へ、「シェイドブラスター八号♪」などと謎の技名を叫んで、『傀儡』していた哀れな『シェイド』を叩きつける。
確か当初は「シェイドバズーカ三号」とか言ってた気が・・・。
いや、よそう。
気にしたら負けだ。
一方おれは、くったりとしたシルキーを右手で抱き寄せ、状況に追いつけないドクロ面の腹をその左手、『魔王の左腕』で殴りつけた。
「ガッハァァァ!!」
苦鳴を上げ、派手に吹き飛ぶドクロ面が、『魔眼』を巻き込む。
そして東側、東門の前に現れたモノリスが長大な水飛沫と共に砕け散り、ほどなくして西門側も後を追う。
異界化し、毒々しいマーブル模様になっていた空が割れ、朝焼け差し込む本来の空が戻ってきた。
町並みも徐々にその様相を変えていく。
それに伴い、かなり高位な存在であるはずの『魔眼』が、すっかり萎縮していた。
ドクロ面もよろよろと身を起こす。
「殺す・・・!殺してやる!」
そう繰り返すドクロ面に、当初の余裕はすでにない。
そりゃそうか、そんなもんがあったら人質なんて取らないよな。
「うわー、急に三下感が出てきたね♪」
言ってやるなカオス。
カオスの言葉に思わずイアネメリラも苦笑いだ。
おーけー、勝利へのルートは見えた。
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