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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
125/266

・第百十八話 『氷河期(アイスエイジ)』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


※三人称視点。

竜兵&バイアVSホナミの続話です。 


 竜兵は、手にした愛用の大剣『竜王の牙』を振りかざし、狐面の女・・・ホナミへと向けて突進する。

 突然激昂した竜兵に、その場に居た誰もが付いていけない。

 爆発した殺気を向けられたホナミは元より、老練なバイアですらその瞬間、思考が止まった。

 それもそうだろう。

 直前まで彼は努めて冷静に、その若さをどこか忘れてしまうほど、穏やかに話しているように見えたのだから。

 しかしそれは、あやふやな情報、不安定な足場の中、少年が必死で保ってきた理性的判断に過ぎない。


 彼の心の中、異世界に無理矢理連れてこられ、右も左もわからずに居た自分を、優しく迎え入れてくれたバイアや、『竜の都』のドラゴンたち。

 そこに向けられた、謂れの無い悪意である鳥面の行為。

 敬愛する兄貴分、セイを助けるために遭遇、会敵した猿面の男。

 伝え聞くのは幼馴染の姉貴分、ウララを巻き込んだ猫面の女、『女帝エンプレス桜庭春さくらば はるの暗躍。

 ずっと安否を気にかけていた秋広の情報。

 そこに浮上した「狐の女」と言うキーワード。


 実際に会ったその女が口にしたのは、「知らない、どうでもいい、邪魔をするな。」と言う言葉。

 ストレスの積み重ね・・・それの限界が訪れた。

 ホナミの不用意な言葉は、竜兵の心の柔らかい部分に刃を突き立て、その傷口をグリグリと抉る行為に他ならない。

 

 さすがにその時になって、ホナミも我を取り戻し、素早く後退。

 「魔導書グリモア」の呟きで、彼女の眼前にA4のコピー用紙サイズ、六枚のカードが現れる。

 しかし竜兵は怯まない。

 

 「ふっざけるなああああああああああ!!!」


 裂帛の気合と共に、鉈のような大剣、その片刃を振り下ろす

 その小柄な体躯からは、到底考えられないほどの斬撃。

 身体強化魔法の『沸血ボイルブラッド』の効果と、確かな怒りに裏打ちされたその一撃は、バックステップで下がっていたホナミにも、明らかに自身の回避能力を凌駕するものであると知らしめた。

 仕方なし、素早くカードを一枚選択。

 召喚のことわりを唱える暇も無い。

 インスタント召喚で現れた、巨大なカイトシールドを持つ帝国兵、『盾兵士』が竜兵とホナミの間に割ってはいる。


 ズゾンッ!!

 

 肉を断ち切る鈍い音。

 竜兵の放った一撃は、構えた大盾ごと、全身鎧に身を包む『盾兵士』を両断した。

 ホナミの呼び出した盟友ユニット、『盾兵士』がカードに変わる。

 その間に距離を開けるホナミ。 


 追撃は無かった。

 竜兵はバイアの、「お竜ちゃん!冷静になるんじゃ!」の声で我を取り戻し、油断無く『魔導書グリモア』を展開する。

 竜兵の前に浮かぶカードは四枚。


 (やむおえないか・・・。)


 ホナミにとって、状況は最悪に近い。

 すでに戦闘準備が整っている『ストレングス』の竜兵。

 そして彼の盟友ユニットである小型とは言え、決してその力を侮ることはできない『火鱗竜ファイアドレイク』の存在。

 更に何者かはわからないが、どう見ても強者に思える白髭の老人。

 その上、てっきりウララと会敵するものだと思い、メタと言われるような対策カードばかり組み込んできていた。

 この状態で竜兵と戦うのは危険極まりない。

 『地球』のカードゲーム時代、竜兵は決して片手間に倒せる相手ではなかった。

 ほとんどセイと戯れているばかりの彼だが、他プレイヤーとの戦績には目を見張るものがある。

 相性の問題でセイを圧倒的に苦手にしているだけで、竜兵もやはり世界ランキングに名を刻む猛者なのだ。

 

 それはわかっている。

 わかってはいるがホナミに、他の選択枝は無い。

 このまま黙ってモノリスを破壊させる訳にはいかないのだ。

 ホナミもまた覚悟を決めた。

 

 『魔導書グリモア』のカードを選択していく。

 五枚の手札の内、実に四枚。

 武器、特殊環境魔法、召喚・・・そしてコストだ。

 この後『悪魔デビル』のセイと戦っているであろう、ドクロ面の仲間を救援に向かわなければいけないのだが・・・。

 竜兵相手に出し惜しみをして、とてもどうにかなるとは思えなかった。

 むしろウララ対策を揃えた『魔導書グリモア』で、今有効なカードが三枚も引けていることを僥倖に思う。


 ホナミは特殊環境魔法『氷河期アイスエイジ』を発動した。

 彼女の使用したカードから冷気が迸り、モノリスを中心とした直径20mほどのドーム型結界が構築される。

 そして愛用の鉄扇、『華鳥扇』を閉じた状態で十字に構え、灰色のカード一枚を雪の結晶型紋章クレストに変換。

 厳かに召喚のことわりを唱えた。


 『雪の精霊統べる者、冷たき風を運びし者、我と共に!』


 金色の召喚光の後に現れたのは・・・水色髪のショートボブ、氷で出来た四枚羽根を持つ騎士鎧姿。

 冷貌の女天使。

 

 「主よ・・・敵は彼の者か?」


 その冷たい美貌には似つかわしくない、鈴を転がすような可愛らしい声で天使が問いかける。


 「そうよ。排除して。」


 淡々と答えるホナミ。


 「『氷の天使』アリュセ・・・!」


 その者の名は、少し青ざめた竜兵が呟いた。



 ■



 『反転リバース』の要であるモノリスの周囲。

 そこは今、直径20mほどのドーム型、氷の世界と化している。

 図らずも竜兵にとってその盟友ユニット、特殊環境魔法『氷河期アイスエイジ』、共に相性が最悪だった。

 『氷の大陸メスティア』の英雄級盟友ユニット、『氷の天使』アリュセの『能力アビリティ』、『孤高』・・・常時発動のそれは、ネームレベルの存在を限定する力。

 厳密に言えば、一定エリア内で称号持ちの盟友ユニットを、敵味方双方一体ずつしか呼び出せないと言う物。

 つまり敵方はアリュセ、こちら側は『古龍』バイアしか存在できない。


 その上ホナミが作り出した氷のフィールドは、氷属性の強化と火属性の弱体化を招く。

 火属性を持つ『火鱗竜ファイアドレイク』は元より、火と天属性のバイアもその影響で、弱体化を受けてしまう。

 逆に氷属性であるアリュセの動きは、実に悠然としていた。

 今はその羽根から打ち出される氷の弾丸を、竜兵もバイアも避ける、もしくは手にした得物で弾くことで手一杯。

 『火鱗竜ファイアドレイク』に至っては、すでに何発か被弾して苦しげに身悶えている。

 その動きは、可愛そうなほど鈍くなってしまっていた。

 

 そしてこれまた異な事に、竜兵の手札四枚には称号持ちのカードが三枚。

 現状の打破は難しい。

 

 「こりゃ、さすがにまずいのぅ。」


 バイアも完全に攻めあぐねていた。

 避け続ける事は不可能でもない。

 しかし反撃できるほどの余裕もない。

 せめて本来の姿になれれば、なんとかしようもあるのだが・・・。

 唯一の救いはこのフィールド、『反転リバース』した『鈴音の町リーンドル』の効果、鐘の鳴る毎にライフが減少するそれを、完全に無効化していることだけだろう。


 一方竜兵は、アリュセの放つ氷弾を避けながら、この戦い方にどことなく懐かしさを覚えていた。

 それが何を意味するのかはわからずに。

 されど何処と無く重要な気もする。


 (アリュセ・・・『氷河期アイスエイジ』・・・。)


 この戦い方は見た覚えがある。

 やはり『略奪者プランダー』が同郷、『地球』からの転移者であることは、もう疑う余地が無かった。

 それと共に違和感も覚える。


 『地球』からの転移者、タロット持ちのトップランカーだったならばなおのこと、彼女の言動と行動がちぐはぐだ。

 狐面の女はアリュセに、「排除して。」と言っておきながら、自身は攻撃に参加していない。

 この状況でアリュセと狐面、双方に襲われれば竜兵やバイアとて無傷では済まない。

 それにアリュセの攻撃もまた、命を狙うものにしては随分と疎か。

 避けようと思えばずっと避けていられる程度の物だ。

 

 (もしかして・・・!)


 すっかり冷静さを取り戻した竜兵は、『魔導書グリモア』のカードを一枚選択する。

 そのカードは『土槍アースグレイブ』。

 単純な攻撃魔法、地面から土の槍を産み出して対象を攻撃する。

 ただそれだけの魔法だ。

 対象はモノリス。

 地面から生まれた土槍が、モノリスを貫こうとした瞬間、ホナミは慌てて扇を開きその土槍を受け止めた。


 (やっぱり!)


 疑惑が確信に変わる。

 向こうはこちらを積極的に排除するつもりはない。

 目的はあくまで時間稼ぎ。

 竜兵は叫ぶ。


 「じっちゃん、モノリスだ!あれを壊せば、おいらたちの勝ちだ!」


 「くっ!」


 気付かれたホナミは一気に苦しくなった。

 『竜棍』を縦横に振るうバイアを、必死でアリュセが押し留め、モノリスに迫る竜兵を自分が防ぐ。

 武器の性能だけで言えば、そこまで差がつくわけではないが、身体強化の魔法をかけた竜兵。

 更に言えば、守るべき物が近くにあるものと、それを壊そうとするもの。


 それでも戦いは膠着していた。

 初手で放った『氷河期アイスエイジ』の効果が大きい。

 このままならドクロ面が『悪魔デビル』を排除するまで持たせられる。 

 ホナミは確かな手ごたえを感じていた。

 しかし、その均衡は突然破られる。

 

 バシャッ!ボゴォーーー!!ビギギギ・・・


 突如東側・・・そう、東門のモノリスが水飛沫をあげて爆発した。

 それに伴い町を覆うマーブル模様の空にひび割れが入る。


 「なっ!?」


 ホナミは意味がわからない。

 東側にはセイや竜兵はおろか、その盟友ユニットですら向かっている形跡は無かった。

 東門のモノリスは放っておいて良いはずだった。

 ゆえにホナミは、西門のモノリスを守るためにここで戦っていたのだ。


 (おっちゃんたち・・・やったな!)


 『深海都市ヴェリオン』が誇る凄腕諜報員、『海星』ローレンと『水先案内人』オーゾルは、二人でその使命を成し遂げたらしい。

 

 「あと、一つ!」


 気合を入れなおし、モノリスへ突撃する竜兵。

 それを「させない!」と、ここにきて初めて声を荒げ阻止するホナミ。

 バイアとアリュセの攻防も、双方決定打に欠けるまま継続中。


 だが、誰もが忘れていた。

 彼はずっとそのタイミングを狙っていた。

 何か事態が動き、誰もが自分を意識外へと追いやってしまう瞬間。

 彼は怒っていた。

 自分の主の憤りを、その心に感じて。 

 だから彼は・・・傷ついた『火鱗竜ファイアドレイク』は、その残された力でモノリスに体当たりをぶちかました。


 「えっ!?」


 バギャーン!


 モノリスを粉々に砕き、カードに転じる『火鱗竜ファイアドレイク』。

 そして・・・完全に粉砕される『反転リバース』の効果。

 元の町並みに戻っていく『鈴音の町リーンドル』。

 何が起きたかわからずに呆然としてしまうホナミと、『火鱗竜ファイアドレイク』の献身に気付き、「ごめんね。ありがとう。」と呟いた竜兵。

 明暗ははっきりと分かれた。

 

 直前で大剣を逆側、刃の付いていない方へ向き変えた竜兵の横薙ぎの一撃が、狐面の側頭部へ吸い込まれる。

 易々とホナミの意識を刈り取った。





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