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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
123/266

・第百十六話 『愚者の王』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^

 異世界からおはよう。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈には何度も言ってるが、『砂漠の瞳』っていうのは、この世界『リ・アルカナ』の中にある魔族の国、集合体コミュニティみたいなものだ。

 兄貴の『魔導書グリモア』にはその所属がとても多い。

 君主だった『金色こんじきの瞳』リザイアを筆頭に、『反乱者』アリアンや『暗黒騎士』アルデバラン、それから『女盗賊頭』エデュッサもだな。

 今回呼び出した『愚者の王』カオスもそうなんだが・・・。

 君は覚えているかな?

 カードゲームの頃はそんなことは無かったのに、VRバーチャルリアリティが導入されてからと言うもの・・・好んで『砂漠の瞳』所属盟友ユニット、ひいては闇属性を使う人が激減したのを・・・。

 一般的にはクセがありすぎるだとか、VRバーチャルリアリティに対応していないカードが多いだとか・・・そんな理由がまことしやかに囁かれていた。

 「だがそれがイイ!」

 天邪鬼な兄貴は確かにそう言った。

 でもここに来て気が変わりそうです。

 前述の理由はおそらく建前だぞ。

 今なら自信を持って言える。

 闇属性って、変な奴ばっかりじゃねーか!

 え?おれも闇属性・・・oh・・・。



 ■



 時刻はおそらく早朝にさしかかっているだろう。

 おれとイアネメリラが見守る先。

 異界と化した空間を、まるで「すてててて」とでも言うような軽い足取りで、青白ストライプのピエロが走っていく。

 それはどこか軽軽しい動き。

 自分の勝利を信じて疑わぬ、絶対の強者たる余裕が見て取れた。

 敵勢の『シェイド』と『夢の魂』が、理解外にも警戒しつつ距離を取る。

 あくまでも一定距離を保つ。

 決して接近戦は許さないという陣形だった。


 カオスは無造作に距離を測り、これ以上近付けば相手が動く・・・そんなギリギリのところで立ち止まる。

 そしておもむろに右手を一閃。

 敵勢に向けて、何でも無いことのように撫でるように振り抜く。

 その動きに合わせて地面で水溜りになっていた固体や、中空を漂っていた人型のそれが、丁度五体、まるでつんのめったように引っ張られた。

 カオスは、遠目からでもわかるほどの真っ赤な口紅に彩られた唇の端をニンマリと歪め、指をピストルの形に握る。


 「BANG♪」


 いっそ清清しい、あるいはさわやかな口ぶり。

 先ほどひっぱられた『シェイド』の内一体が、50cmほどの球体に変わり、今までのゆらゆらした動きからは想像できない速度で飛んで行く。

 球形に変わった『シェイド』が、空に浮かぶ『夢の魂』にぶちあたり、バキャン!と音を立てて砕け散った。

 これは『物理無効』の身体同士がぶつかりあった為に起きる現象。

 おれの拳を無効化できる身体も、十分な速度を持ったお互いの身体による激突には耐えられない。


 砕けた『シェイド』だった弾丸と、『夢の魂』だった水色の球体は、光の粒子を出したかと思うとカードへ転じる。

 おれがさっと右手を伸ばせば、そこに吸い寄せられるように二枚のカードが飛んできた。

 従来のアンティルールが発生したことで、改めて『略奪者プランダー』の使役する盟友ユニットだったと確認できる。

 

 カオスは更に右の拳を握り、握ったそれを大きく開く仕草をする。

 

 「BOMB♪」


 場違いなほど明るく、そして可愛らしいカオスの声。

 抑えきれない笑いをかみ締めるような、なんとも悪戯っぽい声だ。

 今度は『シェイド』四体が、隣の『シェイド』に抱きついた。

 双方もがきながらの数秒間、先に抱きついた方が少しだけ不思議な光を出すと、抱きつかれた方の『シェイド』を巻き込んで小規模な爆発を起こす。

 煙が晴れれば、そこにはカードが八枚浮いている。

 そのカードも、もちろんさっさと回収するのは忘れない。


 カオスの動きは止まらない。

 続いて両手。

 握った拳を広げて万歳の姿勢。

 そこから一気に両手を振り下ろす。

 「底引き網~♪」なんて、気の抜けた掛け声も忘れない。

 

 最初に右手を振るった時同様・・・いや、今度は倍の10体が空中で何か見えないものにひっかかったような動きをする。

 「そぉれ♪」と無邪気な声を上げ、両手をパンっと小気味良く打ち鳴らす。

 直後10体の『シェイド』が、見えない手で拘束されたかのような動きでお互いの身体をぶつけ合い砕け散る。


 タン・タタンと踊るように軽やかなステップ。

 カオスが指先を敵に向かって伸ばす度に、ビクリと身を震わせ一切動けなくなる『シェイド』たち。

 おれの使役する盟友ユニットたちのように生身の身体や意志があるなら、きっと恐怖や驚愕の感情に包まれていただろう。

 しかし、彼らは純粋なエネルギー体とでも言うべき精霊の一種であり、ましてその思考も使役者の命令によって塗り固められている。

 明らかに勝ち目の無い相手と、延々ダンスを踊る羽目になった『シェイド』や『夢の魂』は、おれの目にはいっそ哀れにすら映った。



 ■



 ほどなくしておれたちを阻む、時間稼ぎの部隊は全滅した。

 まぁ途中油断したカオスが『夢の塊』から攻撃を受け、あわや夢の世界に飛びかけた所をイアネメリラがビンタで起こすというイベントもあったが・・・。

 うん、あれ起こすためだけじゃなかったよね。

 カオスの顔に描かれたペイントの上からでも、頬に付いたモミジがしっかりと確認できる辺り、色んな感情の込められたビンタだったことは想像に難くない。

 おかげでカオスは、戦闘後もすっかりほっぺたを膨らませ唇を尖らせた不満顔だ。 

 なんだかやたらご機嫌に見えるイアネメリラと、さすがに今は目を合わせたくない。


 カオスの『特技スキル』は『傀儡』。

 両の指五本ずつ、計10本から発せられる不可視の霊糸によって、他者を操ってしまう力だ。

 これだけ聞くとチートも大概と思うが、当然弱点もある。

 それは精度。

 今回『傀儡』にしていたのは仕官級の『シェイド』、ゆえに一度に10体同時に自由を奪っていたが、これが将軍級なら一度に五体まで、指導者級なら一体相手に50%の確率、英雄級相手なら一体に20%・・・五回に一回しか成功しないというところまで落ち込む。

 所謂弱者に強く、強者に弱い典型のような『特技スキル』だ。

 まぁ霊糸という、半ばエネルギーみたいな物で操るからこそ、相手が精霊のような非実体や何であっても、同等の効果を期待できる点はメリットだな。

 それと操った者の力を勝手に引っ張り出せてしまうことも強みだ。

 そういう意味では、身体を自由に形態変化できる『シェイド』が相手だったのは、渡りに船だったとも言える。


 あと特筆すべき点は・・・カオス本人は驚くほど弱い。

 たぶんガチンコしたら、普通に仕官級に負ける。

 今も『傀儡』で捕縛した『シェイド』を一体、ズリズリと引きずりながら付いてきているのを見れば押して知るべきだ。

 「シェイドバズーカ三号」とか名付けていたのは聞かなかったことにする。

 ねぇ?なんでおれの盟友ユニットってこんなにイロモノ、キワモノしか居ない訳?

 サーセン、おれが選んだんでした。


 リーンゴーン・・・


 一息つきたい、なんて言う間も無く鐘が鳴る。

 そろそろ一般の町人なんかは辛くなってくるかもしれない。

 おれ自身、結構な力が抜けていっているのを感じる。


 ドゴォ!ズズン!


 西側の大道で、大きな火柱と爆発。

 合わせて飛行型の魔物、おそらくは召喚された盟友ユニットが何体か飛んで行く。


 (あっちは竜兵か・・・。)


 さっきの爆発はたぶん、竜兵の盟友ユニットであるドラゴンが放った『吐息ブレス』じゃないかと当たりを付ける。

 気持ちはわかるが、民家に被害は出さないでくれよ・・・。

 『反転リバース』が解けたら、そこは焼け野原だったとか・・・さすがに笑えない。

 まぁバイアが付いているはずだし、無理はしないだろう・・・と思う。


 無理矢理自分を納得させて、なかなか近づけない大鐘楼に向けて走る速度を上げた。


 「旦那、走るの疲れた~。おんぶ~♪抱っこでもいいよ♪」


 カオスがおれに追随しながらわがままをのたまう。

 やめてください。

 イアネメリラさんから発せられるオーラが、冷気を伴って襲い掛かってくる。


 「うふふ~。カオス、疲れたなら私が引きずってあげるよ~?」


 こわ・・・。

 イアネメリラさん、完全に「ひきずる」って言ってたよ?

 

 「お前ら、そろそろだ。少しは緊張しろ。」


 おれの苦言に対し、「了解。」「はーい。」とイアネメリラの真剣な声、カオスの気の抜けた声で返事が返ってくる。

 実際に、先ほどまで遠かったはずの大鐘楼が、距離感を完全に無視して目の前に出現しつつあった。

 竜兵から預かった銀板。

 アフィナとシルキーの現在地を示す光点も、目の前に顕現し始めた大鐘楼の中を指し示している。

 こりゃ結構、ややこしい術式が仕込んであるのかもしれない。

 相手の出方はまだはっきりとしていないが、人質を取られているマイナスを十分認識しておかないといけない。


 (準備は今のうちだな。)

 

 「魔導書グリモア。」


 おれの目の前に浮かぶA4のコピー用紙サイズ、五枚のカード。

 カオスを呼んでからドロータイミングが一回か。

 二枚のカードを選択、一枚をイアネメリラへ。

 

 「幻歩ファントムウォーク


 いつもの運動強化魔法、『幻歩ファントムウォーク』を発動。

 全身が一気に軽くなる。

 なんとかの一つ覚えと言われようが、この魔法の使い勝手と汎用性は捨てられない。


 イアネメリラに渡したカードの詠唱・・・人の耳では決して聞き取れない、そして聞こえたとしても理解不能なそれが終わる。

 彼女が渡してきた赤い輝きを纏ったカードを発動する。


 『専属召喚・魔王の左腕』


 おれの左手に現れる禍々しくも荘厳な手甲。

 バイアには多用するなと釘を刺されたが・・・出し惜しみはしない。

 最初から全開で行くつもりだ。

 頭の中に、無機質な女性の声でインフォメーションが流れる。

 

 【魔王の欠片を確認・限定条件の解除】


 『魔導書グリモア』の中、今まで灰色だったカードが光を放つのを確認し、一度『魔導書グリモア』を閉じる。


 「カオス、念のために箱に入っておけ。」


 「あーい♪」


 おれやイアネメリラの緊張をよそに、全く気負わずに箱に潜むカオスを見送り、おれは目の前・・・大鐘楼の門扉を見据える。


 「ますたぁ・・・。」


 少し不安気なイアネメリラに一度首肯を返し、拳を腰だめに丹田の構え。

 ゆっくりと深呼吸。

 おれはしっかりと閉じられたその門扉に向けて己が左拳、『魔王の左腕』と化したそれを力いっぱい叩き付けた。





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