・第百十五話 『夢の魂』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、『略奪者』の連中は何を考えてるんだと思う?
兄貴が思うに、決して碌なことじゃないとは想像つくが。
計画?が達成されたら『地球』に戻れるとか言ってたよな。
おれがわかっている情報では、遺失級転移魔法『回帰』以外の方法はみつかっていない。
少なくともこの世界の神である『自由神』セリーヌはそう言っていた。
セリーヌが嘘をついてたとは到底思えないんだよな。
それとも本当におれたちが知らない別の方法があるんだろうか?
だとしてもだ・・・。
奴らの計画で、この世界の住人が被害を受けているのは間違いない。
おれだって、最初は無理矢理連れてこられたこの世界、そこに怒りや憤りもあったけれど。
かかわった人間たちに、無為の感謝や真摯な謝罪を受ければ気持ちは揺らぐ。
今回のことだってそうだ。
奴らが危険視しているのは、交わした会話からしてもおれなんだろう。
にも関わらずアフィナやシルキーを人質に、この平和な町を異界へと変異させた。
同郷のよしみだ・・・。
おれが直々にOshiokiしてやる!
■
大鐘楼広場に面した宿屋の窓。
距離的には目的地までそう距離は無かったはずだ。
それこそイアネメリラの『飛行』なら、数分で着くはずの距離。
そう・・・少なくともこの町が『反転』されるまでは。
露店が並び、売り子のおっちゃんが元気に声を張り上げていた大通りも、子供や老人が和やかにベンチで過ごしていた広場も、今は異界のそれ。
自分達の都合しか考えて居ない『略奪者』。
きっと優先順位はあるのだろう。
奴らの中で優先順位は危険分子である「おれ」の排除。
どの国でもそうだったが、この世界の住人・・・それも平和に和やかに暮らしていた者たちのことなど一考だにしていない行いだ。
奴らが引き起こした悪意の結果に、身体の底から怒りの感情が湧き起こってくる。
リーンゴーン・・・
捩くれて天を刺す大鐘楼の鐘が、思考を切り裂くように鳴り響く。
同時に襲ってくる、実害を伴った倦怠感。
おれの手に自身の腕を絡めて空を飛ぶイアネメリラも、その美麗な眉を顰めている。
どうにも時間の余裕は無いようだが、異界化している町は、ほんの数分で辿り着けるように見える大鐘楼までずいぶんと遠く感じる。
イアネメリラが静かに告げた。
「ますたぁ・・・敵!」
彼女の視線の先に目を向ければ・・・確かに敵と思しき人影がある。
人影と言っても、それは明らかに人ではない。
人の形はしているがゆらゆらと輪郭をぼやけさせながら、全身がまるで闇そのもの・・・中には伸び上がったり縮んだりを繰り返し、水溜りのような形状になっているものもある。
「『シェイド』か・・・。」
『精霊王国フローリア』所属の仕官級盟友だ。
間違いなく『略奪者』に使役されている固体だろう。
それが目に見える範囲で約30体。
地面にも居るが、空中に浮いているものも居る。
「ますたぁ、奥には『夢の魂』も居るみたい。」
イアネメリラの指し示す方向を見れば、『シェイド』たちの奥に隠れるように、点滅する水色の球体が五体ほど。
『夢の魂』は『天空の聖域シャングリラ』の将軍級盟友だ。
(なるほどな・・・おれの夢に出てきたのはアイツの能力か。)
『夢の魂』の持つ『特技』、『夢渡り』・・・対象の夢の中へ移動できる。というそれを思い出し、VRではなく、現実世界でそれをされることの危険性と嫌悪感を再認識する。
正直全部倒して回るのも面倒臭いし、遥か上空からやり過ごしても良いんだが・・・。
放置で突っ切った後に、いざ『略奪者』と戦闘中、バックアタックを受けるのも馬鹿らしい。
明らかな時間稼ぎのそれを、やむなく殲滅していく算段を立てる。
「メリラ、降りてくれ。潰していく。」
「了解。」
ゆっくりと降下していく最中『魔導書』を展開。
おれの目の前に、A4のコピー用紙サイズのカードが六枚浮かび上がった。
(さて・・・どうしたもんか)
カードを確認しながら考える。
この後にメインディッシュである『略奪者』二人と、目標であるアフィナ、シルキーの救出が控えている以上、手札の消耗は極力控えたいところなんだが・・・。
よろしくないのは敵側の盟友、『シェイド』も『夢の魂』も、『能力』として『物理無効』を持っている。
純粋に「物理で殴る」では倒せない。
まぁ腕力強化とかはまだしも攻撃力強化系の魔法、もしくは『魔王の左腕』召喚等なら、魔力を拳に乗せることでそれなりの効果を出せるかもしれないけどな。
ある意味ではおれの対策として、納得せざるおえない布陣だ。
他の面々、竜兵やバイアならまだしも、ローレンとオーゾル側にも敵の待ち伏せがあるだろうと考えると、中々ハードモードかもしれない。
■
こういう時、おれの『魔導書』の弱点が浮き彫りにされる。
どうしても強者と戦うのを優先されているため、雑魚に群れられると結構辛いものがあった。
しかも『物理無効』は普通にだるい。
これがウララなら、光属性攻撃魔法の『閃光』辺りで一掃だろう。
たぶん使役者に厳命されているんだろう。
一定距離からは決してこちらに近付かない敵勢を見据えて、イアネメリラが尋ねてくる。
「ますたぁ、どうするの?」
「そうだな・・・。」
手札を確認し、この状況での最善の一手を模索する。
気は進まない・・・気は進まないが、おそらくはこいつが一番良い。
脳裏に過ぎる変態が浮かべた満面の笑み。
おそらく似たような問題が起きるだろうが、今引いているって事はそういうことなんだろう。
半ば諦念しつつ、おれは二枚のカードを選択する。
灰色のカード一枚を、目の形の紋章三つに変換。
光り出したもう一枚を見ながら、召喚の理を唱えた。
『砂漠の瞳の狂えし者、愚者たち全てを統べる者、我と共に!』
おれの詠唱を聞いたイアネメリラの表情が、見る間に曇っていく。
わかってる!おれもわかってるんだ!
カードと紋章が金箱に吸い込まれ、蓋がゆっくりと開く。
辺りが金色の召喚光に包まれる。
「ヤッホー!旦那~♪」
場違いに過ぎる、やたら陽気な声を上げて現れたのは、身長約150cm、だぼっとしたストライプの服を着て同じ柄のクラウン帽を被った人物。
顔には大袈裟なペイントが施され、パッと見ではその表情が読めない。
所謂アレだ。
サーカスに出てくるピエロそのもののような格好。
違うのは真っ赤な付け鼻をしてないことくらいだろう。
その人物は、折れ曲がったクラウン帽の先に付く小さなポンポンを振りながら、突撃さながらの勢いでおれに向かって飛んできた。
激突する前にガシっと頭を捕まえる。
「くそっ!予想通りか!」
「アアン!旦那のイケズゥー!」
イアネメリラは額を手で押さえ、「ますたぁ・・・よりにもよって・・・。」と頭を左右に振っている。
気持ちはわかる。
正直おれも同じ気持ちだ。
おれが呼び出したのは『砂漠の瞳』の指導者級盟友、『愚者の王』カオス。
現状を打破するのには最適、されどその行動はおれの危険(特に貞操)を伴うと言う、厄介な盟友だ。
「カオス!『シェイド』と『夢の魂』をどうにかしろ!」
受け止められているにも関わらず、なおもおれの手の中でジタバタと暴れるカオスに、一方的に命令を下す。
ややあって諦めたのか、とりあえず着地しておれを上目遣いで見ながら、唇を尖らせる。
「久しぶりに呼んどいて・・・抱擁もせずに敵へと突っ込ませる。旦那の鬼畜!」
ひどい言い草だ。
いや、状況的にはあながち間違っていないが、なにゆえ抱擁が必要なのか。
おれはカオスを、ジト目で睨みながら更に言い募る。
「うるさい、じゃれあってる暇は無いんだ。早くやれ。」
チラッチラッと横目で敵勢を盗み見ながら、必死におれの腕を握ろうと手を伸ばすカオス。
「ご褒美!ご褒美を所望します!旦那の子供が欲しい!」
働く前から何がご褒美だ。
それに子供がどうとか・・・頭痛が加速する。
だから呼びたくなかったんだ。
リーンゴーン・・・
響き渡る鐘の音。
身体にまとわり付く倦怠感が増す。
今のところそう影響は無いが、続けば不利になるのは明らかだ。
「いい加減にしないと、私も怒るよ~?」
イアネメリラが怒気を抑えもせず、近寄ってくる。
表情こそまだ笑顔だが、目が全然笑っていない。
うん、超怖い。
カオスは慌てておれの背中に隠れると、「んべっ」と舌を出しイアネメリラを挑発する。
おい、まじでやめとけ。
イアネメリラもちょっと待て。
その手に産み出した魔力の塊をどうするつもりだ!?
「後で飴ちゃんやるから、とりあえずがんばれ!」
「飴ちゃんって旦那の身体から出る?」
戦闘前とは思えない会話だ。
おれの身体から飴はでねーよ。
それにお前の視線はなんで下半身に釘付けなんだよorz
セクハラで訴えよう。
「カ・オ・ス?」
イアネメリラさんの声がとてもとても冷たい。
おれより先に彼女がプッツンしそうだ。
カオスはようやく諦めたのか、「ふっふーん、イアネメリラ様のやきもち焼きー!旦那はみんなの旦那なんだよ!」などと、更にイアネメリラを挑発しながら敵勢の方へ走っていく。
おれとイアネメリラは顔を見合わせ、盛大なため息をついた。
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