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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
121/266

・第百十四話 『反転(リバース)』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^




 リーンゴーン・・・


 リーンゴーン・・・


 リーンゴーン・・・


 こんな時間に絶対鳴るはずの無い大鐘楼の鐘が鳴る。

 それも三度・・・。

 不気味なほど静かな町並みが、一瞬の静寂の後どこかしら慌しい空気をまとい始める。

 家々のカーテンが少し開かれ、そこから漏れ出す幾つもの灯り。

 さすがにすぐ外に飛び出す者なんかは居ないようだが・・・。


 竜兵は表情をぐっと引き締め、タブレットPCサイズの銀板を食い入るように見つめていた。

 彼が語ったその銀板の性能。

 アフィナとシルキーを指しているであろう赤い光点は、すごい速さではないがそれでも少しずつ移動しているのがわかる。

 いや、地図の尺図から考えるとすごい速さなのかもしれないが、そこはおれには判断できない。

 その時隣室・・・アフィナとシルキーを寝かせたはずの部屋とは逆側の一室からノック。 


 「イアネメリラ様、セイ君・・・何事だ?」


 「ローレン、開いてるから入ってくれ。」


 さすがに扉越しに話すような内容じゃない。

 おれの声音からトラブルの匂いでも感じ取ったのだろう。

 ローレンとオーゾルがさっと部屋に侵入し、後ろ手にドアを閉める。

 この辺りはさすが熟練の諜報員と言ったところか。


 彼らはおれたちと情報交換をしてすぐ、宿に十分な謝罪をした後、おれの取った部屋の隣の一室に移動してきていた。

 さっと部屋を見回す二人。

 開け放されたままになっている、おれたちの部屋続きの小さめの部屋。

 アフィナとシルキーの姿が無い事を一瞬で理解した様子が見えた。

 それでも情報の把握なんだろうな。

 「何があった?」と聞いてくるローレン。 


 「アフィナとシルキーが攫われたようだ。おれも呪い魔法で、夢から攻撃を受けた。」


 ローレンとオーゾルの瞳が剣呑な輝きを孕む。

 そして勝手に盛り上がっていく。


 「あのような美少女たちを攫うとは・・・神が許しても、このオーゾルが許せませんな・・・。」 


 「よく言ったオーゾル!それでこそ誇り高きヴェリオンの貴族よ。」


 竜兵のおかげで位置こそ判れど、それなりに緊張状態のおれたちを尻目に、がっちり握手するおっさん二人。

 いやいや、お前らかっこつけてるけど覗き犯だったからね?

 ヴェリオン襲撃話の一段落で、「あれ(覗き)も演技か?」と聞いたとき、二人揃って「あれ(覗き)は地だ!いや、むしろ我々の義務だ!」と自信満々頷いたのを、おれたちは決して忘れない。


 「アニキ・・・!止まった。」


 竜兵の声で我に帰る。

 言うとおり、赤い光点は動きを止めていた。

 


 「大鐘楼じゃの・・・。」


 バイアがポツリと呟く。

 もはやそれは確認と言うよりも諦念に近い。


 (ああ・・・やっぱりな。)


 そうだろうよ。

 どう考えてもそれしか思いつかない。

 ある意味テンプレ、余りにも芸は無いけれど八割方の予想通り・・・光点は地図上の大鐘楼で止まっていた。

 おれたちもまるで同じ気持ちだ。


 「アニキ、夢の中で襲われたって事は・・・相手見たの?」


 おっと、うっかりだ。

 竜兵に確かめられなかったら、危うく話すチャンスを逸脱してしまうところだった。


 「間違いない。『略奪者プランダー』だ。」


 「やっぱり・・・。」


 竜兵は半ば予想していたのだろう。

 彼を筆頭に、おれたちの盟友ユニット、ローレンとオーゾルも尚一層表情を引き締める。

 

 「夢の中で遭遇したのは二人。二人とも見た事が無い奴だった。一人はドクロ面、もう一人は狐面の・・・女だ。」


 「狐の・・・女!」


 おれの言葉に竜兵は即座に反応する。

 竜兵もおれと同じ見解に至ったようだな。

 

 「とりあえず・・・追うぞ!」


 まずはアフィナとシルキーを助けなければ・・・そんな気持ちばかり急く状態。

 イアネメリラがとても心配そうに見つめてくるが、奴らがおれに対し「大人しくしていろ。」と言ったことも考えれば、逆におれに動かれると困ると言う見方もできる。


 ズズン・・・ゴゴゴゴッ


 (なんだ!?)


 さっと装備を整え、いざ部屋から出ようとしたところで、腹に響くような振動が宿の床を伝ってやってくる。

 窓から身を乗り出し外を確認。

 竜兵も同様だ。


 「「なっ!」」

 

 さっきまで深夜の・・・そして平穏な町並み、そして一際目立つ大鐘楼は、まるで異界のような禍々しい物に変わっていた。



 ■



 赤と黄色、それに緑のマーブル模様に広がる空。

 到底人が作ったとは思えない、異様な捩れ方で天に向かうようそびえる大鐘楼。

 大鐘楼から左右に伸びた通りの端、東西の門前に突如生まれたモノリス。


 「やられた・・・!」


 「アニキ!フィールド魔法だ!」


 おれと竜兵は同時に気付く。

 カードゲーム『リ・アルカナ』にも存在したフィールド魔法。

 特定の地域を丸ごと変質させてしまう魔法だ。

 今回のはおそらく・・・『反転リバース』。


 元を正せば、この世界の人やアイテム、それどころか町や地名ですらカードゲームの名称を踏襲している。

 『鈴音の町リーンドル』もそうだ。

 つまり、この町と同じ名称のカードが存在する。

 カードゲーム時代、地名のカードを場に出せば、その土地が持つ効果を引き出すことが出来た。

 それはエリア魔法よりも遥かに広い範囲。

 そして本来ならばプラスの効果ばかりの土地カード。

 これを逆転させ、マイナス効果を浮上させるのがフィールド魔法『反転リバース』。

 

 「アニキ・・・『鈴音の町リーンドル』のリバース効果覚えてる?」


 不安を滲ませた竜兵の声に、黙って首肯を返す。

 どうも竜兵は覚えていなかったらしい。

 残念ながらおれは覚えている・・・。

 思い起こせばさっきの三連続の鐘が、正しくこの効果の開幕の合図だったのだろう。


 「鐘が一つ鳴るごとに、この町に存在する者はライフを削られる。」


 簡単に言ってしまえばそれだけ。

 だがこれが地味に効く。

 おれたちや指導者、英雄級の存在ならまだしも、この町に住む一般の人々は完全にアウト。

 しかもおれたちに巻き込まれる形と言うことで、おれや竜兵の罪悪感を煽る効果まで付与されている。

 なんともはや・・・えげつない。

 おれの顔からその辺まで察したのだろう。

 竜兵が思わずと言った体で、「うげ!最悪!」と吐き捨てる。


 「おいら『反転リバース』は持ってないんだよね・・・。アニキは・・・持ってるわけ無いよね。」


 逡巡し、おれに確かめる前に答えに辿り着く。

 そう、土地の『反転リバース』は、もう一枚『反転リバース』をかければ元に戻る。

 しかし竜兵はそれを持っていないのは知っていた。

 彼は土地にマイナスをかけるのではなく、逆に『成長グロウス』・・・効果を上昇させる魔法しか持って居ない。

 マイナス効果を成長させたら目も当てられないだろう?


 そしておれ・・・土地をどうこうってのは、準備に時間がかかるんだ。

 皆まで言わせるな。

 要は、スタイルに合わないから持ってないんだ。

 だが解決策が無い訳じゃない。

 現におれはカードゲームの時代、そのやり方で何度も対戦相手の『反転リバース』を破壊している。


 「竜兵も知ってると思うが、『反転リバース』には要がある。今回は東西のモノリスを壊せば解除できるはずだ。だが・・・。」


 そこで言いよどむ。

 相手だって『地球』のタロット持ち。

 そんなことは重々承知している。

 奴らが大人しくそれを許すだろうか?

 答えは断じて否。

 破壊しなければいけないモノリスは二つ、そして救出目標のアフィナとシルキー。


 「我々がそのモノリスを一つ受け持とう。」


 話を黙って聞いていたローレンが口を開く。

 だがそれは・・・いや、ある意味ローレンとオーゾルはこの件に関して適任かもしれない・・・。

 もしかしたら『略奪者プランダー』の二人は、おれ以外を補足していない可能性もあるしな。

 呪いの夢だって竜兵は見ていないし、イアネメリラに解呪されるのも想定外だったように見えた。

 きっとローレンとオーゾルのことは全く眼中に無いだろう。


 「頼めるか?」


 しばしの逡巡の後、おれは素直に協力を願った。

 二人は、「もちろんだ。」「このオーゾルに任せてくれ。」と頷く。

 「竜兵は・・・。」と声をかける時には、もうすでに竜兵の準備は整っている。


 「アニキは大鐘楼に向かって!」


 そう言ってアフィナとシルキーの光点を灯した銀板を差し出す竜兵。

 おれも覚悟を決め、差し出された銀板を受け取る。

 

 「竜兵、ドクロも狐もおれの記憶には無いが、向こうはおれの事を知っていた。一方的に情報を知られていると言うのは余りにも不利だ。十分に気をつけろ。」


 頷く竜兵を尻目に、イアネメリラに手を引かれ、宿屋の窓から一気に空へ身を乗り出す。

 一瞬後に身体を包む浮遊感。

 おれを送り出し竜兵が叫ぶ。


 「おっちゃんたちは、おいらとじっちゃんでフォローするよ!アニキはとにかくあっちゃんとシル姉のことだけ考えて!」


 おれはサムズアップの竜兵を振り返り、「わかった。」と静かに頷いた。




 


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