・第百十三話 『ドクロ』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、新しい事件だ。
兄貴は今日も振り回される。
いつも通りアフィナやシルキーがなんかしたんでしょ。って?
いや、今回は違う。
逆にそうだったらどれだけ良いか・・・。
あいつらのしでかす事は、ある意味害が無い。
あるとしてもせいぜい、本人とおれにくらいだ。
まぁ露天風呂破壊の実績もあるし、おれに害がある時点でかなり問題では?と言う意見、ここはあえて見なかった事にしよう。
今回ばかりはあいつらのせいじゃない。
それがはっきりとわかっていた。
■
夢を・・・見ていた。
はっきりと夢だとわかるのに、自分の意識はしっかりしている。
遥か上空から眼下を見下ろすような、まるで幽体離脱して空を飛んでいるかのような・・・。
この感覚には覚えがあった。
そう、いつも美祈を見ることが出来るあれだ。
眼下の町並み、深夜だ・・・。
完全に寝静まったような住宅街、きっとおれたちの住んでいた『地球』の町だろう。
そう思ったが、不思議なことに全く見覚えが無い。
少なくともおれたちが住んでいた町ではないようだ。
それに普段ならすぐに美祈を見つけられる。
しかし今日に限って一向に見当たらないし、その存在すら感じることが出来ない。
(これは・・・いつもの夢とは違うのか?)
怪訝に思いつつも、町並みを見下ろしながら滑るように移動していく。
なぜかはわからない。
けれどそっちへ行かなければいけないような気がした。
しばらくして住宅街は姿を消し、いかにもなオフィス街へと様相を変える。
自分の意志と無関係に、身体が進み続けた。
いつのまにか低空飛行になっている。
歩く高さよりは高いが、それでもせいぜい二階くらい?
それこそ無理すれば飛び降りても平気なくらいの高さに感じる。
ビルの合間を縫うように進み、一つの高層ビルの前で自然と動きが止まった。
高層ビルの正面玄関、階段を上がった先、ちょうどおれの目線と同じくらいの場所に、二人の人影がおれに背を向けて立っていた。
見覚えのある白いローブ。
二人の人物がゆっくりとおれに向き直る。
「・・・来たか。しかし本当に、ヴェリオンに向かっているとはな。」
「そのようね。まぁおかげでわたしたちが接触できたようだけど・・・。」
静かに振り返った二人の顔を覆うのは、ドクロを模した面、そしてもう一人は狐を模した面。
美祈と会うときはお互いの姿を確認はできないが、この二人はまっすぐおれの居る中空を見つめている。
おれの姿が見えていると思って間違いないだろう。
(『略奪者』・・・!)
状況は飲み込めないが、あれが敵だと言うことはわかる。
話し声、体型からしてドクロの方は男、狐の方は女だろう。
(狐?・・・女!)
何度も聞いていた情報が、ここにきて繋がった。
暗躍している狐の女って言うのは、狐面をつけた女の事だったのか。
秋広の人の良い笑顔が脳裏に浮かぶ。
あいつは大丈夫だろうか・・・。
おれは静かに問いかけた。
「お前らは何者だ。何の目的で動いている?」
二人の『略奪者』は黙して答えない。
ややあってドクロの方が口を開いた。
いや、お面で見えないが声が聞こえてきたんだ。
「それをお前が知る必要は無い。こちらからの要求はただ一つ。余計なことをせず、大人しくしていろ『悪魔』のセイ。」
おれのことを正確に『悪魔』と認め、そのあだ名「セイ」を口にする。
やはり・・・こいつらはタロット持ちなんだろうか?
確かにこの世界でも何度か『悪魔』は名乗っている。
だが状況から考えて、それが奴らの情報源とは思えなかった。
少しでも情報を引き出したい。
その行動が理解できないとは言え、同郷・・・『地球』の人間なら・・・。
「お前らも・・・タロット持ちなのか?」
おれの問いにドクロ面は「・・・ほう。」とどこか感嘆した声を漏らし、対して狐面の女は一瞬だけ身体を強張らせた。
すぐに平静を取り戻したように見えるが、その反応で十分。
疑惑は確信に変わる。
こいつらは間違いなくタロット持ちだ。
だが一体誰なのか?
それがさっぱりわからない。
『地球』に居た頃、何度も対戦してきたはずの他のタロット持ちの人間は、なぜか霞がかかったように一向に脳裏に現れない。
■
おれの思考を遮り、ドクロ面が淡々と告げる。
「どうしてその事由に辿り着いたかは知らんが・・・我々には我々の理由がある。邪魔立てするなら容赦はしない。」
ドクロ面の身体から、一気に殺気が膨れ上がる。
夢の中なはずなのに、背中に冷たい汗が流れるようだった。
「魔導書。」と小さく呟いたドクロ面の前に、A4のコピー用紙サイズのカードが四枚現れる。
くそ!問答無用ってことか!
慌てておれも「魔導書。」と念じるが、おれの前にカードは現れなかった。
「なっ!?」
「無駄だ・・・ここではオレ以外、『魔導書』を使えない。」
(なんだそれ!?)
これじゃ一方的に攻撃されてしまう。
しかしその時、狐面の女がドクロ面とおれの間に割って入った。
「おい・・・。」と声をかけ、狐面の女にどくように指し示すドクロ面に、女は「少しだけ待って。」と頼む。
カードは展開しつつも、狐面の女に従うのかドクロ面は静かに腕を組んだ。
「セイ、貴方は何のために、この世界の住人を助けているの?」
「・・・人を助けるのに理由が要るのか?」
正直な感想だ。
だがそれでは彼女は納得できなかったらしい。
「面倒事が大嫌いな貴方らしくないのよ。『地球』に帰りたくは無いの?」
確かにおれは面倒事が嫌いだが。
狐面の女はおれのことを知ってるんだろうか・・・。
いや、ドクロ面もおれのことを知ってるような気がする。
おれはなぜ思い出せない?
狐面の女はなおも言葉を続ける。
「私たちの計画が成功すれば、貴方も『地球』に帰れるわ。だから大人しくしてて欲しいのよ。」
(どういうことだ?)
「おい、しゃべりすぎだ。」
ドクロ面が狐面を制し、何事か小声で話す。
おれは一石を投じてみることにした。
「おれは『地球』への帰還方法を知っている。この世界の住人を救うのも、その一環でもある。」
「・・・え?」
「・・・なんだと?」
面のせいで表情こそわからないものの、明らかに驚愕する二人の『略奪者』。
更に言葉を続けようとするも、それは叶わなかった。
世界が激震する。
「キャア!」と悲鳴を上げる狐面と、「くっ!まずい、破られる!」と叫ぶドクロ面。
ドクロ面はおれを見据えるときっぱり言い放った。
「良いか『悪魔』、余計な事をするな!さもなくば女の命は無い!」
(女・・・!?アフィナ?シルキー!?)
「おい待て!女って・・・。」
皆まで言い終わる前に視界が開ける。
おれは夢から目覚めた。
■
寝ていたベッドから跳ね起きる。
まだ外は暗い。
明け方とも言いにくいような時間に思える。
おれにくっついて寝ていたはずのイアネメリラが、「ますたぁ!」と叫び飛びついてきた。
隣で寝ていた竜兵とバイアも、騒ぎに目を覚ましたようだ。
ひどい頭痛がする・・・吐き気もだ。
それが先ほどの夢を現実だと再確認させる。
「アニキ・・・!ひどい顔色だよ?」
「兄者君、何があったんじゃ?」
竜兵とバイアはおれの只ならぬ様子に気付き、口々に声をかけてきた。
疑問に答えたのはイアネメリラだった。
「ますたぁに呪い系の魔法がかけられたのに気付いて・・・咄嗟に解呪したんだけど、かなり強力な奴だったみたいで・・・。」
むかむかする胸と、止まない頭痛を堪えながら、おれは起き上がった。
「竜兵・・・アフィナとシルキーが・・・やばいかもしれん。」
「な、なんだってー!?」
やっとの思いで言葉をひねり出し、そのまま隣室へ向かおうとする。
途中でがっくりと膝を突いてしまう。
イアネメリラの言った通り、かなり強力な呪いがかかっているのかもしれない。
「ますたぁ!」「アニキ!」「兄者君!」
三者三様におれを心配する声。
イアネメリラがおれを優しく抱き上げベッドへ向かう。
竜兵がアフィナとシルキーが居る筈の隣室へ。
「だめだアニキ!二人とも居ない!」
やっぱりか。
くそ!ドクロ面の野郎・・・何を企んでる・・・。
「アニキ!安心して・・・こんなこともあろうかと・・・。」
竜兵が突然、『図書館』を展開した。
中から一枚のカードを選択し、『カード化』を解除。
それはよくあるノートPCサイズの銀板だった。
竜兵が銀板に魔力を流し込むと、銀板にまるで地図のような文様が浮かび上がる。
地図には赤く輝く二つの光点。
まさか・・・。
「竜兵・・・それは・・・。」
おれは何となく理解してしまう。
理解はしてしまうが・・・それはあんまりじゃないか?
目を丸くするおれたち三人に、サムズアップの竜兵が語る。
「もしもの時の為に、あっちゃんとシル姉のブレスレットには追跡機能が付いてるのさ!この光点が二人の今居る場所って訳。おいらが考えたって、あの二人はアニキのアキレス腱だもん、対策くらいするよ!」
竜兵すげええええ。
すげーけど、もうなんかどうしていいのか・・・。
だが自重しない弟分のおかげで、最悪は回避できそうだ。
その時、本来ならありえないことが起きた。
リーンゴーン・・・
朝昼晩の三度しか鳴らないはずの大鐘楼の鐘。
その鐘が深夜の真っ只中で鳴り響いた。
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