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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第一章 精霊王国フローリア編
12/266

・第十一話 『迷子森』

ブクマありがとうございます。

励みになります。


※4/26 微修正しました

 異世界からこんにちは。

 おれは九条聖くじょう ひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、君は今どうしているだろうか?

 兄貴は今ちょっと引いている。

 チートとかおれTUEEEEとか、アニメやラノベなんかで見ると結構おもしろいものだが、自分が行うと不思議と引くらしい。

 いや、相手がしてなくて良かったと思うべきなのか?

 あの有名なセリフが脳裏を過ぎる。

 「・・・どうしてこうなった?」



 ■



 うーん・・・荒野とはいえ、環境破壊だな。

 オーガが居た場所はクレーターができている。

 一部地面が、ガラス化してしまっている所まであるようだ。

 クレーターを見つめながら、ちょっと現実逃避しかけたおれの肩が、後ろからがっしりと掴まれる。

 おい、なんだこの力、痛いから離せ?

 振り返るとそこには、小首を傾げたアフィナが立っていた。


 「セイ?これはどういうこと?」


 「・・・加護だ。」


 はい、無理ですね。

 ごまかしは利かなかったようだ、なぜかアフィナの背中越しに般若のようなものが見える・・・気がする。


 「ボクも『風の乙女』だから風精霊くらい呼べるけど・・・セイは違うよね?『幻獣王』は精霊としての力もあるって伝わってるからまだわかるけど・・・『永炎術師クリムゾン・オブ・エターナル』って、20年前の大戦で消息不明になった英雄だよ!」


 突然まくし立てるように言い出すアフィナを遮って、


 「主・・・言い訳ではないが先ほどの兵士、なにやら妙な動きをしたのである。こぶし大の氷?のような物を地面にたたき付けた瞬間、姿を消したのである。」


 そう報告したロカさんは子犬モードになり、「・・・主、また会おう。」とか言って消えていこうとしたが、アフィナに掴まり胸に抱かれてしまった。

 おい、ロカさんを離してやれ?耳と尻尾がペタンってなってるだろう?

 とりあえずおれは、ロカさんに追加の魔力を譲渡する。

 

 アフィナに説明した『双子巫女』と『カードの女神』に会ったときの話で、(あえて)かいつまんで説明しなかったこと。

 おれがこの世界の故人たちを、自分の盟友ユニットとして使役していること。

 『略奪者プランダー』と呼ばれる悪意ある存在。

 まぁバレると色々面倒だと思ったからなんだが。

 その辺のことを、根掘り葉掘り説明させられる。


 「いくらセイが異世界の人でも、さすがに勝手にはさせられないよ!ボクと一緒に『精霊王国フローリア』に来てもらうからね!」


 「断る。」


 さっきからこの問答が、20分ほど続いている。

 

 「大体なぜおれが、この国の王と会わなきゃならん。おれは勝手に帰るから放っておいてくれ。」


 「だーかーらー!内容が内容でしょ!それに『神官王』クリフォード様なら、『流転』に比肩するような魔法のことも知ってるかもしれないし・・・」


 最初こそ居丈高だったが、最後には消え入りそうな声で続けたアフィナ。

 ロカさんはずっと人?(犬)質に取られたままだ。

 なにかの魔法で振り切ってもいいが、この荒野で少女に不幸が起きても少々寝覚めが悪い。

 おれは渋々、アフィナの案内で『精霊王国フローリア』の宮殿、『マルディーノス神殿』へと同行することを承諾する。


 

 ■



 「これでいいのか?」


 結界塔の一番下層、魔方陣に魔力を注ぎ込むと、塔全体が少し震えた。

 しばらくして、空気が張り詰めたような感覚がある。

 

 「・・・やっぱりすごい・・・一人でセル様、ネル様の作っていた結界を再生させるなんて・・・」


 どうやら、結界の張りなおしは成功したようだ。

 その後、更に塔内を物色し、キッチンで小鍋や食器類に保存食と調味料、チェストから野宿に使えそうな毛布など、上層にあった書庫で老婆たちが所蔵していた本類を、根こそぎ『カード化』して『図書館ライブラリ』に収納する。

 この世界の知識を得るためにも、本は譲れない。

 結構拝借したが、勇者が人の居る家に侵入してたんすの中を漁るご時世だ。

 故人の不用品を、有効利用させてもらうくらいは仕方ないと思ってもらおう。


 「おい、ここから『マルディーノス神殿』までどのくらいだ?転移なんかは使えるのか?」


 本を回収しているおれを、ジト目で見ていた残念ハーフエルフに聞く。


 「ボクは『おい』じゃないー!アフィナって名乗ったでしょ!?転移はボクの力だけじゃ無理だよ、セル様とネル様が居れば神殿にも直通だったけど・・・そうだなぁ・・・徒歩で二日くらいかな。」


 怒りながらでも一応質問には答えるんだな、転移もできない残念ハーフエルフなぞ「おい」で十分なんだが、うるさそうなのでこれからは名前で呼ぶことにしよう。

 徒歩で二日ってどのくらいなのか・・・

 時速5km・・・いや、たぶんまともな道なんかないだろう事を考えて、時速3~4kmか?

 時間軸は『地球』と変わらないようだし、休憩込み、朝は早めに動けるとしても夜は早めに野営の準備として・・・

 3km x 10時間が二日・・・首都まで60kmってとこか。

 ここは国境の端らしいし、結構小さい国なんだな・・・

 そんな計算をしていたおれに、申し訳なさそうな声がかかる。


 「主・・・我輩は・・・どうすれば・・・」


 ロカさんは未だ、アフィナに抱かれたままだ。


 「んー、また敵が来ないとも限らんし、ロカさんは索敵のためにも残ってくれ。」


 さっきは箱の中からでも敵の接近に気付いたしな。


 「・・・承知。」


 ロカさん、そんなせつなそうな目で見ないでくれ・・・。


 「・・・アフィナ、いい加減ロカさんを離してやれ。さもないともう名前で呼ばんぞ。」


 「うー・・・わかったよ。逃げないでよね!」


 渋々といったていで、やっとロカさんを解放するアフィナ。

 ロカさんはよっぽどいやだったのか、ささーっとおれの後ろに隠れてしまった。

 これでいよいよ、この塔に用も無くなっただろう。


 「んじゃ、行くか。」


 「うん、ここからなら『迷子森』を抜けるルートが良いと思う。他国の人なら迷っちゃうけど、ボクには庭みたいなものだから案内任せて!」


 おいまて、それはフラグだ。



 ■



 実際には『迷子森』は無事に通過した。

 まぁ、大方の予想通り残念ハーフエルフは見事に迷った。

 だがおれたちには頼れる子犬?ロカさんが居た。

 ロカさんが先導を代わることにより、予定通り森を抜けることが出来た。

 今は森の出口にあった広場で、焚き火を囲んで野営中だ。


 「なにがボクの庭だ、残念ハーフめ。」


 地面に枯れ枝で、のの字を書いているアフィナを見ながら言ってやる。


 「うぅ~、だって・・・久々だったんだもん・・・」


 失敗していじけるなら、最初から出来るなんて言うなと言いたいが、これ以上言うと更にいじけそうだ。

 ええい、めんどくさい。

 そこに野鳥を二羽咥えたロカさんが、森の中から現れる。


 「主、獲物である。今夜はこれを。」


 あぁロカさん、なんて頼りになる・・・。

 「ロカさん、水出せるか?」「無論。」おれは野鳥をささっと解体し、ロカさんの出してくれた水で汚れを拭う。

 自然に出来たが何でだろうな?

 秋広に連れて行かれたキャンプとかで料理はよくやってたが・・・解体とは違う気がする。

 まぁいい、塔から持ち出した塩コショウをざっくり振って、焚き火で焼くと良い匂いがしてきた。

 ロカさんよだれ出てますよ・・・

 おい、残念ハーフエルフ・・・お前もか・・・

 『カード化』を解いた保存食の乾パンみたいなものと、野鳥の炙り焼きが今日の晩飯だ。

 ロカさんが一羽、おれとアフィナが半分ずつだ。

 ロカさんはしきりに「主が食すべきである。」って遠慮していたが、アフィナは遠慮なくかぶりついていた。

 口の周りを油でベタベタにしながら「やっぱりセイの作ったものはおいしい!」とか叫んでいる。

 アルカ様やー?まさか料理チートまで加護に付けたんじゃないでしょうね?

 女子力・・・あぁ女子力・・・美祈に会いたい!


 「まずはアフィナが焚き火の番をしろ、ロカさん付いてやってくれ。なんかあったら起こせ。」


 「任せて!ロカさん、よろしくね!」「承知。」


 食事も済んで、さっさと仮眠することにする。

 不安しかないが、ロカさんもいるから大丈夫だろう。

 先におれでもいいんだが、アフィナは寝たら起きなさそうなんだよな。

 なんだかんだ疲れていたのか、あっという間もなくおれの意識は闇に沈んだ。

 そして・・・夢を見た。


 それは会いたかった美祈の夢。

 夢の中の美祈は、泣きながらおれのことを呼んでPUPAピューパを力なく叩いていた。

 あぁ美祈・・・ごめんな、お前の兄貴はすぐ帰るからな!

 その時、美祈がはっとしたような顔をして、おれに振り向いた。

 そして「お兄ちゃん!危ない!」と叫んだような気がした。




ここまで読んで頂きありがとうございます。

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