・第十一話 『迷子森』
ブクマありがとうございます。
励みになります。
※4/26 微修正しました
異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、君は今どうしているだろうか?
兄貴は今ちょっと引いている。
チートとかおれTUEEEEとか、アニメやラノベなんかで見ると結構おもしろいものだが、自分が行うと不思議と引くらしい。
いや、相手がしてなくて良かったと思うべきなのか?
あの有名なセリフが脳裏を過ぎる。
「・・・どうしてこうなった?」
■
うーん・・・荒野とはいえ、環境破壊だな。
オーガが居た場所はクレーターができている。
一部地面が、ガラス化してしまっている所まであるようだ。
クレーターを見つめながら、ちょっと現実逃避しかけたおれの肩が、後ろからがっしりと掴まれる。
おい、なんだこの力、痛いから離せ?
振り返るとそこには、小首を傾げたアフィナが立っていた。
「セイ?これはどういうこと?」
「・・・加護だ。」
はい、無理ですね。
ごまかしは利かなかったようだ、なぜかアフィナの背中越しに般若のようなものが見える・・・気がする。
「ボクも『風の乙女』だから風精霊くらい呼べるけど・・・セイは違うよね?『幻獣王』は精霊としての力もあるって伝わってるからまだわかるけど・・・『永炎術師』って、20年前の大戦で消息不明になった英雄だよ!」
突然まくし立てるように言い出すアフィナを遮って、
「主・・・言い訳ではないが先ほどの兵士、なにやら妙な動きをしたのである。こぶし大の氷?のような物を地面にたたき付けた瞬間、姿を消したのである。」
そう報告したロカさんは子犬モードになり、「・・・主、また会おう。」とか言って消えていこうとしたが、アフィナに掴まり胸に抱かれてしまった。
おい、ロカさんを離してやれ?耳と尻尾がペタンってなってるだろう?
とりあえずおれは、ロカさんに追加の魔力を譲渡する。
アフィナに説明した『双子巫女』と『カードの女神』に会ったときの話で、(あえて)かいつまんで説明しなかったこと。
おれがこの世界の故人たちを、自分の盟友として使役していること。
『略奪者』と呼ばれる悪意ある存在。
まぁバレると色々面倒だと思ったからなんだが。
その辺のことを、根掘り葉掘り説明させられる。
「いくらセイが異世界の人でも、さすがに勝手にはさせられないよ!ボクと一緒に『精霊王国フローリア』に来てもらうからね!」
「断る。」
さっきからこの問答が、20分ほど続いている。
「大体なぜおれが、この国の王と会わなきゃならん。おれは勝手に帰るから放っておいてくれ。」
「だーかーらー!内容が内容でしょ!それに『神官王』クリフォード様なら、『流転』に比肩するような魔法のことも知ってるかもしれないし・・・」
最初こそ居丈高だったが、最後には消え入りそうな声で続けたアフィナ。
ロカさんはずっと人?(犬)質に取られたままだ。
なにかの魔法で振り切ってもいいが、この荒野で少女に不幸が起きても少々寝覚めが悪い。
おれは渋々、アフィナの案内で『精霊王国フローリア』の宮殿、『マルディーノス神殿』へと同行することを承諾する。
■
「これでいいのか?」
結界塔の一番下層、魔方陣に魔力を注ぎ込むと、塔全体が少し震えた。
しばらくして、空気が張り詰めたような感覚がある。
「・・・やっぱりすごい・・・一人でセル様、ネル様の作っていた結界を再生させるなんて・・・」
どうやら、結界の張りなおしは成功したようだ。
その後、更に塔内を物色し、キッチンで小鍋や食器類に保存食と調味料、チェストから野宿に使えそうな毛布など、上層にあった書庫で老婆たちが所蔵していた本類を、根こそぎ『カード化』して『図書館』に収納する。
この世界の知識を得るためにも、本は譲れない。
結構拝借したが、勇者が人の居る家に侵入してたんすの中を漁るご時世だ。
故人の不用品を、有効利用させてもらうくらいは仕方ないと思ってもらおう。
「おい、ここから『マルディーノス神殿』までどのくらいだ?転移なんかは使えるのか?」
本を回収しているおれを、ジト目で見ていた残念ハーフエルフに聞く。
「ボクは『おい』じゃないー!アフィナって名乗ったでしょ!?転移はボクの力だけじゃ無理だよ、セル様とネル様が居れば神殿にも直通だったけど・・・そうだなぁ・・・徒歩で二日くらいかな。」
怒りながらでも一応質問には答えるんだな、転移もできない残念ハーフエルフなぞ「おい」で十分なんだが、うるさそうなのでこれからは名前で呼ぶことにしよう。
徒歩で二日ってどのくらいなのか・・・
時速5km・・・いや、たぶんまともな道なんかないだろう事を考えて、時速3~4kmか?
時間軸は『地球』と変わらないようだし、休憩込み、朝は早めに動けるとしても夜は早めに野営の準備として・・・
3km x 10時間が二日・・・首都まで60kmってとこか。
ここは国境の端らしいし、結構小さい国なんだな・・・
そんな計算をしていたおれに、申し訳なさそうな声がかかる。
「主・・・我輩は・・・どうすれば・・・」
ロカさんは未だ、アフィナに抱かれたままだ。
「んー、また敵が来ないとも限らんし、ロカさんは索敵のためにも残ってくれ。」
さっきは箱の中からでも敵の接近に気付いたしな。
「・・・承知。」
ロカさん、そんなせつなそうな目で見ないでくれ・・・。
「・・・アフィナ、いい加減ロカさんを離してやれ。さもないともう名前で呼ばんぞ。」
「うー・・・わかったよ。逃げないでよね!」
渋々といったていで、やっとロカさんを解放するアフィナ。
ロカさんはよっぽどいやだったのか、ささーっとおれの後ろに隠れてしまった。
これでいよいよ、この塔に用も無くなっただろう。
「んじゃ、行くか。」
「うん、ここからなら『迷子森』を抜けるルートが良いと思う。他国の人なら迷っちゃうけど、ボクには庭みたいなものだから案内任せて!」
おいまて、それはフラグだ。
■
実際には『迷子森』は無事に通過した。
まぁ、大方の予想通り残念ハーフエルフは見事に迷った。
だがおれたちには頼れる子犬?ロカさんが居た。
ロカさんが先導を代わることにより、予定通り森を抜けることが出来た。
今は森の出口にあった広場で、焚き火を囲んで野営中だ。
「なにがボクの庭だ、残念ハーフめ。」
地面に枯れ枝で、のの字を書いているアフィナを見ながら言ってやる。
「うぅ~、だって・・・久々だったんだもん・・・」
失敗していじけるなら、最初から出来るなんて言うなと言いたいが、これ以上言うと更にいじけそうだ。
ええい、めんどくさい。
そこに野鳥を二羽咥えたロカさんが、森の中から現れる。
「主、獲物である。今夜はこれを。」
あぁロカさん、なんて頼りになる・・・。
「ロカさん、水出せるか?」「無論。」おれは野鳥をささっと解体し、ロカさんの出してくれた水で汚れを拭う。
自然に出来たが何でだろうな?
秋広に連れて行かれたキャンプとかで料理はよくやってたが・・・解体とは違う気がする。
まぁいい、塔から持ち出した塩コショウをざっくり振って、焚き火で焼くと良い匂いがしてきた。
ロカさんよだれ出てますよ・・・
おい、残念ハーフエルフ・・・お前もか・・・
『カード化』を解いた保存食の乾パンみたいなものと、野鳥の炙り焼きが今日の晩飯だ。
ロカさんが一羽、おれとアフィナが半分ずつだ。
ロカさんはしきりに「主が食すべきである。」って遠慮していたが、アフィナは遠慮なくかぶりついていた。
口の周りを油でベタベタにしながら「やっぱりセイの作ったものはおいしい!」とか叫んでいる。
アルカ様やー?まさか料理チートまで加護に付けたんじゃないでしょうね?
女子力・・・あぁ女子力・・・美祈に会いたい!
「まずはアフィナが焚き火の番をしろ、ロカさん付いてやってくれ。なんかあったら起こせ。」
「任せて!ロカさん、よろしくね!」「承知。」
食事も済んで、さっさと仮眠することにする。
不安しかないが、ロカさんもいるから大丈夫だろう。
先におれでもいいんだが、アフィナは寝たら起きなさそうなんだよな。
なんだかんだ疲れていたのか、あっという間もなくおれの意識は闇に沈んだ。
そして・・・夢を見た。
それは会いたかった美祈の夢。
夢の中の美祈は、泣きながらおれのことを呼んでPUPAを力なく叩いていた。
あぁ美祈・・・ごめんな、お前の兄貴はすぐ帰るからな!
その時、美祈がはっとしたような顔をして、おれに振り向いた。
そして「お兄ちゃん!危ない!」と叫んだような気がした。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
よろしければご意見、ご感想お待ちしてます。