・第百十二話 『進展』
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※今回ボヤキ無しです。
ネタが無いんじゃない!セイはボヤく間も無いくらい焦ってたんだ!と、言ってみる。
おれは『図書館』を展開した。
目の前に浮かび上がった、黒い背表紙のカタログ。
中から一枚のカード、竜兵が製作した「ドラゴンホットライン」用の銀板を取り出し、『カード化』を解除する。
「君たちは一体何者・・・。」
「ローレン様、お下がりください。」
ローレン、オーゾル両名が、目に見えて警戒を強めた。
「アニキ・・・良いの?」
二人の様子を伺いながら、少し心配気に竜兵が尋ねてくる。
おれは、「ああ、緊急事態だ。」と答え、ハタと思い出す。
(そういやウララは今、シャングリラか・・・。)
もうこの際仕方ないだろう。
「竜兵はウララを呼んでくれ。」と指示を出し、「わかった!」と頷いた竜兵も『図書館』を展開。
赤い背表紙のカタログから、おれ同様銀板を取り出した。
転移者組、及び各国の首脳陣とも相談して、『カードの女神』がくれた『加護』のことは、できるだけ周囲にバレないよう注意していたが。
現状は、そんな甘いことを言っていられる場合じゃない。
おれたちの認識の齟齬を早急に伝えないと・・・。
呼び出しベルの代わりにドラゴンの咆哮、それが相手方に鳴っているのが感じられる。
「セイか?どうした?」
「なによ竜?トラブル?」
ほとんど同時に受け取ったんだろう。
室内に響くクリフォードとウララの声。
「ウラ姉、ちょっとまずいかもしんない。」
「クリフォード、とりあえずそのまま聞いてくれ。」
オーゾルが油断無く周囲を見回し、ローレンは興味深そうにおれたちを見つめた。
全員の視線がおれたちの持つ銀板に注がれている。
オーゾルはチャンスとでも思ったんだろう。
「ローレン様・・・今なら・・・。」と、全身に力を入れたが、ローレンが「いや、オーゾル待て。」と、その機先を制す。
おれはダメ元でも誠意を通すべく、二人に対し真摯に呼びかけた。
「事は一刻を争う。納得もいかないだろうが、とりあえず今からのやり取りを見て、決めて欲しい。」
ローレンは目を瞑り黙考。
逆にオーゾルは瞠目し、ローレンの指示を待つ。
ややあって目を開いたローレンは、一度バイアに視線を向けた後、「いいだろう。」と鷹揚に頷いた。
クリフォードから訝しむ気配が伝わってくる。
「セイ、そこにお前達以外の誰かが居るのか?」
「ああ、今日取った宿で・・・偶然ローレンとオーゾルに会った。」
カードの向こうで、「ローレン・・・オーゾル・・・。」と呟いたのが聞こえ、少し後「なるほど。」と返事が返ってくる。
どうやらクリフォードは、二人の存在を知っているようだ。
本当にできる王様だな。
「それでセイ、何がまずいのよ?」
クリフォードが人心地付けるのを待っていたかのように、ウララが先ほど竜兵が放った発言に、質問を投げかけてきた。
「ヴェリオンにアンデッド・・・ゾンビが攻撃をしかけているって話だ。」
おれの言葉にオーゾルは、「貴様!また戯言を!」と立ち上がりかける。
それを制するのはローレン。
「オーゾル、とりあえず最後まで話を聞いてみようではないか。少年二人はともかく・・・そこなご老体が、これほどの真剣な威圧を出されているのには、きっと何かしらの意味があるのだろう。」
視線は油断無く、特にバイアの動きを警戒しているのがわかる。
バイアの威圧、やっぱすごいんだな。
そんな事を感じていると、クリフォードとウララから疑問の声が上がった。
「セイ、それのどこに問題があるんだ?・・・何か新しい情報でも出てきたのか?」
「そうよ、『死屍累々(コープスフェスティバル)』で間違いないって話だったじゃない?」
建設的に新たな情報を得たのか?と推測するクリフォード。
ウララは逆に、自身のカードゲーム知識を再確認する。
「クリフォード、ウララそこだ。この世界では・・・生き物が死んだらカードに変わり、アルカ様の輪廻の輪に戻る。つまり・・・死体が残らないんだぞ?」
「・・・・・・。」
「そんなの当たり前・・・あっ!」
クリフォードは絶句、ウララは簡単に切り捨てようとして、言外に告げられた意味を正しく理解する。
■
黙って話を聞いていたローレンが、「少年・・・セイ君と言ったか?少し確認させてもらってもいいだろうか?」と声を上げた。
おれは黙って首肯する。
「どうやっているのかはわからないが、もしかしてその銀板から発せられる声は、『神官王』クリフォード様の物なのか?」
「そうだ。ローレンは彼と面識が?」
おれの肯定にポツリ、「やはり・・・。」と呟き、黙考しながらも大きく頷くことでおれの問いに答える。
フローリアはヴェリオンと友好国だ。
そのトップと貴族なら、面識があってもそう不思議はない。
「ローレン様・・・。」
オーゾルは未だ半信半疑。
それも仕方ない、この情報の共有というチートな力は、正に竜兵が居るからこそ出来た代物だ。
「その不思議な会話は私でも出来るのか?」と何かを整理したようなローレンの問いに、「ああ、そのまま話せば出来るぞ。」と答える。
「では・・・。」と前置きして、ローレンはクリフォードに向けて言葉を発した。
「無礼を承知でお伺い申し上げる。貴公が事実、『神官王』様であらせられる証拠を提示することはできまいか?」
信じがたいのも理解はするが、確かに無礼だな。
しかも本国に居るクリフォードに、どうやって証拠を提示させるつもりなのか。
いや、これはあれか。
この携帯電話とも言うべき「ドラゴンホットライン」の性能を知らなければ、それこそ近くに居て話してるくらいに思うのかもしれない。
それこそ風魔法の音伝達かなんかくらいだと?
そこら辺やっぱりクリフォードは、全部理解しているようだ。
「ふむ、別に大した事でもない。」と軽く受け流し、「セイ、親書を見せて差し上げろ。」と快諾した。
(ああ、そういやあったな。)
ヴェリオンのトップ陣に会ったら見せろって、クリフォードが一筆書いてたんだ。
セリーヌの神託でヴェリオンの窮地を知ってる事とか、おれたちを救援に派遣してることとかな。
あとは『回帰』のパーツに関しても口を聞いてくれてるらしい。
おれは『図書館』から、クリフォードの親書を取り出し『カード化』を解除。
未だ警戒を解かないオーゾルを刺激しないよう、ゆっくりとした動作でローレンに渡す。
封筒を受け取ったローレンは、その封筒に施されたフローリアの蜜蝋。
星型の紋章が付いたそれを見て、ことさらに瞠目した。
クリフォードは、状況を見ているかのように指示を出す。
「セイ、アフィナを紹介して懐剣を見せてやれ。」
ああ、こいつもあの国の貴族だったな。
正座状態で空気と化し、もはや涙目のアフィナを指し示す。
「ローレン、オーゾル。彼女はアフィナ・ミッドガルド。フローリアの貴族で先代『風の乙女』シイナの娘、現在の『風の乙女』だ。」
アフィナはこくりと頷き、懐から懐剣を抜き出すと、その柄頭を二人に向けて見せた。
そこにはクリフォードの親書同様、星型の紋章に意匠化された風の絵。
それを見てポツリと呟くローレン。
「確かに・・・間違いない。あれは『風の乙女』の懐剣。それに言われてみれば・・・シイナ殿にとても良く似ている・・・。」
ローレン、オーゾルは顔を見合わせ、困惑しつつも納得したようだ。
■
おれたちはある程度の情報を晒した。
誤魔化しきれないだろうし、何より時間が惜しかった。
うまい説明をするためにはどうしてもおれたちの存在、ひいては『略奪者』の情報が不可欠だったからだ。
異世界転移、主神の加護、フローリアやシャングリラでの出来事。
そしてヴェリオンの現状を把握し、救援の為に移動していることに至るまでかいつまんでだが、できる限りわかりやすく説明した。
最初こそ半信半疑だった二人だが、その態度は一人の人物によって激変する。
それはおれの盟友、『黒翼の堕天使』イアネメリラ。
おれや竜兵の能力・・・カードに描かれた、この世界の英雄を呼び出せることを説明する際、さすがに宿の一室でバイアにドラゴン化してもらう訳にもいかず、イアネメリラに箱から出て来てもらった。
そして彼女の姿を見止めた二人のおっさんは、瞬時に揃って平伏した。
「なんと神々しい!貴方様の前では『美の女神』メイリダ様とて裸足で逃げ出すでしょう!」
「イ、イ、イ、イアネメリラ様!ご尊顔を拝見できて、このオーゾル感激の極みです!」
見事なまでのDogezaのまま、口々にイアネメリラを褒め称える二人。
イアネメリラもかなりの困り顔で、「う~ん、顔上げて~?」と促しているが・・・。
「「いえ、我々はこのまま!」」と額を床に擦り付ける。
何が彼らをそこまで駆り立てるのか・・・。
その原因はどうも20年前の大戦にあったらしい。
何でも当時10代の彼らがほぼ初陣に近い形で参戦中、イアネメリラが敵勢力を鎮圧してくれたおかげで、九死に一生を得たんだとかなんとか・・・。
本人はと言うと、「う~ん・・・覚えてない。」と言ってたが。
何はともあれおれたちは、今から救援に向かう『深海都市ヴェリオン』の指導者と顔を繋ぐことが出来た。
逆にここで出会えなかったら、自分達の認識違いにも気付けなかったかもしれない。
双方納得、歩み寄った上でこの先の行動を話そうとした時。
ずっとおれの側で動向を見守っていたシルキーが呟いた。
「セイさん、そこの二人はいつまでその格好なの?」
・・・oh・・・。
おっさん二人がパンツ一丁なことを、おれたちは完全に忘れていた。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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※相談が長くて、話全然進まねーなって思われてないですかね?^^;
作者も早くバトルシーンとか行きたいんですが・・・。
「ほぼ」毎日更新なので許してくだしあーorz