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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
117/266

・第百十話 『イナズマビンタ』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^



 異世界からこんばんは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、信じられるか?

 兄貴が新たな旅に出ることになって一日目。

 そう、一日目でこのトラブルだ・・・。

 あいつがついてくる・・・十分に覚悟はしていた。

 やりそうな事を予測、できる限りの対策も練った。

 確かに・・・確かにだ。

 おれは露天風呂にうかれたかもしれない。

 それでもその予想の斜め上を行く残念な人。

 そして錯乱と共に、見事なフレンドリファイアをかます馬の人。

 更には、一癖も二癖もありそうな自称貴族のおっさん二人。 

 「あ・・・足が・・・。」

 うるさい、誰が正座辞めて良いって言った?



 ■



 湯船に散乱する破壊された間仕切りだったはずの板切れ。

 女湯側の岩場でタオルで必死に身体を隠し、べそべそと泣いているシルキーと、ぐったりして横たわりその身にタオルをかけられているアフィナ。

 普段は比較的落ち着いた感じのシルキーも、己が特技スキルで盛大なフレンドリファイアを引き起こしたせいで、歳相応の少女になってしまっている。

 男湯の湯船には、腰にタオルだけ巻いたおっさんが二人、ぷかぷかと浮かんでいた。

 竜兵が必死で岩場に引っ張り上げてくれなければ、おれも彼らの仲間入りをしていたであろう。

 当の竜兵は急いで上がってもらい、バイアを呼びに行ってもらっている。

 味方は現在0、おれはソロでこの窮地を脱しなければいけない。

 とりあえず服だけでも着れたのは救いだ。


 「お客様・・・。これは一体・・・。」


 ですよね。

 女将さんごめんなさい。

 おれはこの宿の主、なかなかに上品な感じの女将に、深々と頭を下げていた。


 「本当に申し訳ありません。私のツレが、そこで浮いている男二人に入浴を覗かれたと言って、攻撃魔法を使用しました。もちろん壊れた設備等に関しましては、出来うる限り弁償させていただきます。」


 壊れたから直せば良いって問題じゃないのはわかっている。

 だが、せっかくの素晴らしい露天風呂を台無しにした、最低限のお詫びくらいはさせてもらわなければ・・・。

 そんな思いで、当然のお叱りや、最悪弁償代を置いて出て行けと言われる覚悟もしながら謝った。


 しかし頭の上、女将さんの口から聞こえてきたのは、「また・・・ですか。」と言う苦々しい呟きと、盛大なため息だった。

 呟きの意味がいまいち図れずに顔を上げるおれ。

 おれの訝し気な表情に気付いたのか、女将さんが説明を始めた。


 「いえね、そこのお二人は覗きの常習犯・・・いえ、覗きだけではなく、見目麗しい女性が居ると、ちょっかいを出さずにいられないという厄介な人たちなんですよ。入浴なんかは宿泊される皆さんに注意を促してはいるのですが、お客様たちは当初フードで顔を隠されていたでしょう?しかも受付の者がまだ不慣れでして・・・一言かけるのを忘れてしまったみたいなんです。」


 「そうだったんですか・・・。」


 なるほど、苦々しい態度とため息はそんな理由が。

 しかしなんで、そんな素行の悪い奴泊めてるのか?

 とてもそういう性質の悪い感じの宿じゃなかったのに・・・。


 「どうしてそんな輩を泊めてるんだと、お思いでしょう?」


 疑問が顔に出ていたらしい。

 「いえ、そんな・・。」と言いよどむおれを、「良いんです。当然そう思われるのはわかっておりますので・・・。」と制し、女将さんはなおも語る。


 「このお二人・・・お金の払いだけは良いのですよ・・・。迷惑料込みで五割増しにしてるんですけれど、平然と払うんです。」


 おれたちは朝晩食事つき、風呂自由で一人大銀貨二枚、五人で大金貨一枚だった。

 つまりは一泊約2000円。

 この世界の一般的な宿屋だと、銀貨五枚(500円)~大銀貨一枚(1000円)で泊まれるらしいし、「朝日亭」は十分な高級宿だろう。

 そこで五割増しは結構なボッタクリのように思うが・・・。

 いや、店の評判落とされてるんだから逆に少ないくらいか。

 頭の中で計算しつつ、話・・・と言うか愚痴を聞く。

 どうやら女将さん、かなりストレスが溜まっているようだ。

 

 「まぁお金の問題だけじゃ無いんですけどね・・・。なんでも、お二人とも貴族様らしくって・・・。」


 またテンプレか。

 「ハイ、イヤな貴族入りましたー!」脳内で叫ぶミニ秋広を、脳内のミニおれがラリアットでなぎ倒した。


 「ほっほ。何やらわしのツレがご迷惑をおかけしたようじゃの。」


 髭を撫でながらバイアが登場。

 後ろには竜兵も控えている。

 ちゃんとそれっぽく偽装した、いかにも「大金入ってますよ?」って感じの袋も持ってきている。

 実際には『図書館ライブラリ』に『カード化』して収納しているが、さすがに人目のある所で出し入れする訳にもいかない。

 そう、規格外のアイテムボックスで問題を起こすのは、異世界物のテンプレだしな。


 バイアが来てくれたことで女将さんの愚痴も一旦収まり、竜兵が袋をおれに渡し、その足で未だ泣いているシルキーとアフィナに着替えを持っていく。


 「シル姉、ちょっと我慢してー。あっちゃんを部屋に運ぼう?」


 そう言って二人の肌を見ないよう目を逸らしつつ、シルキーを何とか立たせる紳士な竜兵に、「後は任せた。」とアイコンタクト。

 竜兵が確かに頷いたのを確認して、おれは女将さんに切り出した。


 「壊れた設備の修繕には、いかほどかかるでしょうか?」


 女将さんは大破した露天風呂を見回し、「そうですね・・・。大金貨10枚と言った所でしょうか・・・。」と答えた。

 それを聞き、おれがその場で金貨を払おうとすると、女将さんはおれの手をやんわりと押さえた。


 (なんだ?)


 「今回はこちらの連絡ミスもありましたし、お客様方の女性も被害にあわれています。どうか弁償など仰らずお納めください。」


 逆に頭を下げられ困惑してしまう。

 確かに連絡ミスはあったが、うちの残念と馬はどう考えてもやりすぎだろう?


 「いや、女将さん。こんな素敵な露天風呂を使えなくしておいて・・・それは。」


 おれも出した手を引っ込められない。

 クリフォードには大金貨300枚渡されてるし・・・この露天風呂は素晴らしかった。

 正直大金貨10枚、惜しくない。

 おれの頑なな姿勢にくすりと笑い、女将さんは一枚だけ大金貨を抜き取ると、「この分だけサービスさせていただきます。」と再度お辞儀する。

 いや、それじゃ足りないでしょう?と思っていると・・・。


 「大金貨10枚は、そちらのお二人に請求致しますので。」


 そう言って女将さん、未だ浮かんだままのおっさん二人を睨み付けたのだった。 

 女将さん・・・プロやで・・・。



 ■



 男部屋用にした、少し広めの客室に戻る。

 おれは、パンツ一丁で後ろ手に縛られたおっさん二人を正座させていた。

 もちろん少し離して残念も正座である。

 馬の人は・・・なんかすげー泣いてたから、とりあえずおれの横に座らせた。


 「さて・・・。自分達がどうして正座させられているか、わかっているか?」


 「ハッハッハ、少年よ。今なら大事にしないでやろう。この縄を解いて謝罪したまえ。」


 「さすがはローレン様!その寛大な御心にこのオーゾル、涙で前が見えません。」


 パンツ一丁で、何やら尊大な態度の茶髪天然パーマになまず髭のローレン君、推定30代後半。

 同じくパンツ一丁でローレン君を持ち上げる、黒髪おかっぱに口髭のオーゾル君、同年代。

 二人とも黙っていれば、中々のナイスミドルと言えるかもしれない。

 だがおれたちは知っている。

 こいつらがどうしようもない変態だと言うことを・・・。


 「セ、セイ?ボクは被害者だよね?」


 正座の理由がわからず、おれに捨てられた子犬のような目を向けてくる残念。

 もう・・・頭痛で頭が痛い。


 女将さんのプロフェッショナルな態度に感動したおれは、問題の元凶であるダメ中年二人を引き取り、Oshiokiを敢行することにした。


 「お前らな・・・。いい年こいたおっさんが、ガキみたいな真似するなよ・・・。」


 ため息混じり、痺れているであろう足の先を、竜兵にツンツンさせながら苦言を呈す。


 「笑止!美しい女人を見たら口説かないなど、貴族の風上にも置けぬ!」


 「ローレン様の仰る通り!このオーゾル、ローレン様にどこまでも着いて行きますぞ!」


 しかし二人の変態はどこ吹く風。

 いや、足先ツンツンは身悶えするほど確実に利いているが。


 「相手が嫌がってるだろうが?」


 「ハッハッハ、青いな少年!照れているだけよ!」


 「さすがローレン様!奥手な淑女にもその愛を振りまく姿。名だたる芸術家が、後世まで褒め称えることでしょうぞ!」


 だめだこいつら・・・。


 「ハッハッハ、そうかオーゾル。私が銅像にでもなった暁には、貴様もその従士として名を残すであろうよ!」


 「ハッ!未熟なれどこのオーゾル、終生ローレン様の下で・・・。」


 おれたちを完全に無視して笑いあう二人に、おれの隣から闘気が噴き上がった。

 ゆらぁりと立ち上がるシルキー。

 彼女は今まで見たことも無いような・・・いや、リゲルがしゃしゃった時と同じですコレ。

 何も言わず、ゆっくりと二人に近付いていくシルキーが普通に怖い。

 うん、ポニーテールの揺れ幅は彼女の怒りメーターよ。

 おそらくあの揺れはゲージ3、超必殺技だって撃てちゃう。 


 「まだ・・・。」


 二人の前に仁王立ち、小さく呟いたシルキーに全員が注目。

 ちょっとしたホラー映画の100倍怖い。


 「まだ、セイさんにも見せたこと無いのに!」


 待ってシルキーさん、そこでおれの名前が出てくるのはおかしい!

 しかも貴方、馬の時全裸じゃないですか?

 つっこみかけたおれをキッと睨み付けた後、シルキーは信じられない威力のビンタを放った。

 ベチコーン!ベチコーン!バリリリッ!


 「「へぶらばっ!!」」


 顔が一回転するんじゃ無いかと思う威力のビンタ、その上ビンタを食らったおっさん二人が明らかに帯電する。

 【シルキーは、「イナズマビンタ」を会得した・・・!】

 脳内に怪しいログが流れた気がしたが、たぶんキノセイだ。


 「セイさん・・・。」


 静寂に包まれる室内。

 俯いたままのシルキーが呟く。

 ゴクリ・・・。

 誰かの唾を飲み込む音がやけに響く。


 「な・・・なんだ?」


 思わず言葉が詰まるおれ。

 なんだこのプレッシャーは・・・。

 ゆっくりと顔を上げたシルキーの目には、大粒の涙が溜まっていた。


 「私は・・・馬だけど・・・馬だけど、女でもあるんだよ?知りもしない人に肌を見られたら、普通に傷つくんだからね・・・。」


 そういう風に言われると辛いな。

 おれは黙って両手を広げた。

 シルキーはおれの腕の中に飛び込み、静かに泣き出した。

 まぁ怪我の功名か。

 さすがに変態のおっさん二人もバツの悪そうな顔をしている。


 「いいか?これがお前らのやった事の結果だ。」


 シルキーの金髪を優しく撫でながら、おっさん二人に諭すように語る。


 「・・・今は、反省している。」


 「・・・ローレン様・・・このオーゾル、一生の不覚だったようです。」


 おっさん二人が美少女の泣き姿にほだされている時、竜兵が突然叫んだ。


 「あーーーー!!!」


 「アニキ!アニキ!」と興奮する竜兵を、「とりあえず落ち着け。」と宥め、その真意を聞き出す。


 「アニキ!この二人アレだ!『海星』ローレンと、『水先案内人』オーゾルじゃん!」

 

 (なんだとっ!?)


 パンツ一丁のおっさん二人を観察する。

 確かに・・・うそだろ・・・?

 『海星』ローレン、『水先案内人』オーゾル、どちらも『深海都市ヴェリオン』の指導者級盟友ユニットだった・・・。





ここまでお読み頂きありがとうございます。

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