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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
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・第百九話 『風呂』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^

 

 異世界からこんばんは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、今回は怒っても良いと思うんだ。

 兄貴は確かに釘を刺した。

 お風呂タイムだけは邪魔するなと・・・。

 生粋の日本人であるおれや竜兵、おそらくウララもだろう。

 この世界の入浴方法、それこそまさにカラスの行水にはほとほとがっかりだったんだ。

 王宮なんかにもあるにはあったが。

 え?これ大きなタライですよね?って言うレベルなんだぞ。

 それがここに来て、手足を伸ばせる大浴場。

 日本人ならもう「フォー!」だろ?

 馬鹿なっ・・・!露天風呂だとぉ!?



 ■



 セイと竜兵がいそいそと風呂へ向かい、アフィナとシルキーが覚醒できるまでには、約10分ほどの時間を要した。


 「シルキー・・・。」


 「アフィナさん・・・。」


 二人は顔を見合わせ、「怖かったねー!」と抱き合った。

 アフィナがポツリと呟く。


 「お風呂ってそんなに良いのかな?」


 シルキーは首を捻っている。

 この世界は入浴の文化に乏しく、まして元々は野生の『一角馬ユニコーン』であるシルキーには、当然何がいいのかわからない。


 「セイは時々妙なこだわりがあるけど・・・、竜君も楽しみにしてたみたいだよね?」

 

 アフィナの言葉に、「確かに・・・。」と、先ほどの出来事を想起するシルキー。


 「ね?ボクらも行ってみようよ。」


 思い立ったが吉日思考のアフィナに対しシルキーは、「でも・・・竜君が大人しくしててくれって・・・。」と、気乗りしない様子だった。


 「大丈夫だってー。ちゃんと女湯で静かにしてれば、きっとセイも怒らないよ!」


 驚くほどの簡単思考。

 しかしそこは『一角馬ユニコーン』の王女と言えど、所詮10代の少女であるシルキーも、自分の惚れた男が意気揚々と向かった先が気になってしまう。


 「そうかな・・・?そうだよね・・・。」


 疑問は自己完結して、甘い誘惑に誘われてしまう。

 アフィナはすでに自分の着替え等を用意し始め、「メリラ姉さんは・・・無理だよね。ごめんなさい。」と、イアネメリラすら誘おうとしていた。

 対してイアネメリラ、一抹どころか十抹くらいの不安を抱えつつも、「そうね~、私はやめとくね~?あーちゃん、ますたぁに迷惑かけちゃだめよ~?」と、送り出すことにしたようだ。


 「あ、バイアさん。お食事とか・・・?」


 手持ち無沙汰なバイアに気付き、気を利かせるアフィナ。

 バイアもせっかくの好意を受け、「そうさのぅ。軽くつまめるものと、酒があれば少々頼めるかの?」と、依頼する。

 イアネメリラも、「私も、少しだけお願いしようかな~?」と声をかけ、「はーい!受付に頼んでからお風呂に行くねー!」と、シルキーの手を引き退室するアフィナを見送った。

 二人が揃って部屋を出た後・・・。


 「バイアさん・・・。私、すごくいやな予感がするんだけど・・・。」


 底知れぬ不安が襲い掛かってくるが、もはや後の祭り。

 イアネメリラは目立ちたくない都合上、部屋から出られない。

 バイアはバイアで、その優しげな相貌を細め、「ほっほ、わしもじゃ。」と頷いた。

 二人とも・・・アフィナのことを、ある意味ではとても信頼していたのだ。

 そう、テンプレマスターとしての彼女の力を・・・。



 ■



 「ア・・・アニキ・・・!」


 「まさか・・・これほどとはな!」


 無駄にテンションが上がっていくおれたち。

 やるな『朝日亭』・・・まさか露天風呂とは!

 

 身体を洗い終え、かけ湯をして、さぁ浴槽へと思った時だった。

 所謂スーパー銭湯的な内風呂の横壁に、なんだかこれみよがしな扉を見つけ、竜兵と顔を見合わせ一緒に開いてみた。

 そこで見つけたのがこれだ。

 露天風呂・・・それは天国への誘い。

 

 玉砂利の敷き詰められた庭園風の空間。

 目にも鮮やかな新緑の若木が植えられている。

 いくつもの自然岩を使って作られた、およそ10人はゆうに入れるだろう浴槽に、乳白色のお湯がなみなみと注ぎ込まれていた。

 木製の樋を伝ってとうとうと、一体何の色が付いてるんだろうな?

 匂いは別に硫黄臭くもないし、温泉とはまた違う気がするが・・・。


 巨大な岩製の浴槽は女湯と繋がっているんだろう。

 女湯との壁があった場所を境に間仕切り。

 ってことは総勢20人が一緒に入れる仕様なのか。

 入浴文化の乏しいこの世界では随分な熱の入れようだ。


 男女それぞれ、快適な空間を演出するためだろう。

 間仕切りには一応しっかりとした合板を使っているようだし、それこそ肩車でもしなきゃ覗きは不可能に見える。

 この世界で、修学旅行の中学生みたいに、そんな酔狂な真似をする奴が居るとも思えないが。

 実に良いことではある。

 風呂は静かに楽しむもの、決してそこに女の裸など求めてはいけない。

 実に適温・・・何時間でも入っていられそうだ。

 暑くなったら庭園の岩に腰掛け、湯休みすればいいしな。

 現に竜兵はそうしている。

 いや、わかってるんだぞ?

 これから飯も食って・・・それなりに情報収集的なこともしなきゃいけないんだ。

 それでも・・・今は・・・。


 おれは湯船の中で、少しウトウトしはじめる。

 慣れない空の旅に、それなりの疲労もあったのかもしれない。

 ぼんやりとした意識の中で、女湯の方から聞きなれた声が聞こえてきた。


 「シルキー・・・これはすごいね!」


 「確かに・・・これならセイさんが熱を上げるのもわかる気がするよ。」


 (なんだ・・・あいつらも来たのか・・・。)


 頼むから静かにしててくれよ?

 そんなことを考えながら柔らかなお湯に身を任せる。

 「あ、こんばんは。」と、竜兵が誰かに挨拶をした。

 

 (誰か入ってきたのか?)


 まぁいい・・・目を瞑っていれば話しかけても来ないだろう。

 そんな風に考えたのが間違いだった。

 ボソボソと何かを相談する声が聞こえる。


 「さぁ行くぞ、オーゾル。あのような美少女が二人も入浴中とは・・・まさに天啓。貴族たる者、美しき蕾を愛でる義務がある。」


 「しかしローレン様、先客が・・・。」


 バチャバチャ・・・ゴソゴソ・・・


 「なに・・・童とは言え奴らも男よ・・・。我々の崇高な目的に物申したりはせんだろうよ。」


 「さすがはローレン様。その通りでございますね。このオーゾル、ローレン様の慧眼には、ほとほと感服の極み。」


 「ア・・・アニキ・・・。」


 なんだ竜兵、ちょっとだけ寝かせてくれ・・・。

 ズリズリ・・・チャプチャプ・・・


 「よし、オーゾル足場となれい。」


 「お任せください。ですが・・・このオーゾルにも・・・。」


 「アニキってば!」

 

 あかんて、眠いってば・・・。

 ザブザブ・・・


 「みなまで言わずともわかっておるわ。美しき蕾たちよ待っておれ・・・。こ、これは・・・。」


 「ロ、ローレン様!?どうですか?」


 「アニキーーー!!!」


 「「キャーーー!!!」」


 (何事!?)


 竜兵に乱暴に揺り起こされ、目に入ってきたのは肩車で女湯を覗くおっさん二人・・・。

 ナニコレ・・・? 

 さっきまでの会話が脳裏に浮かぶ。


 「お前ら・・・何やって・・・。」


 ドゴォン!

 おれの言葉は最後まで続かない。

 間仕切りの板が炎の魔法で吹き飛んだ。

 板があった先にはプルプルと震える、淡い緑髪サイドテールの美少女と金髪ポニテの美少女。

 謎の煙さんありがとう。

 貴方のおかげで彼女たちのプライバシーは守られている。


 「あっちゃん、シル姉!前、前!」


 竜兵が慌てて顔を背けながら叫ぶ。


 「「キャーーー!!!」」


 二人揃って慌ててタオルを引っつかむ。

 いやいやまてまて。

 一体何がどうしてこうなった?

 謎のおっさん二人は、煙の向こうを見透かそうと必死で手で風を作っている。

 馬鹿なの?死ぬの? 

 ちょっと涙目になったアフィナが叫ぶ。


 「シルキー!やっちゃって!」


 おっとシルキーも涙目だ。


 「まだ・・・まだ・・・セイさんにも見せたことないのに!」


 なんでそこでおれの名前が出てくるんだ!

 馬の人!落ち着け!


 「許さない!『浄化の雷』!」


 人化状態で『一角馬ユニコーン』の特技スキルって使えないんじゃ・・・?

 あ!頭の中でリフレインする竜兵のセリフ。


 「シル姉のは人化状態で『一角馬ユニコーン』が使える全ての技能を使えるようになる。威力も一階級分調整可能。」


 付けてる!付けてるわ、あのブレスレット。

 やだー、お風呂に入るときくらいはずしてよー。

 ちょっと待って?雷・・・?ここで?

 気付いたときには手遅れだった。

 バリリリリリリッ!!

 

 「「「「アババババババ。」」」」


 謎のおっさん二人とおれ、そしてアフィナの計四人。

 シルキーの放った雷が、お湯を伝って身体を舐めていく。

 無事なのは庭園の方へ上がっていた竜兵と、雷を放った張本人であるシルキーだけ。


 「ア、アニキーーー!!!」


 「アフィナさん!!!」


 おれは遠くなる意識の中で、竜兵とシルキーの悲鳴を聞いた。

 だから・・・こいつら・・・いやなんだ。

 




ここまでお読み頂きありがとうございます。

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