・第百七話 『火力』
いつもお読み頂きありがとうございます。
ブクマ励みになります^^
異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈ならわかってくれるはずだ。
兄貴は決して危険人物ではない。
いやね、ただ正直に答えただけなんだよ。
実際できるかできないかで聞かれたらできると思うし・・・。
だってさ、現実に神様を撲殺(実際には殺していない)してる奴、居たじゃん?
え?手段の問題?
いや、そんなこと言われても・・・。
そういう風に作ってるんですから。
いやいや、おれよりアイツの方が危ないって。
なんせあの祟り神、今封印できる奴(秋広)居ないからね?
■
『港町カスロ』までは、バイアの全力で飛んでも約三日かかる。
おれたちはアフィナやシルキーのことも考えて、約五日の道程を組んでいた。
今は一日目の宿泊予定、『鈴音の町リーンドル』へ向かっている。
クリフォードの話では、町の中心に巨大な鐘楼が建っているので、空からなら一目瞭然だそうな。
「そういえば・・・。」
シルキーが突然思い出したように言葉を発した。
全員の目がシルキーに注がれ、彼女は慌てて「いや、大した事じゃないかもしれないんだけど・・・。」と口ごもる。
おれは、「なんだ?言ってみろ。」と促した。
「ふと疑問に思ったんだけど、ヴェリオンの救出に行くって言った時、セイさんたちは三人ともセイさんを救出に向かわせる点は同じだったよね?」
「あ、それボクも気になってた。ウララをヴェリオン、竜君を捜索、セイは防衛って案は最初から無かったみたいだよね?」
シルキーの言葉にアフィナも同意。
なるほどな。
竜兵はバイアの頭の上、自分の後ろ頭で手を組み、「あー、そっか。あっちゃんやシル姉には不思議に感じるんだー。」とあぐらでゆらゆらしている。
これ、落ちたら危ないからやめなさい。
「じっちゃんもやっぱ不思議~?」
おれたちをその竜身に乗せて飛翔中のバイア。
その顔を覗き込んで聞いた竜兵に対し、おれたち全員の頭の中に直接返答が返ってくる。
【いや。わしゃ、何となく想像つくのぅ。】
さすが二万年を生きた伝説のドラゴン。
まぁそこに確かに理由はあるが、聞いてみたらそんな理由か~って程度の物でもあるしな。
イアネメリラもわかっているんだろう。
にこにこしながらおれの腕を完全にその胸に埋めている。
べ、別に嬉しくなんて無いんだからねっ!
竜兵の携帯電話からやたら元気な声。
「それは・・・このあたしが教えてあげるわ!」
うん、見て無くても、足を肩幅腕組みでドヤ顔のウララさんが目に浮かぶね。
アイツはなぜいつもあんなに偉そうなのか・・・。
まぁしゃべりたいんならお任せします。
「説明しよう!」
「ちょっと待て。」
なぜそんな隠し武器の性能を語る科学者みたいになるのか。
秋広の魔の手がそこかしこに転がっている。
おれはウララを遮り、さっさと答えを言うことにした。
「要は火力の問題だ。」
「「火力?」」
アフィナとシルキーは声まで合わせ、揃って小首を傾げる。
「ウララが一番強いから防衛の方が良いって事?ボク、ウララに会うまではセイが一番強いと思ってたんだけど・・・。あれ?でもそれじゃセイが言った案は・・・あれ?あれ?」
自分で言ってそのまま大混乱に陥るアフィナ。
なるほど、そういう風に考えちゃうのか。
ウララが訂正する。
「あたしは別に最強じゃないわよ!この三人の中じゃセイが一番強いわ。」
買いかぶりだぜウララさん。
おれはアンタに勝てねーよ。
「自分よりもおれの方が強い。」そんな発言をしたウララのせいで、アフィナとシルキーが見る間に怯えていく。
彼女たちの脳裏に浮かんでいるのは、おそらく『正義神』ダインを撲殺していたウララの勇姿だろう。
うん、おれもあれは普通に怖かった。
「まぁ、ウララの冗談はさておき。この三人ならほとんど三すくみって感じだな。」
「じゃんけんみたいな?」と聞くアフィナに、「そうだ。」と端的に答える。
「ウララはおれに強いし、おれは竜兵に強い。逆に竜兵はウララに強いからな。」
回復と強化でおれの与ダメージを無かったことにできるウララも、時間を追うごとに周囲に溢れるドラゴン族の波状攻撃は往なし切れない。
逆に大量のドラゴン族を呼び出す前、一気に駆け抜けるおれのスタイルには、竜兵は対応しきれない。
そう、これは『魔導書』の相性だから仕方ないことだ。
要は好みの問題、別にお互い明確な優劣は無い。
「あれ?でもそれじゃ尚更、火力って話はおかしいような?」
アフィナは未だ良くわからないようだ。
その時、ずっと考え込んでいたシルキーが、ハッとした表情になり口を開いた。
「セイさん、瞬間的な火力って意味?」
その通り、おれは黙って首肯を返す。
ドラゴンホットラインからも、「さすがねシルキー!」と、ウララの賞賛の声。
「ええっ!?でもでも、ウララは神様を圧倒してたよね?セイってそれ以上なの・・・?」
声に完全な怯えと戸惑いを滲ませつつ、おれと竜兵を交互にみつめるアフィナ。
それに答えたのはどちらでもなく、ウララだった。
「アフィナ、思い出して。あたしはダインをボコる時、カードを何枚使った?」
ウララの問いに対しアフィナは、「確か・・・五枚?」と、やや自信無さ気に答える。
「うん、正解ね。じゃあセイに聞くわ。アンタが神様をぶっとばす時、必要なカードは何枚?」
頭の中でシュミレーションしてみる。
あのコンボ、最速なら間違いなくあれだろう。
「・・・二枚だな。」
おれの言葉に、アフィナとシルキーは完全に沈黙した。
ドラゴンホットラインからはウララの、「これで納得できた?」という声だけが響き渡った。
■
「ま、それはそれとしてだ。」
「待ってセイ!ボク納得できないよ!?」
「そうだよセイさん!神様をカード二枚で倒せるの!?」
おかしい、話は終わったはずだが?
ずっとおれの傍ら、にこにこと笑顔で話を聞いていたイアネメリラが締めた。
「二人とも、納得しなくていいのよ~。ますたぁはそういう人だって、理解すればいいだけ~。」
その言葉で二人は落ち着きを取り戻したが、どことなく黄昏ているような気がした。
まぁ飯でも食えばその内復活するだろ。
残念と馬だしな。(←ひどい
一段落着くのを待っていたのか、ウララが切り出した。
「そうそう、セイ。サーデインを返すわ。」
(ん?どういうことだ?)
「まだそっちは片付いてないんだろ?サーデインが戻ったら、マルキストが大変なんじゃないのか?」
「主殿、聞こえますか?」
おれの問いに答えたのはサーデインだった。
「サーデイン?状況を説明してくれ。ウララじゃどうにも要領を得ないぞ。」
するとサーデイン、何か言いたいことはあるが、必死で笑いを堪えているような雰囲気だ。
「いやぁ、主殿・・・。愛されてますねぇ。」
「はぁ?」
「ちょっと!アンタ何言い出すのよ!?」
意味がわからないおれと、突然叫ぶウララ。
なぜかおれ以外の全員、竜兵までもが何かを察している様子。
むしろ竜兵はニヤニヤしはじめている。
一体何が?
「さっきですね、ウララさんがカーシャさんの『ゲート』と、飛行系の魔法を駆使してシャングリラの王城に来たんですよ・・・。」
「ちょっとアンタ、いい加減にしなさい!」と叫ぶウララを、半ば無視して話し続けるサーデイン。
「何でも・・・「サーデイン、アンタはセイの防御系盟友の要なんだから戻りなさい。ここはあたしとサラ・・・それにエナも呼ぶから問題ないわ!」だそうですよ?」
そうなのか。
だがそれが何で愛に繋がるんだ?
そんなことより向こうの状況が気になるぞ。
ドラゴンホットラインから聞こえてくるウララの声は、「殺す・・・サーデイン、絶対殺す・・・。」とずっと呟いている。
なんだかバキィ!ガキィン!パリーン!とか聞こえてくるし・・・。
殴打?障壁・・・割れた?
とりあえずサーデイン、お前の身の安全が一番だぞ?
「それではウララさん、私は主殿の所へ向かいますね。」
「うるっさい!さっさと行きなさいよ!そういう訳だから、こっちは心配しなくて良いわ!むしろアンタたちこそ何かあったら連絡しなさいよね!」
最後までニヤニヤしているのが想像できるサーデインの声と、怒りながら一方的に通話を切るウララ。
直後、光の玉がシャングリラのある方、西の上空から飛んできておれの箱へと収まった。
サーデインの『脱出』だな。
ある意味本当に脱出してきたのかもしれない。
そんな事を考えているおれの耳に、竜兵、アフィナ、シルキーのひそひそ話が断片的に入ってくる。
「あっちゃん、シル姉、これが現実だよ?」
「竜君・・・。ボクはもう諦めてるよ。」
「竜さん、セイさんはどうしてあんなに鈍いんだ・・・?」
アハハーと竜兵の乾いた笑い声が響き、イアネメリラが満面の笑みで、「うふふ、青春ね~。」などと呟いた。
おかしい、おれの与り知らないところで話に決着が付いたようだ。
頭の中に直接声が響く。
【兄者君、あと少しで『鈴音の町リーンドル』に着くぞい。】
バイアの言葉通り、『港町カスロ』までの道中、最初になるであろう大きな町。
『鈴音の町リーンドル』、その中央に立つ鐘楼が遥か前方に望めた。
「おーけー、今日はそこで一泊しよう。町を刺激しないような場所で降りてくれ。」
【心得た。】
バイアは町の住民を刺激しないよう、少しずつ高度を落とし始める。
おれは腕にぶら下がったままのイアネメリラを横目に考えていた。
どうか・・・どうか今夜は事件が起こりませんように・・・。
たぶん無理だろうなぁ。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
良ければご意見、ご感想お願いします。