・第百六話 『強制』
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※3/19 誤字修正しました。
異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、聞いてくれ。
兄貴は憤りを禁じえない。
窃盗は犯罪だと思うんだ!
「お互いの優位を均一化して、問題に対する対応策を広げよう。」
ウララがそんなことを言い出した時、おれはつい「なるほど。」と流してしまった。
要は物資を分け合おう。(よこせ。)だった訳で。
竜兵はともかく、『図書館』を持ってから日が浅く、更に言えば自分で生産能力が無いウララの『図書館』に、碌な物が入ってる訳も無く。
ええ、そうですよね。
当然おれと竜兵の『図書館』から譲渡?(お前のものはおれのもの)されていくことになる。
あ!やめて、それは秘蔵のデミグラスソ・・・ああ!おにぎりは・・・おにぎりだけはー!
「なによ・・・おかかじゃない!」
おま!おかかの何が不満だ!
「おにぎりって言ったらシャケでしょうが!」
よろしい、ならば戦争だ。
■
本日は晴天なり。
それにしても雄大な景色だ。
青空と、その境目に面した山々に芽吹く木々。
そして心地よく吹き付ける風の香り。
これから向かう先が戦場でないのなら、思わず昼寝でもしたくなるような陽気の中を、軽快に飛翔する全長12mの白い龍。
バイアの背の上は正に特等席だった。
おれの首が、がっちりとホールドされていることに目を瞑ればだが・・・。
後ろ頭に当たるのはまるでゴムまりのような・・・それでいて枕のような心地よい柔らかさの二つの膨らみ。
まぁ想像はつくと思うが・・・おっぱいである。
おれは恐る恐る背後の人物、拘束者に対して進言する。
「・・・あのー、メリラさん?非常に言い難いのですが、そろそろ離して頂けますかね?」
「んぅ~?」と不思議そうな、それでいて意味はちゃんとわかっている雰囲気の声がして、「やだ~。」とのお返事が返ってきた。
どうしてこうなった?
話は出発前に遡る・・・。
会議で計画を立てた翌日。
朝目覚めてから所持品の確認などをしていた時、冒頭にボヤいた事件が勃発した。
「お互いの優位を均一化して、いざと言う時に備えましょうよ。」
ウララがこんな事を言い出した。
なるほど、竜兵の作った携帯電話(本人曰く『ドラゴンホットライン』)なんかは、すでにおれ、竜兵、ウララが分配しているが、その他の物資を都合しあうのはまだだったな。
「そうだね。」「だな。」
おれと竜兵、更にウララが『図書館』を展開する。
「あ、そうそう。あっちゃんにはこれ・・・と、シル姉にはこれかなー?」
竜兵がポンと手を叩き、アフィナとシルキーにブレスレットを渡す。
二人が訝しみつつも受け取り、シンプルながら可愛らしい装飾が施されたそれを、しげしげと眺める。
今までの竜兵の暴走を考えて、これは見た目通りの代物じゃないだろう。
「竜兵、その二つはどんなオーパーツだ?」
おれの問いに、「オーパーツって程の物じゃないよ。」と笑いながら答える竜兵。
うん、全然説得力が無いね?
「んっとね。あっちゃんの奴は魔力の強化?と言うか制御の容易化だね。今までの魔法が一階級上がって制御し易くなる。簡単な例を出すと・・・風の障壁で将軍級ドラゴンのブレスが無効化できるくらい?んで、シル姉のは人化状態で『一角馬』が使える全ての技能を使えるようになる。威力も一階級分調整可能。ね、全然大した事無いでしょ?」
いやいやいやいや。
十分オーパーツになってるから。
竜兵の説明を聞いた二人は目を丸くし、クリフォードやセリシアなんかは真っ白になってるぞ?
まじで竜兵お前、どこを目指してるんだ。
そんな何とも言えない空気をぶった切り、リアル盗賊が現れた。
「セイ、料理を少し分けなさい。」
「ん、少しなら良いぞ・・・って、ちょっと待て!」
ウララの手に溢れるカードを見て絶句する。
秘蔵のデミグラスソースを始め、カレーやビーフシチューなど、作り置きの各種料理、ラビト君が喜ぶのが可愛くて作ったオムライスやナポリタン他、調味料までごっそりと握っている。
「お前・・・それは持って行きすぎだろ・・・。」
おれたちの食事はどうすんだよ。
思わずジト目で睨んだおれに対し、なぜかドヤ顔のウララさん。
「何ケチ臭いこと言ってんのよ!アンタは作れるから良いけど、あたしは料理ができないのよ!」
そう言って絶壁の胸を張り、ウララさんキリッである。
更に彼女は言い募る。
「セイ、昔の偉い人は言ったわ。「お前の物は俺の物、俺の物は俺の物。」ってね!」
それ、偉い人の言葉じゃないから。
猫型ロボットが出てくるアニメの、劇場版だとやたら男気溢れるガキ大将の言葉だから。
もう泣きたくなってきた。
諦めたおれの耳に、信じられない言葉が入ってきた。
それはウララの漏らした呟き。
「でも待てよ・・・これだけ完成品があれば、あたしがちょっとアレンジするのも有りね・・・。」
待て、産業廃棄物を誰に食わせるつもりだ。
おれはカーシャとセリシア、それにラビト君と言った、調理技能が普通の面々をこっそり呼び出し、自身の持つレシピをそっと握らせた。
「いいか・・・ウララに料理をさせたら、人が死ぬぞ・・・。」
カーシャとセリシアは訝し気だが、ラビト君は涙目でコクコクと頷いた。
彼は・・・被害者なのかもしれない・・・。
■
いよいよ出発。
そこでも我らが『正義の女神』に遠慮は無い。
「セイ、アンタちょっと『魔導書』出しなさい。」
「なんだ?なにを・・・。」
「良いから早く!」
おれに拒否権は無いらしい。
渋々『魔導書』を展開する。
おれの目の前に現れる、A4のコピー用紙サイズのカードが六枚。
それを覗き込んだウララが、勝手に三枚のカードを選択した。
「おい!ウララ・・・」
「理唱えなさいよ!」
空中に浮かぶカードの内二枚が、羽根と星の紋章を三つずつ産み出す。
くそっ!一体何だってんだ?
おれは残った一枚、光を纏ったそのカードの召喚の理を詠唱した。
『伝説の旅を続けし者、世界の希望と歩みし者、我と共に!』
理が唱え終わり、金箱の蓋が開く。
辺りが金色の召喚光に包まれる。
光が収まれば、そこに居るのは絶世の美女である堕天使、イアネメリラ。
彼女は何も言わずに、いきなりおれの頭を抱きかかえた。
「お、おい・・・メリラ?」
(ちょ、呼吸が・・・。)
イアネメリラはおれの顔を自身の胸で散々ぐりぐりした後、おれに目線を合わせる。
その碧眼の端には涙が溜まっていて・・・。
「ますたぁの・・・ますたぁの、浮気者~!」
彼女は叫んだ。
出発してからもずっとホールドが解けない。
「いやほんと。浮気も何も・・・心当たりが無いです。許してください。」
平身低頭、おれは謝り続けていた。
空の旅が始まってから約二時間は経っただろうか?
おれの頭をかいぐり回していたイアネメリラが、やっとおれの横に移動した。
まぁ手は完全にホールドされたままですが・・・。
「で、これはどういう理由だったんだ?」
おれは一つ当たりを付けていて、原因の一端であろうアフィナとシルキーを窺った。
なぜあいつらが原因の一端かと言うと、昨夜はなぜか二人ともウララと一緒の部屋に居たからだ。
それもラビト君までおれの部屋に寄越し、完全に女三人という状況で。
「それはあたしが説明するわ!」
竜兵が自分の携帯電話を差し出す。
銀板の表示には「ウラ姉」と出ていた。
「昨日三人で話した結果だけど、アンタの無茶は二人で抑えるには荷が重い。って話しになったのよ!それで今朝『魔導書』を見て、抑えの利く盟友が居たら強制的に呼ぼうって決めたの!」
なるほど・・・それでイアネメリラか。
確かに彼女に強く言われたら、おれも無茶はし辛い。
「うん、ボクもロカさんかメリラ姉さんしか無いと思ったんだ。」
「私はセイさんの盟友を余り知らないけど、今日のイアネメリラさんの様子を見て確信したよ。セイさんの手綱を握れるのは彼女しか居ないって。」
残念な方と馬な方も不満は無いようです。
しかし馬な方が手綱を握るって・・・。
シルキーがすごい剣幕で睨んでくる。
やめて、心を読まないで。
「はぁ~、せめて事前に相談しろよ・・・。」
ため息一つ、おれも渋々了承する。
おれのため息に、途端顔を曇らせるイアネメリラ。
「ますたぁは、私が嫌い?」
いやいやいやいや。
極端が過ぎるぞ。
「なんでそうなるんだ!?」
「じゃあ・・・好き?」
おれの腕をがっちりホールド、そのままにじり寄ってくるイアネメリラ。
顔が・・・近いっす。
おれはすっと目を逸らし、「あ、ああ・・・好きだよ?」と答えることしか出来なかった。
その瞬間にへら~っと擬音が付きそうなほど表情を緩ませるイアネメリラ。
違うんだ美祈。
イアネメリラの好きは、ほら・・・盟友として?
君の事は愛している!
「セイ!ボクは!?」「セイさん・・・私は!?」
アフィナとシルキーまでにじり寄ってきた。
なんだこれ?
バイアの頭の上、竜兵が砂糖を吐きそうな顔をしている。
おれか?おれのせいなのか?
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