・第百五話 『目的』
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異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、不思議に思わないか?
兄貴はどうにも引っかかる。
今日羽根妖精AとBにもたらされた、秋広の情報だ。
『タウンハンター』ねぇ・・・。
もっこりな凄腕スナイパーのもじりなんだろ。
たしかにアイツがやりそうなことだが、それにしたって何の警戒も無く、目立つようなことをするだろうか?
たぶん狙いは情報の伝達・・・あえて噂を先行させ、自分はとっくに潜んでいるんじゃないだろうか。
その方がアイツらしい。
狐の女も不明だし、『港町カスロ』に向かっても捕まえられるだろうか?
おれたちは選択を迫られる。
■
会議は難航していた。
朝食を挟み、起きてきたアフィナやシルキーも交えて食堂で話し合っている。
ヴェルデは相も変わらずおれの膝の上。
ラビト君がセリシアを手伝い、甲斐甲斐しく皆に食後のお茶を配っている。
クリフォードが「さて。」と間を切った。
パモピモのもたらした情報は、一見秋広に直通しているように見える。
だけどアイツの性格を知ってるおれたちからすると、何とも違和感を覚えていた。
やりそうではあるが、ここまであからさまだと裏を考えてしまう。
「とりあえずパモピモには、引き続き情報を集めてもらうとしてだ・・・。」
おれの提案に、「そうだな。」と頷くクリフォード。
そこでアフィナが、小さく手を上げ発言した。
「一回ボクたちにも、現状と目的をおさらいしてもらえないかな?」
シルキーもウンウンと頷き、ウララも「そうね。状況の再確認は重要だと思うわ。」と後押しする。
おーけー。
おれは状況を並べてみることにした。
「まずこの国の友好国『深海都市ヴェリオン』が、『略奪者』と予想されるアンデッドの集団に襲われている。そして、ヴェリオンにはおれたちが『地球』へ帰る為の魔法、『回帰』のパーツがあり、それは彼の国の誰かが保有して移動している。普通にヴェリオンに行くためには、『港町カスロ』から出ている定期潜水船に乗る必要があるだろう。で、その『港町カスロ』で今、秋広と思われる情報が出てきた。ってとこか?」
まぁ新しい情報はこんなとこだろう。
「ボクたちが起きるまでに、そんな話になってたんだ・・・。」
アフィナとシルキーは、驚きながら顔を見合わせる。
ヴェルデはおれの顔をじっと見上げ、「おじ様のおはなちは難しいですー。」と困り顔だ。
確かに0歳児には難しいだろうな。
「アニキ、新しい情報はそうだけど、おいらたちには他にも課題があるよ?」
竜兵の言葉に答えたのはクリフォードだ。
「そうだな。依然我が国は『レイベース帝国』から宣戦布告を受けたままだし、『天空の聖域シャングリラ』の方も落ち着いたとは言え、これからまたトラブルも起きるだろう。」
そこまで言ってから、「異世界の人間であるセイたちに頼らざるえない現状は、我々も業腹なんだがな・・・。」と呟くクリフォード。
おれは「気にするな。」の意を込め手を振って続ける。
「ま、それは今更だ。さて、現状おれたちの大きな目的と言えるものは三つだろう。」
そこで全員を見回すと、皆それぞれに頷いた。
大体状況は把握できたらしいな。
ヴェルデは首を傾げ、ラビト君はにこにこしているだけだが、まぁこの二人は良いだろう。
確認を再開する。
「まず第一に『深海都市ヴェリオン』の救出、及び『回帰』のパーツ確保。次に秋広の捜索。そしてこの国とシャングリラの防衛だ。」
おれたち転移者組が三人、目的も三つ。
わざわざ分断されているような、何ともいやな雰囲気は拭えないが、どちらにせよ居るメンバーでなんとかするしかない。
「セイ、アンタはどうするつもりなのよ?」
ウララが尋ねてくる。
「状況的にはそうだな・・・。敵がアンデッドなら、おれとウララでヴェリオンに行って、一気に片付ける。それから秋広の捜索。竜兵は引き続き防衛か・・・。」
おれの案に皆一様に黙考する中、竜兵だけが反応した。
「ごめんアニキ、おいらはその案反対かな・・・。」
おれの意見に反対するのは珍しいな。
何か考えがあるのだろうと思い、目線で促す。
「おいら的な見解なんだけどいいかな?」と、前置きして竜兵は自分の考えを語り始めた。
■
「過激かもしれないけど・・・本来なら帝国はさっさと潰しちゃった方が良いと思うのは、今回厳しいから置いとくね。おいらが考えてるのは、おいらとアニキでヴェリオンに向かって、アニキがヴェリオンへ。おいらはそのままあきやん捜索。ウラ姉に防衛に回って欲しいと思ってるんだ。」
(ふむ・・・。)
竜兵の真意がいまいちわからない。
今言った案も決して悪くは思えないが、おれの案に対して最善とは思えないんだが。
それはウララも同じだったようで、竜兵をじっと見つめ問いかけた。
「竜・・・アンタ、何考えてんの?」
ウララの問いに対し竜兵は、「うん。おいらもこれが、ベストじゃないことはわかってるんだよ?」と断りを入れ、その真意を告げる。
「アニキ、ウラ姉、まず確認。二人は『略奪者』の情報網ってどう思う?おいらは正直、結構早いんじゃないかって思ってるんだ。『女帝』に会ったんだよね?ならさ・・・もうウラ姉が復活してるのがわかってて、これ見よがしなアンデッド攻勢ってどう思う?ウラ姉相手に、アンデッドをぶつけるなんてただの徒労にしかならないよね。」
つまり・・・。
竜兵はこれが罠じゃないかと言いたいのか。
確かに・・・今までのやり方と逸脱した方法、それがウララ復活の情報を伴っているとしたら。
最悪ウララをヴェリオンに引き付けて、この国とシャングリラをアンデッドで襲うって方法もあるわけか。
おれたちが離れ離れになった時、もしくはこの国やシャングリラに向かいたいなら、カーシャの『ゲート』で一週間待ちだ。
なるほど、良く考えている。
竜兵の成長が著しいな。
「それに、あきやんが一緒に居るんじゃないかって言う、狐の女も気になるよね。放っておいたら手遅れにならないかな?」
そうなんだよな・・・。
もしその狐の女が『略奪者』だったとしたら、秋広に重篤な問題を起こす可能性がある。
それを考えると竜兵がすぐ探したいって思うのも納得だ。
「アニキ、ウラ姉、たしかにあきやんは、すっごく頭の良い人だけど・・・。二人とも知ってるでしょ?基本的に人が良いんだよ。『略奪者』が『地球』の人間で、ましてや知ってる人だったりしたら・・・。」
言い募る竜兵は泣きそうだった。
おれもウララも言葉が無い。
どこかでアイツなら大丈夫と思っていたが、おれたちの中で最年少、竜兵だけは本気で秋広の身を案じていた。
「それに、おいらならじっちゃんと一緒に空を移動できるから、カーシャ姉の転移で行けないところもアニキを連れて行けるよ。」
「・・・そうだな。」
「そうね。」
おれとウララも気持ちが固まった。
異世界組は竜兵の吐露した言葉に、色々と思うことがあるのだろう。
ただ黙っておれたちの答えを待っていた。
「おれと竜兵でまずは『港町カスロ』へ、その後おれは『深海都市ヴェリオン』の救出に向かう。竜兵はカスロでおれと別れて秋広捜索。ウララはこの国とシャングリラの防衛の為に待機だ。」
気持ちが固まれば早い。
やるべきことはわかっている。
竜兵とウララも「わかったよ、アニキ!」「いいわ。」と即答する。
それからだ・・・。
「出発は明日の朝。それまでに準備と各方面への連絡・・・特にカーシャとマルキストだな。頼めるかクリフォード?」
「任せてくれ。ヒンデック、セリシア・・・わかるな?」
クリフォードに声をかけられた二人が、即座に行動を開始する。
さて、後は・・・。
黙って状況を見守っていた、残念な方と馬な方がもじもじし始める
「セイ!ボクは・・・。」「セイさん、私も・・・。」
「アフィナとシルキーは・・・来るなって言っても来るんだろう?」
ため息混じり、半ば確信を持ちつつも聞いたおれに、ブンブンと首肯で答える美少女二人。
わかってますよ。
そんな捨てられた子犬みたいな目で見つめないでくれ。
「バイア・・・おれと竜兵以外に二人、乗せられるか?」
バイアは立派な髭を撫でながら、「ふぉっふぉ。造作も無いのぅ。」と答えた。
その後ろではウララが、「アフィナ、シルキー、セイの事頼んだわよ!アイツの無茶っぷりは予想の斜め上を行くわ!」などと激励し、それに対し二人が「「うん!わかってる!」」などと答える光景が・・・。
おれが頼まれる方なんですね・・・。
ヴェルデが膝の上から、そのつぶらな瞳でおれをじっと見上げる。
「おじ様?わたちは?」
竜兵をチラ見すると、必死で首を横に振っている。
ですよねー。
「ヴェルデは・・・さすがに留守番だな。」
見る見る内に眉根が寄り、唇が突き出していくヴェルデ。
これはあかん、泣く前兆だ。
慌ててウララを呼びつける。
「ウララ!ラビト君共々、ヴェルデと処女厨の事も頼むぞ?」
そう言ってヴェルデを抱き上げ、ウララに優しく押し付けると、少しだけ抵抗したヴェルデも彼女の腕の中で大人しくなった。
さすが保母さん志望。
子供の扱いはお手の物だな。
「わかってるわよ。」
ウララは素っ気無い言葉だが、その表情が慈愛に満ち満ちていて、完全に誤魔化せていない。
竜兵がボソリと呟いた。
「さすが保母さん・・・。」
(あー余計な事を・・・。)
一瞬ビクリと肩を震わせたウララが、顔を真っ赤にして「あ、あ、あ、アンタ・・・何でそれを・・・。」と眉をキリキリ吊り上げる。
腕の中のヴェルデが怯え、「ふぇ・・・ふぇ・・・。」と涙を浮かべ、慌ててそれをあやすウララ。
にっこり笑顔でウララは竜兵に告げた。
「アンタ、後でひどいから。」
「うええええ!!」
竜兵の悲鳴が食堂に響き渡る。
キッと振り返るウララに先んじて、おれは即座に目を逸らす。
その日の夜、竜兵が部屋でグロッキーになっていた事を触れるものは誰も居なかった。
出発は明日、『深海都市ヴェリオン』でおれたちを待つものは何なのか。
おれは早めに就寝したのだった。
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