表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
112/266

・第百五話 『目的』

いつも読んで頂きありがとうございます。

ブクマ、評価嬉しいです。


 異世界からこんにちは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、不思議に思わないか?

 兄貴はどうにも引っかかる。

 今日羽根妖精AとBにもたらされた、秋広の情報だ。

 『タウンハンター』ねぇ・・・。

 もっこりな凄腕スナイパーのもじりなんだろ。

 たしかにアイツがやりそうなことだが、それにしたって何の警戒も無く、目立つようなことをするだろうか?

 たぶん狙いは情報の伝達・・・あえて噂を先行させ、自分はとっくに潜んでいるんじゃないだろうか。

 その方がアイツらしい。

 狐の女も不明だし、『港町カスロ』に向かっても捕まえられるだろうか?

 おれたちは選択を迫られる。



 ■



 会議は難航していた。

 朝食を挟み、起きてきたアフィナやシルキーも交えて食堂で話し合っている。

 ヴェルデは相も変わらずおれの膝の上。

 ラビト君がセリシアを手伝い、甲斐甲斐しく皆に食後のお茶を配っている。


 クリフォードが「さて。」と間を切った。

 パモピモのもたらした情報は、一見秋広に直通しているように見える。

 だけどアイツの性格を知ってるおれたちからすると、何とも違和感を覚えていた。

 やりそうではあるが、ここまであからさまだと裏を考えてしまう。


 「とりあえずパモピモには、引き続き情報を集めてもらうとしてだ・・・。」


 おれの提案に、「そうだな。」と頷くクリフォード。

 そこでアフィナが、小さく手を上げ発言した。


 「一回ボクたちにも、現状と目的をおさらいしてもらえないかな?」


 シルキーもウンウンと頷き、ウララも「そうね。状況の再確認は重要だと思うわ。」と後押しする。

 おーけー。

 おれは状況を並べてみることにした。


 「まずこの国の友好国『深海都市ヴェリオン』が、『略奪者プランダー』と予想されるアンデッドの集団に襲われている。そして、ヴェリオンにはおれたちが『地球』へ帰る為の魔法、『回帰』のパーツがあり、それは彼の国の誰かが保有して移動している。普通にヴェリオンに行くためには、『港町カスロ』から出ている定期潜水船に乗る必要があるだろう。で、その『港町カスロ』で今、秋広と思われる情報が出てきた。ってとこか?」


 まぁ新しい情報はこんなとこだろう。

 

 「ボクたちが起きるまでに、そんな話になってたんだ・・・。」

 

 アフィナとシルキーは、驚きながら顔を見合わせる。

 ヴェルデはおれの顔をじっと見上げ、「おじ様のおはなちは難しいですー。」と困り顔だ。

 確かに0歳児には難しいだろうな。 


 「アニキ、新しい情報はそうだけど、おいらたちには他にも課題があるよ?」


 竜兵の言葉に答えたのはクリフォードだ。


 「そうだな。依然我が国は『レイベース帝国』から宣戦布告を受けたままだし、『天空の聖域シャングリラ』の方も落ち着いたとは言え、これからまたトラブルも起きるだろう。」


 そこまで言ってから、「異世界の人間であるセイたちに頼らざるえない現状は、我々も業腹なんだがな・・・。」と呟くクリフォード。

 おれは「気にするな。」の意を込め手を振って続ける。


 「ま、それは今更だ。さて、現状おれたちの大きな目的と言えるものは三つだろう。」


 そこで全員を見回すと、皆それぞれに頷いた。

 大体状況は把握できたらしいな。

 ヴェルデは首を傾げ、ラビト君はにこにこしているだけだが、まぁこの二人は良いだろう。

 確認を再開する。


 「まず第一に『深海都市ヴェリオン』の救出、及び『回帰』のパーツ確保。次に秋広の捜索。そしてこの国とシャングリラの防衛だ。」


 おれたち転移者組が三人、目的も三つ。

 わざわざ分断されているような、何ともいやな雰囲気は拭えないが、どちらにせよ居るメンバーでなんとかするしかない。


 「セイ、アンタはどうするつもりなのよ?」


 ウララが尋ねてくる。


 「状況的にはそうだな・・・。敵がアンデッドなら、おれとウララでヴェリオンに行って、一気に片付ける。それから秋広の捜索。竜兵は引き続き防衛か・・・。」


 おれの案に皆一様に黙考する中、竜兵だけが反応した。


 「ごめんアニキ、おいらはその案反対かな・・・。」


 おれの意見に反対するのは珍しいな。

 何か考えがあるのだろうと思い、目線で促す。


 「おいら的な見解なんだけどいいかな?」と、前置きして竜兵は自分の考えを語り始めた。



 ■



 「過激かもしれないけど・・・本来なら帝国はさっさと潰しちゃった方が良いと思うのは、今回厳しいから置いとくね。おいらが考えてるのは、おいらとアニキでヴェリオンに向かって、アニキがヴェリオンへ。おいらはそのままあきやん捜索。ウラ姉に防衛に回って欲しいと思ってるんだ。」


 (ふむ・・・。)


 竜兵の真意がいまいちわからない。

 今言った案も決して悪くは思えないが、おれの案に対して最善とは思えないんだが。

 それはウララも同じだったようで、竜兵をじっと見つめ問いかけた。


 「竜・・・アンタ、何考えてんの?」


 ウララの問いに対し竜兵は、「うん。おいらもこれが、ベストじゃないことはわかってるんだよ?」と断りを入れ、その真意を告げる。


 「アニキ、ウラ姉、まず確認。二人は『略奪者プランダー』の情報網ってどう思う?おいらは正直、結構早いんじゃないかって思ってるんだ。『女帝エンプレス』に会ったんだよね?ならさ・・・もうウラ姉が復活してるのがわかってて、これ見よがしなアンデッド攻勢ってどう思う?ウラ姉相手に、アンデッドをぶつけるなんてただの徒労にしかならないよね。」


 つまり・・・。

 竜兵はこれが罠じゃないかと言いたいのか。

 確かに・・・今までのやり方と逸脱した方法、それがウララ復活の情報を伴っているとしたら。

 最悪ウララをヴェリオンに引き付けて、この国とシャングリラをアンデッドで襲うって方法もあるわけか。

 おれたちが離れ離れになった時、もしくはこの国やシャングリラに向かいたいなら、カーシャの『ゲート』で一週間待ちだ。

 なるほど、良く考えている。

 竜兵の成長が著しいな。


 「それに、あきやんが一緒に居るんじゃないかって言う、狐の女も気になるよね。放っておいたら手遅れにならないかな?」


 そうなんだよな・・・。

 もしその狐の女が『略奪者プランダー』だったとしたら、秋広に重篤な問題を起こす可能性がある。

 それを考えると竜兵がすぐ探したいって思うのも納得だ。

 

 「アニキ、ウラ姉、たしかにあきやんは、すっごく頭の良い人だけど・・・。二人とも知ってるでしょ?基本的に人が良いんだよ。『略奪者プランダー』が『地球』の人間で、ましてや知ってる人だったりしたら・・・。」


 言い募る竜兵は泣きそうだった。

 おれもウララも言葉が無い。

 どこかでアイツなら大丈夫と思っていたが、おれたちの中で最年少、竜兵だけは本気で秋広の身を案じていた。


 「それに、おいらならじっちゃんと一緒に空を移動できるから、カーシャ姉の転移で行けないところもアニキを連れて行けるよ。」 


 「・・・そうだな。」


 「そうね。」


 おれとウララも気持ちが固まった。

 異世界組は竜兵の吐露した言葉に、色々と思うことがあるのだろう。

 ただ黙っておれたちの答えを待っていた。


 「おれと竜兵でまずは『港町カスロ』へ、その後おれは『深海都市ヴェリオン』の救出に向かう。竜兵はカスロでおれと別れて秋広捜索。ウララはこの国とシャングリラの防衛の為に待機だ。」


 気持ちが固まれば早い。

 やるべきことはわかっている。

 竜兵とウララも「わかったよ、アニキ!」「いいわ。」と即答する。

 それからだ・・・。


 「出発は明日の朝。それまでに準備と各方面への連絡・・・特にカーシャとマルキストだな。頼めるかクリフォード?」


 「任せてくれ。ヒンデック、セリシア・・・わかるな?」


 クリフォードに声をかけられた二人が、即座に行動を開始する。

 さて、後は・・・。

 黙って状況を見守っていた、残念な方と馬な方がもじもじし始める


 「セイ!ボクは・・・。」「セイさん、私も・・・。」


 「アフィナとシルキーは・・・来るなって言っても来るんだろう?」


 ため息混じり、半ば確信を持ちつつも聞いたおれに、ブンブンと首肯で答える美少女二人。

 わかってますよ。

 そんな捨てられた子犬みたいな目で見つめないでくれ。


 「バイア・・・おれと竜兵以外に二人、乗せられるか?」


 バイアは立派な髭を撫でながら、「ふぉっふぉ。造作も無いのぅ。」と答えた。

 その後ろではウララが、「アフィナ、シルキー、セイの事頼んだわよ!アイツの無茶っぷりは予想の斜め上を行くわ!」などと激励し、それに対し二人が「「うん!わかってる!」」などと答える光景が・・・。

 おれが頼まれる方なんですね・・・。


 ヴェルデが膝の上から、そのつぶらな瞳でおれをじっと見上げる。


 「おじ様?わたちは?」


 竜兵をチラ見すると、必死で首を横に振っている。

 ですよねー。


 「ヴェルデは・・・さすがに留守番だな。」


 見る見る内に眉根が寄り、唇が突き出していくヴェルデ。

 これはあかん、泣く前兆だ。

 慌ててウララを呼びつける。


 「ウララ!ラビト君共々、ヴェルデと処女厨リゲルの事も頼むぞ?」


 そう言ってヴェルデを抱き上げ、ウララに優しく押し付けると、少しだけ抵抗したヴェルデも彼女の腕の中で大人しくなった。

 さすが保母さん志望。

 子供の扱いはお手の物だな。


 「わかってるわよ。」


 ウララは素っ気無い言葉だが、その表情が慈愛に満ち満ちていて、完全に誤魔化せていない。 

 竜兵がボソリと呟いた。


 「さすが保母さん・・・。」


 (あー余計な事を・・・。)


 一瞬ビクリと肩を震わせたウララが、顔を真っ赤にして「あ、あ、あ、アンタ・・・何でそれを・・・。」と眉をキリキリ吊り上げる。

 腕の中のヴェルデが怯え、「ふぇ・・・ふぇ・・・。」と涙を浮かべ、慌ててそれをあやすウララ。

 にっこり笑顔でウララは竜兵に告げた。


 「アンタ、後でひどいから。」


 「うええええ!!」


 竜兵の悲鳴が食堂に響き渡る。

 キッと振り返るウララに先んじて、おれは即座に目を逸らす。

 その日の夜、竜兵が部屋でグロッキーになっていた事を触れるものは誰も居なかった。


 出発は明日、『深海都市ヴェリオン』でおれたちを待つものは何なのか。

 おれは早めに就寝したのだった。 

 


 

ここまで読んで頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ