・第百四話 『携帯電話』
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※セイ視点です。
異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、天空の次は深海らしい。
この世界、兄貴に一体何を求めているのか・・・。
いや、これはこの世界の意志じゃなく、むしろおれたちと同郷の人間が引き起こした問題なのかもしれないけれど。
正直、地球人として恥ずかしいからやめてくださいと思うが、あいつらどうにも話が通じる気がしないんだよな。
一体何の目的があって、この世界の住人に迷惑をかけているのか。
クリフォードは「正体不明」とも言っていたが、居るんだろうなぁ。
これまでのやり口、あくまでも背後からひっそりと侵食してるってのとは全く違うのが、何とも違和感を覚えるんだが、もしかすると他にも居るのか?
今のところ猿面のツツジに、猫面の桜庭春、それに鳥面か・・・。
そう言えば『風の乙女』シイナのストーカーしてた奴が言ってた、「狐の女」ってのは一体。
まぁとりあえず会議だな。
■
おれはクリフォードに確認した。
「クリフォード。つまりアレか?『回帰』のパーツが見つかった、しかしそれを探しに行こうとしても、その国が現在進行形で襲われていると?」
「セイ、状況は更に良くない。」
クリフォードはため息混じりに首を振る。
「セリーヌ様の話では、『回帰』のパーツは『深海都市ヴェリオン』国内を移動し続けているらしい。誰かが運んでいるようだ。たぶんその効果などは知らないのであろうが、重要な物であることは理解しているのではないかと思う。」
(これはまた・・・。)
正直、かったるいにも程がある。
「それで正体不明の敵ってのは、具体的にどんなのか、セリーヌは言ってきてないのか?」
クリフォードは、「いや。」と頭を振り、ヒンデックに目配せをした。
一歩前に出たヒンデックが、クリフォードの執務机の上へ一枚のメモ紙を載せる。
促され、おれたち転移者組はそのメモに目を通した。
クリフォードが、「それは、私が覚えている限りメモしておいたものだ。」と補足する。
「なになに・・・魔獣種、ドラゴン種、天使族、帝国兵、海獣・・・おい、まじかよ。」
「アニキ、これって・・・。」
オールスター夢の共演だろ・・・。
『略奪者』の関与がほぼ確定する。
竜兵も絶句、ウララも不愉快そうに眉を顰めた。
「セリーヌ様の話では、それだけの種族が断続的に襲い掛かっている。というイメージらしい。そして更に厄介なのが・・・その全てがどうもアンデッド、ゾンビらしいのだ。」
話によると、『自由神』セリーヌと友好的な、『平穏の神』オーディアが守護する国だから、そこまで情報を回してもらえたらしいのだが、しかしえげつない上にどうにも違和感がある。
そう、今までのやり方と違いすぎる。
しばし逡巡したおれたちに、クリフォードが重ねて尋ねた。
「そんなことが可能な魔法カードに、心当たりは無いか?」
暗に、こっちの世界の常識ではありえない事だと言っている。
竜兵、ウララと顔を見合わせおそらくは同じ答えに辿り着く。
「アニキ、ウラ姉、たぶんアレだね?」
竜兵がおれたちに確認し、クリフォードが額に手を当て、「やはりあるのか・・・。」と呟く。
セリシア、ヒンデックの顔色も暗い。
この世界の住人にとって、おれたち『地球』からの転移者が使う魔法は、もはや『天災』のレベルだと思われているだろう。
ウララが答えた。
「効果から考えてそれしかないわ。『死屍累々(コープスフェスティバル)』でしょ。」
『死屍累々(コープスフェスティバル)』・・・周囲の死者を強制的に蘇生、生ける屍と化して行軍させる魔法カードだ。
ただしエリア魔法なんだから効果範囲がある。
それだけの死者の軍団を作り上げたと言うことは、一度それらを召喚して虐殺したってことなんだろう。
死を恐れぬ人形の軍団か・・・。
唯一の救いは、光属性にめっぽう弱いこと。
ウララが当たれば鎧袖一触なんだが。
色々と思うところがありながら、それぞれが頭の中で整理、考えを巡らせていた時だった。
ガォォォン!ガォォォン!ガォォォン!
突然クリフォードの執務机から、鳴き声のような物が聞こえてくる。
「な、なに!?」「どうした!?」
驚いたのはなぜか、おれとウララだけ。
クリフォードは机の引き出しを開ける。
「クリフのおっちゃん、もしかしてパモとピモ?」
竜兵が問いかけると、クリフォードは「ああ、そのようだ。」と平然と答え、引き出しの中から一枚のカードと銀製?の板を取り出した。
板の上にカードをセット。
同時にカードの上から、場違いなほど明るい声が響く。
「あーテステステス。聞こえますかー?どぞ。」
ウララが竜兵をジト目でみつめ、「竜・・・アンタ・・・。」と呟く。
おれも今回はウララに賛成だぞ?
バイアがおれたちの様子を心配して、「ほら、お竜ちゃんなんとかって言ってたではないか。確か・・・けーなんとか・・・。」と言い出した。
竜兵は「てへぺろ」な表情で語る。
「うん、携帯電話ね。暇だったから作っちゃった。」
竜兵ーーー!それもうこの世界じゃオーパーツだから!自重ー!
「そうだったわ。セイやあっきーも大概だけど・・・竜も似たようなもんだったわね。」
ウララはどこか遠くを見つめて呟いた。
■
「こちら現場のパモでーす。今巨大な台風18号が接近中です。とても・・・立っていられないような強風が吹きつけています!」「ピモです!立ってないんですが!浮いてるんですが!」
頭痛がしてきた。
この声、クリフォードの側近の羽根妖精1号2号だよな。
ここに来て初めて名前が判明しました。
クリフォードも額に手を当てながら、「パモ、ピモ真面目にやれ。」と叱責する。
「クリフ様ごめんなさーい。テンション上がっちゃいましたー!」「ましたー!」
おれはこのままじゃ話が進まないと思い、自ら先を促した。
「で、クリフォード。携帯電話ってことは、パモピモ?は遠くに居るんだよな?今あいつらはどこにいるんだ?」
おれの声に反応したのか、カードから聞こえる「ひじきだー!」「違うよ、かじきだよー!」の声が非常に鬱陶しい。
ここ最近は、ずっとセイで名乗ってたから、その間違い久々だわ。
クリフォードも、「お前らちょっと黙ってろ!」とさすがに怒った。
「二人には今『港町カスロ』に行って貰っている。『氷の大陸メスティア』に繋がる最後の港だな。セイたちの仲間、アキヒロの情報が無いかと思ってね。カスロからなら『深海都市ヴェリオン』への定期潜水船も出ているし、丁度良いかと思ったんだ。」
(なるほど。)
本当にクリフォードは気が利くな。
それで連絡が来たって事はもしかして。
「パモ、ピモ何か情報があったのか?」
「セイー!あったよー!」「あったよー!セイー!」
おれが声をかけると、「待ってました。」とばかりに言い募る、羽根妖精AとB。
収穫ありか・・・。
「んっとね。カスロの冒険者ギルドに、ローブ着た背たかーい、眼鏡の人族が来たー。」
冒険者ギルドってやっぱりあるのか。
異世界テンプレだな。
「約一月前ー、『タウンハンター』って名乗ったー。凄腕ー、魔物いっぱい倒したー。方法は不明ー、なんかどの魔物も一撃なんだってー。」
・・・・・・。
タウン・・・ハンター?
ウララにハンマーで叩いて欲しいんだろうか?
「『タウンハンター』への依頼、掲示板に「XYZ」。『タウンハンター』の口癖ー、「僕の後ろに立つんじゃない。」あとー「スナイパーの目は誤魔化せないぜ!」だってー。」
「街の有力者は言うー。「あの男に連絡だ。」おっけー?」
眩暈がする。
おれたち三人は顔を見合わせ頷いた。
「秋広だ。」「あっきーね。」「あきやんとしか思えない。」
異世界組のメンバーが驚愕に目を見開く。
代表してクリフォードが尋ねてくる。
「ほ、本当にセイの幼馴染は、そんな行動をするのか?」
それに答えたのは三人同時だった。
「「「する。」」」
あいつなら間違いなくそれくらいする。
場が凍りつく。
おれたちは構わず会話を続けた。
「ねーねー、アニキー。思うんだけどさ・・・。」
「セイ、あたしも思うわ。」
「「あっきー(あきやん)楽しんでるよね?」」
その言葉、おれも目を逸らしつつ否定はできない。
カードから再度、報告の声が上がる。
「まだ情報あるー。『タウンハンター』最近二人になったー。相棒が狐の美女ー。」
「なんだとっ!?」
新たな情報にクリフォードが覚醒する。
あいつ・・・まじで何やってんだ・・・。
■
一方その頃・・・。
『港町カスロ』から徒歩で三時間ほどの山林、茂みに伏せる二人の人影があった。
パシュッ!!
長銃を構えたローブ姿の人物から、炭酸ジュースのプルを開けたような音が聞こえる。
遥か遠方、約500mは離れているであろう場所で、大型の牛のような魔物が地響きを立てて倒れた。
ローブ姿の人物の横に居た、肉感的な美女が「ほぅ。」っと、感嘆の吐息を漏らす。
「ふっ・・・ぼくは女も弾も百発百中さ・・・エックシ!」
なにか決めゼリフを吐き、眼鏡をクイっとしたローブ姿の男は、思いっきりくしゃみをした。
「なんだ?風邪か?」
美女の問いかけに、「ふふ、きっと美人が噂してるのさ。」などと軽口を叩き、倒した獲物に向かって歩き出す男。
美女は「ふーやれやれ。」とでも言いた気に、その後ろに追従した。
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