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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
109/266

・第百二話 『聖杯(カップ)』前編

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


※地球編:美祈視点です。


3/10 山本のセリフ修正しました。

3/11 書き漏れ加筆しました。

 地球からこんにちはです。

 わたしは九条美祈くじょうみき九条聖くじょうひじりの妹です。

 お兄ちゃんたちの行方は未だようとして知れません。

 と言うよりも、お兄ちゃんたちのことを覚えている人が少なすぎて・・・。

 いえ、何となくはわかっているんです。

 お兄ちゃんたちはおそらく、あっきーさんが良く話していた異世界に居るって。

 それもきっと・・・カードゲーム『リ・アルカナ』に似た世界に。


 思えば、今朝見た夢もそうでした。

 どこかの神殿のような場所を走っているお兄ちゃん。

 お兄ちゃんの周りにはたくさんの仲間が居ました。

 体長が2mはある漆黒の狼さんや、神話とかで良く見る『一角馬ユニコーン』さん。

 美少女やすごく綺麗な女の人も居ました。

 そのどれもがカードゲーム『リ・アルカナ』で見たような・・・。


 視点が動きます。

 お兄ちゃんが向かう先には怪しい魔方陣と、まるで生贄にされているような人々。

 その中央に・・・ウララちゃん!

 まるで巨大なクリスタルに閉じ込められたように、結晶の中で身じろぎもしないウララちゃんの姿。

 豪奢な金髪の天使と仄暗い雰囲気の翼人に、相対する学童のような帽子を被った男性と、紫髪を三つ網にした綺麗な女性の天使。

 どう見ても金髪天使と翼人が悪そうで、しかも男性と女性の天使は徐々に追い詰められていました。

 わたしはお兄ちゃんに届け・・・と叫びます。


 「お兄ちゃん!急いで!」


 まるで声が聞こえたみたいに、お兄ちゃんは驚いて歩みを止め、辺りを見回しました。


 「わたしはここだよ!」


 お兄ちゃんに手を伸ばし、必死に姿を見せようとします。

 でも、その声も努力も届きません。

 お兄ちゃんが仲間達に指示を出して、狼さんと小さな少女のような天使が先に進みました。


 そこでわたしは目が覚めたんです。

 お兄ちゃんが居なくなってから、こんなことが何度もあります。

 逆にわたしがお兄ちゃんの声を聞くことも。

 遠く離れていてもお兄ちゃんは、わたしのこと忘れないで居てくれるのかな?


 目の前にあるプリントを見ながら、そんなことを考えていました。

 プリントにはこんな事が書いてあります。


 ※高校一年生でも、すでに戦いは始まっています。

   今がんばれない者は、未来もがんばれません。

   あなたの将来の目標を教えてください。


  第一志望

  第二志望

  第三志望


 まだ・・・高校一年生です。

 いくら進学校でも、こんなことってあるんでしょうか。

 それとも、わたしが鈍いだけ?


 わたし、進学するつもりありません。

 将来の目標は、小学校の時から変わっていないし、これからも変わることは無いでしょう。


 「お兄ちゃんのお嫁さんになりたい。」


 そんな拙い告白を、いつもの優しい笑顔で受け止めてもらってから。

 だけど本当は、お兄ちゃん迷惑だったのかな・・・。

 竜君やあっきーさんは「ありえない。」って言うんですけど。

 お兄ちゃんの側にはいつも、アイドル顔負けな超美少女のウララちゃんがいるし・・・ウララちゃんだってお兄ちゃんの事を・・・他の女の子にだってすごくモテるんです。

 わたしは童顔だし、ちびだし、なんかバランス悪いかなって・・・。


 「・・・ちゃん、みきちゃん。」


 わたしが迷走している間に、隣席の親友あすかちゃんが、声をかけてくれていたようです。

 それでも気付かなかったようで、優しく肩を叩かれました。

 時計の針はすでに、HRの終了時刻を指しています。

 最近こういうこと、すごく多いんですよね。

 

 「ごめん!またわたし、ぼーっとしてたね?」


 慌てて謝るわたしにあすかちゃんは、「気にすることありませんわ。」と微笑んでいました。

 けれど彼女は少しだけ眉を顰めると、わたしの耳元で囁きます。

  

 「でも・・・さすがにそのプリントは、提出前に書き直した方が良いと思いますの。」


 「・・・え?」


 自分の机にあるプリントを見て、一気に赤面しました。

 

 ※高校一年生でも、すでに戦いは始まっています。

   今がんばれない者は、未来もがんばれません。

   あなたの将来の目標を教えてください。


  第一志望 お兄ちゃんのお嫁さん

  第二志望 お兄ちゃんのお嫁さん

  第三志望 お兄ちゃんのお嫁さん

 

 わたしは大慌てでプリントに消しゴムをかけました。

 病気・・・でしょうか? 



 ■



 あすかちゃんのSSシークレットサービス山本さんが運転する、あすかちゃんの自家用車、ピンクのロールスロイスに乗って移動中です。

 今日は三人で、ある人に会う為に移動していました。

 わたしの探しているお兄ちゃんたちと、あすかちゃんの探しているホナミさん。

 どちらとも繋がりがあり、今回の事件の影響があってもみんなのことを覚えている、もしくは思い出せる可能性の高い人。

 現在の『リ・アルカナ』世界ランキング二位、ブラッド・伊葉さんです。

 わたしも数回だけ会った・・・と言うよりは、お兄ちゃんが戦っているのを観戦したことがある人でした。


 「山本、先方はなんて?」


 ロールスロイスの後部座席からあすかちゃんが、運転中の山本さんに問いかけます。


 「お嬢様すみません。あまり良いお返事では無かったのですよ。とりあえず、見てから決めるとだけ。」


 アポイントは取ったと言っていましたけど、やっぱりあの人はちょっと難しい方なんでしょうか?

 人を見た目で判断してはいけないと言われますが、正直伊葉さん・・・堅気の方には見えませんでした。


 「謝ることはありませんわ。山本の『吊られたハングドマン』の称号が無ければ、会うことすらできなかったかもしれませんし。」


 山本さんはバックミラー越しに、少しだけ困ったような顔をして呟きました。


 「いえ、今回は称号と言うか・・・私の前職の方の・・・あ、ここですね。」


 山本さんの前職?

 何だか少し気になる言葉でしたが、ちょうど目的地についたようです。

 ロールスロイスが音も無く停車しました。

 

 「・・・本当に・・・ここ、ですの?」


 山本さんがドアを開けてくれ、先に降りたあすかちゃんがなぜか絶句します。

 続けて降りたわたしも絶句しました。

 目の前にあったのは雑居ビルと地下へ続く階段。

 そしていかにもなネオンきらめく看板です。


 「「ストリップ劇場 JOYフル」」


 思わずわたしとあすかちゃんの言葉が重なりました。

 ここ・・・制服で入っていいんですか?

 と言うより、わたしたち入っていいんですか?


 「い、いきますわよ!みきちゃん!」


 意を決したのか、あすかちゃんがズンズンと階段を降りていきました。

 わたしも思わず彼女の手を握り、その後ろに続きます。


 「お嬢様、ちょっと待ってください。」


 受付の男性に頭の先から足の先まで、値踏みするように見られているところに、やっと山本さんが追いついてきました。


 「先輩、居ますかね?あ、これ表の車お願いします。」


 山本さんは手馴れた様子で受付の男性と話し、車のキーを預けています。

 受付の男性は山本さんを確認すると、「ああ、ヨシさんのツレか。旦那ならいつものとこだよ。」と言ってそのまま階段へ向かいました。

 おそらく車を移動してくれるんでしょう。


 お店のドアを開けると、中に居た人が全員こちらに振り返ります。

 ステージには半裸のお姉さんが。

 店中に漂うのは、濃いお酒の匂いとタバコの煙。

 これは結構きついですよ・・・。

 本当にこんな所に伊葉さんが?

 いえ、逆にすごく違和感ないかも・・・。


 わたしとあすかちゃんが完全に、戸惑っているのがわかったんでしょう。

 山本さんがわたしたちの前に出て、片手を挙げると全員それで興味を無くしたかのように視線を逸らしました。


 「や、山本は慣れているのね・・・。」


 あすかちゃんの声が若干震えています。

 わたしも震えるほどではないけれど、普通に怖いです。


 「慣れてる・・・って程でも無いんですが・・・あ、居ましたね。」


 山本さんに先導され、一番奥の隔離されているような区画に行くと、そこには確かに伊葉さんが居ました。

 お兄ちゃんと戦っていた時と同じ、VRバーチャルリアリティの戦装束と同じ姿です。

 筋肉でパンパンに膨れた半袖のYシャツと青いスラックス。

 太ももの太さなんて、わたしやあすかちゃんのウエストよりありそうです。

 唯一違うのはトンファーを持っていないことくらいです。

 いえ、こんな場所で武器を携帯してたら尚怖いですけれど。


 伊葉さんは咥えタバコで、なんだか強そうなお酒を飲んでいました。

 

 「こんばんは。先輩。」


 山本さんが挨拶すると、彼は初めてわたしたちに気付いたかのように、こちらをチラリと一瞥します。

 そして山本さんを睨みつけ、ドスの聞いた声を上げました。


 「おい、良孝・・・こりゃどういうこった?」


 山本さんの下の名前は良孝よしたかさんって言うみたいですね。


 「先輩・・・お願いしたじゃないですか?情報を共有したい人が居るので会ってくれって・・・。」


 山本さんの返答に対し伊葉さんは、「そうじゃねぇよ。」と、タバコを灰皿に押し付けながら、何だか怒っているようです。

 「えっ?」と聞き返した山本さんの頭に、伊葉さんの拳骨が振り下ろされました。

 ゴスッ!

 すごい音がしました。

 あれ絶対痛いです。

 殴られた所を押さえる山本さんと、完全に置いてけぼりのわたしとあすかちゃん。

 伊葉さんは怒り心頭の声音で怒鳴りました。


 「女子高生、こんなとこに連れてくんじゃねーよ!」

 



ここまで読んで頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。


※次回美祈視点後編です。

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