・第百一話 『神託』
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※第三章とつぬーです。
どぞ、お楽しみください!
異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、シャングリラはなんとかなりそうだ。
兄貴もほっと一安心だ。
実際それなりに時間はかかったが、クリフォードが来てくれたのが大きかったな。
優秀な為政者だったサーデインやサラの存在もあった訳で。
マルキストはだいぶやつれた。
たぶん寝る時間一、二時間とかじゃないか?
仕方ないこととは言え、とてもじゃないが他に任せられる案件が少なすぎるらしい。
このままならきっと、彼は稀代の名君として歴史に名を残すはず。
過労死しなければ・・・。
50年に渡り密かにこの国を侵食していた天使族の狂気は、今回でほぼ払拭されたと見て良いだろう。
まぁ・・・油断は禁物なんだが。
さて次は帝国か、はたまた秋広捜索か。
■
都合一週間。
おれたちは『天空の聖域シャングリラ』に滞在した。
事後処理に追われてたってのもあるし、竜兵が作った『謎の道具』、カーシャの『ゲート』を強化するそれが、魔力を充填するまでの時間がかかったせいもある。
内政能力に優れた盟友、サーデインやサラもずいぶん尽力してくれたようだ。
おれたちもそれなりに忙しくはしていたが、収穫やイベントも結構あった。
この世界初だろうカレーライスで衝撃を起こしたり、転移後のウララを保護してくれた土竜族のおじさんぐっさんとの再会、及び彼の持ち込んだ事件の解決など・・・etc
その辺はまた機会があれば語る日もあるだろう。
そして今日は一旦『精霊王国フローリア』に帰還する話になっている。
「クリフォード殿、それにウララ様、セイ殿、他の皆さんも本当に感謝します。我が国はいつでも貴方方に助力を惜しまない。」
そう言って深々と頭を下げるマルキスト。
すっかりやつれてしまっているが、その目に宿る意志の光はとても強い。
彼に任せておけばきっとこの国は大丈夫だ。
そんな確信が持てる程度には、マルキストの人となりを観察させてもらった。
「なに、困ったときはお互い様だ。これから両国は磐石の友好国になれるだろう。」
マルキストは、クリフォードが差し出した右手をしっかりと握り締めた。
「マルキスト、がんばんなさい。あたしもあっちがある程度進んだら戻ってくるわ。」
「まぁそうだな。とりあえずなんかあったら、すぐ『ドラゴンネットワーク』で連絡しろ。」
ウララも現在この国の守護神だが、それは常にこの国に居なければいけない訳じゃ無いらしい。
一度竜兵とも合流し、現状の確認、及びこの先の方針を決めなきゃいけない。
因みに、『吹雪竜帝』のカードは、ここに預けていく。
竜兵とも協議した結果、合流さえできればおれたちには新たなドラゴンカードを渡せるから、緊急連絡用にマルキストに預けていこうと言う話になった。
マルキストは、おれとウララの言葉にしっかりと頷いた。
「じゃあそろそろ行くぞ。サーデイン、サラ、後は頼む。もしもの時は『脱出』で帰って来い。」
二人は黙って頷いた。
サーデインとサラは残していく。
ずっとではないが、まだまだやることが山積しているこの国に、内政能力が高い二人は重宝されている。
いざとなれば『脱出』の魔法カードで、すぐ箱には戻れることもその理由だ。
こちらで何かが起こった時か、それともおれたちが彼、彼女を必要とした時かはわからないが、こういう時合流の容易い盟友は、かなり便利だった。
いよいよ移動という時になって、ラビト君が駆け寄ってくる。
彼は「ウララ様・・・。」と呟いた後、俯いてしまった。
「ラビトは連れて行くわ。マルキスト、問題無いわよね?」
ウララの問いに、「もちろんです。」と答えるマルキスト。
ラビト君が目に見えて明るくなる。
まぁウララに随分懐いているし、まだ五歳とは思えないほどにしっかりしているんだ。
連れて行っても全く問題は無いだろう。
話と挨拶が済み、カーシャが『ゲート』を展開。
まずはクリフォードとセリシアが、続いてウララとラビト君。
シルキーとリゲルがゲートを潜った後、おれとアフィナが閉門するカーシャと共に移動する。
すっかり大所帯になったもんだ。
『ゲート』の先は『マルディーノス神殿』の中庭だった。
迎えの兵たちに、何事か指示を出すクリフォードとセリシア。
ウララとラビト君、『一角馬』たちと言った面々は、初めての他国の王宮に驚きを隠せず、物珍しそうに観察中だ。
「ボクたち・・・帰って・・・来たんだね。」
アフィナが小さく呟く。
彼女にとっては人生最大の冒険だったのだろう。
感慨深くもなるかもしれない。
「まぁお前らはな。」
おれの誰に聞かせるでも無い返答に、改めてハッとした表情になり、「ごめんなさい。セイは・・・。」とアフィナが謝った時だった。
ズダダダダダダッ!
どこか聞きなれたけたたましい足音と、「アニキー!ウラ姉ー!」の叫び声。
おいおい、この一週間は毎日『念話』で話してたじゃないか。
苦笑しつつもおれたちの可愛い弟分を迎える。
しかし、おれの予想は裏切られた。
先に現れたのは青みがかった黒髪に、緑のチャイナドレスのようなものを着た五、六歳の美幼女。 幼女はきょろきょろと中庭を見回した後、おれの姿をはっきりと認識し駆け出した。
「おじ様ーーーーー!!!」
(おじさま!?)
ドフッ!
そんな音を立て、およそ幼女がしたとは思えないタックルを腹に食らい、おれは地面に転がることになった。
■
「おじ様!わたちをお嫁さんにちてください!」
倒れたおれの腹の上、幼女が三つ指をついてのおねだりだ。
意味がわからない。
てか、これ誰だ?
「アンタ・・・そんな幼女にまで・・・。」
ええ、ウララさんのプレッシャーが怖いですね。
間違いなく背中に「ゴゴゴッ」を背負っています。
アフィナとカーシャ、シルキーも顔を寄せ合い何かを相談中だ。
「まさか・・・ロリ・・・?」「だから私達に興味が?」「だからってあんな小さな・・・。」
危険な単語が聞こえる。
おいまて、おれはロリコンじゃねーぞ。
あえて言うならシスコンだ。(自爆
「お前、誰だ?」
おれの素朴な疑問に幼女は、「エッ!?」と心底驚いた顔をする。
そこでやっと竜兵がバイアと共に登場。
「ヴェルデは速いなー!アニキ、ウラ姉、おかえりー!」
しばし沈黙・・・。
(ヴェルデ?これが?)
竜兵の視線の先は、間違いなくおれの上にお座り中の幼女。
恐る恐る、「お前ヴェルデか?」と問いかけると、「ん?そうですよ?」と小首を傾げた。
おいおい・・・リゲルに続き、またしても『人化』かよ。
何となくだが『略奪者』だけじゃなく、おれたちもこの世界の生態系を壊している気がするわorz
そんな些細な?サプライズの後。
約束道りのから揚げパーティが行われた。
さすがに50人は下らない参加者のために一人で用意するのは無理だったが、カーシャやラビト君を筆頭にちゃんとお手伝いをしてくれたので、滞りなく準備が済んだ。
皆それぞれ料理に舌鼓を打ち、機嫌を良くしたウララが歌を披露。
途中、人化したリゲルの発言に、キレたシルキーがまたも彼の角を折りかけたり、デレ過ぎたヒンデックをアフィナが風魔法でぶっ飛ばすなど、多少のトラブルを巻き起こしながらも楽しい夜は更けていった。
おれ?・・・席に案内されてから、ヴェルデがずっと膝の上なんですよ。
見た目完全に幼女だし、中身は子ドラゴンだし・・・邪険にできないだろ?
いつもの客間に通され就寝。
ヴェルデと、なぜかアフィナにシルキーまで同室なのは、もう気にしたら負けだと思う。
料理と久々の宴会疲れに、おれは大人しく意識を手放した。
そして久しぶりに夢を見た。
最愛の妹、美祈の夢だ。
■
美祈は戦装束で、深夜の街頭に立っていた。
これは見たことのあるフィールドだ。
等間隔で並ぶビル郡と街路樹、いかにもな左右四斜線のアスファルト道。
VR、バトルフィールド『摩天楼』だったはず。
(美祈は『リ・アルカナ』をやってるんだろうか?)
そんな彼女の横に、金髪立て巻きカールの女が並び立つ。
(地雷女?)
「みきちゃん、用意はよろしくって?」
「うん、あすかちゃんも大丈夫?」
そんな声が聞こえてくる。
その時、アスファルト道の向こうから只ならぬプレッシャー。
「嬢ちゃんたち・・・覚悟はできてるかー?」
現れたのは筋骨隆々、いかにもな悪人面の男。
年の頃は30~40、青いスラックスに半袖のYシャツ。
どちらもパンパンだった。
太っている訳ではない。
余りにも筋肉が発達しすぎていて、その盛り上がった肉が服を押し上げているのだ。
そしてその両腕、外面に二本の棒。
丁度ひじ辺りまでに伸びた垂直の円柱を、握りで固定した武器・・・トンファーだ。
美祈と地雷女は顔を見合わせ頷くと「「はい!」」と声を合わせて返答した。
トンファーの男がニヤリと笑う。
双方が駆け出した所で、おれの意識は覚醒した。
■
起き抜けに呟く。
「伊葉さん・・・?」
美祈が戦っていると思われる相手に、心当たりが在り過ぎた。
忘れた事は無い・・・余りにも印象的なその姿。
カードゲーム『リ・アルカナ』のトップランカー、それも現在世界第二位だったはずの男。
『戦車』のブラッド・伊葉だ。
まだ混乱していた。
なんであの二人は、伊葉さんと戦ってるんだろうか・・・。
コンコン
客室の扉がノックされ、「セイ様!起床されていますでしょうか?」と声がする。
「起きてるぞ、どうした?」
周りは寝てるけど・・・まぁそれはいい。
今の調子だと用があるのはおれだろう。
「すみません、クリフ様がすぐにセイ様を呼んでくるようにと・・・。」
(クリフォードが?)
扉の外へ「わかった。すぐ行く。」と声をかけ、さっと身支度。
外で待っていた衛兵を伴い、謁見の間へ向かう。
謁見の間にはすでにウララと竜兵、バイア。
それにクリフォード、セリシア、ヒンデックが揃っていた。
「なにがあった?」
開口一番、クリフォードに尋ねる。
クリフォードは一度頷き、おれたちを見渡してから告げた。
「『自由神』セリーヌ様から神託が二つ。朗報と凶報だ。」
(セリーヌからか。)
朗報はまだしも、正直凶報の方はいやな予感しかしないぞ。
バイアが「うむ。」と一息つき、「こういう時は凶報から聞いたほうが良いのぅ。」と呟く。
おれもその意見に賛成だ。
目線でクリフォードを促す。
「わかった。まず凶報の方だな。我が国の友好国の一つ、『深海都市ヴェリオン』が正体不明の存在から攻撃を受け、現在窮地に陥っているらしい。」
「正体不明か・・・。」
「おそらく・・・『略奪者』であろうよ。そして、それに関係して朗報だ。『回帰』のパーツ、どうもヴェリオンに一つあるらしい。」
おれたちの平穏は長くは続かなかった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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※次回、久々の地球編
美祈とアスカは一体何をしているのか!?
前後編になりそうな予感がひしひしと・・・。