・第九十八話 『鎮魂歌(レクイエム)』
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※3/5 誤表記修正しました。
異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、聞いてくれ!
兄貴はついにやったぞー!
異世界に強制召喚されてから、この日をどれだけ待ち望んだ事か・・・。
え?帰る目処が付いたのかって?
・・・・・・。
ごめん、その方が大事ですよねorz
いあ、忘れて・・・忘れてないよ!?
ただ今日はちょっとさ、あの、なんだ。(汗
悪くは無い、悪くは無いんだが、そうじゃないんだ。
っていうような案件が片付いたもので。
お兄ちゃんちょっと取り乱しました。
まぁ要はおれも日本人だったって話。
■
結果、ウララのライブは大成功と言えるだろう。
『天空の聖域シャングリラ』、城門の開け放たれた王城前広場で、急遽設営された舞台に降臨した女神ウララと、その従者は今、彼の国の国民から絶賛を受けていた。
何となく予感はあったんだが・・・おれの料理チートや、竜兵の製作チート。
どうもウララには、歌唱チートとして発現しているようだ。
『地球』に居た頃から、彼女の歌の才能は群を抜いていた。
その容姿も相まって、それこそその辺のアイドル歌手くらいなら、裸足で逃げ出すレベルだったからな。
まぁ彼女の出自を鑑みれば、「なるほど、納得。」と言えるかもしれないが、本人が嫌がっていることなので明言はしないでおこう。
と、まぁそんな理由で『地球』ではよっぽどのことが無い限り、身内でのカラオケすら良い顔をしなかったウララだが、ここに来て「歌う。」と言ったのは、彼女なりの何かがあったのだろう。
そう、彼女のシャウトから始まった、鎮魂歌と銘打たれたただのアイドルショーなことに、おれが目を瞑れば良いだけなんだ。
だがその選曲はどうなんだ、ウララ!?
元気良く最前列でウサ耳をピコピコとラビト君が、Zな戦闘民族のメインテーマ、サビ部分を合唱する姿に眩暈がする。
原曲を知ってるおれはともかく、即興でハープとフルートの伴奏を奏でる、『歌姫』セリシアと『横笛の乙女』テュレサ。
さすがは音楽系?盟友としか言いようが無い。
と言うか君たち・・・なんで、宇宙に飛び出した波動な軍艦のテーマを伴奏できるんですかね?
五曲?六曲ほど歌い上げたウララが、おれたちを振り返り一つ頷いた。
(もうバックバンドはいらないってことか?)
それに合わせ、おれ、セリシア、テュレサは自身の楽器を降ろす。
ウララが一度国民をゆっくりと見回す。
「ウララ様ー!」「女神様ばんざーい!」「もっと歌ってくださいー!」などと、獣人族を中心にして黄色い声が飛び交う。
すごい人気だな、この辺は異世界でも同じなのか・・・。
そして当の本人は静かな、それでいて隅々にまで響き渡る声で一言。
「皆、聞きなさい!」
一瞬にして水を打ったように静まり返る国民たち。
それを確認して大きく頷くと、ウララはゆっくりと語り始めた。
「道を示すわ!一つ、何も考えずただ安寧と日々を暮らす、直線のような変化の無い道。もう一つ、先もわからない、ただただ険しく地獄に続くかもしれない、それでも可能性のある登り道。あたしは万人を救えない。だから選ぶのはアンタたちよ。それでもあたしと、マルキスト王に付いて来れる?」
此度の惨劇、おれたちのことは適度にぼやかしながらも、マルキストが大体の事情を国民に周知済みだ。
だからこそこれは必要なこと。
おれたちは所詮、異世界の人間だ。
いずれは元の世界に帰る。
なればこそ、自分で選びマルキストに付いて行く。と認識させなければならない。
そしてふと思い当たる。
(この、道ってやつ・・・。)
『地球』に居た頃、結構前におれが、ウララに言った言葉だ・・・
。
国民たちはウララの言葉を反芻し、じっとウララとマルキストを見つめた。
一番最初に声を上げたのはラビト君だった。
「はい、ウララ様!ぼくはウララ様とマルキスト様の、目指す場所を見てみたいです!」
ビシッと手を上げ、迷い無い瞳で断言する。
(ええ子や・・・。)
おれが思わずほっこりしている間に、ラビト君に追従し各々が、「俺も!」「私も!」と声を上げる。
そこには種族なんて関係ない。
一番数の多い人族は元より、迫害されがちな獣人族、病み上がりながらも何とか顔を出した天使族、この国に住まうエルフやドワーフ等の妖精族も居た。
それぞれが決然とした表情で宣言していく。
ウララはそれを満足げに目を細め見ていた。
そうして一通り広場に居る国民が落ち着いた所で、「皆の気持ちはわかったわ。じゃあ最後に一曲だけ、この争いで傷つき倒れた人に歌を贈るわ。」と告げた。
そして彼女は静かに歌い始める。
彼女の、彼女なりの鎮魂歌。
おれも一度だけ聞かせてもらったことがある、鎮魂歌としてはとても、とても情熱的なウララのオリジナル曲・・・。
おれはあの歌をラブソングだと思っていた。
■
ウララの清廉な歌声が響き渡る。
『茜差す荒野彷徨う、哀れな魂の歌声が。
あたしを呼ぶから、ここへ着た・・・。
偽善だとか、手遅れだとか、そんなの後付の言い訳で。
あたしは彼らを、放っておけない。
その想いは頑な過ぎて、あたしの声は心に響かないの。
それでも隣で笑えるならば、それだけで構わないと思った。
叶うなら、燃やして欲しい。
貴方の笑顔を、瞳焼き付けたまま。
この場所で灰になるなら、それも運命なのかもしれない。
叶うなら、忘れて欲しい。
貴方のぬくもり、胸に抱きしめたまま。
この場所で消えていくなら、それも運命なのかもしれない。
だから歌うよ・・・鎮魂歌を・・・。』
一番が終わり、ふと気付く。
いつのまにか涙が溢れ出していた。
おれだけじゃない。
会場に居た全員が静かに泣いていた。
(これが完成形だったのか・・・。)
以前聞いた時、最後の「鎮魂歌」のフレーズは無かった。
「まだ未完成だから。」と、恥ずかしそうに言っていたウララの顔を思い出す。
その時、異変が起こった。
ウララの綺麗な黒髪と黒目が、輝くような金髪と碧眼に変わっていく。
おれの横に控えていた『横笛の乙女』テュレサが、「ル・・・ルピタ様・・・。」と呟いた。
(・・・ルピタ!?)
慌てて自分の控え(サイド)をこっそり探る。
(あった・・・!)
『法術姫』ルピタ。
VRに反応しなかった、おれの盟友カード。
ギルド『伝説の旅人』に所属していた英雄だ。
イラストは・・・金髪ツインテールに碧眼、壮麗な杓杖を掲げ持つその姿・・・確かに似ている。
いや、むしろ同一人物と言ってもいいくらいだが・・・残念かな、決定的に違う場所がある。
イラストのルピタにはちゃんと胸がある。
断じて更地ではない。
不審に思いながらも二番に耳を傾ける。
『朧浮かべた波間漂う、悲しい魂の泣き声が。
あたしを呼ぶから、ここへ着た・・・。
欺瞞だとか、身勝手だとか、そんなの今更の慰めで。
あたしは彼らを置いていけない。
その願いは頑な過ぎて、あたしの声は明日に届かないの。
それでも一緒に生きれるならば、それだけで構わないと思った。
叶うなら、流して欲しい。
貴方の背中を、瞳焼き付けたまま。
この場所で海に帰れば、それも運命なのかもしれない。
叶うなら、忘れて欲しい。
貴方の思い出、胸に抱きしめたまま。
この場所で再会したら、それも運命なのかもしれない。
だから歌わせて・・・鎮魂歌を・・・。』
ウララが歌いきると、清浄な空気が王城を覆いつくす。
まるで大規模な浄化魔法がかけられたようだった。
ほぅっと息をついたウララ。
なぜか変色していた髪と瞳も、歌の終わりと共に元に戻る。
「さぁ・・・皆、頑張んなさい!」
ウララの言葉に国民は、「オオオオオォォォ!!!」と拳を突き上げ叫び応えた。
■
ウララと共に舞台袖に引っ込む一同。
マルキストとクリフォードは、まだ話があると国民を引きとめ、これからの情勢を多少なり語るようだ。
シャングリラとフローリアの同盟とかな。
そんなことより、さっきのは何だったのか・・・。
「ウララ、お前・・・大丈夫なのか?」
「ちょっと疲れたわね・・・。」
おれの問いに対し、ウララから返って来るのはそんな言葉。
「いや、そうじゃなくって・・・お前歌ってるとき・・・。」
「ウララ様!素敵でした!お疲れ様です。」
金髪碧眼になっていた事を、追求しようとしたおれの言葉を遮り、ラビト君がぴょんぴょんと飛び跳ねながら寄って来る。
これでこの話は流れてしまう。
タオルと小さな水筒を持ってきている辺り、運動部のマネージャーさんのようだ。
にっこり笑顔で、タオルと水筒を受け取るウララ。
「ラビト、いい子ね!ありがとう。」
非常に愛おしげにラビト君を撫でている。
えっと・・・誰これ?
基本おれは何もしなくても、睨みつけられてる状態なんですが?
なにか釈然としない物を感じているとウララが、「そういえば・・・。」と呟いた。
「お腹空いたわね・・・。」
ああ、確かに。
結局王城入ってから約一日、貫徹で食事してないおれたちは元より、一週間以上も『晶柩』に引きこもっていたウララも空腹でない訳が無い。
ウララの呟きを聞いたラビト君が、「あわわ!気が付かなくてすみません!」と大慌てする。
「いいのよ、ラビト。どうとでもなるわ!」と言ったウララが、おれを思い切り睨む。
「セイ、アンタ何か作りなさいよ!そうね・・・カレーが良いわ!」
おいおい、その態度の違いはあんまりじゃないかね・・・。
まぁ作るのは吝かでもないんだが、問題がある。
「無理だ。」
おれの返答に、ウララのまなじりがキリキリと吊りあがっていく。
「何でよ!?」
「米が無いんだ。」
そう、米がみつかっていない。
カレーにはライス、これ常識、そして鉄板。
しかし、絶対の理由を述べたおれに対し、ウララは逆上寸前まで怒っている。
その表情は雄弁に「バカなの?死ぬの?」と語っていた。
もしかして・・・。
「ある・・・のか?米が・・・。」
思わず言葉すら詰まる。
そんなおれを見たウララは、自分の手柄でも無いくせに、腕組みしてやたら居丈高に吠えた。
「あるわ!アンタ一体、今までどこほっつき歩いてたのよ!」
ひどい言われようだが、今は我慢。
こ、米が食える!
別にパンが嫌いな訳じゃない。
アイ・アム・ジャパニーズ!それだけだ!
その時、一旦休憩を取ったマルキストが舞台袖に引っ込んできた。
「セイ殿、済まない。少々詰めたい話が・・・。」
おれはそんな事を言いかけた、マルキストの肩をがっしりと掴んだ。
「ど、どうしたんだ?セイ殿?」
「マルキスト・・・米はどこだっ!?」
後にマルキストは語った。
あの時はガチで、おれに殺されると思ったと・・・。
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※次回はウララ視点の予定です。