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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第二章 天空の聖域シャングリラ編
104/266

・第九十八話 『鎮魂歌(レクイエム)』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


※3/5 誤表記修正しました。



 異世界からこんにちは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、聞いてくれ!

 兄貴はついにやったぞー!

 異世界に強制召喚されてから、この日をどれだけ待ち望んだ事か・・・。

 え?帰る目処が付いたのかって?

 ・・・・・・。

 ごめん、その方が大事ですよねorz

 いあ、忘れて・・・忘れてないよ!?

 ただ今日はちょっとさ、あの、なんだ。(汗

 悪くは無い、悪くは無いんだが、そうじゃないんだ。

 っていうような案件が片付いたもので。

 お兄ちゃんちょっと取り乱しました。

 まぁ要はおれも日本人だったって話。



 ■



 結果、ウララのライブは大成功と言えるだろう。

 『天空の聖域シャングリラ』、城門の開け放たれた王城前広場で、急遽設営された舞台に降臨した女神ウララと、その従者おれたちは今、彼の国の国民から絶賛を受けていた。


 何となく予感はあったんだが・・・おれの料理チートや、竜兵の製作チート。

 どうもウララには、歌唱チートとして発現しているようだ。

 『地球』に居た頃から、彼女の歌の才能は群を抜いていた。

 その容姿も相まって、それこそその辺のアイドル歌手くらいなら、裸足で逃げ出すレベルだったからな。

 まぁ彼女の出自を鑑みれば、「なるほど、納得。」と言えるかもしれないが、本人が嫌がっていることなので明言はしないでおこう。

 と、まぁそんな理由で『地球』ではよっぽどのことが無い限り、身内でのカラオケすら良い顔をしなかったウララだが、ここに来て「歌う。」と言ったのは、彼女なりの何かがあったのだろう。


 そう、彼女のシャウトから始まった、鎮魂歌と銘打たれたただのアイドルショーなことに、おれが目を瞑れば良いだけなんだ。

 だがその選曲はどうなんだ、ウララ!?

 元気良く最前列でウサ耳をピコピコとラビト君が、Zな戦闘民族のメインテーマ、サビ部分を合唱する姿に眩暈がする。

 原曲を知ってるおれはともかく、即興でハープとフルートの伴奏を奏でる、『歌姫』セリシアと『横笛の乙女』テュレサ。

 さすがは音楽系?盟友ユニットとしか言いようが無い。

 と言うか君たち・・・なんで、宇宙に飛び出した波動な軍艦のテーマを伴奏できるんですかね?


 五曲?六曲ほど歌い上げたウララが、おれたちを振り返り一つ頷いた。


 (もうバックバンドはいらないってことか?)


 それに合わせ、おれ、セリシア、テュレサは自身の楽器を降ろす。

 ウララが一度国民をゆっくりと見回す。

 「ウララ様ー!」「女神様ばんざーい!」「もっと歌ってくださいー!」などと、獣人族を中心にして黄色い声が飛び交う。

 すごい人気だな、この辺は異世界でも同じなのか・・・。

 そして当の本人は静かな、それでいて隅々にまで響き渡る声で一言。


 「皆、聞きなさい!」


 一瞬にして水を打ったように静まり返る国民たち。

 それを確認して大きく頷くと、ウララはゆっくりと語り始めた。


 「道を示すわ!一つ、何も考えずただ安寧と日々を暮らす、直線のような変化の無い道。もう一つ、先もわからない、ただただ険しく地獄に続くかもしれない、それでも可能性のある登り道。あたしは万人を救えない。だから選ぶのはアンタたちよ。それでもあたしと、マルキスト王に付いて来れる?」


 此度の惨劇、おれたちのことは適度にぼやかしながらも、マルキストが大体の事情を国民に周知済みだ。

 だからこそこれは必要なこと。

 おれたちは所詮、異世界の人間だ。

 いずれは元の世界に帰る。

 なればこそ、自分で選びマルキストに付いて行く。と認識させなければならない。

 そしてふと思い当たる。


 (この、道ってやつ・・・。)

 

 『地球』に居た頃、結構前におれが、ウララに言った言葉だ・・・

 国民たちはウララの言葉を反芻し、じっとウララとマルキストを見つめた。

 一番最初に声を上げたのはラビト君だった。


 「はい、ウララ様!ぼくはウララ様とマルキスト様の、目指す場所を見てみたいです!」


 ビシッと手を上げ、迷い無い瞳で断言する。


 (ええ子や・・・。)


 おれが思わずほっこりしている間に、ラビト君に追従し各々が、「俺も!」「私も!」と声を上げる。

 そこには種族なんて関係ない。

 一番数の多い人族は元より、迫害されがちな獣人族、病み上がりながらも何とか顔を出した天使族、この国に住まうエルフやドワーフ等の妖精族も居た。

 それぞれが決然とした表情で宣言していく。

 ウララはそれを満足げに目を細め見ていた。

 そうして一通り広場に居る国民が落ち着いた所で、「皆の気持ちはわかったわ。じゃあ最後に一曲だけ、この争いで傷つき倒れた人に歌を贈るわ。」と告げた。


 そして彼女は静かに歌い始める。

 彼女の、彼女なりの鎮魂歌。

 おれも一度だけ聞かせてもらったことがある、鎮魂歌としてはとても、とても情熱的なウララのオリジナル曲・・・。

 おれはあの歌をラブソングだと思っていた。


 

 ■



 ウララの清廉な歌声が響き渡る。


 『茜差す荒野彷徨う、哀れな魂の歌声が。

 あたしを呼ぶから、ここへ着た・・・。

 偽善だとか、手遅れだとか、そんなの後付の言い訳で。

 あたしは彼らを、放っておけない。


 その想いは頑な過ぎて、あたしの声は心に響かないの。

 それでも隣で笑えるならば、それだけで構わないと思った。


 叶うなら、燃やして欲しい。

 貴方の笑顔を、瞳焼き付けたまま。

 この場所で灰になるなら、それも運命さだめなのかもしれない。

 叶うなら、忘れて欲しい。

 貴方のぬくもり、胸に抱きしめたまま。

 この場所で消えていくなら、それも運命さだめなのかもしれない。

 だから歌うよ・・・鎮魂歌レクイエムを・・・。』


 一番が終わり、ふと気付く。

 いつのまにか涙が溢れ出していた。

 おれだけじゃない。

 会場に居た全員が静かに泣いていた。 


 (これが完成形だったのか・・・。)


 以前聞いた時、最後の「鎮魂歌」のフレーズは無かった。

 「まだ未完成だから。」と、恥ずかしそうに言っていたウララの顔を思い出す。

 その時、異変が起こった。

 

 ウララの綺麗な黒髪と黒目が、輝くような金髪と碧眼に変わっていく。

 おれの横に控えていた『横笛の乙女』テュレサが、「ル・・・ルピタ様・・・。」と呟いた。


 (・・・ルピタ!?) 


 慌てて自分の控え(サイド)をこっそり探る。


 (あった・・・!)


 『法術姫メイデン・オブ・ルーンマリア』ルピタ。

 VRバーチャルリアリティに反応しなかった、おれの盟友ユニットカード。

 ギルド『伝説の旅人』に所属していた英雄だ。

 イラストは・・・金髪ツインテールに碧眼、壮麗な杓杖を掲げ持つその姿・・・確かに似ている。

 いや、むしろ同一人物と言ってもいいくらいだが・・・残念かな、決定的に違う場所がある。

 イラストのルピタにはちゃんと胸がある。

 断じて更地ではない。

 不審に思いながらも二番に耳を傾ける。


 『朧浮かべた波間漂う、悲しい魂の泣き声が。

 あたしを呼ぶから、ここへ着た・・・。

 欺瞞だとか、身勝手だとか、そんなの今更の慰めで。

 あたしは彼らを置いていけない。

 

 その願いは頑な過ぎて、あたしの声は明日に届かないの。

 それでも一緒に生きれるならば、それだけで構わないと思った。


 叶うなら、流して欲しい。

 貴方の背中を、瞳焼き付けたまま。

 この場所で海に帰れば、それも運命さだめなのかもしれない。

 叶うなら、忘れて欲しい。

 貴方の思い出、胸に抱きしめたまま。

 この場所で再会したら、それも運命さだめなのかもしれない。

 だから歌わせて・・・鎮魂歌レクイエムを・・・。』


 ウララが歌いきると、清浄な空気が王城を覆いつくす。

 まるで大規模な浄化魔法がかけられたようだった。

 ほぅっと息をついたウララ。

 なぜか変色していた髪と瞳も、歌の終わりと共に元に戻る。

 

 「さぁ・・・皆、頑張んなさい!」


 ウララの言葉に国民は、「オオオオオォォォ!!!」と拳を突き上げ叫び応えた。



 ■



 ウララと共に舞台袖に引っ込む一同。

 マルキストとクリフォードは、まだ話があると国民を引きとめ、これからの情勢を多少なり語るようだ。

 シャングリラとフローリアの同盟とかな。

 そんなことより、さっきのは何だったのか・・・。


 「ウララ、お前・・・大丈夫なのか?」


 「ちょっと疲れたわね・・・。」


 おれの問いに対し、ウララから返って来るのはそんな言葉。

 

 「いや、そうじゃなくって・・・お前歌ってるとき・・・。」


 「ウララ様!素敵でした!お疲れ様です。」


 金髪碧眼になっていた事を、追求しようとしたおれの言葉を遮り、ラビト君がぴょんぴょんと飛び跳ねながら寄って来る。

 これでこの話は流れてしまう。

 タオルと小さな水筒を持ってきている辺り、運動部のマネージャーさんのようだ。

 にっこり笑顔で、タオルと水筒を受け取るウララ。


 「ラビト、いい子ね!ありがとう。」


 非常に愛おしげにラビト君を撫でている。

 えっと・・・誰これ?

 基本おれは何もしなくても、睨みつけられてる状態なんですが?

 なにか釈然としない物を感じているとウララが、「そういえば・・・。」と呟いた。


 「お腹空いたわね・・・。」


 ああ、確かに。

 結局王城入ってから約一日、貫徹で食事してないおれたちは元より、一週間以上も『晶柩』に引きこもっていたウララも空腹でない訳が無い。

 ウララの呟きを聞いたラビト君が、「あわわ!気が付かなくてすみません!」と大慌てする。

 「いいのよ、ラビト。どうとでもなるわ!」と言ったウララが、おれを思い切り睨む。


 「セイ、アンタ何か作りなさいよ!そうね・・・カレーが良いわ!」


 おいおい、その態度の違いはあんまりじゃないかね・・・。

 まぁ作るのは吝かでもないんだが、問題がある。


 「無理だ。」


 おれの返答に、ウララのまなじりがキリキリと吊りあがっていく。


 「何でよ!?」


 「米が無いんだ。」


 そう、米がみつかっていない。

 カレーにはライス、これ常識、そして鉄板。

 しかし、絶対の理由を述べたおれに対し、ウララは逆上寸前まで怒っている。

 その表情は雄弁に「バカなの?死ぬの?」と語っていた。

 もしかして・・・。


 「ある・・・のか?米が・・・。」


 思わず言葉すら詰まる。

 そんなおれを見たウララは、自分の手柄でも無いくせに、腕組みしてやたら居丈高に吠えた。


 「あるわ!アンタ一体、今までどこほっつき歩いてたのよ!」


 ひどい言われようだが、今は我慢。

 こ、米が食える!

 別にパンが嫌いな訳じゃない。

 アイ・アム・ジャパニーズ!それだけだ!

 その時、一旦休憩を取ったマルキストが舞台袖に引っ込んできた。


 「セイ殿、済まない。少々詰めたい話が・・・。」


 おれはそんな事を言いかけた、マルキストの肩をがっしりと掴んだ。


 「ど、どうしたんだ?セイ殿?」

 

 「マルキスト・・・米はどこだっ!?」


 後にマルキストは語った。

 あの時はガチで、おれに殺されると思ったと・・・。




ここまで読んで頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。


※次回はウララ視点の予定です。

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