・第九十六話 『人化』
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異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、もうファンタジーに喧嘩を売るのはやめたいんだが・・・。
兄貴は今日も考える。
その容姿、正に伝説級。
黙っていれば、いっそ神々しいとさえ感じられるね。
走るのだってすっげー速い。
下手なバイクや車なんて目じゃないぜ!
雲の上だってスイスイ行っちゃうチート脚力カッコイー。
更に角から魔力の障壁や雷も出すんだぜ。
その力に道中助けられたことも数知れず、心から感謝してるさ。
うん、いいとこはちゃんと挙げたよ。
ただのディスじゃないことを理解してもらえたと思う。
それを踏まえて、一言言わせて貰う。
伝説の聖獣ってこんなんでいいの?
昨今とてつもない劣化により、ほぼどこの作品を見ても、「処女厨」として描かれることが少なくなくなった『一角馬』さん。
たぶんその評価は正解。
リゲル・・・お前・・・とりあえず正座だ、正座ー!
■
アルカ様を見送った後、おれたちは急いでティル・ワールドが逃げる際に使った隠し扉に向かった。
だが結局アルカ様の言った通り、ティル・ワールドはおろか、『封印されし氷水王』も『略奪者』だと思われる『女帝』、桜庭春の姿も無かった。
マルキスト曰く、開かずの扉として認識されていたはずの『封印されし氷水王』の寝所。
そこにあったのは、開かないはずの扉がしっかりと開け放たれ、確かに人が生活していた感触の残る、もぬけの殻になった部屋。
おれたちには、どこへ行ったとも知れぬ奴らを、更に追いかける余裕は無かった。
一通り確認を終え踵を返したおれたちは、現在ラカティスを迎えに廊下を進んでいる。
いや、忘れてなかったよ?
ほら、絆的なのもあるし・・・なにより『脱出』の魔法が使用されてないんだから、自ずと答えは見えてくる。
さすがにあそこまで言い含めた命令を無視するとも思えないしな。
心配はしてないと言えば嘘になるが、空気が正常化してる事が肌に感じられたため、そこまで切迫してもいなかった。
回廊はなかなかに惨憺とした状況だ。
元は『感染者』になった天使族の物だったであろう、武器や鎧の類がそこかしこに落ち、壁や床にも傷が目立つ。
おれはそれなりの速さで歩きながらも、考えを語った。
「とりあえずマルキスト。」
「なにかな?セイ殿。」
マルキストはおれの横にすっと並ぶ。
情報及び、協力体制の擦り合わせをしていかなければいけない。
「知ってると思うがおれもウララも異世界の人間。そしておれは現在、『精霊王国フローリア』の客人扱いだ。この先『天空の聖域シャングリラ』はどう変わっていく?」
マルキストはおれの言葉を受け一つ頷くと、「なるほど。」と呟いた。
どうやらこれだけで、おれの言いたいことをある程度把握したらしい。
「・・・そうですね。『神官王』クリフォード様と早急に会談を行う必要がありますね。こちらとしては、長年の一方的な鎖国、深めた溝を突貫工事でも埋めなければいけない状況ですから・・・。正直虫が良すぎる話ですので、先方がどう仰るか。とりあえずは、私とウララ様の立ち位置を明確に発表してからになりますが。」
まぁ妥当な所だな。
「相手の出方云々は、この際気にしなくて良いぞ。そこにいるアフィナは『風の乙女』でフローリアの貴族だし、王弟のサーデインもいるしな。ああ、因みにロカさんもあの国の英雄だ。」
「なんと・・・。『風の乙女』殿に『古の語り部』サーデイン殿、それに『幻獣王』ロカ殿か!」
さすがに戦闘中は、ちゃんと確認する余裕も無かったんだろう。
アフィナ、サーデイン、そしておれの腕の中に大人しく収まっているロカさんを見て、大いに驚くマルキスト。
「あーあとな。たぶん式典的なもんをやるんだろうが、おれやウララが異世界人ってのはできるだけ伏せた方が良いと思うぞ?重鎮とかはある程度仕方ないとしても、とりあえず国民くらいにはな・・・。」
「そう・・・ですね。そこは十分考慮します。皆さんも他言無用ですよ?」
マルキストが同行者を見回す。
ウララもちゃんと理解しているのだろう、獣人族やその子供たちに「あんたたち、わかってるわね?」と確認していた。
皆が神妙に頷き、ラビト君が「もちろんです!」と太鼓判を押す。
そう、その方が間違いない。
おれも今までに結構、異世界の魔導師って名乗ってしまったが、『略奪者』もおれたち同様『地球』の・・・しかもTCG『リ・アルカナ』トップランカーである可能性が出てきた今、間違いなく火種となる情報だ。
「それはそうとセイ?『風の乙女』ってシイナじゃないの?」
ウララがおれの発言を聞きとめ質問してくる。
おれは「ああ、そいつはアフィナ、シイナの娘だ。」と、簡潔に説明した。
「ふぅん・・・。」と言ったウララがアフィナを観察、そしてバッと右手を差し出す。
「さっきは『薬箱』ありがとね、アフィナ!あたしはウララ、お母さんと間違えてごめんなさいね!」
ウララの突然の行動に「えっ!?ううん、良く似てるって言われるし・・・。」とどもりながら、慌ててその手を握り返すアフィナ。
その後、シルキーやラビト君、他の獣人族の子供たちなんかも適度に交流し、少々重苦しかった空気も軽くなってきた。
青春だねぇ・・・。
■
「おー、大将!無事で良かったぜ。正直あんまり遅いんで忘れられてるのかと思ったぞ?」
ガレキの上、へたり込んだラカティスが片手を挙げる。
わ、忘れてないよ?
「ラカティス、メルテイーオも無事か?」
「ん。」
さすがに炎で出来た体のメルテイーオ以外、皆それぞれに負傷こそしているが、どうやら死者とか重傷は出ていないようだ。
アーライザの羽根から生まれる微治癒の光で、徐々に回復していき立ち上がるものを出始めた。
「マルキスト様、ご無事でしたか。」
「ああ、カーデム老。苦労をかけましたね。」
歴戦の勇士ってのも伊達じゃなかったらしい。
カーデム老人がマルキストの姿を見止めて近付いてくる。
何事か相談を始めた二人を尻目に、激戦区だったこの場を確認。
(しかし・・・これは・・・一体何が?)
バリケードに使ったのだろう、破損した机やイス、ガレキなんかの向こうに倒れている多数の天使族。
規則正しく胸が上下動しているし、生きているんだろう。
その近辺に緑の水溜りがあるし、感染をうまく解けたんだろうか?
そう言えば、旅の仲間が一人?一頭足りないな。
「ラカティス・・・これはリゲルがやったのか?それに本人・・・本馬はどこだ?」
「ん、ああ。それはあの『一角馬』ががんばってだな・・・。途中でなんかやたら弱くなったしな。おそらく大将がなんかしたんじゃねーかと思ったんだが。本馬は・・・。」
なぜかそこで言いよどむラカティス。
(まさか!?)
サラに続きリゲルまでも?
おれの表情を見て何か察したのか、「違う違う。」と手を振り否定するラカティス。
苦笑いした視線の先。
振り返ると、ウララの前に5,6歳の少年。
何故か額には立派な一本の角。
見覚えと心当たりがありすぎるorz
「お姉ちゃん、めっちゃ美人だな!俺様の背中に乗せてやってもいいぜ!」
全員があっけに取られ、空気が凍りつく。
声をかけられた当人は「なによコイツ・・・かわいいじゃない。」などと満更でも無い様子だが。
(・・・・・・。)
理解しました。
いえ、違います。
理解させられました。
「人化したのか・・・。」
おれの呟きにラカティスは、何とも言えない表情で「ああ、なんかイーオの人化見てたら覚えた、とか言ってたな。」とどこか遠くを見つめる。
確かに妙にイラっとしそうな小僧だが、今はそれよりも確かめなければいけないことがある。
「リゲル・・・だよな?これはお前が浄化したのか?」
声をかけ、床に横たわる天使族を指差し確認する。
自分の名前を呼ばれた事に気付き、おれを半眼で睨んだ後、ポンと手を打つ少年。
「ああ、飯係のあんちゃんか!そうだぜ、俺様の雷で綺麗に浄化だ!」
(飯係・・・いや、それも今は良い。)
言いたいことは多々あるが、これだけは確認しておかないと・・・。
「確かにこれだけの人数、ざっと100人近いな。浄化したのは正直すごいと思う。ただな・・・ただ、やたら女が多い気がするんだが?」
そう、これは確認しておかねばならない。
天使族全滅の危機は免れた訳で、普通なら文句なしのお手柄なんだが、それにしたってパッと見100人くらいの生存者に、男が10人居るか居ないかっておかしくね?
リゲルはおれの問いに対し、腕組みしてふんぞり返ると、やたらキリっとした表情で告げた。
「俺様の雷はシルキー様のより弱めだからな!これくらいの等級の奴等には、丁度良かったみたいだぜ?女が多いのは当たり前だ!男は出来る限り焦げる方向でやったからな!そのことについて後悔も反省もしていない!」
キリッ!の音が聞こえてくるよ。
だめだこいつ、早く何とかしないと。
「まぁ・・・この調子なんだ。イーオは、魔物を解き放ってしまったって、妙に落ち込んでるしよ・・・。」
ラカティスがメルテイーオを抱き寄せ疲れ果てている。
確かにメルテイーオの表情も優れない。
こんな時は・・・シルキー、あれ?
シルキーはアフィナの側で俯いて、落とした肩をぷるぷると震わせていた。
そして電光石火。
「こっの恥晒し~~~~!!」
スパコーン!
どこからか取り出したスリッパで、ふんぞり返るリゲルの側頭部を張り倒した。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
良ければご意見、ご感想お願いします。
※本編ですが、なんだかSSと余り変わらない内容にorz
シャングリラ編終わる終わると言いながら、まだ書きたいエピソードが2つほど・・・。
あとウララ視点も><
どうか飽きずにお付き合いください!