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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第二章 天空の聖域シャングリラ編
100/266

・番外編 ある英雄のお気に入り

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


※番外編SSです。

短めですが、楽しんで頂けたら幸いです。

 「ケェェェェン!!」


 森の中、少々不自然に開けたその広場に、とある獣の叫びが響き渡る。

 その広場には、一本の大樹を加工して作られたように見える建造物。

 大樹の中程にある木製の扉が開く。

 中から現れたのは鮮やかな緑の長髪、青い瞳のうら若き女性。

 特徴的なその長耳ゆえエルフ族であること、なればこそその年齢が見た目通りでないことは、想像に難くない。


 「どうしたのかしら?今日はずいぶん早いわ・・・。」


 そんな事を呟きながら、額に手をかざし上空を見上げる。

 空に浮かぶ大柄な影。

 鳥・・・ではない。

 それは獣。


 大鷲の翼を持つ獅子、『翼獅子グリフォン』だ。

 建造物の上空を、悠然と旋回していた『翼獅子グリフォン』が、女性の姿を見止めゆっくりと広場に降りて来る。

 女性も合わせて広場へと向かった。


 「今日はどうしたのカーシュさん?ずいぶん早いようだけれど・・・。」


 怪訝な表情を浮かべながら、広場に降り立った『翼獅子グリフォン』に話しかける女性。

 本来なら不思議なことである。

 基本魔物と呼ばれる者は、言葉を話すことができない。

 人化できる一部の魔物が、人語を話せることは少数ながら確認されているが、獣の姿である以上それは望めないはずだった。

 しっかりと研究されている訳でもないが、およそ口の構造などが言葉を発するのには向かない。とされているのが大きな要因である。

 もちろん魔物とて愚鈍では無い者も多々居るため、言葉こそ話せずとも人の言っていることはわかる。

 簡単な意思疎通など、ジェスチャーや表情の動きで確認することは、簡単ではないが可能である。


 しかし、彼女の場合はそのような雰囲気ではなかった。

 聞けば応えてくれるのがわかっている。そう明確に思っているのが傍目から見てもわかっただろう。

 カーシュと呼ばれた『翼獅子グリフォン』は、女性の目をじっと見つめた。

 その途端女性の脳内に響いてくる渋い男性の声。


 【『森の乙女』カーシャよ。今日は届け物があったのだ。】


 「届け物?」


 そう、『森の乙女』カーシャの守護する『オリビアの森』の結界塔、そこを訪れたのは『翼獅子グリフォン』族の指導者『獅子王』カーシュ。

 彼は『念話テレパシー』によって会話ができるのだ。


 【英雄の弟殿が、また何やら便利な物を作ったらしい。それと・・・もう一つ、『森の乙女』に頼みがあってな。】


 そう言って、自分の首にしっかりと結ばれた風呂敷を見せるカーシュ。

 カーシャは小首を傾げ、「竜君が・・・何かしら?」と風呂敷を開ける。

 中から出てきたのは、オニキスをあしらった秀麗な銀細工のブローチと、手紙が二通だった。

 

 「オニキスのブローチ・・・?」


 いまいち理解できない。そんな表情でカーシュをみつめる。


 【内容は手紙に書いてあるらしい。】

 

 「とりあえず・・・カーシュさん、上がって行って?」


 結界塔へと促すカーシャに一つ頷いた『獅子王』が、慣れた様子で【邪魔するぞ。】と階段を付いていく。

 中に入って即気付くカーシュ。


 【食事中だったか。済まぬな。】


 木製のテーブルの上には食べかけの食事。

 カーシャはテーブルの上を、ざっと片付けながら苦笑する。


 「いいの、いいの。本当はそんなに食べなくても良いのだけれど、セイさんにおいしい食事を教えられてしまってからはだめね。最近は毎食ちゃんと取る様になってしまって・・・。」


 【なに、食事は重要だぞ。】


 自身のいつもの居場所、イスを除け広げたテーブルの下を空けてもらい、生真面目な口調で返答するカーシュに、「太らないか心配なのよ。これでも女ですから。」と言って微笑むカーシャ。


 「そうそう、カーシュさんこれ食べてみて?」


 カーシャが差し出したのは、セイが作ったものに良く似たサンドウィッチ。

 マヨネーズであえたゆで卵を挟んだ、所謂たまごサンドというものである。


 【ふむ。お言葉に甘えるとするか。】


 サンドウィッチを器用に嘴で受け取ったカーシュを尻目にいすへと腰掛ける。

 そして「どれどれー?」などと呟きながら、手紙を読み始めた。


 「また・・・すごい物を作ったわね。」


 手紙にはこんなことが書いてあった。


 カーシャ姉へ


 おいらがんばったよ?

 カーシャ姉の『ゲート』を強化する『謎の道具ミステリア・グッズ』の開発に成功しました!

 たぶん普通にフローリア内の、木が生えてるとこならどこへでも。

 あとはおいらの近くにも飛べるよ。

 それからそれから、アニキがその内シャングリラも開放してくれるから、変な干渉が無ければアニキの側にも飛べると思う。

 おいらのドラゴンネットワークの力も流用してるからね!

 さすがに木の力を使わない場合は、一週間とか魔力を貯める必要があると思うけど・・・。

 手が空いたら試してみてね?


 竜兵


 明らかに世界に喧嘩を売れるレベルのオーバースペック。

 カーシャも思わず絶句、常識人としては少々頭痛がしてきたようだ。

 気を取り直し、もう一枚の手紙の封を切る。


 「図面・・・かしら?」


 広げた手紙には、野草のような見たことが無い文様が描かれていた。

 たまごサンドをきれいに平らげたカーシュが声をかける。


 【ごちそうさま、大変美味であった。そちらの手紙は我の頼みごとの方だ。】


 首を傾げるカーシャに、【『森の乙女』は染物が得意と聞いてな。】と応える。

 

 「この文様の・・・布を織れば良いのかしら?」


 いまいち状況が掴めないまま、とりあえず確かめると【うむ。是非頼む。】と力強い返答が返ってくる。

 「あんまり・・・おしゃれには見えないけれど・・・。」と呟くカーシャに、心底驚いた表情をその獣面でやたら器用に表現するカーシュ。


 【カーシャよ・・・。その文様は唐草模様と言うらしい。弟殿が図案を起こしてくれたのだ。それはな・・・英雄が好む文様ぞ!】


 「えぇっ!?セイさんが!?」


 余りの衝撃に言葉を失うカーシャ。

 とてもあのクールなセイが好むようには思えない。

 だって何だかぐねぐねしているし、色があんまりな緑である。

 逆にカーシュは「我が意を得たり。」と言わんばかりに頷くと、事の真相を語り始める。


 【我がこの首に布を巻いた時、英雄は確かに心で思ったのだ。「あら、かわいい。これで唐草模様なら完璧なのに・・・。」とな!口にこそ出さずとも、我の『念話テレパシー』には筒抜けよ。ゆえに、我は何としても唐草模様の布を首に巻かねばならぬ!】


 「なんて・・・こと・・・。」


 がっくりと項垂れるカーシャ。

 彼女にとっては正に盲点、驚きの新事実だ。

 セイさんにそんな趣味があったとは。

 そう言われて見れば、何だかすごく素敵に思えてきた。


 「カーシュさん。私もこの布、首に巻いてみようかしら・・・。」


 【良い考えだな!二人で英雄を喜ばせようではないか。】


 「そうね、そうよね!」となんだか異様な光を目に宿すカーシャ。

 そこでカーシュがハタと気付く。


 【『森の乙女』よ!どうせなら大量に作って、他の者たちにも英雄を喜ばせる手伝いをさせようではないか!】


 「カーシュさん・・・素晴らしい考えだわ!私頑張る!」


 【うむ。我にできることがあれば、何でも手伝おう!】


 こうしてセイの不用意な思考が、名前の良く似た二人を大暴走させ・・・『精霊王国フローリア』に、唐草模様のネッカチーフが大流行することになる。

 それを見たセイがドン引きする結果になるのだが、それはまた別の機会に・・・。




ここまで読んで頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。


※カーシャさんは清楚で大人の女性な雰囲気ですが、セイと出会ったせいで300年物の乙女をこじらせていますw

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