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Mystisea~想いの果てに~  作者: ハル
二章 悪魔の子
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過去の恐怖

 四人が再び歩き出してからすぐに奥へと辿りついた。

 途中で魔獣にも襲われたが、マリーアの言うように少しの傷くらいなら<気>で回復できた。そのおかげなのか少し休憩したからなのか、セリアはだいぶ楽になっていた。おそらく両方の効果なのだろう。

 奥へと踏み込んだ四人は周りを見渡し、ある一点を見てすぐにリュートが叫んだ。

「先生、あれ!」

 リュートの指差す方向には、普通のものとは何も変わらない形の薬草があった。しかしその色は他のとは違い、小さく光輝いている。

「間違いなさそうね。恐らくあれがレイリーフだわ」

「先生、早く採ってハク君のところへ持っていきましょう!」

 レイが少しでも急ごうと思い、レイリーフの方へと走り出す。

「……!待ちなさい、レイ!!」

 レイが走り出すと同時にマリーアは鋭い殺気を感じた。レイを制止させようと声をあげる。すると、その声を聞いて一瞬立ち止まったレイが振り返ったと同時に、大きな音が響いた。響いた音の方を振り向けば、そこには抉られた地面の上に魔獣が一体今にも襲い掛かりそうな勢いで立っていた。

「<デルス>!?」

 魔獣を確認した瞬間、すぐさま<デルス>はレイへと突進していった。しかしレイはそれを避け、リュートたちの方へと引き返す。

「何で<デルス>がいるの!?」

 レイは怯えたような声を出していた。

 それもそのはず、つい最近メノン洞窟で戦った<デルス>のことを思い出しているのだろう。すでにリュートたちはあの時の<デルス>がアイーダに強化されていたことを知っていたが、だからといってそう簡単に恐怖を拭えるものではない。

「さしずめレイリーフの番人ってか?」

 リュートもレイほどではないが、少し緊張しているような声だった。

「それも一体じゃないみたいね」

 セリアは後ろを向いていた。そこには<デルス>が二体。つまりは合わせて三体の<デルス>ということだ。

「リュート、レイ、セリア!……戦える?」

 マリーアもメノン洞窟であったことは聞いていたので、三人を心配していた。けれどその心配も無駄なことである。

「当たり前でしょう、先生!」

「少し怖いけど……僕も戦えます!」

「それに、ここで立ち止まるわけにもいかないから……」

 三人のその言葉を聞いてマリーアは安堵する。

 メノン洞窟で戦った<デルス>は強化されて全く歯が立たなかったが、だからといって強化されていない<デルス>なら簡単に倒せるわけではない。<デルス>は強敵であることに変わりはないのだ。

「油断しないでね!」

 その声と同時に、リュート、レイ、マリーアがそれぞれ<デルス>に向かって攻撃する。<デルス>はそれぞれ四人を囲むように立っていた。中心に残ったセリアは様子を見ている。

 リュートの攻撃は<デルス>の肩へと命中したが、少しの傷を負わせるだけでほとんど意味がなかった。舌打ちをしそうになるが、メノン洞窟の<デルス>は傷一つ負わせることさえ出来なかったのだと思い出し、少しの勝機を見出す。

「だけど、やっぱり強敵だな」

 呟きながらも、さらに攻撃を仕掛けていく。







「こんなところで負けるわけには……!」

 気力を振り絞ったレイの攻撃が<デルス>へと当たる。しかしその攻撃も、リュートと同じようにあまり効果はなかった。<デルス>が反撃に出てくる。メノン洞窟の<デルス>よりも断然スピードが遅かった。レイは余裕を持ってその攻撃を避けることが出来る。

 その後も何度も攻撃を仕掛けては、敵の反撃を避けるといった行動が続く。それでもいっこうに<デルス>が倒れる気配は現れない。

「全然攻撃が効いてない……」

 だんだんともどかしい気持ちになっていく。その焦りがレイの動きに隙を見せた。<デルス>の攻撃がレイの身体を吹っ飛ばす。

「ぐっ!!」

 なおも<デルス>は追撃をしようとレイの眼前へと迫ってきた。レイは本能的に眼を閉じる。しかし<デルス>の攻撃はレイへと届かず、<デルス>が呻き声をあげていた。

「大丈夫、レイ!?」

 セリアの魔法だった。レイはセリアに感謝して、気を取り戻す。

「ありがとう、セリア」

 再びレイは<デルス>と対峙する。そこでレイは初めて<デルス>の異変に気づいた。セリアの魔法が当たったと思われる左腕を本能的に押さえている。

「そうか……魔法が効くのか!」

「確かにあのときも魔法は少しだけど効いてたわ……」

「これならいける!」

 レイは走り出し、<デルス>の左腕を狙った。すると今までは大した傷しか与えていなかったのが、そのまま左腕を切り落としてしまった。セリアの魔法のおかげだろう。<デルス>は怒り、残った右腕でレイを狙いに定めた。その攻撃を軽やかに避けながら、次々と<デルス>の体中を攻撃していく。後ろからセリアの魔法が援護していく。

「止めだ!」

 セリアの魔法で弱っていた<デルス>はレイの攻撃であっけなく倒れた。







 マリーアは拳に力を込める。

「手加減はしないわよ」

 言葉など通じていないことは分かっているが、それでも口に出した。

 <デルス>が突進してくる。マリーアは横に素早く避け、<デルス>の体へと拳を入れる。

「はっ!!」

 常人の拳などものともしない<デルス>だが、マリーアの拳は違う。よろけ、今にも倒れておかしくないほどの攻撃をくらっていた。動けない<デルス>をマリーアが放っておくわけもなく、追撃に強烈な蹴りを仕掛ける。その蹴りで<デルス>は後ろへ吹っ飛ぶ。

「これくらいじゃ……倒れないわよね」

 その言葉通り、<デルス>は立ち上がる。しかしその動きは以前より鈍っていることが分かる。それでも<デルス>は強烈な一撃を放ってくる。その鈍い攻撃はマリーアには当たらず、空振りするだけだった。マリーアはそのまま<デルス>の懐に入り込み、拳や蹴りを絶えず繰り返す。

 さすがの<デルス>もその連続した攻撃には耐えきれず、そのまま倒れこみ動かなくなった。

「他の二体は……」

 自分が倒した<デルス>には眼もくれず、残りの二体を探す。そして、一体はレイとセリアが戦っていたので、一人ではつらいであろうリュートへと加勢しに行った。







 <デルス>の攻撃は早いわけでもないが、遅すぎるというわけではない。まともに当たることはなかったが、疲れも出ていたのでリュートはかすり傷が多数できていた。

「ふぅ……もう少しだ」

 <デルス>の体も鋼ではないので、たとえ小さな攻撃でもずっとくらえばいずれは大きくなっていく。リュートはさきほどから諦めずに、攻撃を繰り返してきた。おかげで<デルス>も限界が見え初めていた。

 しかしリュートの方もまた限界に近づいていた。

「リュート、大丈夫?」

 いつの間にかすぐ傍にマリーアがいた。どうやらすでに<デルス>を倒したようだ。やはりマリーアは自分より全然強いのだろうと思った。

「はい。もうすぐ倒せそうです」

「そう」

 早く終わらせようと、リュートは走り出す。マリーアは<デルス>の後ろへと回り込んでいた。同時に挟撃しようと、二人合わせて攻撃する。<デルス>はその二つの攻撃をまともに受けた。しかしすぐに反撃をする。標的はマリーアの方だった。マリーアは瞬時に腕で防御し、<デルス>の攻撃を受ける。その強烈な一撃はマリーアを吹っ飛ばせはしなかったが、後ろへ下がらせた。だが、<デルス>はマリーアの方を向いていたので、リュートにとっては格好の餌食だった。

「終わりだ!」

 後ろからリュートの剣が思いっきり突き刺さった。<デルス>はそのまま絶命し、その場に倒れる。

「よくやったわ、リュート」

 マリーアは防御していたとはいえ、<デルス>の攻撃をまともに受けたのに全然平気そうだった。そのことに多少驚きながらも、リュートは照れ笑いする。

「こっちはもう大丈夫だよ」

 レイとセリアが近くへ寄ってくる。どうやら二人も終わったようだ。特に外傷が目立った様子はなかった。かすり傷とはいえ、外傷が目立つのは自分だけなのが、少し恥ずかしかった。

「さぁ、レイリーフを」

 マリーアがリュートを促す。

「はい」

 リュートはレイリーフに近寄った。レイリーフを見ると、先ほどここで戦いが起こったことが錯覚などではないのかと思うほどに綺麗で、戦場には似合わないものだった。

 傷つけないように慎重にレイリーフを摘み、そして大事に布で包んだ。

「リュート、早くタリアさんのもとへ持っていこう」

「あぁ」

 タリアが起きた時、すでに自分たちはいなくて驚いていると思う。それでもまさかレイリーフを持って戻ってくるなど予想していないことだろう。

 その時の反応を少しだけ楽しみに、そしてハクを助けるために、リュートたちは急いで戻っていく。

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