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Mystisea~想いの果てに~  作者: ハル
二章 悪魔の子
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北の洞窟

「ここが北の洞窟……なんかメノン洞窟と同じような嫌な感じがするよ」

「確かにそうね。進んで入りたいとは思わないわ」

 レイとセリアが洞窟の雰囲気に顔を顰める。

「中には魔獣がたくさんいるはずよ。みんな、気を引き締めて」

「行こう」

 そのリュートの掛け声のもと、マリーアを先頭に洞窟の中へと足を踏み入れた。

 洞窟の中は薄暗く、静かだ。何も喋らずに進んでいくので、四人の足音と時折魔獣の鳴き声がするくらいだろう。最もその魔獣の鳴き声がかなり不気味なのだが。

 メノン洞窟の時のように入ってすぐに魔獣に襲われることはなかった。そればかりか、どうやら入り口の近くには魔獣はいないようだ。少しばかり安心して四人は奥へと足早に進んでいく。

「レイリーフは最奥部だったわね」

「確かそう言っていたな」

「けど、この洞窟どれくらいあるのかな」

 マリーアの後ろで三人が少し話をしながら歩いている。一人マリーアは緊張した面持ちをしていた。やはり一番気になるのはこの洞窟を出てからだった。もしかしたらこの近くに追っ手がいるかもしれないのだ。だとすると洞窟を出てから逃げるのはさらに困難だろう。

 どうするべきか考えていたが、今それを考えても仕方ないので思考を中断する。後ろではまだリュートたちが話しているようだ。

「まだ魔獣出てこないね。案外あんまりいないのかな」

「だといいんだけど……」

「まぁ出てこないに越したことはないよな」

 しかし噂をすれば何とやら。三人の願いむなしく目の前に魔獣が現れた。

 しかもどうやらいつの間にか後ろにもいたようだった。すぐさま四人は戦闘体制に入る。

「敵は<ベルド>が五に<ピス>が四ね」

 素早くマリーアが敵の数を調べる。そして前方に<ベルド>が、後方に<ピス>がいて囲まれていた。

 <ピス>も魔獣の中では弱いのだが、最大の特徴は飛行能力を持っていることだった。外見は大きな蜂のような姿をし、知能も<ベルド>よりは上で多少の連携はしてくる。リュートたちにとっては、個々の能力はそれほどもないのだが幾分飛行能力が厄介だった。それにかく乱されてやられる者も少なくはない。

「私は<ベルド>をやるわ!三人は<ピス>をお願い!」

「はい!」

 すぐさまリュートとレイは駆け出し、<ピス>へと斬りつけた。しかし簡単に上へと飛んで避けられ、剣が届くことはない。すぐに<ピス>が反撃に躍り出て、リュートとレイに二体ずつ攻撃を繰り出した。しかし二人は簡単にそれを受け止める。その隙にリュートとレイは一体ずつ、先ほどとは違い確実に斬りつけた。

「よっしゃ!」

「やった!」

 しかしすぐに残りの二体は上へと飛んで逃げる。様子を見ているのか、降りてくる気配はないようだ。上を飛んでいるので、こちらから攻撃のしようがなかった。どうしたのものかと考えるとセリアが少し前に出てくる。

「私にまかせて」

「セリア」

「今までは、たとえ魔獣でも殺したくないって思っていたけど……これからはそうもいかないでしょ。守ってばかりいられるのも嫌だから……」

 そう言ってセリアは詠唱をし始める。リュートとレイは複雑な顔をしたが、セリアが決めたことなら何も言うべきではないと思った。

「我が源となりし清らかな光よ。我を認め、その力貸したまえ。その力然るべき者に裁きを与えん!」

 リュートたちの頭上にいる<ピス>の、さらに頭上に光の球が現れた。何が起こるのだろうかと思い、見やると突然光の球から<ピス>に向かって二本の光が出た。その光線は<ピス>を勢いよく貫き、たちまち<ピス>は絶命する。

「すげぇ……」

 リュートは余り攻撃魔法を見たことがなかったので、これほどの威力を見るのは初めてで驚いていた。レイも同じようで、何も喋らずに半ば呆然としている。

「これは結構大きな魔法なのよ。そう何度も連続で使うことは出来ないわ」

 驚いている二人に向かって少し笑いながらセリアは言った。それでもやはり魔法を使うことのできない二人には感心するものだった。

「そうだ、先生は!?」

 リュートはすぐに気を取り直し、<ピス>は全滅させたので、<ベルド>五体と戦っているマリーアを心配した。リュートたちはマリーアの実力をよく知らなかったのだ。

 リュートたちの知っているマリーアは士官学校の教師という姿だけで、ライルのように担当の教官ではなかったので、戦う姿を見る時といったら授業の訓練のときだけだ。もちろん授業なので、マリーアは本気を出してなどいない。唯一知っていることはマリーアが拳を武器にして戦っている格闘家ということだけだった。

 格闘家とは拳や足を使って、武器を使わないで体術によって戦う者だ。けれどその数は少なく、世界中を探してもあまりいないらしい。その理由は格闘家の技にある。格闘家は人間が元々持っている<気>というものを使って、魔法に似たような技を繰り出すことができるのだ。それを会得して初めて格闘家と呼ばれるのである。その会得がなかなか出来るものではないので、格闘家になれる人間は年々減っていく一方だった。

「なかなかの魔法だったわよ、セリア」

 マリーアのほうを振り向いたリュートたちが見たものは、自分たちの方へ歩いてくるマリーアとその後ろにいる五体の<ベルド>の死体だった。

「先生……もしかして私が魔法を放つ前から見てたんですか?」

「そうよ」

「まじかよ……」

 リュートはその事実に驚きを隠せない。よく考えればマリーアは自分たちの教師でもあるのだから、それくらい出来て当然なのかもしれないが、普段戦う姿を見ないのでなかなか信じられなかった。リュートたちでは絶対に無理だっただろう。

「先生ってすごい強かったんですね……」

 レイが感心したように言うとマリーアはそんなことないと謙遜する。

「さぁ、先を進みましょう」

 マリーアの掛け声のもと、再び四人は奥へと足を進めた。







 さらに奥へと進んだ四人はだんだんと魔獣と遭遇する間隔が狭まってきていた。その度に撃退するのだが、そう何度も無傷で勝てるわけではなく、四人は数ヶ所にかすり傷を負っている。傷を負うたびにセリアが回復していったのだが、そのせいで予想以上に魔力を使ったこともあり、少し休憩することになった。

「簡単な結界を張りました。これで弱い魔物は近づけないはずです」

「無理しないでね、セリア」

 マリーアがセリアを気遣う。

「ありがとうございます、先生」

「それにしても段々魔獣が多くなってきてるよな」

「でもその分最奥部に近づいてるってことだよね」

 リュートとレイが休みながら話している。二人は前線で戦ってるので、セリアたちより傷の量が多かった。特にリュートは少しばかり無茶をするので、レイよりも傷が多い。

「そうね。もうすぐ最奥部に着いてもいいころだけど……」

 二人のそばへ行き、話にマリーアたちも加わる。

「けど、本当にレイリーフがあるんですか?」

「それは私にも分からないわ。なにせ……幻の薬草だもの」

 しかしタリアの話によれば、あるという確信はあるようだった。

「ここまで来てないってことはないだろ。それに、なきゃ困るんだ」

 ハクのことを思い出しているのだろうか、リュートはつらそうな顔をしていた。セリアとレイもそれに同調するように、強く頷いた。

「それじゃぁ、もう少し休んだら出発しましょう。セリアに負担をかけないためにも、今度からは小さい傷なら私が回復するわ」

「え!?先生、回復魔法使えるんですか!?」

 リュートはそれを聞いて驚いた。その驚きにマリーアは小さく笑う。

「魔法じゃないわよ。<気>を使えば小さい傷くらいなら治せるの」

「へぇ……」

「便利な力ですね……」

「そうかしら?」

 <気>を使えるマリーアにとっては当然なことなのだが、それが使えない三人にとっては驚きに値することだ。

 セリアの負担が少なくなることに安堵を感じながら、リュートたちは奥へと進んでいった。

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