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Mystisea~想いの果てに~  作者: ハル
二章 悪魔の子
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悲しき親子

 タリアの家の中に入ったリュートたちはまたしても驚いた。

 家の中はお世辞にも綺麗とはいえなく、また家も狭すぎる。何か災害でも来れば一発で壊れてしまうと思えるほどだ。

 リュートたちはその驚きを表に出さず、タリアの案内のもと奥に進んでいった。

「汚いですけど、その辺りにお掛けになってください。今料理を作りますから」

 言われた通りに四人は適当に座り始める。その後静寂が訪れ、何か会話したほうがいいだろうと思い、リュートは口を開こうとする。しかしその時、奥の扉が開いて一人の子どもが出てきた。

「お兄ちゃんたち……誰?」

「ハク!」

 その子どもを見て、タリアが慌てて名前を呼んだ。

「起きてちゃ駄目でしょ!早く寝なさい!」

「けど、お母さん……」

 その子どもはタリアの息子のようだった。子どもはまだ七、八歳くらいだろうか。

「タリアさんのお子さんですか?」

「えぇ……」

 セリアが聞くとタリアが答えた。しかしその答え方がリュートには少し気になる。セリアは子どもが好きだったので、嬉しそうに子どもに話しかけた。

「私はセリアって言うの。君は?」

「僕はハク!」

 ハクもまた嬉しそうに答えた。その様子をタリアが心配そうに見守っている。

「お姉ちゃんたちはどうしてここにいるの?」

「ハク、このお姉さんたちはご飯を食べにきたのよ。分かったらきちんと寝てなさい」

「大丈夫だよ。今日はいつもより調子がいいんだ」

「ハク……」

 タリアはどうしたものかと考える。実はリュートたちを呼んだのは少しでいいから、ハクの話し相手になってもらおうという気持ちもあったのだ。

「お子さんどっか悪いんですか?」

 見かねたマリーアが聞いてみる。

「はい……小さいころから病気なんです。お医者様にももうあと少ししか生きられないだろうって言われてて……」

「そんな!」

 セリアが痛ましい表情をする。

「貴方たちを呼んだのも実は少しでもいいからハクの相手をしてもらいたかったの。旅人さんたちならいろいろなことを知っているのでしょう?」

「それは……」

 言われてマリーアは自分たちが旅人と偽っていたことを思い出した。実際は外に出たばかりで、旅でもなくただ追われているだけなのだ。何て答えたらいいか分からず、押し黙る。

 それを見たタリアも何か事情があるのだろうと察し、何も言わなかった。

「私が話し相手になるわ。世界のことはまだ知らないけど、私の知っていることでよければ何でも話すわ」

「俺も!」

「僕も!」

 セリアの後にリュートとレイも続く。ハクもリュートたちと遊べると思ったのか、笑顔を浮かべていた。

「それじゃぁ、お願いしていいかしら」

「はい」

 その瞬間にすでに三人はハクの方へ行き、何か話していた。そんな彼らの様子を見ながらタリアとマリーアは笑っていた。

「さて、料理の続きをしなきゃ」

「私もお手伝いさせてもらってもいいかしら?」

 タリアの言葉にマリーアも便乗する。

「けど、お客さんにやらせるわけには」

「いいんです。一人でいても暇ですから」

「そうですか。それじゃぁ、そっちの野菜をお願いしてもいいですか?」

「分かりました」

 二人はその後も談笑しながら料理を作り、リュートたちもハクと一緒に笑いながら話していた。







 すぐに料理は出来上がり、テープルを囲んで六人で食べることになる。いつもならハクは寝てるのだが、本当に今日は調子がいいらしい。タリアはリュートたちのおかげだとも言っていた。

「タリアさん、これ本当においしいです」

「そうかしら?」

「はい、とてもおいしいです」

 リュートとレイは言いながらも料理へと手を伸ばしていく。

「本当にありがとうございます。ごちそうしてもらって」

「お礼を言うのは私のほうよ。貴方たちがハクと遊んでくれたおかげで少し元気になってくれたし」

「お兄ちゃんたちと遊ぶの楽しかったよ!食べたらまた遊んでくれるよね?」

 ハクが笑顔を浮かべて言うので、リュートたちは断りづらかった。しかし追っ手が迫っている中、ここに滞在しているのも危険なので急いでこの村を出発しなければならなかった。

「駄目よ、ハク。これを食べたら貴方は寝なければいけないし、お兄さんたちももう出発しなければならないのよ」

「お兄ちゃんたちもう行っちゃうの……?」

 上手くタリアが断ってくれたが、ハクの表情はみるみる落ち込んでいった。何か言いたいが、ここにいられないのも事実なのでリュートにはどうしようもない。

「ごめんな、ハク」

 ハクは無言のままうつむついていた。リュートはそれを見て、もう一度謝ろうとする。

 しかし突然ハクが咳き込んだ。

「ゴホッゴホッ!」

「ハク!」

 慌ててタリアがハクの元へと駆けつける。背中をさすり、少し落ち着いたと思ったら今度は血を吐いたのだ。

「お母さん……」

 声は弱々しく、今にも死んでしまうかと思えるほどだった。タリアはすぐにハクを抱え、奥の部屋のベッドの中に入れる。その様子を見ていたリュートたちは自分たちのせいで酷くなってしまったのかと心配になった。

 しばらくしてかなり落ち込んだ表情のタリアが戻ってくる。

「タリアさん、ハクは!?」

「とりあえず落ち着いたわ……けれどいつまた同じことが起きるか……」

「すみません、俺がハクを落ち込ませたから……」

「それは違うわ。さっきのもいつものことなのよ」

「え……」

「今日はまだいいほうだわ。最近は吐血する量ももっと多いもの……」

 タリアは今にも泣き崩れてしまいそうだった。見かねたセリアがタリアを支える。

「薬はないんですか?」

「お金がないのよ……この村では数年も前から税を前の倍以上も取られてるの」

「倍以上……」

「私は帝国が嫌いだわ。皇帝も、宰相も、騎士だって……みんな最低なやつらばかりよ!私の夫だって税が払えないという理由だけであいつらに殺されたわ!!」

「そんなことって……」

 タリアの眼には憎悪のようなものがあり、その様子から本当に毛嫌いしていることが分かる。リュートは今は追われてるとはいえ、昨日まではその騎士になろうとしていたのだ。

 どうしても自分が責められているようだった。

「それに……薬はただ病状を一時的に止めるだけ。本当に治せる方法は一つしかないのよ」

「あるんだったら早く治しましょうよ!このままじゃハク君は……!」

 レイはいたたまれない気持ちで叫んだ。しかしタリアは悲壮な声を絞り出す。

「無理なの……」

「え?」

「治療法はどんな病気も治すと云われている薬草レイリーフが必要なのよ」

「レイリーフ?」

 リュートは聞いたことのない名前に首をかしげる。レイとセリアも聞いたことがなかったが、マリーアは別だった。

「聞いたことがあるわ。レイリーフを煎じた薬はどんな病気をも治すと云われる幻の薬草。けれどレイリーフは数年に一度、薄暗い所でしか咲かない……だから幻の薬草」

「数年に一度って……それじゃぁ無理じゃない!」

「そんな……」

 リュートたちはそれを聞いて呆然とする。しかし次のタリアの言葉に希望が見えてきた。

「いえ……レイリーフの咲いている場所は検討がついているのです。ただその場所が……」

「それはどこなんですか?」

「北の洞窟……その最奥部にレイリーフは咲いているはずなの。だけど洞窟内には数多くの魔獣がいて、とても私のような戦う力のない人間が行っても死ぬだけなのよ。一度だけ村に立ち寄った狩人にお願いしたこともあるわ。でもその人も北の洞窟には絶対行けないと断られました……」

 タリアはすでに立っていられなく、セリアに支えられながら床に座っていた。

「北の洞窟……確かにこの帝国領でもメノン洞窟ほどではないけど恐れられている場所だわ」

「けど……そこにレイリーフがあるなら……」

 リュートが誰に言うでもなく呟いた。しかしその呟きは周りの人間にも聞こえており、セリアも同じ考えだった。しかしレイはいつもの様に弱気でいるようだ。

「けれど……危ないよ。もしメノン洞窟で起こったようなことがあれば、今度は僕たち本当に死んじゃうかも……」

「分かってる……でも、放ってはおけないだろ」

 いつものことながらレイの気持ちも分かるのだが、それでもリュートは行こうとしていた。傍らではすでにタリアが泣き疲れて眠っている。

「先生はどう思いますか?」

「危険が伴うわよ。もしかしたらレイリーフを見つける前に死んでしまうかもしれないし、たとえ見つけたとしてもかなりの時間になるわ。追っ手に追いつかれるかもしれない……それでも行きたいの?」

「俺はそれでも行きたい。ハクを見殺しには出来ない……」

「タリアさんが言っているように薬が出来ても助かるとは限らないのよ?」

「私もリュートと同じ気持ちだわ。たとえ助からないとしてもやれることはやりたいから」

「リュート……セリア……」

 レイは二人を見て怖がっていた自分が情けなく思った。

「先生、僕も行きたいです」

「レイ……」

「分かったわ。三人がそういうなら私は何も言わない」

 不安は多かったが別にマリーアは北の洞窟に行くことに反対していたわけではなかった。マリーアもハクを助けたい想いは同じなのだ。ただ三人が危険を理解したうえで行くと言わなければ行かせなかっただろう。

「本当ですか!」

「行くのなら早く行くわよ。私たちにだって余裕はないんだから」

「はい!」

 すぐに四人は北の洞窟へ行く準備を始めた。未だ眠っているタリアをちゃんと横にし、起こすのも悪いので何も言わずに外へ出た。いきなり持ってきて驚かそうという魂胆も少なからずリュートの胸には含んでいたようだ。

 足早に四人はカルク村を出て、北へと進んだ。

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