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Mystisea~想いの果てに~  作者: ハル
一章 忍び寄る魔
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逃亡

 マリーアに促されて逃げているリュートには今何が起こっているのかよく分かっていなかった。

 分かっていることは逃げなければいけないこと。

 そしてそのためにライルが身を挺して活路を切り開いていること。

 リュートその想いを無駄にしないためにも走り続けた。

 皇の間を出てから、少し離れたところでクルスと出会う。あの後、クルスも気になって引き返してきたのだ。

「リュート!いったい何があったの!?」

「クルス!」

 かなり急いだ様子のリュートたちを見てクルスはすごく不安になった。ましてやマリーアの身体には血がこびりついていた。その尋常ではない姿を見てクルスはどうすればいいのか分からなかった。リュートはクルスに説明をしようとしたがマリーアに止められる。

「話している時間などないわ!一刻も早くこの城を出るわよ!」

 その言葉にリュートたちは頷いた。そしてその時、

 ――大きな衝撃音

 その方角は先程リュートたちがいた皇の間からだった。その音を聞いたマリーアは顔を青ざめる。リュートも恐らく何が起こったか理解していた。マリーアがリュートたちをうながし逃げようとした。そしてクルスに一声掛ける。

「貴方は関係ないわ。早くこの場から離れて部屋へ戻りなさい!」

 それを聞いてクルスは迷った。このまま本当に部屋へ戻っていいのだろうかと。一瞬の間考えたあと、詳しくは分からなかったがリュートと一緒に行くことにした。いつも自分を助けてくれたリュートに何か礼をしたいといつも思っていたのだ。今のこの状況で何か自分でも出来ることがあるかもしれないと思った。その行動にマリーアは部屋へ戻れと怒鳴ったがクルスは引かなかった。時間がないのでマリーアはそれ以上何も言わなかったが、心の中でたくさんクルスに謝った。

(この子もまたつらい思いをするかもしれない……)

 そして急いで五人は城から離れるために走り出した。







 かなり走ってようやく城門へ辿り着いた。

「ふぅ……やっと城門か……」

 城門へ着いたことで一旦立ち止まり、みんなは一息ついた。

「追っ手は来てないみたいね……」

 マリーアはそう言うが内心は気が気ではなかった。あの場面を見てアイーダが放っておくとは思えない。必ず追っ手が来るはずなので早く逃げなければという思いでいっぱいだった。

「先生……いったい何があったんですか?」

 セリアがマリーアに尋ねた。この疑問はリュートたちもみんな知りたいと思っていた。マリーアは正直に答えるか迷う。

「それは……」

「いたぞ!」

 その声にみんなが後ろを振り向く。そこには数人の騎士がいた。

「陛下に逆らった罪人マリーア=ホーネットだな!」

「ッ!!」

 マリーアは一瞬驚いたが、とにかく追っ手が来たことにより早く逃げなければいけないと思った。

「すぐ南に橋があるわ。そこの橋を落とせば時間が稼げるはずよ。逃げましょう!」

 リュートたちはその言葉に従って逃げることにした。しかし心の中では先ほどの騎士の言葉が残っていた。本当にマリーアは罪人になってしまったのだろうか。思えばあの場所にも皇帝はちゃんといた記憶がある。

「逃がすな!追え!」

 その言葉で考えていることを止め、とりあえず逃げなければいけないと思った。

 マリーアを先頭に逃げるリュートたち。それを追いかける騎士たち。やはり力の差は騎士のほうが上か、差は段々と縮まっていくばかりだった。その縮まる差を見てリュートたちは焦っていく。やがてやっと橋が見えてきた。

「さぁ早く!」

 その声とともにみんなは橋を渡っていく。追いかけていた騎士たちは逃げられると思い、弓を構えてきた。それを見たマリーアは焦り、逃げ切れることを一心に祈った。

 そして矢が放たれた。

 その時にはまだ渡りきれていなかったのはセリアとクルスだけだった。二人はとにかく走った。けれどもあともうすぐということで無数の矢がセリアとクルスに当たってしまった。

「セリア!クルス!」

 リュートとレイは叫ぶ。運よく彼らが当たったのは背中と足に数本で、命に至るほどではなかった。そのまま振り切り、セリアが橋を渡りきった。けれどクルスはあともう少しいうところで、追撃の矢がさらにかかった。

「えっ……?」

 クルスは何が起こったか一瞬わからなかった。

「クルスゥゥ―――――!!」

 クルスは足を撃たれてバランスを崩した。そしてそのまま倒れてしまい、橋から転げ落ちていく。それを見ていたリュートは叫んだ。けれどもクルスは矢が何本もささった状態で無残にも橋の下へ落ちていく。

 幸いにもその下は川が流れており、運がよければ死ぬこともないだろう。

 けれどもその川はかなりの激流で、傷を負っているクルスが危険なことは明白だった。リュートたちは呆然とする。そしてその彼らをめがけて騎士たちはさらに矢を放とうとする。マリーアはそれを見て即座に橋を落とし、リュートたちに渇を入れた。

「ここにいれば死ぬわよ!クルスなら運がよければ助かるわ!」

 リュートたちは気を取り戻そうとする。本当は誰もがクルスはもう駄目なのだろうと感じていたが、それだけは信じなかった。そして四人は精一杯走った。逃げていくマリーアたちを見て騎士たちは憤るが、橋も落とされて追う手段はなかった。







 数十分走ったあと、少し開けたところに出た。ここまで来て魔獣に一体も会わなかったのは運がよかったのだろう。ここまでずっと走ってきたこともあってみんなの息は切れ切れだったので、もし出会っていたら危なかったかもしれない。マリーアはこの辺りを見てここらは魔獣が寄ってこないだろうと思う。

「今日はここで野宿しましょう。みんな疲れているだろうし……」

 リュートたちもその意見には賛成した。みんなものすごく疲れていたようでそのまま脱力するように座り始めた。セリアは先ほど受けた傷を自分で治していく。

 そして会話もなくただただ疲れを癒すように静かに時間が経過していく。だいぶ時間が経ったあとリュートはマリーアに尋ねた。レイとセリアもそれが聞きたかった。

「先生……いったい何があったんですか……?」

 マリーアは来るだろうと思っていたが、いざ来てしまうと答えづらい。出来ることならあの光景を思い出したくもなく、そして喋りたくもなかった。認めてしまうのが怖かったのだ。さっき起こったことが本当は夢だったのではないかと思ってしまいたい。それでも認めないわけにはいかなかった。

「そうね……。全部話さないとね。あそこで起こったことを……」

 巻き込んでしまったリュートたちには心の底から謝りたいと思った。あそこでリュートたちが現れなかったら逃げるのは自分一人でもよかったのだ。けれど彼らは現れてしまった。だからこそ彼らにも知る権利はあるのだ。そう思ってマリーアは少しずつ先ほど起こった出来事を話していく。

 今日の課題が仕組まれていたこと

 アイーダが魔族だったこと

 皇帝がすでに狂っていたこと

 そして――ライルが殺されたこと

「私の話を信じるかどうかは貴方たち次第よ」

 全てを話し終わったあとマリーアは静かに言う。リュートたちはマリーアの語られた真実が半ば信じられなかった。

「ごめんね……。私のせいで貴方たちまで罪人になったかもしれないわ。そしてクルスのことも……」

「先生……」

 リュートたちはマリーアの様子を見て痛ましく思う。あんな憔悴しきったマリーアを見るのは初めてだった。マリーアはいつもみんなの母のような存在であり、何があっても気丈に振舞っていた。そんな彼女がはじめて人前でこんな様子を見せていたのだ。

「俺は……信じる」

 リュートはマリーアを見て言った。その言葉にはっと顔を上げてマリーアはリュートを見る。

「本当はまだ少し信じられないけど……でも、ライル先生の意志が伝わってきたような気がするんだ」

「私も信じるわ」

「僕も」

 今まで黙っていたセリアとレイもマリーアを信じる。そんな三人の答えにマリーアは涙を流した。

「ありがとう……みんな」

 そのあと、明日は朝早くから移動することになり休むことにした。




 リュートは寝ながら考える。

(ライル先生……クルス……)

 二人のことを思うと自分が情けなく思える。今生きているのは彼らを犠牲にしているんではないかと思えてならない。そしてこの先のことを思う。

(これからどうなっていくんだ……)

 恐らくはもう城には戻れないだろう。

 当たり前だが騎士になることもない。

 このまま逃亡し続けるのだろうか。

 それともライルの仇を討つのだろうか。

 リュートにはまだ何もわからなかった……。




 レイはどうしてこんなことになったのだろうと考えていた。

 昨日まではあんなに楽しく生きていたというのにいきなり罪人となってしまったかもしれない。何がいけなかったんだろう。

 帝国が、皇帝がいけなかったのか?

 あの魔獣がいけなかったのか?

 ライルを殺したのは誰だ?

 いろいろと考えていくうちに一番の原因と思われるものを思う。

(宰相アイーダ……今ではおとぎ話の存在でもある魔族……)

 その名はレイの意識に関係なく頭の中に深く根付いていった……。




 セリアは残していった人たちのことを考えた。

(先生は私たちを逃がすために……そしてクルスも多分もう……)

 二人の決定的な死の瞬間を見たわけではない。しかし最後に別れた状況を見る限りでは生きている可能性は少なかった。

 そしてシューイ。

 マリーアの話ではすでに皇帝も帝国も狂っているという。セリア自身はそのことには全然気づいていなかった。それじゃぁ皇子であるシューイはどうなのだろうか。

 彼はこのことを知っているのだろうか?

 知ったならどういう行動をするのだろうか?

 シューイが皇帝や帝国を愛していることはセリアも知っている。知っているからこそすごく心配だった……。




 三人が眠ったあと、マリーアは一人静かに体を起こす。

(ライル……)

 自分の命を犠牲にして私たちを救ってくれた。だからこそ簡単に死ぬわけにはいかない。

(恐らくはこれから追っ手が迫って来る……)

 リュートたちのほうを見た。静かに眠っている。そのあどけない寝顔は先ほど起こったことが嘘のように思える幸せそうな顔だった。

(巻き込んでしまった……まだ彼らは幼いというのにこれからつらい思いをさせてしまうかもしれない……)

 追っ手が来るのだからそれを退けないわけにはいかない。その全てをマリーアが背負いきればいいが、恐らくはそうもいかないだろう。彼らも戦う状況になるかもしれない。もしかしたら旧知の人間とも。

 マリーアは呟いた。

「ライル……見ていて……私は……」

 マリーアのその言葉はどこか力が溢れているように思えた。そして決意したように顔を上げる。

「私が……この子たちを守るわ」

 その顔は力強く、そして強い意思が輝いているように見えた。

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