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Mystisea~想いの果てに~  作者: ハル
八章 遠き道のり
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謎の二人組

 十分な休息を取った日から、リュートたちは再び山脈を進んでいった。その道中は険しく、根を上げそうにもなったこともあった。けれど全員が弱音を吐くことなく、無事に山脈を降りきろうとしていた。

「見ろよ、出口だ!」

 先頭を歩くキッドが嬉しそうな声で後ろを振り返って叫ぶ。その声に全員がやっと山脈を降りきることに喜んだ。

「さすがに辛かったわね」

「そうだな……」

 マリーアとヘルムートも疲れを見せない声で口に出す。後ろを振り返れば、数日を掛けて渡りきった山脈が聳え立っていた。その山脈に見送られるように全員がやっとのことで山脈を降りきる。

「どうやら待ち伏せはされていないみたいね」

 周囲の気配を探りながらマリーアは安心する。山脈を渡ればここへ出ることは予想出来たはずだが、急いで進んだ甲斐もあり帝国騎士たちは間に合わなかったのだろう。またあの帝国騎士たちと戦うようなことは避けなくてはならない。今の自分たちに勝ち目が薄いことが分かっているからだ。

「ここからダルタンへは一日も掛からないはずよ。今日中に着けるように急ぎましょう」

 いつまでも安心しているわけにもいかず、さらに距離を離すようにマリーアはみんなを促す。そしてすぐにでも歩を進めようとした時だった。


 ドォォォォン!


 爆発にも似た轟音がその場に響いた。

「な、何だ!?」

 突然のことに動揺するリュートたち。すぐさまその音がした方向を見ると、そう遠くない所から煙が立ち昇っていた。

「今のはいったい……」

 嫌な疑いが出てくる中、一人だけその音の原因が分かり口にする。

「恐らく魔法だ」

「魔法!?」

 ヒースの答えに全員が驚きを示す。しかしすぐにそれに納得した。

「けど何であんな大きな魔法が……」

 誰もが思う疑問を口にしようとしたリュートだったが、その続きを塞ぐように再び大きな音がその場に轟いた。今度はさきほどより小さなものだったが、それは確かに爆発のようなものだった。間を置かず、次々と轟音が鳴り響いてくる。

「……どうやら魔獣と戦ってるみたいだ」

「魔獣と!?それじゃ今すぐ助けに行かないと……!」

 正義感溢れるリュートが真っ先にそれを提案し、キットとキッドもすぐに頷いた。しかし他の三人は対照的にあまりいい顔をしていない。

「だが見た感じあの魔法は凄いんじゃないか?俺たちが助けるまでもないかもしれないぞ」

「それに私たちは急いでいるのよ。いつ帝国騎士に追いつかれるかも分からないわ」

 それはリュートたちの立場を考えれば当然の意見かもしれなかった。リュートも頭では納得している。けれど心がそれを許さなかった。

「だからって目の前で魔獣に襲われてる人を見捨てるんですか!?そんなの俺には出来ません!」

「リュート……」

 ヘルムートとマリーアもまた、リュートの考えが正しいことを分かっていた。だからこそ、そこまでして強く反論は出来なかった。

「……なら早くしろ。すぐに助けてダルタンへ急げばいいだけだろう」

 その場をヒースは冷ややかにまとめる。その冷静さにはいつもながらみんなが驚くことだ。そしてそのまま焦りが微塵もない様子で不吉な言葉を口にする。

「あれだけの魔法を連発するなんて普通無理だろう。さっきから爆発も止まっているぞ」

「……ヒース!それを早く言えよ!」

 その言葉に全員が一気に焦りだし、すぐに魔法が放たれていた方向へ走り出した。







「ハァ…ハァ…!もうッ!何でこんなにいるんだよ……!」

 少年は後ろを振り返りながら、誰に向けてかも分からない愚痴をこぼす。そこには自分たちを追ってくる魔獣がおり、その数は三十以上はいるだろうか。そのほとんどが<ベルド>であるのだが、その後ろに<ヘル>が数体いることを知っている。だからこそ、いくら<ベルド>を倒してもその数は減らないのだ。

「……集え、炎よ。塊となりて、弾けろ!」

 何発目か分からない魔法を魔獣に向けて撃つ。それにより<ベルド>は倒れていくが、すぐに<ヘル>が新しい<ベルド>を呼び寄せていた。

「何やってるんです。狙うのは後ろにいる<ヘル>ですよ」

「そうは言ってもここからじゃ姿が見えないんだ……!しょうがないじゃないか!」

 少年の前方を走っている少女が、その魔法の狙いに文句をつける。その無茶な言葉に少年は何ともいえない気持ちになった。

「はぁ……」

 あからさまなため息を吐かれ、少年もさすがに苛立ちを募らせる。

「だいたい君がここを通ろうなんて言ったのがいけないんじゃないか!」

「私のせいだと?貴方が急いでいるというから近道を提案したんですよ」

「だけどここが<ヘル>の住処だなんて聞いてない!」

 二人は未だに追いかけてくる魔獣から逃げ続けながらも、喧嘩を始めていく。

 ここはそう広くもない森の中であった。しかしここには魔獣が多く住み着き、近隣の町の間では入ることを禁止されているほどだ。当然、少年はそれを知らなかったし、少女が行き先の近道だと言えば入るという選択しかなかったのだ。

「私だって知らなかったんです。そもそもここを何度も通ってますが、一度も魔獣に会ったことないですよ」

「だったら何でこんなに魔獣が……!」

「貴方が何かやらかしたんじゃないですか?」

「何もしてないよ!」

「ならどうして急に出てくるのでしょう」

 どれくらい魔獣から逃げ続けているのだろうか。少年はそろそろ疲れ始め、それに比例するように焦りも出てくる。しかし目の前の少女からはそれらが微塵も出ていないのはなぜなのだろうか。

「……後どれくらいでここを抜けられるの?」

「もうすぐです。恐らくはこのまま逃げ切れるでしょう」

「そっか……。ならいいんだけど……」

 魔獣との距離は離れることはなく、近づく一方だ。それでも少年が魔法を放つおかげで、その差が詰まることはなかった。けれど先ほどからずっと魔法を撃っていたために、魔力が残り少ないのだ。

「そうですね。ですが、また一つ問題が」

「問題……?」

 再び追ってくる魔獣に魔法を撃った少年は、少女から不吉な言葉を耳にする。

「えぇ。どうやら前にも魔獣がたくさんいるようで」

「なっ!?嘘でしょ!?」

 少年が前を向いた時には、すでに<ベルド>が待ち構えるように待機していた。そして鋭い目を光らせ、二人を狙って走りだす。その距離はすぐにでも詰められてしまうだろう。二人は逃げ道を探そうと周囲を見回すが、もはやその状況に絶望してしまう。

「……どうやら囲まれているようですね」

 冷静にそう判断する少女が恨めしい。

「いったいどうすれば……!」

「どこか一方を突破するしかないですね。さぁ、魔法を」

「さっき撃ったばかりだよ!それにもう魔力もほとんど残ってない!」

「それは困りましたね」

「なんで君はそう……!少しは自分で何とかしようとは思わないの!?」

「私、戦闘は専門外ですので」

「そうだろうね……。くッ!」

 そう言いつつ少年はすぐに魔力を込めて集中させようとする。もはや諦めの境地にも入り、全ての魔力を使おうとしていた。それで周囲の魔獣を全て倒せれば外へと出ることも出来るだろう。そう思って詠唱を開始させようとするが、もはや魔獣はすでに目の前だった。

「危ない!」

 反射的に目を閉じる少年の頭の中に浮かんだのは探し人だった。自分救ってくれたその人の。

「リュート……ッ!!」

 その言葉と同時に、突然目の前の魔獣が燃え上がった。

「……これは!」

 少女が驚きながら、その前方を見やった。すると前方にいた魔獣は全て同じように燃えており、何かの攻撃を受けたのは明らかだった。

「いったい何が……」

 わけもわからない少年だったが、命が助かったことだけは理解した。そして少女と同じように前を見ると、そこにはこっちへと走ってくる人影が複数いた。彼らが助けてくれたのだろうか。そうぼんやりと思った少年は、その先頭を走る人物を目にすると驚愕と共にその名を再び呟いた。

「リュート……?」

 いるはずのない人物がいることに、少年は死後の世界なのだとも錯覚してしまっていた。


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