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Mystisea~想いの果てに~  作者: ハル
八章 遠き道のり
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襲撃

 辺りは真っ暗だ。時間は日付が変わる頃だろうか。朝までは随分と早く、まだまだ時間もあるけれどどこか周囲の気配がおかしく感じ、ヒースは目を開けて体を起こした。他のみんなはぐっすりと寝ているようで何も変化はない。しかしヒースは何かを感じた。それは身に覚えがあるもので、すぐにその正体が分かる。

「殺気……」

 それを強く感じた時にはもう遅かった。真っ暗な周囲から、自分たちに向けて無数の矢が飛んでくる。

「風よ、吹き荒れろ!」

 逃げ場はない。八方から飛んでくる矢をどうにかしようと、ヒースは魔術を唱えて回避しようとする。現れた風はヒースたちの周囲を守るように激しくなり、通過しようとする矢の軌道をたちまちに変えていく。

「飛べ、炎よ!」

 この暗闇では敵がどの位置にいるか正確に分からない。けれど囲まれているのは確かだろう。矢の攻撃を回避したヒースは、すぐさま炎を周囲に向かって放つ。すると複数の箇所から小さな呻き声が聞こえてきた。何人かに当たったのだろう。

「……な、何!?」

「……ヒース!?」

 その強い殺気と騒がしさに、寝ていたみんなも次第に起きだす。尋常ではない事態に混乱しながらも、すぐに頭を覚醒させる。

「敵だ。囲まれてる」

 短い言葉に、リュートたちはすぐに理解した。

「何でこんな時間に!?」

 誰もが思う疑問であったが、それに答えるように暗闇の周囲からも声が聞こえてくる。

「全員起きだしたぞ!奇襲は失敗だ!」

「くそっ!ならば混乱しているうちに一気に叩くぞ!」

 そして大きな足音と共に近づいてくる複数の人影。その数はリュートたちの何倍もいるだろう。すぐにその人影が近づき、リュートたちに攻撃を仕掛ける。

「なッ……!!」

 各々が攻撃を受け止めながら近づいた敵を見ると、その姿に愕然とした。

「帝国騎士……!」

「しかも第一騎士団だ!」

 現れた敵が着ている鎧はまさしく第一騎士団の鎧だった。突然の出来事に困惑を隠せないリュートたち。反撃の手も鈍る。しかしヒースだけは反撃の手を緩めなかった。

「炎よ!」

 魔術を放ちながら短剣で急所を仕留めようとする。それは素早い的確な判断であったが、帝国騎士もそれを防いで反撃してくる。

「喰らうか!」

 帝国騎士の鋭い一撃をヒースもかろうじて避ける。以前戦ったことのある帝国騎士とは強さが大分違っていた。

「彼らはまさか……」

「……マリーア?」

 防戦一方のリュートたち。敵の強さは今までとは違い本物だ。そこで初めてマリーアはその強さの正体に気づく。

「アルベルト様直属の帝国騎士団の精鋭よ!……間違いないわ!」

 それは普通の帝国騎士たちとは比べ物にならない強さを持っている騎士たちだ。帝国騎士たちの憧れであり、まさにエリートの中のエリートだろう。そんな彼らが今ここにいるのが不思議でならなかった。

「観念しろ、反逆者たち!」

「先生!どうしたら!?」

 戦おうにも敵が強いうえに、その数が多い。こちらの分が悪いのは明らかだ。マリーアはすぐにこの場を切り抜けることを考えた。

「山脈へ逃げましょう!」

「それしかないな……!」

 マリーアの言葉に誰もが頷き、すぐに行動に移そうとした。山脈に入れば道も細くなり、逃げることも容易くなるだろう。幸いにもその入り口はマリーアたちの近くにあり、それもすぐ先だ。

「何で騎士団の精鋭たちが……!」

「こんなにも強いなんて……」

 一番にキットとキッドが敵の手をすり抜けて走り出す。

「逃がすな!捕縛が難しいなら生死は問わないとのことだ!」

 逃げ出す二人に向かい、敵は矢を放った。当然その命中精度も格別であり、真っ直ぐにその体を狙う。

「風よ!」

 ヒースが二人の後ろに魔術を放った。その風のおかげで二人を狙う矢は的を外れて地面へと刺さる。

「助かった!」

「ありがとう!」

 ヒースのおかげで二人は助かり、まず初めに山脈の入り口へと差し掛かった。

「俺たちも急ごう!」

 リュートがヒースのもとに駆け寄って促す。後ろを振り返るとマリーアとヘルムートが何とか食い止めている状況だ。ヒースはリュートの言葉に頷き、すぐに走り出した。

「俺たちも行くぞ!」

 四人が逃げたのを確認すると、ヘルムートとマリーアもすぐに走り出す。

「くっ……!絶対に逃がすな!」

 またしても敵は矢を構えて放とうととする。危険を察知したマリーアは瞬時に振り返って帝国騎士たちと対峙した。

「マリーア!?」

「……ハァァッ!!」

 一瞬のうちに精神を集中させ、マリーアは弓兵へと向かって<気>を繰り出した。それはたちまち命中し、弓兵たちを吹き飛ばす。

「……さすがだな」

「急ぎましょう!」

 そしてすぐに走り出して逃げていく。山脈の入り口はもう目の前だ。

「くそっ!」

 残る帝国騎士たちは全力で六人を追う。重たい鎧を着ているとはいえ、その速さはリュートたちと大して変わらない。

「先生、ヘルムートさん、早く!」

 先に山脈へと着いていたリュートが二人に向かって叫ぶ。二人が立ち止まっているリュートを見ると、その隣ではヒースが何かを詠唱しているようだった。それを見てすぐに悟った二人は急いで山脈へと入りヒースの後ろへと走る。

「これで大丈夫だ!ヒース、いいぞ!」

 全員が山脈へと到達したのを確認し、リュートはヒースへと合図を出す。それを聞いたヒースは詠唱を完成させ、魔術を放つ。

「我が手に込められし、魔力よ。その力を以って爆発せよ!」

 ヒースが魔術を放った先は追ってくる帝国騎士ではなかった。右手に込められた魔力が淡く光りながら、ヒースは拳をすぐ近くの山脈の壁へと殴る。するとその壁は大きな爆発を起こした。

「な、何だ!?」

周囲に轟音が響き、辺りに砂埃が舞う。そしてそれが晴れると、目の前の状況に帝国騎士たちは我が目を疑った。

「岩山だと!?」

 山脈の入り口には少しの隙間も見せない岩山が出来ていたのだ。それは大きなもので、すぐにどかせるようなものではない。

「今のうちだ。急ごう」

 その反対側では冷静にヒースがみんなを促す。他の五人は改めて魔術の凄さを再認識していた。







「失敗しただと!?」

 室内で大きな怒鳴り声が響く。耳にするだけで竦みあがるようなその声を発したのはアルベルトだった。

「そ、そのようで……」

「我が帝国騎士団の精鋭が揃っていたんだぞ!それが反逆者数名に返り討ちにあったというのか!?」

「いえ……!戦闘では断然我らの方が有利だったようです。しかしながら、反逆者は山脈へ逃げ込み、そして入り口を塞いで足止めをしたようで」

「逃がしたならば同じことだ!!」

「も、申し訳ありません!」

 アルベルトに報告している帝国騎士は、その怒りを正面から受けまともに動くことも出来ない。精鋭の騎士たちから報告を受けた伝令であり、自分が失敗をしたわけでもないのにだ。

「山脈へ入る前に仕留めたかったのだがな……。まぁいい、奴らの行き先は分かっている」

「は……?」

「精鋭たちに連絡しろ。すぐにレーシャン王国へと移動せよとな」

「レーシャン王国ですか……?」

 なぜ隣の国の名が出てきたのか、その帝国騎士には分からなかった。しかしアルベルトは一人納得した顔で頷いている。

「そうだ。私が着く前には準備を全て終わらせておけともな」

「……!!アルベルト様自らお出になるのですか!?」

「この帝国に逆らいし罪人をこれ以上放っておくわけにはいかない。我が帝国の名にかけて、反逆者は全て排除する」

 アルベルトは自分の剣を手に取った。

 全ては忠誠を誓ったこの帝国と皇帝のために。







 休んでいる暇はなかった。最低限の休息だけを取りながら、リュートたちは山脈をひたすら進み続ける。それは当然追っ手を警戒してのことだ。足止めをしたとはいえ、どこまで追いかけてくるかも分からない。途中で同じように岩山を作り出して更なる足止めをしながらも、リュートたちはその歩みを緩めようとはしなかった。

 そのおかげか、数日と経たないうちに山脈も半分以上を越すことが出来た。予想以上の早い予定であったが、それも寝る間も惜しんだせいであろう。山脈を全て下りきる前に、リュートたちの疲労は限界になろうとしていた。

「さすがにもう来ないか……」

「そうね。あれだけ足止めもしたし、一日くらいなら大丈夫のはずよ」

「そ、それじゃぁ……」

「えぇ。今日はここで休みましょう」

 疲れきったリュートたちを見て、見かねたヘルムートとマリーアは久しぶりにゆっくりとした休息を取ることにする。

「やったぁ……!」

 口には出さなかったが、みんなが休みたかったはずだ。一番にキッドの口から喜びの声が上がる。それに同調するようにキットやリュートも疲れ果てたように腰を下ろす。

「すごいきついですね……。デオニス山の時とは大違いです」

「だから言ったでしょう。それに追っ手が掛かっているかもしれないから、ゆっくりと進むわけにもいかなかったしね」

「追っ手かぁ……」

 リュートは戦った帝国騎士の強さを思い出す。今まで戦った帝国騎士とは比べ物にならないほど強く、あれこそが本当の帝国騎士なのかもしれない。

「けど分からないな。何であいつらは俺たちがあそこにいたことを知ってたんだ?」

 誰もが思っていた疑問をヘルムートが口にした。

「どこかで見つかってたんでしょうか?」

「だとしてもあの精鋭たちなら寝込みを襲うのでなく、その場で捕らえようとするのではないかしら。少なくとも悔しいけどその実力は彼らにはあったわ」

 さすがのマリーアもあの帝国騎士の強さは認めていた。大人数で掛かられれば逃げることは困難だったかもしれない。

「もしかして俺たちの部隊が誰も帰ってないからじゃ……」

 キッドが心配そうにそれを口にする。確かにマールへと出向いた副団長の部隊は誰も帝国へと帰ってないだろう。キットとキッドを残して他の全員が<グナー>にやられてしまったからだ。音沙汰がなければ誰だって何かが起きたと思うだろう。

 けれど冷静にキットはその考えを否定する。

「でもだからって俺たちの居場所がバレたわけじゃないだろ。副団長たちの身に何かが起きたのを知ったのと、俺たちのことは別じゃないか」

「そうね……。やっぱりサレッタかどこかで見つかってたのかもしれないわね。もしかしたら町の人たちから密告されていたかもしれないし」

 そうは思いたくもないが、可能性としては捨てきれない。

「ま、何にしてもこれからはより気をつけるべきだな。ここを降りればダルタンまで近いとはいえ油断は出来ないぞ」

 分からないものは仕方がないのだろう。全ては憶測の話であって、真かどうかは分からない。ヘルムートの言葉を最後に、リュートたちは身体を休めるべく早々に眠りに付きはじめた。


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