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世界はまるで泡(うたかた)のように  作者: 深海聡
第二章 それぞれの事情

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長の使い

 風の塔が見えなくなっても、ラキアは時々麻衣たちを気遣うように振り向いたりしつつ、しばらく無言で歩いていた。

 どのくらい歩いたのだろうか。薄暗かった空が明るくなり、それが更に輝きを強めた頃になって、ようやくラキアは歩みを止める。


「そろそろお話しになっても差し支えありません。ここまで来れば、さすがの姫様でも術式を使わなければ内容を聴き取るのが難しくなりますから」


 先ほどとは打って変わった打ち解けた表情になって言う彼女に、明洋と麻衣はそろって詰めていた息を吐いて思い思いに座り込んだ。


「あれは拷問です、あれは拷問です、何ですかあの人! どんだけ自己チューなんですか、しかも厨二病ですか、上から目線と罵倒が止まらないって何ですか」


「分かったからちょっと落ち着け」


「そうですよ、明洋さんとても助かりました。私、本気でキレそうだったんで。ありがとうございました」


「ああ、俺もあれは何度か本気で口に手榴弾突っ込んでやりたくなったからな」


 再び深く長いため息を吐き出す二人に、ラキアは苦笑する。


「あの方も、もう少しきちんとした方に教育されていれば違っていたのではないかと思いますが、あの方を教育された方は長の教育係でもあったそうで、差別主義権威主義の権化だと長はそれはそれは嫌そうに語っておいででした」


「やっぱりそうなんですね。ラキアさんは、長の行方については?」


「はい、存じております。私は、やがてたどり着くであろうお二方のためにあそこに残されたのです」


 にっこりと微笑むラキアに、麻衣は頷き明洋はニヤリと笑った。

 どうやら考えていたことは同じだったらしい。


「そういえば、ラキアさんは長とはどういうご関係なんですか?」


「私は、長と印の契約を結んだ間柄ですから……」


「でも、話しの印象では長は自分の立場や力を利用して相手を縛りたいと思うような人物ではないと思うんですけど。違いますか?」


 麻衣にじっと見つめられて、困ったように笑ったラキアはポツリと呟くように言った。


「実は、私と長は幼なじみなのです。色々理由があって、傍に控えて手助けが出来る人物が必要になり、私が自ら申し出たのです」


「なんかそれって凄いですね」


「そうですね。あの時は勢いで思わず言ってしまったような向きもありましたから」


 感心したようにうなる麻衣に、恥ずかしそうに応じるラキア。

 ほのぼのした雰囲気の二人の会話に、興味のなさそうな明洋が割って入る。


「で、今長はどこにいる?」


「はい、今はウィティッカ高原に幻惑の扉を開いてあるようです。青の王国は内戦状態が長く続いており、正規の道から近づくのは難しいと思いますのでクレセンティ湖を迂回して霧の森を抜けるのがよろしいかと思います」


「わかった」


 突然割って入られても嫌そうな顔一つせずに話しを切り替えたラキアとは対照的に、麻衣は少々面白くなさそうにむっすりとする。

 しかしラキアに習ってすぐに気持ちを切り替えると、テキパキと今後の旅程について決めていく二人を交互に見やって、麻衣はそのやりとりに耳を傾けた。


「麻衣様、かなり厳しい道のりになると思います。場所によっては襲撃も覚悟していただくことになると思いますが、よろしいでしょうか」


「それしか道がないなら、行くだけです。私も出来るだけお荷物にならないように頑張ります」


「お任せください。お二人のことは、命に代えようとも必ず長の元へとお連れ致しますので」


「いや、命に代えたら連れて行けないだろう」


「そうですよ。ちゃんと自分の身を守りつつ、連れて行ってください」


 明洋と麻衣のツッコミがよほど意外だったのか、目を見開いて絶句したラキアは次の瞬間見る者が幸せになるような柔らかな笑顔を浮かべた。

 ユゥシュアはこれ以上ないぐらいに彼女のことをけなしていたが、ラキアはユゥシュアのように人間離れした美しさはないが、ハリウッド女優と並ぶぐらいには美人だ。

 その笑顔は、ラキアの顔立ちも相まってか神々しいような笑顔だった。

 うっかりその表情に見とれた二人は、次の瞬間対照的な表情になる。

 明洋は顔をしかめ、麻衣は笑顔になって。


「「無理はしないように」してください」


 見事にハモった。

 顔を見合わせて、明洋は更に渋い顔をし、麻衣は笑い出す。

 とても和やかで穏やかな旅立ち。


「ありがとうございます」


 嬉しそうに応えたラキアの笑顔を、麻衣は忘れることが出来ない。

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