ディスカッション
「それじゃあ、今後の方針を決めようと思います」
教卓の上に立ったのはクラス委員長を務める、卓と立花千鶴だった。
「現状、この部屋から出ることができません。それがなんなのか解らないので、どうすればいいか、どうしたいかを話し合いたいと思います」
クラスの半分以上は話を聞いていた。残りは荒木のようにリーダー気取りの委員長に対して中傷している。それに気づいていた卓だったが、何かしなければ変化のない状況、そして文句だけなら誰でもできる事に目を向けなかった。
「まず、何か気付いたことなどがあれば意見を聞きたいんだけど」
辺りでざわつき、普段と変わらず荒木達に目を付けられるのを恐れ、誰も何も言わない。恐れているのは、今、だけではなく今後も含まれている。不思議なゲームが終わったとしたら、今調子に乗っているような印象は残したくないと思うのは自然なことだった。
それは卓、そして千鶴も理解している。
お互いに目を合わせ、ため息を吐いた。
「まぁ、いつでもいいから、気付いたら教えてください。とりあえず、現状を整理すると、僕たちは教室に寝かされていたということ、そして教室の外に出られないということ、えーと後は」
「ってか、馬鹿か。こんなのTVでぐらいしかできないだろ? 学校がこんなことできるわけねぇし、金が掛かるような黒板の仕掛けも誰がなんて考えたらそれしかねぇだろ、考えるだけ無駄なんだよ。つまり、俺たちでゲームをすればいいんだよ、委員長よ」
その荒木の意見はあながち間違いでもなかった。それは誰もが納得できる。しかし、受け入れられるかといったら、話は別で、荒木の普段の行いから受け入れたくないと思う数の方が多い。それは普段から荒木の素行が悪い、の一言だった。
「なぁ、良太」
突然、同意を求められて良太は驚いた。
「あー」
様子だけ窺っていた良太は曖昧な返事を返す。ここで下手なことを言えばどちら側からも反感を買う。それは普段から避けていることで、事なかれ主義の良太には危機的状況だった。さらには、適当な返事をしても荒木の視線での追及は続き、はっきりとした答えを出さない限りは逃れられない。
隣にいた直が小声で、
「……何考えてんだよ」
と、良太の立場を考えてはいてくれるが、救うことはできない。
とりあえず、何か答えなくてはいけないと良太は考えを巡らせている中で、荒木が嫌な奴だと思うのと、荒木は頭が悪いわけではないと確認できた。
素行が悪い、これは一般的に成績が悪いとされる。しかし、頭が悪いかと言われれば、問題が変わってくる。例えば成績が良い人間が社会で通用するかと言えば、答えはNOであり、社会で必要なのは人間関係や、行動力だと良太は考えている。
そして、荒木は後者だ。そういう人間に絡まれるのはやっかいで、つまり良太は面倒だと思っていた。
「可能性としては一番あるとは思うけど、いくらTVだとしても、この時代にここまでやるかな?」
逃れた。何も追及の意図は良太の立場の悪化を狙ったものではなく、あくまで自分の意見に賛成しろという意味が含まれている。だとしたら正当な理由で質問を返してみれば、追い込みはなくなる。
「まぁな、さすがに薬は使わねぇか」
「薬?」
「俺たち寝てただろ」
「あー、ヤクかと思った」
荒木と柴崎が談笑に移り、良太は安堵で緊張に糸を解いた。
「……さすが」
「……うるさい」
直の小さな賞賛に、周りに聞こえては面倒だと良太は視線も合わせず誤魔化した。
「それじゃあ、仮にTVだとしたら皆はどうしたいですか?」
進行を邪魔されたからか卓の声には怒りの影が見える。必死に隠そうとしているが、完全には消えていない。それは再度、荒木に目を付けられてしまう。
「皆は、って、お前がどうしたいか先に言えよ、なぁ」
「だからっ、リーダーぶってんのはいいけどよ、意見出せよって話し」
明らかな敵意あっての意見に卓の表情が怒りで頬を震わせる。それを見て荒木と柴崎が笑い、卓から視線を逃がさない。もし、視線が合えば、反抗でもしてくるなら暴力でねじ伏せると言っていた。
さすがに良太も何もできない。ただ、卓の判断が間違わないことだけを祈る。
「……僕は――」
「僕は、じゃねぇよっ」
「あはははははははははははっ」
陰険なやり方だった。卓は間違いなく荒木には逆らわず言われたとおりに意見を出そうとしていた。それなのに、その前に止められた、その後何か言うことなんてできるはずもない。
隣にいた直がイラついたのが分かる。目つきが鋭く荒木達を睨み付けていた。
いつ喧嘩になってもおかしくない、そう誰しもが不安を抱えた瞬間――また黒板に文字が連ねられた。
「邪魔だ、どけ」
卓がその言葉に怒りを露わにしながらも、教卓から離れる。黒板に視線が集まり全てが書き終わるまでの間、傍で千鶴がフォローしていたが卓は何も言わなかった。良太はそれを横目で感じながら、ため息を吐いていた。
そんな状態も新たに書き足された『裏かくれんぼ』のルールによって一変する。
【裏かくれんぼルール
・ルール①クラス四〇名が鬼となりその中にいる裏切り者を見つける。
・ルール②君達自身を鬼に見つけてもらう。
上記のどちらかを満たせばこの教室から解放される。】
裏切り者。
たったそれだけの文字によってクラスに疑心が溢れかえった。