アルナシゲーム
黒板に図式が現れ、理解した者の一人が静かに行動しようとした。
しかし、新たに理解したクラスメイトによって静かな行動は破綻する。
「これって、もしかして……」
その人物は意外にも『裏かくれんぼ』が始まって以来……、始まる前からほとんどの行動を行えていなかった佐々木鏡花だった
「やめろッ!」
叫んだのは千葉俊介だった。
俊介はいち早く黒板の図式に気付きどう行動するべきか結論づけていただけに、鏡花が言おうとしていることは邪魔以外の何物でもなかった。
しかし、俊介の制止は間に合わなかった。
「アルナシゲーム」
「ちっ」
舌打ちをした後、俊介は教室から飛び出した。
そこからの行動は明確に分かれた。
この問題に早く気付いたうちの一人、立花千鶴は自身で提案した『皆を集める』という理由からすぐには行動に出られなかったが、二人目の名前が書かれ、俊介が居なくなった事により、理由も告げず古河愛の手を引き廊下へと飛び出す。遅れて加藤梢が俊介の行動に完全に失望と絶望を抱え廊下へと出た。
そして、他に理解している教室に残った二人は、蒲田卓と小池エナだった。
憔悴しきっていた卓は答えが出る前も出た後も、力なく座り続けていた。出した答えによって卓には選択肢がなくなっていたせいもある。そして、次に出る名前も概ね把握していた。
だが、隣にいる二回目のチームメイトが視界に入ると緩やかに思考が再開された。
伊藤典和。
彼には選択肢がある。しかし、卓同様典和も憔悴して何も考えなくなっている。そんなチームメイトにまた選択させるという地獄を教えていいものだろうか。
そう考えた瞬間、卓の脳は停止した。
答えは否。
苦しむ選択肢すら削ってあげる方が典和の為だと。
そうして、現在教室に残された中で、完全な答えを導き出せる者が消えた。加えて、選択肢があるにも関わらず、選択肢すら理解できないまま典和の運命は安楽へと歩を進める。
そして、理解している最後の一人小池エナは行動の正解がどちらか悩み続けていた。それは人数が減ってから書き足された数字によってさらに加速する。
「あ、」
新しい数字によって、制限がある事に気が付いた。その小さな吐息にも似た声は、二つの思い出重なる。制限があるということは、全員という選択肢が無くなり、その場合、チームに教えることはできても、それ以外、この場合教室に残されている蒲田卓、伊藤典和、相沢武雄、上杉幸助、佐々木鏡花に伝わっていいものか迷ってしまったのだ。
こんな状況でなければエナは全員に伝わるような伝達方法をとっていただろう。だが、チームの事を思えばこそ、それが難しかった。
その様子に気が付いたのは、当然のように渡辺美紘だった。
「直君」
静かに呼んだその声に笹倉直はエナの苦しんでいる様子に気づく。そして自分では分からない事に申し訳ない気持ちを持ちながら、その手助けのつもりで選択を決めた。
「教えてくれ」
一度教室全体を見渡し、覚悟を決めてエナは頷いた。
「えーと、どこからはなせばいいかわからないんだけど」
「悪い、全部頼む。俺はほとんど理解してない」
直の言葉は嘘に近かった。鏡花が示したゲームは誰もが一度くらい体験したことがある単純なゲームであり、その本質を知らないわけではなかった。それでいて、解答という負担をエナ一人に背負わせないための直なりの気遣い。
「た、頼む、俺も動揺しすぎて全然考えられない」
新たな状況に動揺した景山豊の言葉は一切の偽りが無い。だからこそ、直は良いタイミングでの助太刀に穏やかな心持でチームが動いていることに晴れやかな気持ちを持つことができた。
それにエナの負担は急速に減っていた。
コクンと頷き、エナが気付けただけの説明が始められた。
「アルナシゲームの説明から言うね。最初に加瀬君の名前がある左側が【アル】。そして、右側に表示されているのが【ナシ】。これはきっとスイッチを押したかどうかだと思います」
蒲田卓と伊藤典和以外の教室に残されたクラスメイトはエナの説明に一斉に黒板に視線を送る。
「な、なるほど……。じゃ、じゃあ、い色は!? あ、あと左下の数字、それからっ、中央の線の上と下っ」
「え? えと、あの」
速く答えが知りたいが故に豊の質問はエナの心を乱す者だった。それに容赦ない睨みを利かせたのは美紘だった。
「うるさいっ」
「ひぃ、ごごめん」
「焦らなくてもいいから、続きを頼む。それに分からないことは皆で考えよう」
「は、はい。じゃ、じゃあ最初に青く書かれた数字は、スイッチの数とその押されている数を表していると思います」
「っていうことは、まだ二十六個中、押されているのはまだないってことだよね」
「うん」
「加瀬君の色と数字の色から推測すれば、押すのが正解?」
「たぶんとしか言えないだろうな。良太からすれば選択肢ないだろうし、カウントダウンが赤ってのが不気味だ」
「ちょちょと待ってくれ! ってことは、今残っている人数ってたしか」
そういと、新しい図式が現れるよりも前にある数字に目が行く。
【残り三十三名】
豊の唾を飲み込む音が異常に大きく響き渡る。
「最低でも七人が押せない……」
そうそれこそが、エナが悩んだ部分だった。
誰もが黒板から目が離せなくなり、次第に焦りから鼓動が早まっていくのを感じていた。
「なんで俺たちまで……」
「わけわかんね」
武雄と幸助が口に出した言葉は誰もが重い続けてきたことだ。それでも、現状どうすることもできないから、こんな状況になっている。
現在教室にいるのは九人。すでに行動に移した者達がこの『アルナシゲーム』を理解しているとすれば、この中では二人しか押す事ができない。
ここでようやく俊介の行動を理解できた。
そして、人数の確認から豊が気付いた。
まるで一人で教室から飛び出していくような動きに、
「てめぇっ!」
武雄が叫んだ。
「ええ? ちがっ、違うって」
豊は不良である武雄の叫びに怯えたわけではなかった。勘違いからチームである三人に疑われるのを恐れ、急に動きを止めた。
落ち着いけという意味合いで前に両手を翳し、そのままの態勢で廊下を窓越しに覗き込んだ。
「やっぱり、正吾の野郎がいない」
それは、廊下にいたはずの朝倉正吾の姿を確認するだけのものだった。
「まぁ、廊下側に壁にも窓はあるけど、屈んでいけばこっちからじゃ見えないしな。いついなくなったのかは分からないけど、今はそんなことどうでもいい。それよりも――」
「あっ――もしかして」
何かに気が付いた様子で、鏡花が声を出し注目が移る。
「すでに押した人がもっといれば、その七人分埋まるんじゃないかな?」
三度黒板に視線が集まり、その後に座り込んでいる卓を全員が見た。
「そうか、まだカウントがゼロってことは、良太と卓が押したスイッチはカウントに入っていない」
次々に埋まるピースに答えは近づいていくのを感じていた。
もしかしたら、全員がこの問題を乗り切れるかもしれない。
どちらにしても、
「探すしかないか……」
「うん」
「そうね」
「……見つけたらどうする?」
いくつかの理由が含まれる質問だった。
だが、その答えは早かった。
「とりあえず、押すのは良太と合流してからにしよう」
そう直が最後に答え、教室を見渡した。
その中で声を掛けたのは一人だけだった。
「佐々木さん、俺たちと一緒に行動しないか?」
しばらくの間、こちらの『裏かくれんぼ』は『裏かくれんぼ0』とタイトルが変わります。
それと同時、しばらく更新が止まります。
詳しくは活動報告の方を見ていただけたらと思います。




