幽閉された四十名
最初に目を覚ましたのは良太だった。固い床が目覚めには最悪で顔は顰めっ面で体を起こす。まだ正常な思考が回復しないまま、周りでも次々にクラスメイトが目を覚ましていくのを確認した。
座ったまま、まだ誰も声を出さない。
今起きている事情を誰も理解できていないのだ。互いに顔を見合わせ状況の説明を求めるが、答えは変わらない。良太も直と視線を絡ませるが、互いに首を振る。
そんな状態に、やはりというべきか最初に声を出したのは荒木だった。
「なんなんだよっ! どこだここっ」
それで初めて全員がこの場がどこなのか確認する。
「教室……?」
クラス委員長の蒲田卓がそう言った。
誰もが安堵しただろう。ため息にも似た吐息を漏らし、気を抜いた。
良太もその一人だ。教室内を見渡し、薄暗い、机、椅子がないこと以外は特に変わっている部分がないことに安心して後ろ手に体重を任せよしかかかる。
その誰もが気を抜いた途端、誰かが悲鳴を上げた。
その瞬間、教室内が跳ね上がった。
叫んだのは阿部奈津美という普段から声が大きい女子だ。
「なんだっ、おらぁっ!」
叫んだ阿部に向かって驚いた拍子に立ち上がった荒木が威嚇する。荒木の威嚇にも、仕方ないでしょ、といった雰囲気で叫んでしまった理由を指さした。
「なんだよ、あれ?」
視線が集まった黒板に文字が書かれていた。それも進行形で、誰も立っていない教卓ににも関わらず文字は書き連ねていく。
「ようこそ……五…………く……みの……みなさん……」
誰も望んでもいないのに委員長の卓が読み上げるが、気にとどめる生徒はいない。それよりも書き続けられる文字の方に意識が行っていた。そうして全ての文字が書き終わるまで続き、完成した文章に五組四十名の生徒は各々感情を露わにした行動を取った。
「なんで俺たちが」「どうして……?」「なんでこんなことになってんの?」「つうか、やる理由なんてないし」「ゲーム?」「かくれんぼ……? 裏?」「なんなのよっ、いったい」「ちょっと、誰か説明してよ」「そうよっ、意味わかんない」
声を出して不満を露わにした者。
「…………」「…………やだ」「冗談じゃない…………」「ふざけんなよ…………」「なんか変だよ、帰ろ、ね」「うん……帰ったって平気だよ」
表情が暗い者、不安に駆られる者。
「はっ、っ授業よりがマシだな」「確かに、ゲームなら面白そうじゃん」「つうかなんで俺たち寝てたわけ?」「しらねっ」「どうする?」「よくわからん」「はぁああ、寝み」「帰っていいの? ラッキー」「ドッキリ?」
お気楽な者。
「どうしたらいいと思う。蒲田君?」「一旦皆を落ち着かせた方がいいね」「…………」「どうした?」
状況に努めようとする者。
「扉、開かないな」「うそ?」「ホントだ」「こっちもだ」「閉じ込められた系?」「窓は?」
すぐに行動に出た者。
「おい、なんで俺たち」「わ、わかんねぇよ」「…………みんないる」「くくっ、面白」「教室って意外にみんな寝れるんだ」
よく分からない者。
「ん~、こないだの事件と関係あったりして」
そして、遠からず答えに近いことを言った者。
その言葉で教室に恐怖が立ち込めた。
静かに、静かに、時は刻まれる。
黒板に書かれた文章によって、
【ようこそ、五組のみなさん、『裏かくれんぼ』へ。
これから、みなさんにはルールに乗っ取ったゲームをしていただきます】
幕が開かれた。