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何もない

本来の目的に戻った瞬間、二人の足が再び止まった。


それは単純な恐怖と、惨劇な光景をお互いに想像したからだ。


最初に流された動画から幾分現実離れした環境に、普段にはない冷静を保ててきた良太も動悸が早くなり手が震えているのに気づく。


教室での蒲田卓と伊藤典和の反応は演技や嘘などの誤魔化しは感じられなかった。つまり、そこにはクラスメイトの無残な姿がある。映像などのフィルターを通さないスプラッタ―映像に果たして耐えられるのか。


なにより良太が怯えているのは耐えた場合…………。


良太は荒木にも気づかれるほどの深呼吸をした。それで言葉で表せる疑問に蓋をする。これは知ってはならないはずだから。


「はっ……」


真意は知らぬまま荒木はその様子に鼻で笑い、荒木自身の感情を隠すために自らが最初に一歩を踏み出した。


「行くぞ」


その言葉からも強がりなのが窺える。それに気付いたのか気付かないふりをしたのか良太は何も言わず荒木の隣に立ち階段を一歩踏み下ろした。そこからは二人が呼吸を合わせるように普段ではありえない遅さで階段を一段一段噛みしめるように降りていく。


卓の話から場所は二階の防護扉。


距離で一つの踊り場へと辿り着けばその光景は現れる。


なぜかその途中で良太はそこで荒木が何を考えているのか不思議に思い、ちらりと荒木を確認した。普段からイカツイ顔をより怖い物に変えて荒木は下を向いている。踏み外さないために相違しているのではないだろう。おそらくは数を数えその時に心を整理している。


そう思ったタイミングで、荒木が良太の視線に気が付いた。


「あ?」


これは良太に対しての怒りのものだ。


「ああ、ごめん」


心理を読もうとするなと言う意味なのだろう。それについては良太も嫌う。だからこそ素直に謝ったが、その時点で良太は気付いていなかった。


恐怖がすでに無くなっている。


「行くぞ」


再びそのセリフを言われた時にはすでに踊り場に着いていた。


そこからは、ただ上体だけを動かし覗き込むだけでよかった。


ところが、


「ん?」


「…………なにもない」


そこには、想像していた光景以上のものはなかった。


防護扉にクラスメイトが挟まって息絶えている姿どころか、防護扉は閉まり普段から意識に求めない階段の風景そのもの。


「あの野郎っ」


荒木が瞬間的に犯人像を膨らませる。そのまま体を翻し、元来た階段を駆け上ろうとしたのを、袖を掴み良太が制止させる。


「離せごるぁっ!」


一瞬で怒りに支配された荒木を力で止めるのは難しかった。だが、それならそれでいいと良太は言葉だけを残し先へ進む。


「様子見てこれるだけ見てくるから」


すでに二階まで降りた良太の姿に、荒木は教室に戻る事をためらい始めた。実際、嘘を言ったと思われる豊と典和を締め上げることが簡単だ。だが、それをしてどうなるのか疑問に思ってしまったのだ。


冷静にもなればあの二人が犯人にしろ裏切り者にしろ、何かが変わるかと考えてみても不思議と答えは否定的な物しか出てこない。それならば、良太と同じ道を行く方が正解ではないか。そもそもなぜ良太に目を付けたのか、それは、自分とは真逆の人間の行動が必要だと感じたからだ。


例え偽善だとしても周りと協力を取れる可能性があり、尚且つ中心になれる存在が近くにいる事。荒木単体ではできないことが、良太という存在で可能になることがある。


「っち」


冷静になった荒木は間違いなく優秀な人間だった。


二人を問い詰めることを後にし、階段を何段も飛ばし良太の後を追った。

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