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増殖する狂気①

教室の鍵が解除された段階で立花千鶴、古河愛、萩原祥子、波真奈美はすでにいなくなっていた。


それに気づき、勝利に浮かれていた阿部奈津美が声を上げる。


「ちょっとまって、あいつらまさか!?」


それは一つ目の勘違い。


これまでの経緯から立花千鶴が他のチームに加わるという形は、蒲田卓を排除したことでなくなっている。元を辿れば、自分より優秀だと思っていた人間が堕ちたことで、千鶴の中で確固たる地位が見えてしまっている。笹倉直がいるチームに行けばそれは全てなくなると考え着けば、おのずと千鶴が行く場所は限られた。


だが、感情を素直に出しすぎる性格の奈津美は思考よりも先行して怒りに支配される。


「ふざけんなよっ! 何ちんたらしてんだよっ! 先越されんだろっ!!」


二つ目の勘違い。


チームをまとめ動かしていた千鶴と違い、奈津美はチームそのものを作れているわけではない。さらにいえば、喧嘩の道具として利用した相手に対し決定権など持ち合わせていなかった。

返答も、視線すらも絡むことは誰からもない。

ついさっきまで志保相手にしていた存在の無視が跳ね返る。


「ね……ねぇ、ちょっと」


急に押し寄せる不安に奈津美の態度は急変した。


「くくっ」


あまりにも惨めな姿にどす黒い腹の底から笑みが零れた。


熊谷志保だった。


「なに笑ってんだよ!」


三つ目の勘違い。


敵意を向けるべき相手が根本的に間違っている。

奈津美が志保に近づいたタイミングだった。

黒板に新たなゲームが表示された。


四つ目の勘違い。


最初から最後までこの空間を支配している者は、チームと言う存在の中にはいない。


「こ、今度はなに!?」


余計な事に目を付けられないために自分発信からは決して声を出さない田辺紀子が、恐怖のあまり泣きそうな声を上げた。麻生望が鈴木加奈の手をぎゅっと握りしめる。熊谷志保は感情を失ったようにじっと黒板を見つめ続け、怒りに支配されていた阿部奈津美は恐怖に支配される。


黒板には白いチョークで十字の二つの線が引かれていた。一つは中央に縦線、二つ目の線は横に中央よりも上部に引かれている。その二つの線の右側中央に今度は赤いチョークで六〇:〇〇の数字が並ぶ。


次には誰も声を出せないまま変化は続く。


各教室に設置されている時計の針が巻き戻しでもするように戻っていくと、短針と長針の針が十二時を指し止まった。


【キーンコーンカーンコーン】


突然のチャイムに肩が一斉に跳ねた。


それと同時、時計の長針も動き出す。


何も出来ぬまま長針が一周すると、黒板に書かれた数字のカウントが減った。

五九:00。


「…………一時間」


ようやく、鈴木加奈が口に出したことで数字の意味を理解する。そして数字以外の変化も起こる。十字の左枠今度は青いチョークで【加】の一文字が音だけで書かれ、一文字一文字その文字は横に増えていく。


【加】【瀬】【良】太】


それだけで、その意味に気付いたものはたったの一人。

握っていただけの加奈の手が急に引かれた。


「えっ!?」


思わぬ行動に声を出してしまった加奈は、望の強い視線に瞬時に理解した。麻生望は黒板に書かれている意味を理解している。引かれた手を今度は引いて教室から出ようとした。


だが、


「待てよ」


加奈が声を出してしまった所為で、望が理解している事に気付いてしまった人間がいる。阿部奈津美だ。


「教えろ」


低くくぐもった声。


瞬時に加奈は望の手を引いたまま走って教室から飛び出した。


すぐに追いつける、反射的に奈津美は追いかけた。ところが、その後ろでもう一つ走り出そうと机にぶつかる音が聞こえた。熊谷志保が加奈と望とは反対の方向へ走り出している。


「どいつもこいつもぉっ!!!!」


志保も黒板の意味に気が付いた、そう最初は思った奈津美だったがすぐにそれが違うと悟る。そもそも、多数決という暴力で得た勝利は本当に勝利だったのか?


――違う。


本当の勝利は、笹倉直がいるチームに最初に名乗り出る事。黒板の意味など人数がいるチームに入ってから知ればいい。


奈津美の追う方向は完全勝利の為に転換された。


距離は多少開いていた。だが、逃げる者と追う者での差は階段で埋まってしまう。階段の三段目に足を掛けるタイミングで制服の端が強く掴まれ、そのままの勢いで後ろに引っ張られた。


「――ごっ、がっ……!」


背中に電流でも流れるような痛みが志保を襲う。必死にうまくできない呼吸をしようとする転がった志保の真上に影ができた。


…………ガン、……ガン……ガン…、……ガンガンッ、ガンガンガンッ!


笑い声と共に、何度も何度も固い廊下に響き渡る。


「あは、あはははははっ、調子に乗るからだっっっ!」


人の腕が志保の髪を掴み顔面を叩きつけた音だった。


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