加速②-3(支配者は誰なのか)
「なーるほどね」
「あははは、なーんだ」
「はは、別に躍起になって動くこともないのか」
「そういうことさ」
三人の安堵と一人の歓喜、それらが混ざり合いながら笑いあう光景は二階で押されたスイッチで変貌を遂げる。
卓たち四人がいる教室の換気扇から白い煙が立ち込めてきた。
「なんだ!?」
「教室から出よう、さっきの爆発の煙がここまで来たのかもしれない!」
この時は誰も知りえなかった。千鶴がいた教室が閉じて開かなくなったのも、良太たちがいる教室の扉が開かなくなったのもタイミングは同じではない。
「早くっ、出るんだ!」
卓、典和、郁の順番に廊下に飛び出た。
そこで、教室に一人を残し、扉が強制的に閉まる。
「なんでっ、閉めるんだよ! 俺まだ出てないぞっ!」
すなわち、スイッチが押されたのとは関係がないということだ。
「なんでっ、開かない! 開かないって!」
「ど、どうなってるんだ!?」
「知るかよっ、卓も手伝え!」
三人が外側から力を合わせても、扉はびくともしない。
「頼むよ、早く開けてくれ……」
教室中が白い煙で充満していく。
「やばいんじゃないか、これ……」
「いや、まて、冷静に考えれば睡眠ガスとかじゃないか!?」
「な、なるほど、教室に皆が連れてこられたときと同じだと考えればその理屈は自然なものだよ!」
そうは言ってみたものの中に閉じ込められた博文は穴という穴から液を垂れ流し、眼球がどこを向いているのか分からなくなっている。
安直な考えはすぐに霧散した。
「そうだ、ガラスを割ればいいんだ!」
典和が肘を遣って扉のガラス部分を叩く。割れないと分かると次に窓が設置されているガラスの方を叩いた。しかし、割れることはない。
「割れねぇ……」
数分の間に教室は煙で中は見えなくなっていた。窓にへばりつくように見えていた博文の姿もいつの間にかいない。
「博文っ!」
「どこだっ! 返事しろよっ!」
「ダメだ……、なんで……どうして、こんなことに……」
スイッチの意味はまだ知らない。
この時、二階と三階では体育館の映像が流れている。しかし、一階に流れているかどうかは確認がされないまま、次の犠牲者を決めるため時は進み始めていた。
「どうなってるんだよ、なぁ卓っ!」
「分からない……」
「さっさと教室から出てればよかったんだ!」
「知らないよ、そんなこと……」
「知らないってお前っ!」
「典和、やめよう。それよりも他の皆のところに行こう」
誰の責任ではない、それは典和も分かっていた。
「そうだよな……、ごめん、卓」
「あ、いや、いいんだ」
さっきまでの感情が嘘のように放心状態になっている卓は、なにが間違っていたのか、何が正しかったのかだけを頭で繰り返し、どうしようもなくなった教室から離れる二人の後をただ追うだけになっていた。
そんな三人が、非常口側からの階段に近づいた時だった。
「ふざけんなよ、あのやろう!」
典和は歯を力いっぱい食いしばりながら、目の前に閉じられた防火扉に蹴りを入れた。ついさっきここを通ったのは孝樹だ。だから犯人はあいつだと怒りが噴出したのだ。
「あ、開くみたいだ」
郁は、博文が閉じ込められたのと同じで自分達も閉じ込められたのだと不安になっていた。だが、典和がけりを入れた瞬間、防火扉は微かではあるが動いている。
「やっぱりあいつじゃねぇか!」
開かなくなっているわけではないのなら、尚更、孝樹が犯人だと典和は疑わない。
「とりあえず、孝樹は放っておこう。それよりも、な」
今までの怒りが収まりきらない典和を郁が宥めながら、重い防火扉を一人では開けられないとアピールする。そんな郁は唯一、千鶴のチームに入る際典和に助け船を出してくれた。だから、郁の意見には素直になることができる。
放心状態の卓にも手伝わせ、三人の力で人が通れる隙間を作ると、近かった典和が裏側に移動する。押す側から引っ張る側になった典和がすぐに卓を呼び、最後に郁が通り抜ければ終わりのはずだった。
――前触れはない。
典和と卓が手を使って支えるような形となった防火扉が、突然、その重さを増やした。
「いでっ!」
指を折るように支えていた典和の指の爪の一本を剥ぎ取り、典和が手を離してしまう。すると、卓も一人では支えられなくなり手を離した。
防火扉が勢いよく閉まる――まだ体半分しか通っていない郁めがけて。
目の前で友達が真っ二つに押しつぶされる光景は――惨劇だった。
目をむき出しにして、いたるところから流れ出る血液、痙攣するようにピクピクと潰された郁の体はまだ動いている。
喉の奥の方で音が鳴る。
典和、卓のどちらかのものかは分からない、もしくはどちらもなのかもしれない。
脳が目の前の惨劇を理解した途端、二人は叫んだ。
「「ぅうおわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっ!!」」
叫んでその場から走り逃げ出した。
考えるだけの思考はなかった。
ただ、その場から逃げだすことが精いっぱいだった。
――前触れは確かになかったはずだ。
――しかし、三つ目のスイッチが押された数分後の出来事だった。
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