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加速②

二人目の犠牲者を出す前、秘密裏に卓は二度目のチーム作成を行い、見事メンバーを揃えた。そのメンバー構成は、蒲田卓、伊藤典和、鈴木孝樹、渡辺郁、小塚博文の男子五人の集まりだ。

卓の最初の動きは千鶴の口に勝てず、教室で取り残されていた典和だった。千鶴たちが教室からいなくなるなり、誰にも気づかれないよう典和を教室の廊下に呼び出す。その間、良太は直達と話の最中で、元々輪から外れていた三人の目を騙すことに成功。


それからは、プライドを傷つけられていた典和を仲間に引き込むのは簡単だった。まず、千鶴達とは距離を取る事を伝え、さらに裏切ったとされる男子三人をチームに引き込むことを伝える。

それには難色を示す返事が返ってきたが、典和は二人の男子にはそれほど恨みを覚えてはいない。あの流れからいえば仕方ないと思える部分があったからだ。それを理解している卓は、『千鶴のチームを利用できる』という言葉だけで典和の気持ちを動かした。それからは隠れ千鶴達の行動を窺い、委員長同士だからこそ千鶴の性格を多少なり理解しているゆえ卓が予想していた展開へ発展していた。


千鶴は男子を切り離し、別行動を取らせた。それに切り離された男子達からは愚痴が零れるのを陰で聞くと、そこからは卓の計画は加速する。


男子の行方が完全に千鶴の視線から離れると、典和と共に接触した。

交渉の流れでは、郁、博文は典和がいることで自分たちの罪悪感で素直に返事を返せず、孝樹は罪悪感がなくともついさっきの出来事のすぐ後で不信感を抱きNOの返事を返す。それには典和が怒りを覚えるのが当然。


しかし、そうなることも予測の中に入っていた卓は、すでに典和にこうなるであろう事を事前に伝え、表情にすら出さないよう伝えていた。そのかいもありすっとぼけた表情の典和を差し置いて、卓の話術が広がる。


伝えたのは、典和を説得した時と同じ内容。『卓と典和は千鶴にむかついている』『千鶴のチームを利用する』の二つだった。それなら、と孝樹が納得すると後の二人はすんなりと受け入れる。そのついで、罪悪感を消すためか、郁と博文は典和に謝罪していたことで蟠りは緩和した。典和と孝樹の溝が深まっていくが、千鶴達に的が向いている間は問題ないだろうと卓は触れることはしなかった。

チームが結成されると、早速卓は指示を出す。やるべきことは自分達のチームが他のチームよりも上に立つこと。その為には相手よりも有益でより多く情報を得ることだった。その上で千鶴のチームの情報は把握できる。スパイを送り込めばいい。


「その役目を鈴木に頼みたい」


「OK」


スパイと言う単語に役割の重要性も難易度も考えず軽返事で孝樹が承諾した。あまりの順調ぶりに卓は笑みを零した。他のメンバーにはそれが千鶴への仕返しと捉え気にすることはしない。

しかし、ここでトラブルが生じる。それが体育館からの爆発音だった。


「……な、なんだ今の?」


「近くなかったか?」


「やばいんじゃ……?」


「どうすんだよ卓!」


人選に優秀さを求めていないメンバーでは、優先事項が見えていない。動揺が広がり、これからの作戦に影響が出ないとも考えた卓が出した答えは、


「たぶん、危険だろうね」


率直な意見を教えた。


「危険って」


「やるべきこと変えた方がいいんじゃないか?」


「お、俺危険なことはしないからなっ」


「お前がやらないなら、俺が変わるっつの」


連帯感を失いかけるが、卓は同じ轍を二度も踏まない。


「まぁ、落ち着いてくれ。ようは考え方の問題さ。爆発音は気になるけど、それを調べるのはより危険だ。なにより、他のチームが調べたのを後で聞き出せばいい。だから、今は千鶴達の情報を最優先に考えよう。そうすれば危険からはなるべく避けられる。後、伊藤は千鶴達のチームから外れてるから、やっぱり鈴木に任せるしかないよ」


まだ緊張の緩和は見られない。


「それって大丈夫なんだよな?」


動揺をしたままだった孝樹が、自己だけの安全を求めてくる。


「たぶん、ここにいるよりは大丈夫だろう。爆発音がしたのは体育館の方だし、千鶴たちは二階にいる」


その瞬間、孝樹は安堵のため息を付いて納得した。郁と博文は卓に意見に納得していなかったが、千鶴のチームに入った時と同様、流されるまま押し黙ることで不快感だけを現していた。その様子に典和は、危険が近いということよりも孝樹がこの場からいなくなってくれた方がいいと卓に賛同している。


「じゃあ、早速鈴木は千鶴達のところへ行ってくれ。こっちはとりあえず一階の教室を調べておくから」


典和は問題ないとして、郁、博文の様子に卓は気が付いている。だが、それは孝樹がいなくなってから修正が可能だと後回しにした。孝樹がいなくなるなり、ふて腐れたように教室を調べに行こうとした郁と博文を呼び止める。


「本題に入ろう」


「「本題?」」


言葉に二人の足は動きを止めた。


「率直にいってしまうと、鈴木は信用性に欠ける。分かっているとは思うけど、鈴木は利益がある方に簡単に移る。それは教室での会話で証明されているよね?」


そう言うと三人が一同に頷いた。

実際、教室で典和が見捨てられるきっかけを作ったのはまぎれもなく孝樹の言動が大きい。あの時の言葉は残っていた者ではなく、自分だけをチームに入れてくれの意味が強く、郁と博文でさえ含まれていなかった。


「スパイのつもりで鈴木を向かわせたけど、千鶴に何か言われれば二重スパイにさえなりかねない」


千鶴が率いるチームは女子で構成されている。異性に良く思われたいという理由で行動がコロコロ変わる節がある孝樹の行動を全員が知っていた。


「ちょっと待てよ。孝樹がいなくなるという意味では、スパイ的なことをやらせたの良いけど、二重スパイになる可能性……っつか、ほぼなるとしたらこっちの情報の方が筒抜けなんじゃないのか?」


おそらくこの中では一番孝樹を嫌っているであろう典和は、その危険性を疑う。


「だから、何も話し合う前に行かせたんだよ」


それならば、と思う気持ちと、それでも、と思う気持ちが三人の中で交差する。


「あいつが戻ってきたらなんて言うんだよ」


それが一番の問題だった。仮に二重スパイとして戻ってきた孝樹を誤魔化すためにはどうしたらいいのか。しかし、それは簡単なことだ。


「別に、なにも見つけてないことにすればいい。実際、このゲームが始まってから分かっていることは少ないしね」


「だから、他のチームの情報を待つって?」


卓は頷いた。

一度は見捨て、典和と組んで登場した卓に不信感は完全に拭い去れないからこそ、郁と博文が口を挟む。


「でもさ、それってこっちも何も分からないままってことじゃないのか?」


「だいたいいきなり来て、チームを組んだ挙句にいきなり孝樹を裏切るんだろ?」


裏切るという言葉に卓は首を振る。


「裏切るっていうのは最初からチームを組んでいた場合のことを差すよ。鈴木は最初からチームに入れてすらいない」


確かに、言葉だけで言えばそうなるかもしれない。卓は郁と博文の疑心感を払拭するために言ったのだろうが、返ってそれが余計に二人の不信感を強めることになった。

それならば、何時卓に見限られるか分からない。

それに典和も気付き、どうにか二人を留める為に言い訳を探し始めた。


「それはさ、今こんな話をしてるんだから二人は見捨てたりしないって」


一度は見捨ててしまった典和に言われても、余計に不安が残る。一度は見捨てた人間が、今度は立場が逆になり、果たして見捨てないのだろうか。それができる人間はそう多くないくせ、できる人間だったとしてもそれを信用するのは難しい。


「ふふ」


徐に卓が微かに笑う。


「まぁ、二人が僕たちを信用し辛いのも分かるよ」


卓はあえて、『信用できない』とは言わない。あくまで、出来る出来ないではなく、する上で、納得しやすいよう誘導する。


「元々このチームでは僕が気付いた……といよりは一つの仮説を説明するつもりだったんだ。これを説明すれば少しはチームとして成り立つと思うよ」


三人がなんだ? と思い顔を見合わせる中、卓は教卓へ昇り余っている白いチョークを握る。そして、黒板に唯一知り得ている情報を描いた。


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